天高く聳え立つビル街の中、彼女はひときわ高い建物から街を眺めていた。
「いつ見てもこの景色は変わりませんね」
彼女の記憶と現実の光景の一致にどこか、安堵感を覚えていると近場で爆発音が聞こえた。音が聞こえた方を見ると黒煙がビル街の中から上がっていた。
「これも相変わらずですね」
変わらない光景は乾いた笑い声を漏らしていると、懐の一部が青く光った。出てきたのは白いタブレット。シッテムの箱だ。その画面から二人の少女が顔を出した。
「アリスさん! 近くでスケバン達が暴動を起こしています! 座標を送ります!」
青い髪色の少女。アロナがスケバン達の場所を特定してくれた。
「ありがとうございます。ではプラナ。ケイに連絡を」
「了解しました」
アリスの指示に白い髪の少女。プラナが応えた。
現場に急行するためにアリスはビルから飛び降りた。浮遊感を覚えながら落下する中、胸元にある赤いスイッチを押すと肌着に仕込んでいた機械が音を立て、作動した。
「アビ・エシェフMK-80起動!」
彼女の言葉とともに銀色の翼が背中で開いた。そのまま青色の閃光を放ちながら、目的地まで加速していく。
目的地に近づくにつれて、爆発音と火薬の匂いが漂って来た。爆発音の正体を捉えた。スケバン達だ。
銃を持ったスケバン達が車に身を乗り出しながら、周囲に乱射していた。
「ぎゃはははは! 邪魔だ! クズども!」
「うちら無敵だぜ!」
野蛮さをむき出しにした不良生徒の面々。その暴虐により、周囲の人々は逃げ惑っていた。
「少しお灸を据えないとですね」
アリスは加速して、すぐに車に追いついた。そして、勢いよく天井を突き破った。
「何だ!」
突然の出来事の来訪者に乗車していたスケバン達が声を荒げる。アリスは後ろの席にそのまま腰掛けて、スケバン達に愛想よく手を振った。
「誰だ!てめーー」
スケバン達が突然の襲撃に抵抗をしようとしたが、既に時は遅かった。アリスは同乗していたスケバン達を一瞬にして、外に叩き出したからだ。
車を止めて外に出るとスケバン達は白目をむいて、倒れていた。
「ありゃりゃ、やりすぎましたかね」
「この化け物!」
スケバンの一人がふらつきながら、アリスに銃を構えた。しかし、鉛玉が彼女に届くことはなかった。
彼女の従者がスケバンの後頭部にビームを打ち込んで気絶させたからだ。
「助かりました。ケイ」
「買い物中だったのに! アリスは勢いで動き過ぎです!」
「あはは」
「アリスさん! ケイさん!お疲れ様です!」
「アロナ! プラナ!二人が事件とその現場をいち早く特定してくれたからですよ」
アリスがアロナを褒めると、彼女が頰を赤らめて照れくさそうに後頭部をさすった。
「それにしてもこのスケバン達どうしますか?」
「そうですね」
「失礼、そこのお二方」
スケバンの処理に迷う二人の後ろから清らかな声が聞こえた。声の先には黒いセーラー服を纏った桃色の長髪の少女がいた。
「あなたは?」
「自己紹介遅れました。トリニティ総合学院。正義実現委員会の下江と言います。少しお話できますか?」
アリスとケイは事の経緯と下江に伝えた。下江が静かに二人の意見を聞きながら、慣れた手つきで手帳に事件の詳細を記録していた。
「あの彼女達は具体的に何の罪を犯していたんですか?」
ケイが眉間に皺を作って、問いかけると下江が目を鋭くした。
「うちの生徒にブラックマーケットで無修正の違法ビデオを販売していたからですよ。はしゃいでいたのはおそらく相当の売上金を得たからでしょう。ここ学園都市キヴォトスでは例外なく死刑です」
「重すぎないですか?」
「そんな事ありません!エッチなもの駄目です! 死刑なんです!」
下江が瞳を猫のように縦にして、語気を荒げた。先程のおしとやかな言動とはかけ離れた様子だ。
「すみません。うちの委員長。エッチなものには口うるさくて」
隣から出て来た正義実現委員会の委員が両手を合わせて、頭を少し下げる。
「口うるさくて結構! 私の敬愛するお祖母様はこの信条を胸に公務を全うされていたのです!」
「で、ですがそれだと浦和政策に反してしまいます!」
「あれは不純行為の助長を招いた愚策です!」
「しかし、あれのおかげで出生率が上がったことも」
「とにかく駄目です! キヴォトスではいけない事です!」
委員の意見を踏み潰す勢いで彼女の持論が爆発した。
「行きましょうか。ケイ」
「そうですね」
自分達に用は済んだ様子だったのか、アリスとケイはその場を去った。
予約したホテルの一室でアリスとケイはベッドの上に広げて、ため息をついた。
「いやーキヴォトスに戻ってきて、早々、事件に直面するなんて」
「アリスが首を突っ込んだからですよ。あの類の賊ならキヴォトス人も慣れっ子ですし、ヴァルキューレや他に人間も解決してくれますよ」
「ケイのおかげです。私が孤独じゃないのは」
「アリス。私もですよ」
「私達もいますよ!」
アロナがシッテムの箱から両手を大きく振って、自身の存在を強くアピールした。
「そうですね。この四人がいれば孤独じゃないです」
アリスはアロナを画面越しに撫でた時、シッテムの箱を受け取った時の事を思い出した。シャーレの先生が亡くなる前、病院のベッドで横たわる彼から受け継いだのだ。不老不死の自分が寂しくならないようにと先生が託してくれたのだ。
先生が亡くなってから後を追うように友人が、知人が亡くなり、彼女達を看取った後、アリスとケイはキヴォトスの外に出た。
外の世界は摩訶不思議だった。ゲームよりも壮大で、複雑怪奇なものばかりだった。不愉快なものもあれば、想像を超えた美しいものもあった。
そんな現実を感じるたびに思うのは親しい人間達の存在だ。彼彼女らがいれば、もっと違う見方が出来たのではないかと思ってしまうのだ。
「さて、もう寝ますよ。明日も早いんですから」
「そうですね」
ケイに促されるままにアリスは静かに目を閉じた。
翌朝、ホテルから出た後、アリスはケイと以前よりも遥かに変わったミレニアムの街を歩いていた。
「みてください! ケイ! 車が空を飛んでます!」
「映画のような世界ですね」
アリスやケイの在学時代ですらキヴォトスの中では群を抜いて、発展していたがそれにさらに拍車がかかっていた。
アリスは目の前の光景に意識を向けていると遮るように一枚のチラシが視界に入ってきた。落ちたチラシを拾い上げて内容を見た。
「アビドス砂祭り?」
ありがとうございました♪