渚side
山の木々は緑色に染まり、夏の陽気が少しづつ近づいてきた5月の終盤。
色々あった修学旅行が終わった。その言葉通り修学旅行は本当に色々あった。2日目には僕らの班の神崎さんと茅野が同じタイミングで修学旅行にやってきていた不良高校の高校生にさらわれたし、3日目には1班の岡野さんがナイフを持った男2人に襲われた。幸いみんな怪我なく戻ってきたけど、一歩間違えれば大怪我になってもおかしくなかった。
そんな中、神崎さんを助けるために率先して動いてくれたカルマくんや岡野さんを助けた周防くんは本当にすごかったと思う。特に周防くんは2日目にも僕らの班のために裏で必死に戦ってくれていたみたいだし彼には感謝しかない。今回のことをきっかけに岡野さんや他のみんなとの関係も良くなってくれたらいいなと思う。
さて、そんな修学旅行も終わっていよいよ今日から通常授業だ。まあ他のところから見たら異常だと思うけど……
「よう!」
「おう」
「おはよう磯貝くん」
「お前らさ、烏間先生からの連絡見たか?」
杉野と一緒に学校に向かって歩いていると磯貝くんが僕らを見つけて走って声をかけてきた。僕らがそれに挨拶を返すと磯貝くんはスマホを取り出してクラスLINEのトーク画面を開く。
そこにはこんな文章が表示されていた。
烏間惟臣『明日から転校生が1人加わる。多少、外見で驚くだろうが、あまり騒がず接して上げて欲しい』
烏間先生の連絡では今日からE組に転校生がやってくるようだ。これが普通の学校なら転校生は女子か男子か、女子ならかわいい子か、男子ならイケメンなのかといった少しワクワクした気持ちで大盛り上がりしているのだろう。
だけど、ここは普通の学校とは違う。僕らの中には期待もありつつも少しだけ重苦しい空気が流れていた。
「……この文面だとどう考えても殺し屋だよな」
杉野の言葉に沈黙が走る。
烏間先生の文章とこの時期にE組に来る生徒。おそらくほとんどの人は察しがついていると思う。ほぼ確実に殺し屋だろう。
「ついに来たね。転校生暗殺者」
僕もこれは予想していた。ビッチ先生が来た時もしかしたらと思っていたけど本当に転校生も用意したようだ。
ビッチ先生のように殺し屋を教師にするなら僕らと同じくらいの年齢の殺し屋を生徒としてこの教室に連れてきてもおかしくない。しかも修学旅行の移動中に烏間先生たちにチラッと聞いた話だとこの国の裏の世界には幼い頃から殺し屋として訓練して育て上げる組織もあるそうだ。
この異常な教室に関わったことではじめてそういう世界のことも知ったけど、僕には想像もできない世界だなと思った。
「転校生名目ってことはビッチ先生と違って俺らとタメなのかな?」
そんなことを思っていると磯貝くんがこんなことを言い出した。僕らの頭の中には高笑いするビッチ先生の姿が思い浮かぶ。
でもどうなんだろう?ビッチ先生は僕らの中では年増扱いされることが多いけど、それでもまだ20歳らしいくてまだ若い。
それに中学生といえど中学3年生にもなれば体格は大人とそう変わらない人も普通にいる。……僕はそうではないけど、周防くんなんて背丈だけなら烏間先生よりも大きくて普通に大人と間違われてもおかしくないし、女の人なら僕と同じくらいの背丈の人も普通にいるから僕らより年上の人を僕らと同い年と偽って入学させることもできるのかもしれない。
「そこよ!俺も気になってさ、顔写真とかないですかって個別に連絡したんだよ!」
するとどこから現れたかわからない岡島くんがこう言いながら僕らにスマホの画面を見せてきた。
「そしたらこれが返ってきた」
僕ら3人は岡島くんのスマホの画面を覗き込む。そこにはピンク色の髪色をした可愛らしい女の子の姿が写っていた。
(……岡島くん、ちゃっかり壁紙にしてる)
だけどその子は本当にかわいい子だった。岡島くんがはしゃぐのもわかる。でもその相手は殺し屋かもしれないことをわかっているのかな……
めちゃくちゃはしゃいでいる岡島くんを横目に僕の頭の中では転校生のことでいっぱいだった。殺し屋であろうとなかろうと転校生には期待と不安が入り混じる。
どんな人でどんな暗殺をするんだろう……
僕はすごく興味があった。
だけど、その考えは教室に入った瞬間に一瞬にして崩れ去る。
教室の窓側の一番後ろには大きくて不気味な黒い箱が佇んでいた。
***
「……み、みんな知っていると思うが転校生を紹介する……。ノルウェーから来た『自律思考固定砲台』さんだ」
朝のホームルーム。教室の中にはなんとも言えないような空気が流れていた。僕を含む教室の誰もがなんともいえない顔をしているし、烏間先生が転校生の紹介をするその声も心なしか震えているように聞こえる。
すると、教室の後方の箱のスクリーンにピンク色の髪色をした女の子の映像が映し出された。
「皆様、よろしくお願いいたします」
僕たちだって何個かツッコミたいのだ。烏間先生の声が震えるのも無理はない。
転校生はこの黒い箱だった。どうやら国はこの機械を生徒ということで登録して殺せんせーを殺すためにE組の教室に送り込んだみたいだった。ここまでくるとなんでもありなんだね……
「(((*≧艸≦)プ—!クスクス!」
「お前が笑うな!同じイロモノだろうが!!」
この様子を見た殺せんせーが大爆笑している。烏間先生が“見た目に特徴がある”って言ってたけど、こんなのがやってきたら多少笑う人も出てくるのはわかる。
けど、1つだけ言わせてもらいたい。
僕たちから見たら殺せんせーも変わらないよ……
《ガラガラ》
「……は?」
そんななんともいえない空気の中、教室の扉が開いて遅れてやってきた周防くんが入ってきた。だけど、普段あまり表情が変わらない周防くんも驚いた表情をしている。僕は周防くんのこんな表情は見たことがない。それだけ想定外な転校生なのだろう。
「おや、周防くん遅刻ですよ」
「……いや、それよりなんだあれ?」
周防くんがドン引きしながら殺せんせーに質問する。
そういえば、修学旅行などで多少溝がなくなったといえど元々僕らE組のみんなとの関係があまりよくなかった周防くんは僕らE組の生徒とは誰とも連絡先を交換していない。僕らの中で一番仲が良さそうなカルマくんですら連絡先の交換は頑なに断られたと言っていた。
周防くんがどうしてそこまで拒むのかも気になるけど、僕らと連絡先を交換していない周防くんは当然連絡用のクラスLINEにも入っていないから彼にとっては転校生が来るということもここではじめて知ったことになる。そう考えると周防くんの反応は当然だなとも思った。
「……そうか、君は連絡用のグループに入ってなかったな。……見た目に特徴はあるが、転校生だ。みんなも言っておくが、彼女はれっきとした生徒として登録されている」
周防くんの質問には烏間先生が答えた。烏間先生はそう言ってから殺せんせーの方を向く。
「彼女はあの場所からお前に銃口を向け続けるが、お前は彼女に反撃できない。『生徒に危害を加える事は許されない』それがお前の教師としての契約だからな」
「なるほど、契約を逆手にとってなりふり構わずに機械を生徒に仕立てた。いいでしょう。自律思考固定砲台さん。あなたをE組に歓迎します!」
「よろしくお願いします。殺せんせー」
こうしてE組に新たな生徒が加わることになった。
だけど僕は先生たちの隣に立ったままあの機械を厳しい目線で睨む周防くんの姿が気になった。その瞳を見ているとこれからの時間がとても大変なものになるように感じた。
***
零二side
朝教室に入ると一番窓側、俺の席の2列左の列の一番後ろに謎の黒い箱が置かれていた。俺の左側に座っているやつはいないからこの箱が置かれているのは実質俺の隣になる。そして教師連中の話だとその箱は転校生ということになっているようだった。
自律思考固定砲台
烏間さんの話ではこのタコを殺すためにノルウェーで開発された世界最高峰のAIを搭載した新型の兵器だそうだ。国は『生徒に危害を加えない』というタコとの契約を逆手にとってこいつを生徒と言い張り、転校生という形で一方的に攻撃を仕向けようと考えたようだ。
だが……
(……絶対面倒なことになるな)
遅れて教室に入った俺にタコが早く席に座るように促したので自分の席に向かいながらこの謎の機械について考えると、頭の中に2つの懸念材料が浮かんできた。
まず、こいつはいくら高性能だと言っても所詮機械だ。まともな感性を持っているとは思えない。場面問わずタコを殺すことを第一に、そしてとても合理的に動くのだろう。場合によっては俺たちに危険が及ぶかもしれない。状況によっては俺たちを見捨てたり、不利益になり得る手段を取る可能性もある。それが第1の懸念点だ。
そしてもう1つ。これを送り込んだ人間の目的についてだ。この機械は世界最高峰の人工知能だそうだ。その研究にはかなりの額の金が動いているはず。軽く億は超えていてもおかしくはない。つまり、この機械を送り込んできたのは暗殺の賞金目的だという線は考えにくい。100億程度だと赤字になる可能性も十分に考えられるからだ。
当然、地球を救うことを目的にしている可能性もあるが、俺には何か裏の目的があるような予感がしていた。
そして、1時間目。俺の懸念点の1つが現実のものとなる。
1限目の授業中に俺の左に置かれたいた黒い箱が突如武装を展開して弾幕の嵐が教室を襲った。その弾幕は授業が中断するほどのものでタコはともかく前の方に座っている連中は皆頭を抑えて机に伏せていた。
だが、多少弾幕の密度は濃かったが最初の攻撃はこの教室ではお馴染みの物量戦法だ。それが通じないのは既に証明済み。タコは弾幕を全て躱して最後の一発をチョークで弾く。
「ショットガン4門、機関銃2門。濃密な弾幕ですが、ここの生徒なら当たり前にやっていますよ。授業中の発砲は禁止です」
「気をつけます。続けて攻撃準備に入ります」
授業中の発砲は禁止。しかしそのルールはこのガラクタに通じない。もうこのガラクタの言ってることはもはや支離滅裂だ。タコの言葉の中身をまるで理解していない様子で攻撃を続けようとしている。
「ここからが本領発揮だ。彼女は自らの機能で進化する」
そのとき、教室の外でビッチと一緒に様子を見ていた烏間さんがビッチに向けて静かにこう言ったのが耳に入った。
なるほど、自ら学び進化する人工知能か……
そして、あの機械はもう一度
俺はタコの動きに集中する。正確にはあいつが
タコはさっきと同じようにチョークで弾を弾く。しかし、今回弾かれたのは弾ではなくチョークを掴んでいたタコの指だった。その衝撃で吹っ飛んだチョークが地面に落ちる。
その光景にクラスの連中は言葉を失っていた。
「……なるほど、ブラインドか」
「……何?どういうことだ?」
静かになった教室で俺がボソッと呟くと右の方から声が聞こえた。声の主は前髪で目元を隠した男子生徒……千葉だ。
「へえ、周防くんには今の見えていたんだ」
それを聞いた赤羽も楽しげな笑みを浮かべながら少し大きめな声を上げる。その声にクラス中から注目が集まった。
……こいつ、わざとだな
「どういうことか説明してもらえるかしら?」
注目が集まる中、速水に説明を急かされる。正直、めんどくさいのでお断りしたいが教室にいる全員どころか外にいる烏間さんたちからもさっさと話せという目線を向けられたので仕方なく俺が見たさっきの出来事を解説するために口を開いた。
まず、あの1回目の弾幕はタコの動きを分析するためのフェイク。あの機械の本命は2回目だ。そして2回目は
まあおそらくこいつは相手の動きや癖を見てその都度学習して確実に相手を追い詰めていくんだろうな。
「なるほどね。周防くんと同じってわけだ」
「こんなガラクタと一緒にしないでもらえるか?」
俺が説明を終えると赤羽がこんなことを言ってきたので全力で否定させてもらう。俺はこんな聞き分けの悪い機械になった覚えはない。しかし、このAIはそんな俺たちの様子はお構いなしの様子で今回の攻撃を分析していた。
「次の射撃で殺せる確率、0.001%未満。次の次の射撃で殺せる確率、0.003%未満。卒業までに殺せる確率……90%以上」
そして、この機械はそう言ってさらに武装を展開してまたしても弾幕を生成。それがこの授業の間ずっと続き、そのまま1限の授業は終了した。
……いや、授業になってすらいなかったが。
だが、俺の不安は着実に現実のものへとなっていった。
***
「周防くん頼まれていたものだ」
「ありがとうございます」
1限目の授業が終了後、俺は烏間さんから修学旅行の時に頼んでいた資料を受け取るため職員室に顔を出していた。俺の目の前には大量の資料が入っているのであろう分厚い茶封筒が差し出される。
「……周防くん。君は彼女のことどう思う?」
「彼女?あのガラクタのことですか?」
「……そうだ」
差し出された茶封筒を受け取ると、不意に烏間さんからこのようなことを聞かれた。あのガラクタについての俺の見解を求めているようだ。
あのガラクタねぇ……
俺は少し間を置いてあいつについて頭の中で情報を整理しながら言葉を探した。
「まあ一言で言うなら“警戒対象”ですね。あいつは俺たちに危険を及ぼす可能性がある」
「……どういうことだ?」
俺のこの一言で烏間さんの雰囲気が一気に変わった。表情が一気に引き締まる。俺はそのまま言葉を続けた。
「あいつはとても合理的です。どんな状況でも“1番殺せる可能性の高い選択肢”を実行する」
さっきは一緒にするなと言ったが、あいつは本質的には俺に似ていることは否定はしない。俺も相手の動きや癖を見てその都度学習して確実に勝てる可能性を高めていく戦い方をしているからだ。
だから、あいつがどんな選択をするのかもなんとなくわかる。
「仮にタコを殺しにきた殺し屋が俺たちを人質にとったとしましょう。その時、俺たちの命が危険にさらされるような選択の方がタコを殺せる可能性が高いと判断したならあいつは迷わず俺たちを見捨てます」
これは俺があいつを見た時からずっと懸念していることだ。
あいつの思考はプロの殺し屋そのもの。他の人間の命よりも任務が最優先。そこには感情などはない。だからあいつはタコを殺せる可能性が高ければ平気で俺や他の生徒の命を捨てようとするだろう。
もちろんプロの殺し屋としてはこれが正解だ。変に情に流されて任務を遂行できない者の方が“落ちこぼれ”。それは烏間さんやビッチも重々承知しているだろうし、俺もよくわかっているつもりだ。
「烏間さん。あいつの関係者に約束させてください。いついかなるときでも生徒の安全最優先で任務をするように。万が一、俺が危険だと判断したら俺はあれを破壊します」
だが、ここはそういう場所ではない。この教室の生徒はただ巻き込まれただけのカタギだ。そんな連中の身を危険に晒すのは俺は間違っていると考えている。
万が一、あいつがE組の生徒の命ごとタコを殺す手段を取るようなら俺は容赦無くあの機械を破壊するつもりだ。賠償が〜とか言われても関係ねえ。死にそうだったなら正当防衛も通用するだろう。
「……わかった。約束しよう」
俺の言葉に烏間さんも頷いた。
これですぐに危険な状況になることはないはずだ。この答えにひとまず安心した俺は教室に戻って荷物を回収する。
「あれ?周防くんどこいくの?」
「帰る。もう今日はいる意味ないだろ」
「そっか〜またね」
もう今日はどうせ授業にならないだろう。おそらく次の時間もあの機械が大量の弾幕を展開することは簡単に予想できる。だったら帰っても問題ないはずだ。
それに下手に教室に残っていると関係ない弾の掃除もさせられてめんどくさそうだしな。そう思いながら烏間さんに受け取った茶封筒を鞄の中にしまうとそのまま静かに教室を出た。
***
2日後
渚side
結局、一昨日は1日中機械仕掛けの転校生の攻撃は続いた。当然授業になるわけもなく、しかも僕らが彼女の撒き散らした弾の片付けもさせられるということで、みんな相当不満が溜まっていた。中でも周防くんは早々に見切りをつけたみたいで2日前の2時間目から学校にきていない。
そして昨日は痺れを切らした寺坂くんたちが彼女のことをガムテープでぐるぐる巻きにして彼女を動かせなくした。あの転校生は武装が展開できないと不満を言っていたけど寺坂くんたちは乱暴な口調でそれを切り捨てて、いつもだったらそんな乱暴な対応をすることを注意するであろう磯貝くんや片岡さんもこうでもしないと授業ができないということで何も言わなかった。
だけどこれでは根本的な解決になったわけではない。今日も同じようになるのかと少しだけ憂鬱な気持ちになりながら教室に入る。
するとそこには、昨日より体積が大きくなった機械の姿があった。
「あ!おはようございます!みなさん!」
教室に今までになかった明るい声が響く。昨日よりも大きくなった液晶に映されたのは無感情だった昨日とは全く違う感情豊かな美少女だった。
「「「ええええええええええええ!!」」」
あまりの変貌ぶりに僕らには衝撃が走った。
「今日は素晴らしい天気ですね!あ、殺せんせー!」
可愛く変貌した彼女の周りにクラスのみんなが集まっていると、ほとんど2日間学校をサボっていた周防くんを連れながら殺せんせーが教室へ入ってきた。
「どうですかみなさん!」
殺せんせーはそのままドヤ顔をしながら彼女にした改良点を語り出す。
「親近感を出すための全身表示液晶と身体、制服のモデリングソフト。全て自作で60万6000円……」
「……は?」
僕らは殺せんせーの言葉を聞きながら新しく改良された自律思考固定砲台さんの機械に目を向ける。
顔の部分しかなかった液晶は機械全体一杯に広がっており、全身が映されたその姿はこの学校の制服が着用されていた。
「豊かな表情と明るい会話術とそれを操る膨大なソフトと追加メモリ。同じく110万3000円」
「……」
「先生の財布の残高……5円!!」
(ここまでしろなんて誰も思ってないよ殺せんせー……)
……転校生がおかしな方向へ進化してきた
「何騙されてるんだよお前ら。これも全部、あの訳のわからないタコが作ったプログラムだろうが。愛想良くても所詮機械は機械。どうせまた空気読まずに射撃すんだろ。あのポンコツ」
すると僕らの様子を見ていた寺坂くんがこう言った。その言葉に賑やかだった教室はまた静かになる。
でも、言葉は乱暴だけど寺坂くんの気持ちはわかる。僕らも昨日までは迷惑していたから。
その時、液晶に映る女の子は僕らの様子を見てから静かに口を開いた。
「おっしゃる気持ち、分かります。寺坂さん。昨日までの私はそうでした……。ポンコツ。そう言われても返す言葉がありません……」
そう言って液晶に映る女の子は涙を浮かべて泣き出してしまった。ご丁寧に液晶の映像に映る天気も雨模様に変わっている。
「あーあ、泣かせた」
「寺坂くんが二次元の女の子泣かせちゃった」
「誤解される言い方すんじゃねえ!?」
「素敵じゃないか2次元、Dを一つ失うところから女は始まる……」
なんか竹林くんはよくわからないことを言っているけど、彼女を泣かせた寺坂くんに非難の声が集まる。まあ、寺坂くんの言葉通り知らない人が聞いたら誤解されそうなんだけど……
しばらくすると泣き止んだ自律思考固定砲台さんはもう一度笑顔になってこう言った。
「でもみなさん、ご安心を。殺せんせーに諭されて私は協調の大切さを学びました」
そして満面の笑顔を僕らに向ける。
「私のことが好きになっていただけるよう、みなさんの合意が得られるまで私単独での暗殺は控えることにしました!」
「そういうわけで仲良くしてあげてください!」
そんな彼女の言葉に続くように殺せんせーの言葉が響き渡った。
(何でもできるな、殺せんせーは。機械までちゃんと生徒にしちゃうなんて)
新しくなった彼女を見て僕は口角を少し上げながらこう思った。
……ちなみに
「でも殺せんせーよくそんなお金あったよね。前にカルマくんに全部募金されたからお金ないって言ってなかったけ?」
「ご心配なく。今月分のお給料を全額周防くんに預けて昨日増やしてもらいました。実質的な負担額は先生の今月分のお給料の額に過ぎません」
「……予算は120万と聞いていたんだがな。余裕を持って増やしてきたのに何全額使ってんだよ」
「「「金の出所お前かよ!!!」」」
この機械の改造費用は昨日学校をサボっていた周防くんがカジノで稼いできたお金だったらしい。その情報が殺せんせーの口から知らされた時教室の中には今日一番のツッコミが響き渡った。
周防くんは殺せんせーが自分の家に来ないように予定より多めに増やしたのにと不満そうな顔をして話していたけど、僕らにとってはそんなことは頭の中に入ってこなかった。あんな普通の中学生には到底出せないような金額を1日で増やすって僕らの常識を軽く上回っている。
機械の転校生と規格外の担任、そして常識外れの不良。そんな彼らとともに今日の1日が賑やかに始まった。
だけど、この転校生の問題はまだ完全に解決されたわけではなかった。
あとがき
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ようやく律が登場しました。そうはいっても今回の話では零二くんと律との絡みは全くといっていいほどないんですけどね。
零二くんは相変わらず警戒心が強いのでこの萌え箱のこともめちゃくちゃ警戒しています。まあ、ガラクタとかいいながらも律の改造には一枚噛んでいたのですが……
さて、律は殺せんせーに改造されてみなさんも良く知る表情豊かな少女へと生まれ変わりましたが、律の話はこのままでは終わりません。今はあくまで律の機能を勝手にいじっただけで根本的な解決にはなりませんからね。次回は零二くんともガッツリ絡ませながら、改造された律を見た持ち主と律の選択を描いていければと思っています。
それと、私の都合でしばらくの間は毎週火曜日の夕方に更新していこうと思っています。もし変更することがある場合はあらかじめお知らせするのでしばらくは火曜日に週一投稿ということで覚えていただければと思います。
では、次回もよろしくお願いします。
【次回予告】
せっかくの機会だ。今度は俺がこいつに疑問をぶつけることにしよう。
「お前、あいつらのことどう思ってる?」
俺がそう言うとこいつは一瞬きょとんとした顔になる。そして笑顔でこう言った
「みなさんとても素敵でいい人だと思います!迷惑をかけてしまった私にも優しくしてくれました。私はそんな皆さんともっと仲良くなりたいです!」
「……そうか。お前はあいつらを“大事”だと思っているんだな?」
「はい!みなさんは私の“大切な友達”です!」
(……“大切な”友達か)
機械の少女は満面の笑顔でこう答えた。俺はそんな彼女の顔を見つめながら問いを続けた。
「じゃあ、もしあいつら全員の命と引き換えに、あのタコを100%殺せるとしたらお前はどうする?」
次回 『律の時間』