「これで今月3回目ですよ!」
「ただ授業をサボっているだけではなく、パチンコ店でトラブルを起こして警察の方にご迷惑をおかけする……これでは我が校の評判にも関わります」
「学習意欲も悪い、生活態度も悪い、これ以上更生のさせようがありませんよ!」
「暴力団との関わりがあるという話もありますし……」
「他にも生徒にカツアゲをしているようですよ。このままだと他の生徒の安全にも関わります」
秋が終わり、肌を刺すような冷たい空気が校舎を満たし始めた頃——椚ヶ丘学園・中等部の職員室では、ある一人の生徒についての議論が白熱していた。教師たちは口々に問題行動を並べ立て、非難や苛立ち、そして諦めにも似た感情がその場を覆っている。
そんな中、この学園で最も強い権限を持つ男だけが、終始黙ってその議論に耳を傾けていた。
「そうですね……」
一通り話を聞き終えた後、それまで沈黙を貫いていた男が静かに口を開く。鋭い視線が教員たちに向けられ、迷いのない声で告げられた。
「彼には残りの2学期の間は停学してもらいましょう。そして3学期からはE組に行ってもらいます」
***
椚ヶ丘学園は中等部偏差値66、高等部は71を誇る全国屈指のエリート校である。理事長・浅野学峯がわずか10年で築き上げたその教育体制は、徹底した選別と競争によって成り立っている。
その象徴ともいえる制度が“特別強化クラス”E組だ。2年の3学期から3年にかけて、成績不振や素行不良の生徒を集めるこのクラスに落ちた者は、山奥の旧校舎に通わされ、学食の利用や部活動も制限される。さらに復帰には学年上位50位以内という条件が課され、3年2学期末まで残れば高等部への内部進学すら断たれる。
この徹底した隔離と差別により、教師や本校舎の生徒からの扱いも厳しい。集会では先行整列、配布物は後回し、行事では見せしめのように扱われることもある。
やがて生徒たちは自己肯定感を削られ、努力すら無意味だと思い知らされる。そうして将来を諦める者も少なくない。
落ちたら最後、戻れない——その現実から、このクラスはこう呼ばれていた。
“エンドのE組”
***
正月気分がまだ抜けきらない頃——始業式を終えた僕、潮田渚は、今日から通う新しい教室へ向かっていた。本校舎の裏山、その奥にある旧校舎。そこがE組の教室であり、僕らの居場所だ。
教室に入ってしばらくすると、若くて場違いなTシャツを着た教師が現れた。
「みんなこんにちは!今日からこのクラスの担任をすることになった雪村あぐりです。よろしくね!」
重苦しい空気には不釣り合いな明るさが教室に響く。
「じゃあまずはみんな今日がはじめての人もいると思うから自己紹介しようか!まずは磯貝くんお願いできるかな?」
こうして自己紹介が始まったが、生徒たちの表情は暗いままだ。E組に落ちた現実が、それだけ重いのだろう。
やがて僕の番が回ってくる。
「潮田渚です。7月20日生まれで、前までは吹奏楽部に入ってました。渚と呼んでください。よろしくお願いします」
「渚くんよろしくね!じゃあ次は周防くん」
「……あれ、周防くんいないの?」
結局、僕の次の番号の生徒は現れず、どこか気まずい空気のまま自己紹介は終わった。
「じゃあみんなこれからがんばろうね!」
そう言って次に進もうとした、その瞬間——教室の扉が開いた。
「随分ボロいな……」
「あ、周防くんいた!いきなり遅刻はダメだよ!」
白い髪を肩まで伸ばした男子生徒が、無遠慮に教室へ入ってくる。背は高く、どこか年上に見える。おそらく彼が、さきほど呼ばれていた周防という生徒なのだろう。
「周防くん、さっきまでみんなで自己紹介をやっていたから周防くんもお願いできる?」
促されるまま前に出た彼は、周囲を一瞥し——
「……周防零二だ」
それだけを告げて、その場を離れた。
(((……それだけ?)))
「……えっと、周防くん他に何かないのかな?」
「……他に?こいつらに話すことはないな」
「で、でもこれから仲間になるんだし……」
「別にこいつらのことなど興味ない」
「「「……」」」
空気が一瞬で凍りつく。
これが、彼との出会いだった。
そしてまさかこの後、あんな事件に巻き込まれることになるとは、このときの僕はまだ知る由もなかった。
あとがき
はじめまして、ディーエーです。
今回から小説の投稿を始めていきたいと思います。
文章力には自信がありませんが多めに見ていただけますと幸いです。
また、話の都合でE組入りは2年の3学期に変更しています。
では、これからよろしくお願いします。