「さてみなさん……」
大型連休も明け、夏のような日差しが照りつける頃、俺の目の前には異様とも言える光景が広がっていた。
「「「はじめましょうか!」」」
タコの声が反響する。
「「「いや……何を……」」」
そして、周りの連中はドン引きしていた。なぜなら……
「学校の中間テストが迫ってきました」
「そうそう」
「そんな訳でこの時間は……」
「「「高速強化テスト勉強を行います!」」」
タコがなぜか多重影分身を披露していたのだから。
1つ1つの分身を器用にしゃべらせるタコ。
前より分身の数増えてるな……
そのまま、タコの分身がそれぞれのところへやってくる。国語5人、数学8人、社会3人、理科4人、英語4人……NARUTO1人。
「先生の分身が1人ずつマンツーマンでそれぞれの苦手科目を徹底して復習します」
どうやら、今日の授業は、もうすぐ行われるこの学校の中間試験の対策のために、タコの分身がマンツーマンでついて苦手科目を優先的に勉強させるというものらしい。
そして、俺の前には……
訂正。俺“たち”の前には、何も書かれていないオレンジのバンダナを巻いてる奴が来た。
「あれ、殺せんせー?なんで僕と周防くんはオレンジのバンダナなの?」
「そもそもなんで俺と赤羽が一緒なんだよ」
「君たち2人は特筆した
「なるほどね、よろしく周防くん」
(めんどくせぇ……)
タコは苦手科目がない俺は赤羽とまとめて勉強させることにしたみたいだった。確かに、俺には
すると、タコは、なぜかサッカーボールを持ち出して俺たちの前に差し出してこう言った。
「さあ、じゃあやりますよ!練習はおにぎり!勉強もおにぎりです!さあ勉強やろうぜ!」
(イ◯ズマイ◯ブンか……)
こうして、中間テストの勉強期間が幕を開けた。
***
その日の授業終了後。
「連絡事項は以上だ。ただし周防くん。ホームルーム終了後、速やかに職員室に来てくれ」
は?めんどいから嫌なんだが……
帰りのホームルームで俺は烏間さんから職員室へお呼び出しを食らってしまった。
だが、今回に関しては心当たりは一切ない。E組の連中がどう思っているのかは知らんが、暗殺の件に関してはとっくに許可をもらっているし、最近はタコが朝飯をせがんでそのまま連れて行かれる都合上、授業にもちゃんと出ている。
それに、万が一、他で怒られるようなことがあったとしても、俺はそう簡単にバレるヘマはしない。
だから、なぜ呼び出されたのかわからなかった。
「周防のやつ、また烏間先生に呼び出しだってよ」
「今度は何やらかしたんだろう……」
「暗殺やってないんだから、あんまり迷惑かけないでほしいよね」
そして、こいつらは俺が説教受けると思っている。
こいつらにとって、俺はみんなに協力をせず、1人で勝手に問題を起こして周りに迷惑をかける問題児ということになっている。
まあ、否定はしない。だが、今回は本当に心当たりがないのだ。
「周防くん何やらかしたの?」
「知らねえ」
これについて、隣の赤羽もこう聞いてきた。だが、その顔は他の連中とは違い、なんだかおもしろそうな事件を嗅ぎつけた某米○町の死神のような顔をしていた。こいつはどうせ、このこともおもちゃにするつもりなのだろう。本当にめんどくさい。
だが、行かなかったらもっと面倒なことになるのは目に見えている。さっさと行って終わらせてしまおう。
そう思って俺は、教室中の鋭い視線を背に職員室へ向かった。
「……失礼します」
職員室の扉を開ける。扉を開けると目の前には烏間さんとビッチが立っていた。
そして、彼らの視線の先では……
「こんにちは周防くん!元気そうでなによりだ」
——胡散臭い笑顔をした
「わざわざ
「君は違うだろう?」
「救急車呼びますよ?」
「ここの山まで登れるといいね」
この人といつものように軽口を言い合う。ラスボスのような風格を保つこの人は、表向きは優しげで温和なのだが、実際はとても厳しい。特に、自分の息子と
だが、こんなことは今更だ。俺は早速本題に入る。
「それで、まじで何しにここに来たんですか?遊びにきたんじゃないですよね?」
この人は合理性の塊だ。意味もなくこんなところに遊びに来ない。そして、わざわざここに来て俺を呼び出したということは、これから面倒なことが起こることが明らかなことだけは嫌でも理解できた。
これなら赤羽におもちゃにされた方がマシかもしれない。
そう思っていると、理事長は笑顔のまま口を開いた。
「まあそうだね。では、まずは先生方に問います。この六面体の色を揃えたい。素早く簡単、誰にでもできるやり方で。あなた方ならどうします?」
理事長の問いに対し、教師役の2人は考える。まあビッチは何がなんだかチンプンカンプンという感じだが。
俺も一緒に考えてみた。まず、ヒントがないかこの部屋を見渡す。すると、理事長の手元にマイナスドライバーがあるのを見つけた……
(なるほどな……)
「せっかくなので君にも聞いてみようか?周防くんならどうする?」
2人が答えられず沈黙していたので、今度は俺にも問題が飛んでくる。この人の性格的に最初から俺に答えさせるつもりだったのだろう。だが、どうせ、減るもんでもないし、普通に答える。
(答えなら他にもあるけど、さっきのでいいか)
「あんたがわざとらしく持ってるそれで分解して、並び替えるって言えばいいですか?」
すると、理事長の目の色が変わった。
「さすがだね、
「そりゃどうも」
そう言って理事長は笑う。満足してくれてなによりだ。
その時だった。
《ガラガラ》
職員室の扉が開く。このタイミングでタコが入ってきた。
「はじめまして!殺せんせー」
入ってきたタコに対し、いつもの胡散臭い笑顔を向ける理事長。しかし、タコはピンときていないようだ。いつもの薄ら笑いを浮かべながら固まっている。
それを見て俺はため息を吐きながら口を開いた。
「この人はこの学校の理事長だよ。あんたの雇い主だ」
俺がそう言うとこのタコの表情が変わった。
そして……
「これはこれは、わざわざ山の上まで……。それはそうと私の給料、もうちょいプラスになりませんかね……」
めちゃくちゃ媚を売りはじめた。肩を揉み、靴を磨き、お茶やお菓子まで差し出すタコ。以前から金にがめつい乞食みたいなやつだとは思っていたが、ここまで性根が腐っているともはや清々しさすら出てくる。
「こちらこそすみません。いずれ挨拶に伺おうと思っていたのですが……」
そんな中、理事長はごちゃごちゃ言ってるタコを軽く流して、いつもの胡散臭い笑顔のままもの凄い圧で自分の話をしはじめた。
「あなたの説明は防衛省やこの烏間さんから聞いていますよ。まあ私には、
(嘘つくなよ……)
これは、『素人質問で恐縮ですが〜』と同じノリだろ絶対。
理事長はあのハーバード大を主席で卒業した人間だ。少なくとも表社会でこの人より優秀な人間を俺は見たことがない。この人が学がない扱いなら、この国の人間ほとんどが猿同然の知能になるだろう。
すると、理事長はタコの正面まで歩き出し、2人は向かい合った。
「まあ、なんとも悲しいお方ですね。世界を救う救世主になるつもりが、世界を滅ぼす巨悪に成り果ててしまうとは」
(……救う?)
俺はその瞬間、烏間さんの方を見る。俺の視界に入った烏間さんはかなり険しい表情をしていた。おそらく、俺たち生徒側には伝えられておらず、烏間さんと理事長の間でしか交わされていない情報があるのだろう。
しかし、おおよそ想像はつく。
——あのタコは政府主導の何かしらの実験の成れの果て……
ここまでなら想像はできる。これなら、あのなぜか月の爆発から1ヶ月も経たない時点ですでに効果が保証されていた銃弾やナイフなどが、元は政府で実験されていて、月の爆発前からその効果を確認できていたと説明もできるしな。
まあ、現時点でそれ以上の確証は持てないが……
「いや、ここでそれをどうこう言うつもりはありません。私如きがどう足掻こうが地球の危機は救えませんし、余程のことが無い限り私は暗殺にはノータッチです」
理事長は笑顔を崩さないまま話を続ける。そして、理事長は烏間さんの耳元で、
「十分な口止め料もいただいてますし……」
こう言った。
相変わらず性格悪いなこの人。当然、烏間さんの表情はなんとも言えない顔になる。
「……助かってます」
烏間さんには同情する……
だが、タコの給料周りについては俺も思うところがある。俺は理事長に向かって口を開いた。
「でも理事長、こいつの給料に関してはマジで増やしてください。あんたがケチなせいで毎朝こいつに家にこられて迷惑してるんです」
理事長の話が終わったたのでこっちからもお願いさせてもらう。これはマジで迷惑だ。毎朝毎朝、家に来られて飯をせがまれる。いい大人が中坊の教え子の家で飯作ってもらっているとか恥ずかしくないのだろうか。
ほら、烏間さんも何か言ってくれ。
だが、理事長は呆れたような顔をしながらわざとらしく首を傾げる。
「うーん、お給料は他の先生と同じなんだけどね……」
「理事長!どうかお願いします!」
だが、マッハのスピードで頭を地面に叩きつけるタコを尻目に理事長はこんなことを言い出す。
「周防くん、そんなに彼のお金を増やしてほしいなら君が増やしてあげればいいんじゃないのかい?」
「——!」
俺は一気に警戒心を上げる。
何を言ってんだこの人?確かにポーカーとかで増やそうと思えば増やせるが、学校関係者には知らせて無いはずだ……
だが、理事長は俺には目もくれず話を続ける。
「先生方、私が今日ここに来たのはご挨拶もありますが、とあるE組の生徒が起こした問題についてお話しするためです」
そう言って理事長は俺の方に目を向けた。
「そういえば昨日、私の学生時代の後輩から面白い話を聞いたよ」
空気が変わる。
は?これ、もしかして説教か?
嫌な予感がプンプンする中、理事長は笑顔で口を開いた。
「全校集会があった日にね、ここから3駅先の地下カジノのハイレートポーカーの卓で白髪の長身で若い男が大活躍していたらしい。なんとその男は、有名な投資家の男からチップを1枚残らず搾り取り、さらには名家出身で、若くして超大手企業の幹部候補筆頭という優秀な女性をブラフを駆使して駆け引きだけで引き摺り下ろしたそうだ」
「……」
これは俺のことだ。全校集会をサボってカジノで小遣い稼ぎをしていた俺の話。教師陣はこの話を黙って聞いていた。まあビッチは若干引き気味だが……
理事長は続ける。
「ところで周防くん、君はこの日体調不良で早退と聞いていたが、まさかカジノに行っていたのかい?」
相変わらず、白々しい顔と声だった。正直、柄にもなく内心では、クソ焦っているがそれは表に出さず冷静に答える。
「いや知らないです。その日は体調が優れなかったから家に帰って寝てました」
なんでこれを知ってんだこの人は。
俺はバレるヘマはしていない。当然、中坊のガキだとバレないように、見た目や服装なども変えていたし、実際にE組の連中とすれ違った時も俺だとは気づかれていなかった。我ながら、変装は完璧だったはずだ。
だが、理事長の追及は止まらない。
「そうか、その話をくれた後輩もハーバード大を卒業し、30代の若さで大手企業の幹部にまで上り詰めた非常に優秀な男だ。彼はカジノを荒らした男の隣に座っていたらしい。だから、君の写真を見せてあげたよ。そしたら『そっくりだ』って言ってたよ。特にその“何もかもを見ているようなその『瞳』”が」
チッ!あの幹部の男、この人の知り合いだったのか。
これは想定外のところから漏れた。並の連中なら俺があそこにいたところで気づかないと思うが、理事長の目はごまかせない。
まさか、あそこに理事長の知り合いがいるとは、世間は意外と狭いのかもしれない。
「……ね、ねぇ、アンタいくら稼いだのよ……?」
俺たちのやりとりで、あの日、カジノを荒らした男が俺だと確信したであろうビッチが俺にこんなことを聞いてきた。
もう誤魔化せないと判断した俺は、正直に答える。
「はあ……。まあ、あんたらの月給よりは多いと思うぞ……」
「「「——!」」」
俺の言葉に全員驚愕の表情を浮かべる。
この前いた卓は大企業の幹部や、いいところのおぼっちゃんや令嬢など、所謂お金持ちの人間が大金を賭けて遊ぶところだ。当然、一回で動く金も大きい。俺はそこの卓で限界まで搾り取ったのだ。
国家機関でも上位役職の人間である烏間さんの給料に届くかは知らないが、毎朝乞食にくるほど困窮しているタコの給料よりは絶対に上だと思う。
「それで、俺は全校集会をサボってカジノに行ってた問題児ですけど、どうするんですか?何かペナルティがあるんですよね……?」
流石に観念した俺がペナルティの内容を聞く。
この学校のE組への風当たりは強い。そして、それは俺にも適応される。E組の人間が全校集会をサボってカジノで遊んでいたと判明したのなら、ある程度の処分は下されるのだろう。
だが、理事長はキョトンとした顔をしてわざとらしくこう答えた。
「何?別にどうもしないさ……。ただ、そんな
「——!」
この瞬間、気配を感じたので、この部屋をもう一度見渡す。すると俺の後ろの扉に人影があった。あれはおそらく潮田だ。
この人、俺に嫌がらせをするためにこの話をしやがった……
「まあ、私は気にしてないが、E組の先生方はそうではないでしょう。しっかり叱ってください」
すると、理事長は今度は窓の方へ歩き出す。そして、開いている窓の窓枠に座って俺たちの方へ向き直った。
「私はこの学園の長です。そんな私が考えないといけないのはなんだと思いますか?
そうだね……、
皮肉めいた言葉を吐きながら指を俺に向ける理事長。どうやらこの人は教師陣や潮田が聞いている前で、俺をおもちゃにするためにここに来たらしい。
正直、この人の思い通りにするのは癪だが、答えないと何されるかわからないので仕方なく答える。
「はあ……、
俺はこう言いながら理事長の方を見て理事長の思考を読み取る。
「続けて」
「説明が難しいので例えを出します。働きアリの法則、どんな集団でも働き者と怠け者、そして平均的なものが2:2:6の割合で存在します。例えばこのクラスだと積極的に暗殺を仕掛ける者、俺みたいにほとんどノータッチの者、全体の作戦には参加するけど、個人として積極的に動くことは少ない者のような感じで……」
働きアリの法則。
どんな集団にも怠け者が一定数存在するという法則だ。そして、理事長の理想はその怠け者に対して徹底的な冷遇をすることで危機感を煽り、残りの集団を強制的な働き者にすること。こうすることで怠け者の割合も減る。集団の90〜95%を働き者にすることができる。
俺はこの話を例に出しながら、話を続ける。
「そして、そのためにはE組には冷遇され弱く惨めな存在のままでないといけない。そうですね?」
俺の話が終わると理事長は満足そうに微笑む。
「素晴らしい。合格点だ。点数としては99点というところかな。ちなみに残りの1点は働き者の割合は95%が正解だよ」
「ありがとうございます。光栄です」
どうやら俺の回答は合格点をもらえたようだ。満足してもらえたようで何より。
これを聞いたタコは表情を変えずに口を開く。
「なるほど、合理的ですね」
すると、理事長は今度はタコの方へ向き直った。
「今日D組の先生から苦情が来まして、『うちの生徒がE組のすごい目で睨まれた。“殺すぞ”と脅された』とね」
「うぐっ……」
犯人はお前か潮田……
そういえば、『殺そうとしたことなんてないくせに』って啖呵切ったってカジノからすれ違うときに言ってたな。
そして、理事長は教師陣を厳しい目つきで見つめながらこう話す。
「暗殺をしているのだからそんな目つきも身につくでしょう。まあ周防くんのようにもともと『目つき』がよくない生徒もいますが……、それはそれで結構。問題は最底辺の生徒が一般生徒に逆らうこと。それは私の方針では許されない。以後、慎む様に厳しく伝えて下さい」
サラッと俺の悪口を挟みながら、『底辺は本校舎の生徒に逆らうな』という内容の言葉が静寂に包まれたこの部屋に響く。
ちなみに1つ言わせていただきたいが、目つきはあんたも悪い。
そして、言いたいことが言い終わったのか、職員室を後にする……、そう思ったその瞬間、
「そうだ、殺せんせー。1秒以内に解いてくださいっ!」
と言いながらタコに知恵の輪を投げつけた。
タコはテンパりながら猛スピードで解こうとしてジタバタと暴れ回り……
……惨めに触手が絡まっていた。
「噂通り、スピードは凄いですね。確かにこれならどんな暗殺だって躱せそうだ」
そして、地べたに這いつくばるタコを理事長が見下すような感じで、
「でもね、殺せんせー。この世の中にはスピードで解決出来ない問題もあるんですよ」
こう言った。理事長は今度こそ、この部屋から出る。
そして、外で覗いていた潮田に向かって、
「やぁ! 中間テスト期待しているよ、頑張りなさい!」
と思ってもなさそうなことを言い残してこの校舎を去った。
重苦しい空気が流れる。
「……ターゲットとしてのコイツはほぼ無敵だ。暗殺を完全にコントロールして、支配している」
烏間さんが静かに呟く。いまだに這いつくばるタコの様子を見ながら言葉を続けた。
「この学校にはあの強力な支配者がいる。この学校で彼の作った仕組みからは逃れられない。例えお前でもな」
《パキッ》
その瞬間真っ二つに割れた知恵の輪。これは今、この場でできる精一杯の抵抗だったのだろう。
ちなみに、カジノの件は烏間さんから程々にしろとだけ言われて解放された。まあ、タコはさっきの件で意気消沈。ビッチはそもそも俺にビビっているからな。早めに解放されてなによりだ。
***
渚side
「やぁ! 中間テスト期待しているよ、頑張りなさい!」
理事長のとても乾いた『頑張りなさい』は、一瞬で僕をE組に落とした。
理事長が校舎を去り、この校舎には僕ともう1人しか生徒は残っていなかった。僕は昇降口でその生徒が出てくることを待っていた。
しばらく待っていると待っていた生徒は烏間先生とビッチ先生と一緒に出てきた。
「何よあんた。まだ残っていたの?」
「ええ……ちょっとね……」
「渚くんもいたのか。2人とも気をつけて帰るようにな」
「ええ、失礼します」
「け、怪我するんじゃないわよ……」
烏間先生と姉弟喧嘩後のような様子のビッチ先生に見送られると僕らは校舎を後にする。
(ビッチ先生、死ぬほどビビってるなあ……)
まあ、ビッチ先生はその生徒に正面から打ち負かされたのだから気持ちはわかる。僕も、彼を怒らせると何されるかわからなくて怖いし……
そしてこの場には僕とその生徒だけが残った。
「……す、周防くん」
だけど、僕は
「……一緒に帰ろう!」
勇気を出してその彼に声をかけた。
***
「……」
「……」
僕は今E組1の不良生徒と一緒に帰っている。
1ヶ月前にクラスのみんなと衝突したことでこのクラスから孤立している生徒。暴力行為や極道との関係など黒い噂も後を立たずとても話しかけづらい存在。
しかし、この1ヶ月の間で僕の中での認識は少しずつ変わっていた。
周防くんの戦闘能力。おそらくもともとは喧嘩をしていたことで培ったものなのだろう。だけどビッチ先生を、
次に学力。周防くんの成績は平均程度。確かに全体で見れば特筆する成績ではないのかもしれない。しかし、この学校のテストは非常に難しい。授業を少しでも聞き漏らしたらすぐに置いていかれてしまう。そんな中、彼は授業にほとんど出ずに成績をキープしている。そして、僕たち以上の成績を叩き出している。そこに悔しさはある。でも、そこにも惹かれている自分がいた。
彼はおそらく優秀だ。暗殺に参加していないのにもかかわらず、何故か先生たちから頼りにされている。そして、
確かに周防くんはE組に所属している。でも、
——
僕はそんな周防くんに憧れている。だから話してみたいと思った。
彼と仲良くしたいと思った。
「ねえ、あのさ……」
「……なんだ?」
僕が彼に話しかけると彼は反応してくれた。カルマくんから聞いていた通りだ。確かに話しかけづらい部分はあるけど、話したら意外と話してくれるって。
「周防くんってすごいよね……。喧嘩も強いし、勉強だって僕らよりはずっと出来る。頭の回転も速いし、先生たちにも頼りにされている。僕すごい憧れてるんだよね」
「……」
彼は僕の話を黙って聞いている。表情は見えない。
「もし、周防くんが僕らと暗殺に参加してくれたらきっと上手くいくんじゃないかって思ってる。ほら周防くんって
これは本心だった。僕は周防くんのことはまだちゃんと知らない。でも、この教室の中で力があるのは認めざるおえない。正直、戦力としてなら、僕らの中でトップクラスであることは間違い無いと思う。だから、この人が僕らに協力してくれていないのは、僕としても勿体ないと思っていた。
「潮田」
だけど、僕がここまで言うと、僕の話を遮るように周防くんが話始めた。
「俺が奴を1人で殺りに行ったとしてどれくらいの確率で殺せると思う?」
いきなりこのような問いが飛んできた。
急でびっくりしたがとりあえず考える。
今、周防くんについてわかっているのは、この近辺の不良や、ビッチ先生を圧倒する戦闘能力とエリートの大人を手玉に取れるだけの地頭の良さだ。周防くんなら、おそらく触手は破壊できると思う。カルマくんのように。ただ、あの、規格外の殺せんせーを1人で殺せるとは思えなかった。
「うーん、周防くんのことちゃんとは分からないけど、触手は何本か破壊できると思うよ。でも1人で殺すのは難しいと思う」
少し失礼な感じになってしまった。でも、周防くんはそれに気にする様子もなく言葉を続けた。
「じゃあ、今のお前たちが束になって奴を殺せる確率は?もちろん俺抜きで」
これは、今の僕らではゼロだろう。触手の破壊も難しいかもしれない。
「多分無理だと思う。触手にかすりもしないんじゃないかな……」
すると、周防くんは少し黙った。そして諭すような感じでこう言った。
「なあ潮田、さっきの理事長の話どう思った?」
また難しい質問が飛んできた。さっきの理事長の話か……
「言葉にはしづらいけど、僕らが弱いなって思ったな、その中でE組にいても強い周防くんやカルマくんってかっこいいなとも思ったけど……」
僕らは
でも、周防くんやカルマくんは違う。2人とも実力があるから、僕らと違って自信があるように思える。
確かに、2人とも素行はあまり良くないから、周りからの評判はよくない。でも、カルマくんはこの教室の中で抜けた実力を発揮して、最初は怖がっていたみんなも徐々にカルマくんを頼りはじめているし、周防くんも、みんなからの評判は最悪だけど、たまに見せるとんでもない能力の片鱗を見た烏間先生たちは周防くんのことを高く評価して、頼りにしつつある。この2人は悪い評価を実力でひっくり返しているのだ。
今の僕らにはこんなことはできない。この姿は正直すごいと思う。
「……潮田」
だけど、周防くんはまた話を遮るように僕の名前を呼んだ。そして、はじめて僕の方に顔を向けた。周防くんの“目”は、まるで何かを伝えているかのようだった。
「俺1人の力には限界がある。確かに1人だけでは奴に挑んでも手も足も出ないだろう。だがな、束でかかっても確率0の集団にそんな奴を1人入れたところで状況が変わると思うか?」
「……?」
僕は彼が何を伝えたいのか理解できなかった。彼は困惑している僕を見ると、また表情は見えなくなった。
「この意味が理解できないうちは奴を絶対殺せない。よく考えてみてくれ」
その言葉は彼が孤立したあの日と同じ厳しいものだった。だけど、そこに冷たさは感じない。きっと、彼は僕らに何か伝えようとしてくれているんだ。それが少しだけ嬉しかった。
あとがき
ここまで読んでいただきありがとうございます。
理事長襲来+カジノで暴れた不良への説教回でした。原作では、かなりギスギスした話だったと思うのですが、零二くんに対してはそこまでギスギスした感じにはなりませんでした。
零二くんと理事長って別に仲が悪いわけではないんですよね。たまに嫌がらせをしてきますが、怨敵ともいえるE組の生徒かつ、椚ヶ丘史上最悪の不良で、学校の評判を下げまくっている相手にに対する対応と考えると相当優しいです。
それどころか、零二くんって割と理事長のお気に入りの生徒なんですよね。関係としてはカルマくんとの関係に近いかもしれません。
さて、次回からは中間試験です。原作で、殺せんせーはとある条件を出すと思うのですが、これに対して、この万年平均点男はどんな点を取るのでしょうか。
では、次回もよろしくお願いします。
【次回予告】
「……でも、勉強の方はそれなりでいいよな」
「……うん、なんたって暗殺すれば賞金100億だし」
「100億あれば成績悪くてもその後の人生バラ色だしね」
「……」
三村や矢田、中村が次々とそのように語り始める。さっき、俺がタコと赤羽に話していたことはこういうことだ。
こいつらは
きっと、俺はその様子を冷めた目で見ていたと思う。正直ため息の1つや2つ吐きたい気分だが、奴との約束があるので押さえ込む。
「俺達、
次回 『第二の刃の時間』