見てくださった方。ありがとうございます!稚拙な文章ですが、これからもよろしくお願いします。
では、本編です。
修学旅行2日目
「見て見て!矢田っちすごいよ!」
「ほんとだ、綺麗!」
俺はテンション高めの1班のメンバーを見ながらあいつらの後ろを歩いていた。
修学旅行2日目と3日目は自由行動の時間がある。班ごとに行きたいところをまわるのだ。しかし、俺たちのクラスは少し特殊だ。引率するのは暗殺対象の超生物。それをスナイパーがこの修学旅行の間狙っているらしい。
俺たちE組の修学旅行ではそのスナイパーの狙撃の場所を手配し、そこに
「ねえ磯貝くん。私たちの作戦で殺せんせー殺せるかな?」
「わからない、だが成功したら100億山分けだ。やるしかないだろ」
磯貝と片岡からは緊張感が伝わってくる。
ちなみに、俺は暗殺の計画を聞かされていない。この暗殺とやらにハナから参加するつもりなんてないからな。そのため緊張感マシマシのこいつらと違いお気楽気分だ。
「お前はいいよな。そんなお気楽気分でよ……」
「別にあいつがどうなろうと俺には関係ないからな」
そんな様子を見た前原が俺に声をかけてくる。俺がこう返すと岡野がイライラした様子で俺のことを睨みつけてきた。だが、そんな目で見られても困る。現時点であいつがどうなろうとどうでもいいのは事実だ。
すると、倉橋が、疑問を浮かべてそうな顔をこちらに向けて口を開いた。
「でも、周防くん。100億欲しくないの?ギャンブラー気質の周防くんならお金に目がないと思っていたんだけど……」
「リターンがあっても勝算がなさすぎる。そこの見極めができないやつはカモだ。お前らは100億に目が眩んでるみたいだから忠告しておくが、将来詐欺やマルチには気をつけたほうがいい」
倉橋の言葉に俺がこう返すと岡野の機嫌がさらに悪くなるが気にしない。
これについてはマジで思っている。国から聞かされているのは超生物を殺したら100億がもらえることだけ。それ以外の情報はもらっていない。当然、どんなリスクがあるのかという説明もない。理事長でさえ、聞かされていた内容すらこいつらは聞かされていない。あまりにも、説明が足りなすぎる。
烏間さんには悪いが、やっていることは闇バイトと同じだ。
無論、烏間さんやその部下の人たちは信用できると感じているが、その上の人間は怪しい。そして、烏間さんも組織の命令となれば、非情な判断を下すことがないとはいえない。これは烏間さんが悪いとかそういう話ではなく、組織にいる人間というのはトップの命令には逆らえないのだ。
だがこいつらは、自分の与えられた情報以上のことを考慮しようとしていない。俺はその思考はあまりに危険だと考えている。
それだけじゃない。
「それにな、100億って言っても山分けして多少色つけても4億から5億くらいだ。これくらいならラスベガスかどっかのレートの高い大会で入賞しまくればいずれ届くラインだ。それも暗殺より遥かに簡単に。だから賞金もそれほど魅力的だとは思えんな」
難易度や地球の消滅のリスクと天秤にかけても100億は少ない。どうやら複数人でやったら300億から山分けらしいがそれでも足りないだろう。難易度的にも功績的にも最低でも兆は欲しい。
まあ、兆でも足りないと思うがな。
そして、4億や5億程度なら俺は自分の力で稼ぐことができる。1人でも生き残るためにそれくらいの力は身につけてきたつもりだ。だから、現時点でこんなきな臭い話に乗る理由はほとんどないのだ。
「別にあんたの力なんて誰も借りようと思ってないわよ!とにかく今日は邪魔しないでよね!」
俺がこう答えると怒った岡野がこう言ってきた。
「別に邪魔しないとずっと前からと言っている。何回このやり取りするんだ?時間の無駄だろ」
俺は4月の最初から暗殺に俺は入らないと言っているだけで、邪魔はしないから好きにやってればいいとずっと言っている。こいつらが何をしようと俺が明確な不利益を被ったり、誰かが怪我をするような危険なことをしていなければ、俺は干渉するつもりはない。
現に、4月からこれまで、こいつらのことを邪魔したことは一度もないしな。
「……こいつ頭にくる」
「「まあまあひなたちゃん落ち着いて……」」
岡野は俺を睨みつけながら拳を強く握ってプルプルと震えていた。そろそろ手が出そうな岡野を矢田と倉橋が諫める。
「なあ周防。あんまり岡野のこと怒らせないほうがいいぜ。あいつ怒ったら手がつけられないから」
「別に大した被害にならないから問題ない」
これを見た前原が耳打ちしてきたので俺はこう返す。確かに、岡野の動きは速いが直線的で読みやすいからな。あれくらいなら簡単に躱せるし、暴れたところで一瞬で無力化できるから問題ない。
こんなことを話しながら俺たち1班は京都の街を歩いていた。
***
「おー、窓がないからすごい迫力ですねえ」
その後、俺たちの班にタコが合流した。今はこいつと一緒に嵯峨野トロッコ列車に乗っている。俺はそんなタコの様子を尻目に他のメンバーの様子を見ていた。
表情が硬い磯貝と片岡。
キョロキョロと周りを気にしている岡野。
先ほどまでと声のトーンが若干違う矢田。
そしてさっきまでのハイテンションが嘘のように静かになっている前原と倉橋。
この様子を見れば嫌でも分かる。ここで殺る気だな。
「これだけ開放的だと酔いませんし……、しかし時速25kmとは速いですねぇ」
(……お前が言うな)
マッハ20で動けるお前なら、時速25kmなんて止まっているのと変わらんだろ。
俺は暗殺に関わっていないので、こんなことを考えながら、こいつらのことを見つめて、暇を持て余していた。
まあ、どうせこの後、烏間さんからタコはどうだったのか聞かれるだろうし、烏間さんに話すネタでも考えるとしよう。
さて、このトロッコで狙撃に向いている場所はどこだろうか……?
おそらく保津川峡谷だろう。あそこなら、このトロッコも一度停車するし、景色が開けていて狙撃にはもってこいだしな。
そんなことを考えていると、トロッコは保津川峡谷の橋梁の上で停車した。
「鉄橋の上で少しの間停車します」
「見て見て!殺せんせー、川下りしてる!」
橋の下では川下りの船がいるが、俺はそれを無視して周囲の茂みに目を向ける。狙撃には絶好のロケーションだが、狙撃可能な場所は限られる。川下りの舟から狙うこともできるが、倉橋たちがそこに視線を向けた以上それはないし、残っているのは、川洲の茂みや木の中に隠れて狙うことくらいだからな。
俺は、その辺の音や空気の流れにも意識を向ける。すると、俺は違和感を感じたのでその場所へ視線を向ける。
(……見つけた)
タコから見て右側30度の方角の茂み。そこに狙撃手がいるのを見つけた。
そして、俺はこの瞬間確信した。
——この暗殺は失敗だ
だってそうだろう?俺ですら撃つ位置が分かっているんだ。あの超生物なら躱すのは容易だろう。
「どれどれ?おお!」
次に船を見るために身を乗り出したタコの様子に目を向ける。正確には“弾の着弾地点”にだな。このタコが、どうやって回避するのか、俺はじっと見ていた。
次の瞬間、タコがもの凄いスピードで持っている八ツ橋を着弾地点に持ってきた。そこにはスナイパーが放ったのであろう弾丸が挟まっている。
予想通り。こいつらの暗殺は失敗だ。
「おっと、八ツ橋に小骨が。危ないこともあるもんですねぇ」
タコはこう言ってドヤ顔をしながら俺たちの方に顔を向ける。それを見た、磯貝や岡野たちは苦い表情に変わった。特に岡野は歯を食いしばりながら拳に力を入れている。
しかし、どう躱すかと思ったら柔らかい八ツ橋で止めるか……
高速回転する弾丸のエネルギーを相殺するにはそれと同等以上の速さで反対方向の回転を正確にかけなければ取れない。まさに神業だ。
(やはりこいつには未知な部分が多すぎるな……)
そうこうしているうちに、トロッコが動き出す。
こうして、1班の暗殺は失敗に終わった。
***
渚side
同時刻4班
「何?おにーさんら?観光が目的っぽくないんだけど」
僕たち4班はガラの悪そうな高校生に囲まれていた。
「男に用はねえ。女を置いてお家に帰り——」
《バコン!》
言い終わる前にカルマくんが先制攻撃を仕掛ける。相手の高校生は思いっきり吹っ飛んだ。それを確認したカルマくんが僕の方へ振り返る。
「ほらね、渚くん。目撃者のいないところなら喧嘩しても問題ないでしょ」
すると、カルマくんの後ろには本物のナイフを抜いた高校生の姿があった。しかし、カルマくんはその高校生を返り討ちにする。カルマくんは椚ヶ丘周辺の中では周防くんと一緒に名の知れ渡ったワルだ。喧嘩慣れもしているし、周防くんを除いたE組の中で正面からの戦闘で一番強いのはカルマくんだろう。
しかし、相手の高校生は大人数で僕らを一気に取り囲んで拳や蹴りを入れてくる。僕らはそれに抵抗できない。いくらカルマくんでも、他勢に無勢だった。僕らは高校生たちの人数に敵わず、神崎さんと茅野が連れて行かれてしまった。
「おい、車出せ」
そう言って神崎さんたちを車に乗せる高校生たち。そして、最後にこう言い捨てられた。
「中坊が舐めてんじゃねえぞ?」
突然目の前に現れた高校生。僕らより一回り大きい身体。未知の生物の衝撃だった……
***
「渚くん、杉野くん……。大丈夫ですか……?」
しばらくして、気絶していた僕が目を覚ますとそこには奥田さんの顔が目に入った。よかった奥田さんは無事だったんだ。
「ごめんなさい。思いっきり隠れてました」
奥田さんは高校生たちを怖がって、気づかれないように隠れていたらしい。奥田さんは申し訳なさそうにそう話す。
「いや、それで正しいよ」
だけど、カルマくんはそう言って奥田さんにフォローを入れていた。喧嘩慣れしているカルマくんですら、この有様だったのだ。奥田さんは隠れていて正解だろう。
カルマくんが起き上がって続ける。
「犯罪慣れしてやがるよあいつら。通報してもすぐには解決しないだろうね」
相手の高校生は、明らかに手際が良すぎた。運転慣れもしているようだったし、おそらく他でも同じようなことをしているのだろう。
「ていうか……」
そして、悪鬼のような顔をしてこう言った。
「俺に直接処刑させてほしいんだけど」
(すごい迫力……)
カルマくんは相当怒っているのは僕でもわかった。きっと、いいようにやられたことに対する怒りもあるのだろう。
「でも、どうやって探し出す……?」
今度は杉野が苦々しい言葉が響く。その通りだ。今のままでは全く手掛かりがない。そもそも、相手の正体すらわからない以上、神崎さんと茅野を探すのは非常に困難を極めることは想像ができた。僕らの中で苦い沈黙が流れる。
すると、カルマくんが何かを思い出したかのようにこう言った。
「渚くんさ、殺せんせーからもらったしおりの中に『班員が拉致られた時の対処法』っていうページってない?ちなみに犯人は同じ修学旅行生に絞っていい」
「え?どういうこと?」
「確かにそんなページあった気がするけど、なんで犯人のことここまで分かるの?」
「あいつら、京都の訛りかたしてなかったでしょ。あと、そういえば昨日の新幹線で周防くんが言ってたんだよね。『お前らの班、気をつけたほうがいい』って。きっと同じ新幹線に怪しいやつ見つけてたんじゃないかな」
「……!」
ここで、さっきの高校生に負けず劣らずの不良の名前が出てきた。なんと周防くんは昨日の段階で怪しい人を見つけていたというのだ。その相手を見て、何かよくないことが起こるかもしれないと警告を入れていた。彼の先読み能力は昨日見せてもらったけど、まさかこの状況も読んでいたというのだろうか。
そして、カルマくんによると、あのしおりは本当になんでも書いているから、もしかしたら、こういう時の対処法も載っているんじゃないかということだった。
僕らはしおりのページを見返す。文字通り、このしおりにはなんでも書いてあった。
「『班員が拉致られた時』って普通ここまで想定したしおりねえよ」
「殺せんせー恐ろしくマメだから、本当になんでも書いてあるよ」
Q. 京都で買ったお土産が東京のデパートで売っていたときのショックの立ち直り方
A.お土産は買ったのではありません。思い出と経験を買ったのです
「どこまで想定してんだよ」
Q.鴨川も縁でイチャつくカップルを見たときの淋しい自分の慰め方
A.『自分は平安貴族だ』と自分に言い聞かせましょう。平安貴族の求愛は人目を忍んで行うのですから、今この場でひとりぼっちでも何ら不自然ではありません。
「大きなお世話だ!」
「あと、こんなのもあるよ。『周防零二が勝手にいなくなったときの対処法』とか」
「うわ、こんなページまであるのかよ。まあ、あいつが大人しく班行動するとは思えないしな」
(なになに……?)
僕はつい何が書かれているのか気になって、杉野たちと一緒にこの内容のページを開いた。
まずは今わかっている周防零二くんの生態からお伝えします。
・人並外れた洞察力
・プロの殺し屋であるイリーナ先生を秒殺するくらい喧嘩が強い
・しかし、自分から喧嘩を仕掛けることはほとんどない
・見た目と評判の割に料理が美味しい
・よく景色がいいところで黄昏ている
・一人暮らしでギャンブルで生計を立てている
・チェスやポーカーではエリートの大人を圧倒するほど強く、一部界隈からは“白の預言者”と呼ばれている
これらのことから、彼の起こすアクションは以下の3つだと予想できます。
・美味しいご飯を食べに行く
・景色がいいところで黄昏に行く
・ギャンブル
というわけで、次のページでは『周防くんが行きそうなご飯が美味しいお店の一覧』を、その次のページでは『黄昏れるのにおすすめの景色がいいスポット一覧』を、そして、その次のページでは『京都周辺の賭博施設一覧』を紹介します!
「なんだこれ……」
「ギャンブルのページは合法のやつだけじゃなくて、非合法のものも書いてあるね……」
「でも、料理とか景色のページは私たちも役に立ちそうですよ」
このページでは、探偵のような格好をしている殺せんせーのイラストと、指名手配書のような加工がされた周防くんの写真と共に、周防くんの生態と今後のアクションの候補がびっしりと書かれていた。
それを見た、カルマくんは機嫌が戻って大笑いしていて、僕を含めた他3人は少し呆れた表情を浮かべている。だけど、奥田さんの言う通り、景色やご飯のページは僕らが普通に観光する上でも役に立ちそうなものばかりだった。
でも、これを見たおかげで少し落ち着いた。このしおりには今すべきことがちゃんと書いてある。こうしてやるべきことを見つけた僕らは神崎さんたちを助けに向かった。
***
零二side
「ダメだったね……」
「八ツ橋で止めるとか、反則でしょ……」
俺は今暗殺に失敗し落ち込んでいる班のメンバーの様子を見ながら、彼らの後ろを歩いていた。
……音や気配を消しながら。
俺は俺の存在を周囲に溶け込ませるようにしながら磯貝や岡野たちから少し離れた場所を歩いていた。俺はここから抜け出すつもりだった。暗殺が終了した以上、もはや、ここにいる理由は何もない。それに、行かなければいけないところがあるからな。
俺は班のメンバーの様子を注意深く見る。あいつらは暗殺に失敗したことで頭の中がいっぱいだ。離れて歩く俺のことを気に留める様子もない。おそらく、すでに視界の中からも思考の中からも俺の存在は消えているだろう。
(……そろそろだな)
俺は音を立てずに細い道の中へ入る。そして、俺は班行動から離脱した。
***
数分後
「修学旅行のお土産っていったらこれだよな」
「兄ちゃん、まいどおおきに!」
班行動から抜け出した俺は近くのお土産屋で木刀を買っていた。磯貝や片岡、岡野がこれを見たら真っ先に止めに入っていただろう。俺は昨日の全体の集合もフケていたから、注意事項などの話は聞いていないが、片岡曰くうちの学校では木刀は購入禁止らしいからな。
まあ、そんなこと知ったことじゃない。
俺は店を出ると目的の場所に向かって走り始めた。
俺が離脱した理由。本来だったら、この近くの賭け将棋の施設に行きたかったのだが、少々予定が変わった。
気がかりなのは赤羽がいる4班。正確には神崎と茅野のことだ。昨日の新幹線、この2人を濁った目で見ていた高校生の姿。あの目と姿を見て俺は確信した。あいつらは神崎たちを拉致ろうとしてる。
やつらの着ていた制服から高校の調べはつけた。都内有数のヤンキー高校。そして毎年、修学旅行はこの時期に行われる。まあ、確定だろう。
だが、この学校の生徒はほとんどヤンキーだ。OBにはかつて裏社会を震撼させた反グレのトップもいる。そうなると、そこの学校のほぼ全員がグルになる可能性が高い。少なくとも数十人はこの犯行に加担するはずだ。
これでは、いくら赤羽といえども多勢に無勢、神崎たちは一度拉致されるだろう。
ならば俺はどうするか?
昨日、赤羽にある程度の行程は確認したため、4班の行動位置は頭に入っている。おそらく、赤羽たちは近くで潜伏しそうなところをしらみつぶしに探すはずだ。
だったら、俺は離れたところを探せばいい。
当たりを引けたらラッキー。本命は……
「おい、リュウキからの呼び出しだ!俺らもこっちに来いってよ」
——増援の足止めだ
あとがき
ここまで読んでいただきありがとうございます。
修学旅行前の岡野さんたちの予想通り、あの不良は木刀買って喧嘩に向かってしまいました。ただ、その目的はカツアゲとかではなく、神崎さんたちを助けるためなんですけどね。
零二くんは普段は、E組に関わろうとはしてませんが、ちゃんとE組のみんなのことを見ていて、こういう時はちゃんと動いてくれるんです。零二くんって不器用ですけど、意外と優しいんですよ。ですが、それが E組のみんなには全く伝わっていないのですが……
次回は神崎さんたちの救出劇になります。
では、次回もよろしくお願いします。
【次回予告】
「……フッ、殺すか。殺そうとしたことなんてないくせに」
殺す。これを俺たちの前で言うか。どうせ、こいつらもガチの殺しの現場の経験はないだろう。その言葉の重みは俺の方がよく理解している。こんな薄っぺらいことを言われても何にも怖くない。
まあ、赤羽がついているなら向こうの心配は必要ないだろ。あいつなら、これくらいの相手はどうにかできるはずだ。だったら、俺は俺のやるべきことをやるだけだ。
「来いよ。死にたい奴からかかってきな」
次回 『修学旅行の時間 3時間目』