目の前に広がる光景にアリスは目を疑っていた。自分の記憶の中にあるアビドスは一面の砂漠で発展なんて概念はまるで思いつきもしない場所だった。
「以前とは大違いですね!」
「ええ。見違えるほどの繁栄です」
かつて砂だらけだったアビドス地域には草花や緑が戻っていた。それと共に見上げるような大きなビルもいくつも立っていた。以前とは大違いなほど、人が行き交い活気付いていた。
「砂祭りの会場はこのまま二百メートル直進した場所にあります!」
アロナのナビに従って足を進める。祭りという事もあってか、シッテムの箱の中でアロナとプラナが水着姿でくつろいでいた。しばらく進んでいくと徐々に人集りが増えていった。
「これはすごいですね」
アリスは目を見開いていた。そこには巨大な湖があったからだ。そしてその周りで大勢の水着姿の人達がいたからだ。多くの屋台も立ち並んでいて、現地はまさに大盛り上がりだった。
アリスとケイはりんご飴に手を伸ばして、眼前に広がるオアシスを眺めてると銃声が聞こえた。
「不良ですか?」
「まあ、こういう場所だと付き物ですよね」
ケイが呆れてため息をついた。銃声がした方に向かうと水着姿のスケバン二人が銃を鳴らしながら、犬の住民に絡んでいた。
「おいおい! 何ガンつけてんだ!?」
「に、睨んでませんよ」
「嘘こけ! 睨んでいただろうが」
スケバンが犬の住民に睨みつけて、距離を詰めていく。
「やめなさい」
凛々しい声が耳に入った時、スケバン二人の動きが止まった。声がした方に目を向けると覆面を被っていた何者かが立っていた。
「あっ、あれは!」
「アビドスの守り神。覆面ライダー様だ!」
住民達が一斉に驚嘆の声を上げた。先ほどまで怯えていた人達の目が安堵感に満ちた目になっていた。
「全員。武器を捨てて。その場に膝をついて」
声の主はスケバン達に警告した。
「捨てろって言われて捨てるバカがいるかよ!」
スケバンが銃を取り出した瞬間、覆面ライダーが疾風のような速度で間合いを詰めて、スケバンの銃をはたき落した。そして、二人を瞬く間に蹴散らした。巨木を切り落とす斧のような蹴り。的確に急所を射抜く射撃の腕。全てが桁違いの戦闘技術だ。
スケバン達は手も足も出なかった。
「ありがとうございます! 覆面ライダー様!」
「ありがとう! 覆面ライダー!」
周囲の観客から賞賛の声が上がった。
「なんて手際の良さ。動きにも隙がない」
ケイが目を見開いて、覆面ライダーの動きに驚愕していた。しかし、アリスには分かっていた。頭部から生えた二つの耳と長い銀色の髪。正体を理解した瞬間、声を発した。
「シロコさん!」
アリスは彼女に声をかけた時、彼女の目が見開かれた。
スケバン達をヴァルキューレ警察学校に引き渡した後、アリス、ケイは彼女の後について行った。
「ここならもういいかな」
祭りの会場から少し離れた場所でシロコ*テラーが覆面を剥がした。アリスは彼女の姿を見て、改めて息を飲んだ。隣にいたケイも同様だった。覆面を剥いだ素顔はかつてのままだったからだ。
「どうして貴女が。それにその姿……」
「色彩の影響だって」
色彩。かつてキヴォトスを襲撃した未知の光。八十年前、別世界軸の住人だった彼女がこの世界に来るきっかけを作ったものだ。アリス自身、あの日のことは昨日のことのように覚えている。
「でも貴女と違って、私は不老長寿。いつかは死ぬ」
「不老長寿という事は老化しない状態で寿命を長く保っているという事ですか?」
「そう。色彩に接触した時に肉体が思った以上に作り変わっていたらしい」
「寿命はどれくらい伸びたんですか?」
ケイの問いかけに彼女が少し間を置いて、口を開いた。
「推定だけど、三千年は生きるらしい」
アリスは言葉を失った。アリスやケイは普通のキヴォトス人ではないため、長い時を生きる覚悟はしていた。しかし、後天的に変化した彼女にとって、これはあまりにも荷が重い事実だ。
「先生やみんなは私を受け入れてくれたけど、どうやら世界は私を許していないみたい」
彼女はどこか遠い目を作っていた。元いた世界の親しい存在を失い、新しく来たこの世界で巡り会えた友人達を再び、見送る事になったのだ。
「そんな……」
「でも、いいの。私にはこれがあるから」
彼女は懐に手を入れた。そこからプラスチックケースに入った黒焦げのカードが出てきた。
「先生が、アビドスのみんなが残した居場所は私が守る」
そう語る彼女の目は鋭く、強い意志が見えた。その時、アリスの懐に入れていたシッテムの箱が光った。画面には白髪の少女が映った。
「久しぶりですね。シロコさん」
「うん。元気そうだね。プラナ」
旧友との再会に先ほどまでどこか鉄扉面だった彼女の顔がほんのり赤くなった。
「色々変わっていくけどこうして変わらないものに会えるのは嬉しい気持ちになるよ」
「同感ですね」
二人を互い笑みを交わすと再会を祝福するように陽が落ち始めた空に花火が咲いた。
砂祭りが終わり、たくさんの人が帰る時、彼女達もまた別の道を進もうとしていた。
「そうだ。アリス。これ」
別れ際、シロコ*テラーが一枚の紙を手渡した。そこにはとある場所について書かれていた。
「これって」
「行ってあげて。きっと喜ぶから」
「はい。シロコさん。お元気で」
「うん。みんなも」
シロコ*テラーはそう言うと、踵を返した。彼女はこれからもアビドスを守り続けるのだ。みんなとの思い出が詰まったこの砂漠の都を。