「ここですね」
アリスとケイはシロコ*テラーから教えてもらった場所に来ていた。ミレニアム郊外にある小さな喫茶店だ。
店の扉を開けると、来客を知らせる鈴が鳴った。
「いらっしゃいませ」
清らかな声とともに見知った顔が目に入った。陶器のように白い肌と無機質な雰囲気が漂う女性がいた。エプロンをかけて、カップを愛おしそうに布巾で拭いていた。
「久しぶりですね。マルクト」
「アリス。ケイ。久しぶりですね。会えて嬉しいです」
彼女が真っ白な頬がを赤く染めた。早速、席についてコーヒーを二人分注文した。
「まさかあなたが喫茶店をやっていたとは思いもしませんでした」
「キヴォトスに来て、色々な物を見て周りましたが、最初に口にしたコーヒーの味が今も忘れなかったのです」
マルクトがかつての記憶を語りながら、コーヒーを淹れたカップを置いた。
「コーヒーはいいです。味だけじゃない。五感で全てを感じられる。高級な豆を使っても雑に入れては美味しくならない。だけど安価な豆でも丁寧に入れれば、極上の一杯になるんです」
「なるほど」
アリスは一口飲んで、目を閉じて味を感じる。美味しい。アリスはケイが淹れてくれたコーヒー以外、あまり飲む事はないがそれでも美味しいと感じた。
この一杯を作るのにマルクトも相当な経験を積んだのだと思うと感慨深い気持ちになった。
「どうしてここが分かったんですか?」
「シロコさんから紹介です」
「ああ。彼女が。彼女もたまに来てくれるんです」
「いつから知り合ったんですか?」
「先生の葬儀です。その時に少し話す機会があってそれで」
アリスは目を丸くした。先生の死は別れだけではなく、新しい出会いの場を生み出していたのだ。人脈の多い彼の事だ。彼女達以外にもきっと知り合った人の多いのだろう。特に今のシロコにとって、アリスやケイと同様の存在である彼女は長く付き合っていける事に間違いはない。
「最近はお客さんも来てくれることも多くなったんです。それに」
彼女が少しの沈黙の後、口を開いた。
「そのうちまたあの子達に会えそうな気がするんです。戯言に思うかもしれませんが」
あの子達というのは間違いなく彼女の妹達だ。アイン。オウル。ソフ。鋼鉄大陸で起こった悲劇。彼女はそれを忘れることはきっとない。
「きっと会えますよ」
アリスの答えにマルクトが無機質な白い頰を再び、赤く染めた。
アリスとケイが外に出た時、辺りは既に茜色の染まっていた。
「また来てください。我はいつでもここにいますから」
彼女が長袖に隠れた手を振った。
「はい。必ず」
アリスとケイは再会を約束を交わした。三人は別れを惜しむように互いの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
マルクトの店を去って、しばらく歩いていると突然、アリスの携帯が鳴った。突然の出来事に思わず、足を止めた。
「もしもし」
「ああ、繋がった。天童アリスさんですか?」
電話の奥から女性の声が聞こえた。
「ええ、そうですが?」
「ゲヘナの女傑がお呼びです」
その言葉を聞いて、アリスは耳を疑った。