暗殺教室 零の瞳に映るもの   作:ディーエー

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第18話 修学旅行の時間 3時間目

 

京都の人気の少ない路地裏にある廃倉庫。そこでは白髪の少年と不良の集団が睨み合っていた。

 

俺の名前は周防零二。ヤンキー高校生の集団と相対している修学旅行中の中学生だ。

 

と、某裏社会系漫画チャンネルのような入りになったが状況的にはそれに近い。俺の目の前にはナイフを抜いた集団が8人ほど、そして俺の手元にはさっき買った木刀だ。しとしとぴっちゃんしとぴっちゃんって感じだな。

 

「おいガキ。お前あいつらの仲間か?」

 

「仲間?さあ何のことだか」

 

あいつら……おそらく赤羽たち4班のことだろう。これはすでに神崎たちは拉致られていると見て良さそうだな。

 

俺は気配を盛大に出しながら、顎と口角を上げて目の前の連中を見下すように口を開く。

 

「俺はただ、せっかく買ったこの木刀を試す相手が欲しかっただけだ。まあ、お前らみたいな雑魚じゃ練習台にすらならないかもしれないがな」

 

この手の連中は舐められるのをとことん嫌う。だからそれを逆撫でするような態度を取れば、簡単に乗ってくる。目的の優先順位を忘れてな。

 

「誰が雑魚だ!ぶち殺すぞ!!」

 

予想通り俺の挑発に奴らが乗ってきた。所詮、普段から録に脳味噌を使っていないのだろう。やはり単純だ。

 

それに——

 

「……フッ、殺すか。殺そうとしたことなんてないくせに」

 

殺す。これを俺たちの前で言うか。どうせこいつらもガチの殺しの現場の経験はないだろう。その言葉の重みは俺の方がよく理解している。こんな薄っぺらい連中にこのことを言われても何にも怖くない。

 

まあ、赤羽がついているなら向こうの心配は必要ないだろう。あいつならこれくらいの相手はどうにかできるはずだ。だったら俺は俺のやるべきことをやるだけだ。

 

「来いよ。死にたい奴からかかってきな」

 

 

***

 

 

岡野side

 

《ピコン!》

 

烏間惟臣『悪いが、少しトラブルがあったので、今回の暗殺は中止だ』

 

私たち1班の暗殺が失敗してからしばらく時間が経った頃。私たちのクラスLINEに烏間先生から連絡があった。その連絡を確認すると、みんなは驚いたような反応を見せる。私もびっくりしていた。

 

「え?殺せんせーの暗殺が中止?」

 

「何かあったのかな……?」

 

その連絡はトラブルのため殺せんせーの暗殺が中止という連絡だった。ただ、少しくらいのトラブルで殺せんせーの暗殺を中止するとは思えない。きっとよっぽどのことがあったのだろう。

 

すると、烏間先生から追って連絡が来た。

 

烏間惟臣『万が一、君たちの班の中で誰かがいなくなっていたり、何か危険な目似合っていた場合はすぐに知らせてくれ。すぐに、俺たちが対応する』

 

「え?誰か危険な目にあったの?」

 

烏間先生の物騒な文章にみんな不安の表情を浮かべる。

 

この言い回しだとクラスの誰かが危険な目にあったから、殺せんせーの暗殺を中止すると言っているようにしか見えない。

 

どこかの班で何かあったのだろうか?

 

もしかすると誰かが怪我でもしたのかもしれない。そう考えると、胸の中にどんどん不安が降り積もってきた。メグや磯貝くん、矢田っちたちも心配そうな表情をしている。

 

だけど……

 

(……あれ?)

 

みんなの顔を見回していると私はとあることに気がついた。

 

「ねえ、周防いなくない……?」

 

そう、不本意ながら同じ班になってしまった私が嫌っている不良の姿がどこにもなかったのだ。さっきまでは、やる気のなさそうな態度だったけど、一応、私たちについてきてはいた。でも、私たちが暗殺に失敗して落ち込んでいる間にその姿を消している。

 

「あいつまさか抜け出したのか!」

 

「嘘、気がつかなかった……」

 

磯貝くんとメグは焦ったような表情を浮かべ、矢田っちや倉橋さんは両手で口元を押さえて信じられないといった表情を浮かべている。

 

いつの間にか抜け出していたあの不良。私はある光景が頭を過ぎった……

 

「もしかしてあいつ。抜け出してどこかで喧嘩してるんじゃ……」

 

あのクズならここから抜け出して問題行動を起こしていてもおかしくない。他の学校の生徒や地元の人に喧嘩を売って、そのまま警察沙汰になっても驚きはなかった。

 

周防がどこかで喧嘩をして警察沙汰になったから暗殺が中止になった。

 

先ほどの烏間先生の文章からそのような光景が頭をよぎった。

 

「おい!殺せんせー電話出ねえぞ!」

 

だけど、前原が殺せんせーに電話するもつながらなかった。私たちの中で動揺が広がる。

 

「一旦、烏間先生に連絡してそこで指示をもらおう。まずは落ち着くぞ」

 

でも、磯貝くんが動揺するみんなに指示を出してくれた。それのおかげでみんなは落ち着きを取り戻す。私も少しだけ冷静さを取り戻すことができた。磯貝くんはこういう時は本当に頼りになる。だけど、烏間先生から返ってきた連絡は私たちの想像とは少し違うものだった。

 

烏間惟臣『何?周防くんもいないのか?わかった。彼のことはこっちでなんとかする。君たちは予定通り行動してもらって構わない』

 

周防“も”いない。烏間先生はこう言った。

 

この言い方だと烏間先生の言っていたトラブルは、周防以外の誰かが巻き込まれたということになる。

 

てっきり私は、周防が喧嘩をして警察に捕まったのかと思っていた。結果から言うと、それは当たらずとも遠からずだった。

 

だけど、実際の状況はそれ以上に悪いものだった。

 

 

***

 

 

零二side

 

「ぶち殺してやらああああ!」

 

俺の度重なる挑発についに我慢ができなくなった男がデカくてやかましい声で叫びながら俺のところへ突っ込んできた。

 

《ガツン!》

 

俺は怒りに任せて一直線に飛び込んでくる男の眉間に木刀を叩き込むと、男は頭への衝撃でふらつきナイフを落とす。俺は体勢を崩した男の胸骨を目掛けて思いっきり木刀を振った。

 

《バコン!》

 

肺への衝撃で一瞬呼吸が麻痺する。男はこの一撃で気絶した。

 

ナイフやドス(短刀)と比べて刀が優れている点、それは攻撃の間合いだ。リーチが圧倒的に長い。これはある程度距離がある場合は有利に働く。一方的に攻撃できるからだ。ナイフやドスでは相手の懐に入らないと攻撃は当たらない。ならば、自分の懐に入らせないように木刀を構えればいい。それだけで負ける可能性は大きく下がる。

 

「中坊が舐めてんじゃねえ!!」

 

《カキン!》

 

今度は伸ばしてきたナイフを弾く、そして体勢を崩したところに意識を刈り取る一撃を叩き込む。これで2人目だ。

 

俺はカウンター前提で動きを作っている。相手が俺の懐に入らないと攻撃できないなら、懐に入らせなければいい。このような場面ではこれが一番有効だ。そして、こいつらは人数だけはいるが襲いかかってくるのは1人ずつ。ならば実質1対1、人数の不利も打ち消せる。

 

いくら相手がナイフを持っているといっても、所詮は人を殺す覚悟もないような素人集団だ。4月のまだ基礎がなかった頃のE組の連中と変わらない。それくらいの相手なら、剣術の基礎さえ心得ていれば木刀だけ十分だ。

 

3人目。ナイフを弾いて、鳩尾を突く。

 

ここまでで3人。ナイフを持った男たちが何もできずに一方的にやられていく様を見て残りの男たちには怯みが出てくる。先ほどまでの勢いが消え、手足はわずかに震え始め、目の奥には恐怖の色が出ていた。

 

俺は、その男たちに余裕と存在感を見せつけながら、静かに口を開いた。

 

「どうした?来ないのか?」

 

「うわあああああ!!」

 

俺の言葉と同時、4人目がわずかに怯えながら突っ込んできた。どこを狙うかなどは何も考えず、ただ恐怖から逃れるための特攻。しかし、そのような刃など俺には当たらない。攻撃を躱して、後頭部を叩く。

 

ここまでくると流石に実力差が分かったのだろう。残りの連中は無駄な特攻をしなくなった。

 

そして、後退りしながらもどうにか笑みを作って言葉を響かせ始める。

 

「へへへ、確かに多少はやるみたいだが。お前の探している女はここにはいないぜ……」

 

「俺の仲間たちがもう拐っている。今頃楽しいことになっているんだろうな……」

 

男たちはこう言って俺の動揺を誘う。俺に勝てないことを悟ったこの男たちは、俺を動揺させて時間稼ぎを狙う作戦に切り替えたようだ。

 

「お前がせっかく助けに来ても無駄足だったと言うわけだ。残念だったな」

 

まあ、今のこいつらの立場なら有効な選択だ。あくまでこいつらは増援。本隊に必ずしも合流する必要はない。そして、ここには神崎たちはいない。この場面では、俺みたいな邪魔者をこの場に引き付ける囮の役割を選択するのは合理的な判断だろう。

 

だが、この男たちは決定的な思い違いをしている……

 

「……フッ」

 

やつらの挑発に俺の口角が上に上がるのを感じた。

 

 

***

 

 

渚side

 

修学旅行のしおり1243ページ

 

『班員が何者かに拉致られた時の対処法』

 

犯人の手がかりがない場合、まず会話の内容や訛りなどから地元のものかそうでないかを判断しましょう。地元民でなくさらに学生服を着ていた場合は1334ページ。考えられるのは相手も修学旅行生で旅先でおいたをする輩です。

 

土地勘のないその手の輩は拉致した後遠くへは逃げない。近場で人目につかない場所を選ぶでしょう。

 

「みんな!」

 

殺せんせーのしおりの通り僕たちは神崎さんと茅野がいる建物にたどり着くことができた。捕まっていた茅野と神崎さんの顔に笑顔が戻り、逆に神崎さんたちを捕まえていた高校生の顔には驚きと焦りの表情が浮かぶ。

 

「すごいな、この修学旅行のしおり!完璧な拉致対策だ!」

 

「いやーやっぱ修学旅行のしおりは持っておくべきだねえ♪」

 

「「「ねえよ、そんなしおり!!!!」」」

 

僕らが殺せんせーの作ったこのしおりを褒めると、建物の中に高校生たちのツッコミが響く。うん。まあ、気持ちはわからないわけでもない。

 

でも、それは一瞬だけで、カルマくんの雰囲気が変わった。

 

「で、どうすんのお兄さんら?こんだけのことしてくれたんだ。あんたらの修学旅行はこの後全部……」

 

静かな建物の中にとても低い声が響く。

 

——入院だよ

 

とても冷たい声を響かせて、殺気の孕んだ目を向けるカルマくん。よく見なくても怒っているのは明らかだった。カルマくん自身、さっきは人数差にやられて地面に転がされた。きっとその時の怒りもあるのだろう。

 

相手の高校生たちの表情も怯んだようなものに変わる。僕と杉野もそんなカルマくんの迫力に言葉が出なかった。

 

しかしその瞬間、僕たちの後ろから何者かの足音が聞こえた。

 

「ヘッ、中坊が粋がんな。呼んどいた連れどもだ。おめえらみたいな良い子ちゃんは見たこともない不良どもだぜ」

 

すると、相手の高校生のリーダーらしき男の表情に余裕が戻った。

 

(ここで増援……)

 

正直、厳しい。今僕らは3人しかいない。対して、相手の高校生は10人以上。しかも、後ろからも増援となると相手の数は何人になるかわからない。さっきだって人数の差で太刀打ちできなかったんだ。いくら喧嘩が強いカルマくんでも多勢に無勢。万事休すかと思われた。

 

そして、足音が部屋に入ってくる。でも、その増援だと思われた足音は僕らの予想とは違っていた。

 

「不良などいませんね、先生が全員手入れをしてしまったので」

 

入ってきたのは8人の勤勉そうな格好をして気絶している高校生と黒子の格好をした黄色いタコのような生物だった。

 

「殺せんせー!」

 

入ってきたのは殺せんせーだ。殺せんせーがきてくれたことで僕の胸の中に安心感が広がる。杉野や神崎さんたちも安心したような顔をしていた。

 

「遅くなってすみません、この場所は君たちに任せて他の場所からしらみつぶしに探していたので。まあ増援の方も先生が到着した時点で()()()()でしたが……」

 

 

***

 

 

零二side

 

「……フッ」

 

やつらの挑発に俺の口角が上に上がる。それを見た残りの男たちは、少しだけ、俺をバカにしたような表情に戻った。

 

「何がおかしい?今更俺たちを倒して行っても、もう間に合わねえよ」

 

そう言って少しだけ表情に余裕が戻る。こいつらはここに神崎たちはいないから俺の目的は失敗したとでも思っているのだろう。

 

だが、こいつらは決定的な思い違いをしている。そもそも、俺がここにきた目的は、神崎たちの救出でも、こいつらの殲滅でもなく、時間稼ぎだ。つまり俺の勝利条件は、赤羽が神崎たちを救出、もしくは——

 

《ビュン!》

 

その瞬間、廃倉庫の中に突風が吹き荒れる。

 

「よおタコ。ずいぶん遅かったじゃねえか」

 

——このタコ型超生物がここに来るまでこいつらをここに留めておくことだ。

 

「まさか、周防くんがいましたか」

 

「だ、誰だこいつ!!」

 

「化け物だ!!」

 

突然現れた人外に怯える不良たち。無理もない。ただでさえ俺との圧倒的な実力差を前にして恐怖を覚えていた中、この人間じゃないフォルムの怪物が現れたらこのような反応にもなるだろう。

 

俺は声色を変えないまま淡々と答える。

 

「失礼だな、俺の先公だよ。変態で乞食のな」

 

「そういうことです……にゅや!先生、変態でも乞食でもありません!」

 

(……嘘つくな)

 

俺の中ではこいつは変態の乞食教師だ。否定したいなら、まず俺の家に飯を食いに来るのをやめてから言え。

 

まあ、話を戻そう。このタコは生徒に危険があると分かればどんな手を使っても救出しに行く。そこに関しては信頼できる男だ。だから、当然ここにも来ると踏んでいた。俺はこいつがくるまでの時間を稼いでいたのだ。

 

そして、このタコの性能は俺ごときでは到底敵わない。まさにチートだ。チェックメイトだな。

 

「こほん、とにかく私は彼らの先生です」

 

「まあそういうこった。流石に先公の前ではもう木刀は振るえないな」

 

この場をタコに引き継ぐ。別にこいつらごとき瞬殺してもよかったのだが、それだと後々面倒なことになりかねない。タコがいるならタコに任せた方が確実だろう。

 

俺が木刀に付いた血を拭き取りそれを収めると、タコはいつものにやけ面をしてこう言った。

 

「では、修学旅行でおいたをする輩には少しお勉強をしてもらいましょう」

 

ここから先は一瞬だった。気絶してるやつも含めて全員丸坊主にして、のび太くんのような丸メガネをかけさせる。起きている連中に対しては高速で授業をしてしまったのだ。

 

そして、手入れが終わると。俺の方を向いてこう言った。

 

「では、先生はカルマくんの方へ向かいます。それと周防くん。1班の皆さんが心配していました。班の方に戻ってあげてください」

 

どうやら俺の役目はこれで終わりのようだ。あとはこいつに任せよう。

 

「ああ、分かった。それと俺が暴れてたことは内緒な。バレたら面倒だ」

 

「わかりました。あとは先生がなんとかするので心配しないでください!」

 

そう言って不良たちを担いだままタコは飛び去ってしまった。

 

 

***

 

 

廃倉庫でタコと別れた俺はホテル近くのお土産屋が出店している通りを歩いていた。ただ、特にやることはない。賭け将棋の施設はここから遠いし、パチ屋で時間を潰そうにも制服を着ているから追い出される可能性が高いだろう。

 

そう思って、土産でも見ながら暇を潰していると、聞いたことがある女の声が俺の耳に入ってきた。

 

「あ、いた!」

 

声が聞こえた方を振り返ると、岡野が怒りの顔を浮かべながら走ってくるのが目に入った。それに続いて磯貝たち他のメンバーも俺のところへ合流してくる。

 

「今までどこ行ってたの!!自分勝手な行動しないでよ!!」

 

岡野は怒鳴りながら俺に詰め寄る。俺はそれをスルーしていると、磯貝も静かに口を開いた。

 

「おい周防、お前今まで何してた?」

 

磯貝が静かな声には僅かな怒りが混じっている。磯貝たちは、勝手に班行動から抜け出した俺に対して怒りの表情を向けていた。

 

「うお!かっけえ!木刀じゃねえか!」

 

だが、背負っている木刀に気づいた前原が他のメンバーの雰囲気をぶち壊すようなハイテンションになる。

 

しかし、他のメンバーはそれを見て顔色が青くなった。片岡が恐る恐る口を開く。

 

「……ねえ、これ買って何してたの?」

 

「別にそんなのどうでもいいだろ。お前らには関係ない」

 

「関係なくない!!あんたの勝手な行動のせいで私たちの時間がどれだけ奪われたのか分かってるの!?」

 

俺がこう答えると岡野がキレ始めた。そのままつかみかかってきたのでそれを躱すとさらに機嫌が悪くなる。

 

すると、磯貝が先ほど以上に厳しい表情と声色で俺にこう聞いてきた。

 

「単刀直入に聞く。お前これで問題とか起こしてないだろうな?」

 

「安心しろ。仮にやっていても証拠は残っていねえよ」

 

証拠はタコが全部片付けた。飛び散った血痕も掃除をしただろうし、相手が警察にタレ込まれないように手も回しているはずだ。そもそも向こう側の拉致監禁の方が罪は重いから表沙汰になる可能性は低い。仮に警察沙汰になっても烏間さんが揉み消すだろうから全く問題はないだろう。

 

まあ、この回答にこいつらが納得する様子はないのだが。

 

「おーい、磯貝くん!」

 

こんなやりとりをしていると、潮田たち4班のメンバーが俺たちの方にやってきた。神崎や茅野の姿もある。赤羽、杉野、潮田の3人はボロボロだが、どうやら全員無事らしい。

 

「あれ?みんなどうしたの?」

 

ギスギスした雰囲気の俺たちに茅野がこう質問する。すると、さっきから機嫌が悪い岡野が大きな声で訴え始めた。

 

「聞いてよ茅野っち!周防のやつ勝手に班行動抜け出して木刀買って喧嘩してたんだよ!!」

 

岡野はこんなことを言い出す。待て、確かに木刀は持っているがまだ喧嘩したとは言ってない。まあ、事実だから否定はできないが。

 

「え〜周防くんそんなことしてたの?よくないな〜」

 

「赤羽の方こそずいぶんボロボロじゃないか。暴力沙汰を起こしてたのはお前らの方じゃないのか?」

 

それを聞いた赤羽は俺に向けて楽しそうな笑みを浮かべて便乗してきた。こいつ完全に楽しんでやがるな。だが、喧嘩をしていたのは赤羽も同じだ。俺はそれに対して皮肉たっぷりにこう返す。

 

しかし、俺の言葉に対して神崎が厳しい顔をして口を開いた。

 

「……カルマくんたちは不良の高校生に捕まっちゃった私と茅野さんを必死になって助けてくれたの。だから、彼のことを悪く言わないでほしいな」

 

そう言って俺に向けた神崎の眼差しはとても強いものだった。その目には赤羽を悪く言った俺への非難の色が混じっている。

 

「……そうか」

 

俺は静かにこう返す。俺は特にそれについて言及することはしなかった。

 

「え?みんな大丈夫だったの?」

 

「カルマと杉野ボロボロじゃねえか!」

 

他の1班のメンバーは神崎の話を聞いて一気に心配そうな表情になる。神崎たちが拉致られた話はさっきまで向けられていた俺への怒りを弾き飛ばすものだった。まあ、さっきの皮肉で俺に対する敵意は消えていないが。

 

「とにかく、周防くんの件は烏間先生に報告するわ。後でびっちり吐かせるから覚悟しなさい」

 

片岡もそう言ってこの場を収める。そして、神崎たちを心配する輪の中に入っていった。俺以外の1班の全員が神崎たちに心配そうに声をかけている。

 

そんな中、潮田だけが俺のところにやってきた。

 

「あのさ、周防くん。僕たちが神崎さんを助けに行った時に殺せんせーが『増援部隊はすでに半壊していた』って言ってたんだけど、もしかして……」

 

「さあ、知らねえな。まあ、全員無事なんだ。これだけで十分だろ?」

 

別にこれをわざわざ吹聴する必要はない。結果として神崎たちも潮田たちも無事にここに戻ってくることができた。その結果だけで十分だろう。

 

だが、俺が静かにこう返すと、なぜか潮田は笑顔になった。

 

こうして、波乱万丈の修学旅行2日目の自由時間は幕を下ろした。

 

 

この修学旅行でこれ以上の波乱はない。この時はまだそう思っていた。

 

 





あとがき

ここまで読んでいただきありがとうございます。

波乱万丈の修学旅行2日目の自由時間終わりましたね。無事に神崎さんたちも救出されて一件落着です。

今回零二くんは増援部隊の足止めという地味な役回りになりました。ただ、これもカルマくんや殺せんせーのことを信頼してるからこその立ち回りです。そういう意味ではこの2人の共闘ということになりますね。残念ながら渚くん以外には気付かれていないのですが……

ちなみに、薄々勘づいていた方もいるかもしれませんが、今作は某裏社会漫画チャンネルの世界観や設定も一部織り交ぜています。零二くんの戦闘スタイルだったり、鉄虎さんの設定などそれの影響を受けたものも多いです。

また、今回零二くんの初戦闘(厳密に言えばビッチ先生ですが)をようやく書くことができました。零二くんは今回は木刀を使って戦っていましたね。そうです、彼は剣術もできます。

では、どこでそれを身につけたのでしょうか?

これはまた別の機会に描こうと思います。

そして、最後には不穏な文章がありますね。まあ原作より1日多いですからね。このまま何事もなく終わるわけありませんよね……

では、次回もよろしくお願いします。


【次回予告】

「……私も正直好きではありません」

「私もそうですね」

「私も」

結局、全員が周防のことを“嫌い”と言った。当たり前だ。あんなやつどうやったら好きになれるのか全くわからない。もし、あいつを好きだと言った人がいるのなら顔を見てみたいくらいだ。

でも、それを聞いたビッチ先生の顔は少しだけ悲しそうな顔をしていた。そして、すぐに真剣な顔になって私たちを見据える。

「……私もあいつのことは正直“苦手”よ。でも、あいつのことを()()()()はしたほうがいいわ。それは暗殺においてもそれ以外においても絶対に役に立つはずよ」



次回 『修学旅行の時間 4時間目』


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