岡野side
中間テストも終わり、待ちに待った修学旅行の季節がやってきた。教室ではみんなこの話題で持ちきりだ。茅野っちは渚と楽しそうに話しているし、殺せんせーも京都の舞妓さんの格好をしながら、ノリノリでとても分厚い修学旅行のしおりをみんなに配っている。
当然、私たちもクラスの仲間たちと楽しみに待っていたんだけど……
「「はあ……」」
どういうわけか、メグと磯貝くんの元気がなさそうだった。
「2人ともどうしたの?」
「ちょっと修学旅行の班のことでね……」
「え?あと1人まだ見つからないの?」
私たちの修学旅行は京都で3泊4日。そして自由行動の時間は1班7人で好きなところをまわる。これだけなら普通の修学旅行だ。
だけど、私たちE組の修学旅行は一味違う。朝の体育の時の烏間先生の言葉を思い出す。
『君たちの楽しみを極力邪魔したくないがこれも任務だ。京都の街は学校とは段違いに広く複雑。しかも、君達が班ごとに決めたコースに奴は付き添う予定だ。狙撃手を配置するには絶好のロケーション。既に国はプロの狙撃手を手配して奴を暗殺する準備を進めている。君たちにも協力をお願いしたい。成功した場合、貢献度に応じて百億円の中から分配される。暗殺向けのコース選びをよろしく頼む』
ということで、私たちE組の修学旅行では、班ごとに殺せんせー暗殺の計画を立てなければならないのであった。
そして、今決まっている私の班のメンバーは磯貝くん、前原、メグ、矢田っち、倉橋さん。の5人。だけど、まだ残り1人が決まっていない。
「いや、そうじゃない」
すると、磯貝くんが困ったように口を開いた。
「問題は周防のやつだよ。あいつをどうするか悩んでいるんだ」
「「「あー……」」」
磯貝くんの言葉に、私だけじゃなく、矢田っちや前原など、同じ班のメンバーが、みんな察したような声を出す。
周防零二。
E組一の問題児。この男は暗殺に対してもやる気がなく、他のクラスメイトからも嫌われているため、この男をどこ班に入れるかという問題に、学級委員の2人は頭を悩ませていた。
「カルマのところに入れればいいじゃん。あいつら意外と仲良いし」
すると、前原がこう言う。それに、私も頷いた。
そう、周防はなぜかカルマとは仲がいい。あの2人はよく一緒にいるし、2人で一緒にサボっている姿もよく見る。私も2人が一緒に組めばいいと思っていた。
でも……
「ダメよ。それは絶対に」
メグは厳しい顔つきになってこう返した。
「え、なんでよ?」
その言葉に私が疑問を投げかける。すると、メグはカルマの方を指差しながらこう言った。
「あれを見なさい」
それに釣られて、私たちはカルマの方に目線を向ける。
「大丈夫かよカルマ。旅先で喧嘩売って問題になったりしねえよな?」
「へーき、へーき。旅先の喧嘩はちゃんと目撃者の口を封じてるし、表沙汰にはならないよ」
「「「……」」」
私たちの視線の先には、悪魔のような顔をしながらこう話すカルマの姿があった。カルマの手に握られた写真にはカルマに殴られた後であろう人たちと一緒に、いやらしい笑みを浮かべたカルマの姿が写っている。
メグは遠い目をして口を開いた。
「あの紅白悪魔コンビを組ませたら確実に警察沙汰になるわ。下手したら私たちも全員巻き添えで、暗殺どころじゃなくなるわよ。それだけは避けないと……」
「「「うん、よく分かったよ……」」
周防とカルマ……。
あの2人は単体でも問題を起こす可能性が非常に高い危険人物だ。そんな2人を一緒に混ぜたら、録でもないことになるのは簡単に想像がつく。
多分、2人で木刀とか買って、京都のヤンキーに喧嘩挑みに行ったりするのだろう。
私たちに影響が出ないなら勝手にやっていればいいけど、この学校のことだから、下手したら私たち全員が連帯責任で罰を受ける可能性も考えられる。
それは絶対に避けなければいけなかった。
「じゃあどうするんだ?寺坂のところは……あそこも喧嘩になるから無理だし、もうここか岡島のところしか残ってないだろ」
「え?絶対嫌!!せっかくの修学旅行なのに、なんであいつといないといけないの!?」
前原の言葉に私は思わずこう返した。
確かに、寺坂たちの班に周防が入っても、絶対に喧嘩になって問題になるだろう。それが良くないのはわかる。
だけど、私の班にあいつが入るのは本当に嫌だった。私はあいつが嫌いだ。あの日、あいつが私たちに言ったことは絶対に許せないし、私たちの班で勝手なことをして問題を起こして台無しにされるのも嫌だ。
あいつと同じ班なんて死んでもごめんだ。
「まあ、岡野はそう言うよな……。とりあえず空いてそうなやつに声かけるか」
私がこう言うと、前原は気まずそうに苦笑いをする。だから、岡島たちには悪いけど、先に他の人を捕まえて周防の面倒を任せよう。ということになった。
そういうわけで、私たちは木村に声をかけたんだけど……
「悪い、竹林に声かけられてるからそっち入るわ」
木村に断られてしまい、あえなく撃沈。そして、こうしているうちに、岡島の班は早々に7人揃ってしまった。
だから……
「も、もう私たちのところで面倒見るしかなさそうね……」
「終わった、私の修学旅行……」
「だ、大丈夫だよひなたちゃん。周防くん、意外と頭いいし、料理も上手だし……」
「その無駄にハイスペックなのもムカつくのよ!!」
倉橋さんが必死に場を盛り上げようとするが、他のみんなは死んだ魚のような目をしている……
こうして、私の
***
零二side
「……修学旅行?」
「ええ、そうよ。そして、周防くんは自由時間の時は私たちと一緒に行動してもらうわ」
5時間目。昼休みが終わって、遅れて教室に戻った俺を出迎えたのは片岡のこんな言葉だった。片岡を筆頭として、磯貝、前原、岡野、矢田、倉橋が俺の机を取り囲む。
こいつらは修学旅行の班行動の話をしているらしい。そういえば、修学旅行は来週ってタコが言っていた。確か、3泊4日で京都に行くんだったな。
まあ、はっきり言って興味ないから、詳細とかは一切把握してないんだけどな。
「なんで、お前らと一緒にいなきゃいけないんだよ」
「それはこっちの台詞よ!」
俺がそう返すと機嫌の悪そうな岡野が反論してきた。なんだこいつ。
そもそも、なんで俺がこいつらと行動しないといけないのか意味がわからない。すると、磯貝と片岡が俺を睨みながら口を開いた。
「修学旅行は班行動だ。人数の都合でお前は俺たちの班になった。そして、この修学旅行は暗殺も兼ねている。お前も一緒に行動してもらうぞ」
「そういうことよ。勝手な行動は認めないから」
クラス委員の2人が俺に釘を指してくる。
どうやら、この2人の話によると、修学旅行の自由時間は1班7人の班行動で個人の勝手な行動は認められないらしく、さらに、その時間で暗殺の計画を立てて実行するらしいのだ。
正直、めんどくさいから断りたいし、修学旅行そのものをバックれたい気持ちすらある。
だが……
***
朝 周防宅
「周防くんそういえば来週は修学旅行ですね。先生とっても楽しみです」
いつものように俺の家で朝飯を食っていたタコがこんなことを言い出した。
「そうか。俺は行かねえから楽しんでこいよ」
「なんでですか!周防くんも行きますよ!!」
俺は興味がないし、めんどいので修学旅行はサボるつもりだった。別に京都なんて行こうと思えばいつでも行けるしな、
だが、行くのを断るとこのタコが騒ぎ出した。口の中に食い物が残ったまま叫ぶせいで、俺の顔に飛び散ってくる。汚えな……
俺はタコの言葉が終わるとため息を吐いて口を開いた。
——俺が、なぜ、行きたくないのかって……?
「なんで4日間もお前と生活しないといけないんだよ。朝だけでもだるいのに……」
このタコと4日間ほとんど付きっきりで生活するのが嫌だったからだ。しかも、それだけじゃない。赤羽やビッチなど、面倒なやつも多い。特に赤羽なんか、夜中に何してくるかわからないしな。
それだったら、その4日間使って1人でどっか別のところに旅行に行った方が100倍は有意義だ。
だが、タコはそれを認めなかった。
「にゃ!そんなこと言わずに……!来てくれるまで、先生家のチャイム連打しますよ!」
***
ということがあったのだ……
こうなってしまったら行かざるおえない。あのタコのことだから、どんな手を使っても俺のことをとっ捕まえて、無理やり京都へ連行するだろう。そっちの方が面倒だ。それがわかっているなら、無駄な抵抗はやめた方がいい。
「へいへい、邪魔しないから暗殺は勝手にやっててくれ……」
俺がこう言うと、磯貝たちにはなんとか納得してもらえたようだ。岡野は睨みつけてくるが無視だ無視。
まあ、俺は今はタコの暗殺とやらに関わるつもりはないがな。こいつらの邪魔をするつもりもないが、何もするつもりもない。俺が何かしてもどうせ結果は変わらないしな。
こうして、俺は不本意ながら1班に加わることになった。
***
修学旅行当日、東京駅
「周防くんかおはよう」
朝、新幹線のホームへ向かっていると烏間さんと合流した。烏間さんは、高そうなスーツケースに、スーツをびっしり決めて、まるで出張に向かうかのような格好をしている。まあ、この人的にはそんな感じなのだろう。
「おはようございます。烏間さん」
「時間は大丈夫か?結構ギリギリだが……」
俺が挨拶を返すと、烏間さんは怪訝そうな顔で俺にこう返した。そう、俺は学校全体の集合時間に遅刻していた。というかサボったのだ。
どうせ、学校全体の集合に出なかったところで特に不利益はない。むしろ、E組は本校舎のおもちゃにされるだけだろうしな。
「新幹線には間に合いますから大丈夫ですよ。最悪一本遅らせてもあまり変わらないので」
「……できればちゃんと間に合って欲しいが」
京都までの新幹線はめちゃくちゃ出てるからな。1本くらい遅れても大差はない。それに、今この人がここにいる時点で、遅れてもなんとかなるだろうし、最悪、あのタコが迎えにくるだろ。
そう思っていると、烏間さんは真剣な顔になってこう言ってきた。
「今回、君はどう動く?」
「とりあえず、うちの班の発砲のタイミングまでは同行してあいつを見ておこうと思ってます。それが終わったらこっそり抜け出そうかなと」
俺は今回は何もしないつもりだ。だが、一応、この人からタコの監視を依頼されている以上、それすら放棄すれば何を言われるかわからない。だから、あのタコがどうやって切り抜けるのかだけは観察しておこうと思う。
それが終われば、京都の賭け将棋施設で小遣い稼ぎでもしようと思っていた。
烏間さんは呆れたような顔になる。
「君は仮にも教師の前でそれを言うのか……」
「京都で行きたいところもあるので」
「まあ、そこに関しては周りに迷惑をかけない範囲で頼むぞ。じゃあ、発砲のタイミングまではどうするんだ?」
「どうもしません。ただ
俺がこう言うと烏間さんが軽く笑った。
繰り返しになるが、俺は今回、余程のことがない限りは何もするつもりもない。あいつらの妨害をするつもりもないし、あいつらに手を貸すつもりもなかった。
だが、烏間さんにとってはこれで十分なのだろう。
「そうか……もし何かわかったらよろしくな」
「ええ」
こうして、俺の修学旅行が始まった。
「「……」」
そして、ホームに上がった俺たちの目には衝撃的な光景が飛び込んできた。
「ご機嫌よう、生徒たち」
なんと、ハリウッドセレブみたいな格好をしたビッチが偉そうに歩いていたのだ。少なくとも引率の教員の格好ではない。E組の連中も絶句してる。
「……」
殺気を感じたので横をチラッと見ると、烏間さんが青筋を立てていた。どうやら、相当ご立腹のようだ。
だが、ビッチはそれに気づかないまま偉そうに口を開く。
「女を駆使する暗殺者としては当然の心得。いい女は旅ファッションにも気を使うのよ」
「目立ちすぎだ、着替えろ。どう見ても引率の先生の格好じゃない」
ビッチがここまで言うと、とうとうドヤ顔でそう語るビッチに機嫌が最悪の烏間さんが話しかけた。ビッチはもう終わったな。
「堅いこと言ってんじゃないわよ、烏間。ガキどもに大人の旅の———」
しかし、軽く流すようにビッチは返す。烏間さんの機嫌の悪さを全くわかっていない。だが、烏間さんの顔よく見ろクソビッチ。
「脱げ、着替えろ」
烏間さんはもの凄い顔をしてブチギレていた。さすが、表の世界では国内最強クラスの男。その迫力は凄まじいものがある。そして、その迫力にビッチは負け、泣きながら着替えたのだった。
完全にガキじゃねえか。まじで、誰が引率だよ……
「あれ?周防くん来たんだ?全体の集合にいなかったから行かないんだと思ってた」
すると、俺のことに気づいた赤羽が声をかけてきた。その後ろでは岡野たちの空気が悪くなる。まあ、あいつらのことは知ったことじゃない。
「タコが来ないならピンポン連打するって脅してきてな……」
「アハハ、やっぱ周防くん面白いね。楽しくやろうね、周防くん」
俺がめんどくさそうに返すと赤羽は笑いながら思ってもなさそうなこと言ってきた。
お願いだから面倒ごとに巻き込まれませんように。
俺はそう願いながら新幹線に乗った。
——残念ながらこの願いは叶わないことを俺はまだ知らない
***
新幹線の中
クラスの連中は皆、テンションが上がっている様子だった。談笑する者、ボードゲームやトランプを楽しむ者などみんなそれぞれ楽しそうにしている。
《ペラッ》
(これ意外と面白いな……)
そんな空気の中、俺はタコから渡された分厚い冊子を1人で読んでいた。その時、そんな俺に声をかけてくるやつがいた。
「……ねえ、周防くんも一緒にトランプやらない?」
「そうだ、周防。せっかくの修学旅行なんだからお前も楽しめよ」
矢田と磯貝が少し気まずそうにしながら俺に話しかけてきた。どうやら、俺の横のエリアでは、俺と同じ修学旅行の1班の面々がババ抜きに興じているみたいだった。矢田と磯貝は早々に上がり、一応、同じ班である俺にも参加しないかと声をかけてきたようだ。
すると、近くにいた赤羽が話に入ってくる。
「2人ともやめときなよ。周防くんをトランプに誘うのは」
なんと赤羽は俺なんかと遊ばないほうがいいと言い出したのだ。赤羽の言葉に、矢田と磯貝は目をぱちくりとさせて口をあんぐりと開けている。
「……え?もしかして2人って仲悪い?」
「なんでだよカルマ。お前らいつも仲いいじゃないか。喧嘩でもしたのか?」
この通り、2人は困惑した反応を見せていた。だが、こいつらは何か勘違いをしているな。
赤羽は笑いながら矢田たちに言葉を続けた。
「違うよ。そういう意味じゃなくて、周防くんこの手のゲーム馬鹿みたいに強いからゲームバランス崩れちゃうよ」
「同感だ」
そう、赤羽の言う通り、俺はこの手のゲームにはめっぽう強い。得意の観察眼をもろに活かせるからな。それに、こっちはカジノなどである程度の場数を踏んでるんだ。今更、こいつらでは相手にならないだろう。
すると、矢田が少し納得したような表情になる。
「そういえば、ポーカー得意って殺せんせーが言ってたね」
だが、赤羽はそんな矢田にチッチッチ、と舌を鳴らしながら指を振ってこう言った。
「得意なんてもんじゃないよ、矢田さん。周防くんは“未来が視える”んだ。おそらくあのゲームの結末もわかってるんじゃない?」
「え、本当?」
赤羽が得意げにこう言うと矢田と磯貝の目線が俺の方に集まりはじめた。なんか、面倒なことになりそうだな。
「赤羽、余計なこと言うな」
「え、いいじゃん。ちょっと当ててみてよ」
「俺も気になるな、それ」
「私も聞きたい」
赤羽がだるいこと言ってきてそれに矢田と磯貝が乗っかり始める。本当にめんどくさい。まあ、これは答えないと赤羽がうるさそうだから答えてやるか。
俺は自分の座っている席の反対側の窓側のエリアに視線を向ける。今、俺の目の前で行われていたのは俺と同じ1班のメンバーで行われていたババ抜きだ。
参加者は磯貝、前原、片岡、岡野、矢田、倉橋の6人。
すでに、磯貝と矢田は上がっており残りの4人の勝負となっていた。
俺はその4人に意識を集中させてじっと見つめる。手の動き、表情の変化、視線の向き、呼吸の変化、そして彼らの性格……
その動きからこれまでのゲームの流れ、そしてこれからのゲームの流れを見通す。
——ふぅ……
そして、しばらく彼らのことを見てから一息吐いた。
「分かった?」
「だいたいな」
そう言って、俺は今の状況とその後の展開の解説をはじめた。
まず、今ジョーカーを持っているのは岡野だ。岡野の目線からして、右から2番目ってところだな。そして、前原と倉橋。この2人はもう上がる。ほら、前原が上がったようだ。
残るは片岡と岡野の一騎打ち。だが、ここは岡野には分が悪いだろう。駆け引きを片岡が制して決着というところだな。
俺の話をさっきの3人と今上がってきた前原は黙って聞いていた。その話に聞き耳立てて聞いていたのだろう。岡野は一瞬俺のことを睨んだ後、トランプをシャッフルしている。どうやらここまでは当たりのようだ。
「カルマくん何してるの?」
「周防くんがこのババ抜きの“未来を視てた”んだ。ちなみに結末は片岡さんと岡野さんの一騎打ちで、岡野さんの負けらしいよ」
そこに潮田がやってくる。さっきまでは静かだったのにずいぶん大所帯になった。全員が静かにババ抜きの行末を見届けている。
「あ、倉橋が上がった」
「すごい。ここまでは完璧だよ」
倉橋が上がり残るは片岡と岡野の一騎打ち。そこで、俺は岡野と片岡には聞こえないような声量でこう言った。
「ジョーカーは片岡から見て左側、そして片岡がとるのはその逆だ」
そして、片岡は自分から見て右側のカードをとった。
——結果は片岡の勝ち
俺の言った通りの結末になった。この結末に俺の周りが一気に騒がしくなる。
「うそ、言ってた通りになっちゃった……」
「ああ、俺もにわかには信じられない……」
「すご!まじですげえ!!」
この結果に前原は興奮気味で騒ぐだし、他のメンバーは信じられないと言った表情をしている。
「もしかして、全部わかってたの……」
これにはゲームの当事者だった2人も驚きを隠し切れていない様子だった。最下位でしかも、全てを見抜かれた岡野は若干不満そうにしていたが、それでも驚きが上回っているようだ。
そんな面々に対してなぜか自慢げに赤羽がこう語りはじめる。
「どう?“白の預言者”の実力。こんなのが入ってきたら面白くないでしょ?」
「その名前はやめろ赤羽」
「何?“白の預言者”って……」
赤羽が恥ずかしい名前を出すと若干引き気味で岡野が聞いてくる。赤羽は、笑いながらこう返した。
「未来を見透すほどの読みの鋭さでポーカーやチェスなどのゲームを無双してきた周防くんの裏でのあだ名だよ」
“白の預言者”
恥ずかしいからやめてもらいたいが、俺がカジノで金稼ぎを始めてしばらくしたタイミングで、あの辺一体のカジノでこう呼ばれることが増えた。どうやら、白くて長い髪の毛と、カジノで着ている白いスーツ。そして、俺が何手も先のことを先読みすることができることが名前の由来らしい。
ちなみに、この前のポーカーの話も大きな噂になったらしい。別に大したことはしてないんだけどな。
「……未成年でカジノに入り浸ってるって話は前から流れてたけど」
「……こんなにすごかったんだ」
岡野と矢田がドン引きした表情を俺に向けてくる。まあ、ギャンブルのワード自体が、人によってマイナスイメージは強いからな。それを未成年で興じてるのはこいつらにとっては受け付けないのかもしれない。
まあ、俺は生きるために金を稼いでるだけだ。文句は言わせねえよ。
「そういえば、殺せんせー言ってたね。ポーカーでエリートの大人たちを圧倒していたって」
倉橋がこう言うと潮田がこう返した。
「あー、それは僕も聞いたな。『有名な投資家の人からチップを一枚残らず搾り取り、さらには名家出身で、若くして超大手企業の幹部候補筆頭という女性をブラフを駆使して駆け引きだけで引き摺り下ろした』って浅野理事長が言ってたっけ?」
「え?そんなことしてたの?」
全校集会をサボった時の話を潮田にされる。そういえば、理事長がこの話を暴露した時にこいついたんだったな。
俺はため息を吐いてから口を開いた。
「別に大したことはやっていない。視線、表情、指の動き、呼吸の変化などを見ていただけだ」
「何を言ってるのか理解できない……」
俺がこう言うと、赤羽以外の連中は俺の話を理解できないというような顔をする。磯貝と前原はキョトンとした顔をしているし、岡野もアホ面を晒していて、潮田、片岡、倉橋、矢田の4人も、目をぱちくりさせている。でも、これ以上説明のしようがないんだわ。
「もういいか?飲み物買いに行きたい」
だが、これで会話がひと段落ついたので、これ以上変な話をされても面倒だと感じた俺は、頭を軽く掻きながら、こいつらから離れデッキに向かう。
「なああの子たちに京都でお勉強を教えてやろうぜ……」
するとそこでは、こう言って神崎たち4班女子の方を見ている高校生らしき男たちの姿があった。その目の奥は濁っている。録でもないことを考えているような目をしていた。
俺は飲み物を買って戻った後、赤羽に耳打ちする。
「……お前らの班、気をつけたほうがいい」
3泊4日の修学旅行。何も面倒なことが起こらないように願っていたが、早くも不穏な空気が流れ始めていた。
あとがき
ここまで読んでいただきありがとうございます。
待ちに待った修学旅行が始まりました。気になる零二くんの班割りですが、零二くんは1班にさせていただきました。ちなみに、零二くんが入ったことで溢れた木村くんは竹林くんと一緒に3班に入ってもらっています。
さて、零二くんがカルマくんと組んだら大変なことになると感じた磯貝くんと片岡さんは、この2人を同じ班から離して、自分の班に引き入れる選択をしましたが、この2人も相当苦労していますね。特に、1班には一度大喧嘩して、零二くんのことをめちゃくちゃ嫌っている岡野さんもいますので、零二くんが入ったことで班の雰囲気は最悪だと思います。
現状、一触即発状態ですが、果たして大丈夫なのでしょうか……
ちなみに、今作では、原作より1日多い3泊4日にしています。この修学旅行。零二くんにとっても、他のクラスメイトにとっても大きな出来事になるかもしれません。
では、次回もよろしくお願いします。
【次回予告】
「修学旅行のお土産っていったらこれだよな」
「兄ちゃん、まいどおおきに!」
班行動から抜け出した俺は近くのお土産屋で木刀を買っていた。磯貝や片岡、岡野がこれを見たら真っ先に止めに入っていただろう。俺は昨日の全体の集合もフケていたから、注意事項などの話は聞いていないが、片岡曰くうちの学校では木刀は購入禁止らしいからな。
まあ、そんなこと知ったことじゃない。
俺は店を出ると目的の場所に向かって走り始めた。
次回 『修学旅行の時間 2時間目』