暗殺教室 零の瞳に映るもの   作:ディーエー

3 / 5
ここから本編スタートです


第1話 はじまりの時間

 

かすかに春の匂いが残る、まだ肌寒い夜——

月が大爆発を起こし、その約七割が蒸発した。

 

この前代未聞の出来事は連日ニュースで報道され、地球への影響の心配や陰謀論が巻き起こるなど、世界中で大きな話題となった。そして爆発から半月以上が経った今もなお、朝のニュースはこの話題で持ちきりである。

 

「いい加減、他のニュースはねえのかよ」

 

代わり映えのしない朝のニュース番組を見ながら、朝食を口に運ぶ。どの局も同じ話題ばかりで、正直うんざりしていた。

 

そんなとき、家の呼び鈴が鳴った。

 

あーそういえば今日から新学期だったか。この家に訪ねてくる人間は1人しかいない。居留守を使うことも一瞬考えたが、あの人にそれは通用しないし、後々面倒になるのも目に見えている。

 

仕方なく、席を立って玄関へ向かう。

 

「はい」

 

「おはよう周防くん!元気そうでなによりだ」

 

扉を開けると、そこには胡散臭い笑顔を浮かべた男——椚ヶ丘学園理事長、浅野学峯が立っていた。

 

 

***

 

 

浅野学峯。

ハーバード大学卒の教育界の風雲児であり、この学園の理事長を務める男。表向きは生徒に分け隔てなく接する温厚な人物だが、その裏にある本性は冷酷かつ狡猾。強者を優遇し、弱者を切り捨てる徹底した合理主義の教育を行っている。

 

そんな男だが、どうにも理解できないことがある。

 

「わざわざE組(負け組)の家まで迎えにくるとか頭でも打ったんですか?」

 

「君は違うだろう?」

 

「救急車呼びますよ?」

 

「そこは警察じゃないのかい?」

 

軽口を交わしていたが、その空気がふと変わる。理事長の表情がわずかに引き締まり、いつもの軽い調子が消えた。

 

「まあ冗談はここまでだ。今日は君にも学校に行ってもらうよ」

 

「なんか面倒なことがありそうですね……」

 

「まあ君が好むようなシチュエーションではないね」

 

「はぁ……まあいいですよ。どうせ逃げられませんし、元々今日は行こうと思っていたので」

 

今日はあそこに“用事”があるからな。

 

「ほう……君から学校に行こうとは珍しい。頭でも打ったのかい?」

 

「救急車呼んでくれ、今日病欠するわ」

 

結局、理事長の車に乗せられ、E組の教室がある旧校舎まで連れてこられた。わざわざここまで同行してくる必要があるのかは分からないが、どうせサボらないと分かっていても信用はされていないらしい。

 

旧校舎の前に立つ。山の中腹に建てられたその建物は、遠目から見ても明らかに本校舎とは違う古びた雰囲気をまとっていた。

 

扉の向こうからは、賑やかな声が聞こえてくる。春休みの思い出でも語り合っているのだろう。

 

扉を開ける。

 

その瞬間——教室の空気が一変した。

 

先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返り、視線が一斉にこちらへ向けられる。ヒソヒソと話す声があちこちから聞こえてきた。

 

(……まあこうなるよな)

 

この状況は日常茶飯事だ。はっきり言ってどうでもいい。

 

自分の席に座り、時間が過ぎるのを待つ。

 

「失礼する」

 

教室のヒソヒソ声をかき消すように、低く落ち着いた声が響いた。

 

振り返ると、がっしりとした体格の男が立っている。その後ろには数人の部下のような人間、そして——

 

黄色いタコのような生命体がいた。

 

 

***

 

 

「はじめまして。私が月をやった犯人です。来年には地球もやる予定です。キミたちの担任になったので、どうぞよろしく」

 

((まず5、6箇所ツッコませろ!!!))

 

あまりにも突拍子のない自己紹介に、流石に教室の空気がざわつく。

 

「防衛省の烏間という者だ。まずここからの話は国家機密だと理解いただきたい。」

 

烏間と名乗る男が一歩前に出て、淡々と説明を始めた。

 

「単刀直入に言う。この怪物を君達に殺して欲しい!」

 

「……」

 

「……えっと、何ですか。そいつ、攻めて来た宇宙人か何かですか?」

 

「失礼な! 生まれも育ちも君達と同じ地球ですよ!」

 

(……地球だと?)

 

烏間と名乗る男は続けて、このタコのような生物について説明していく。月を爆破した犯人であること、来年には地球を爆破する予定であること、マッハ20で移動できること、これまでどの国の暗殺者も傷一つつけられなかったこと。そしてなぜか、このE組の担任になることを望んだということ。

 

そして——

 

「成功報酬は100億円」

 

「「「「ファ!!!」」」」

 

教室中が一気にどよめく。

 

「当然の額だ。コイツを殺すことは冗談抜きで地球を救う事なのだから……」

 

周囲の連中は驚いたような声を上げているが、本当に当然の額だ。むしろ安いくらいだろう。仮に失敗すれば地球が消えるような話だ。金などいくらあっても足りない。

 

「幸いなことに、コイツは君達をナメ切っている。見ろ、緑のしましまになっている時はナメている顔だ」

 

どうやら気分で顔の色が変わるらしい。

 

本当にタコみたいな奴だな。

 

「当然でしょう? 国が殺れない私を君達が殺せるわけがない。この前、最新鋭の戦闘機に襲われた時も逆に空中でワックスをかけてやりましたよ」

 

「君達にはナメているコイツのスキをあわよくば突いて欲しい。人間には無害でコイツには効く武器と弾を支給する」

 

運び込まれる武器を見ながら、思考を巡らせる。

 

(コイツにだけ有効……ね)

 

「君達の友人や家族には絶対に秘密だ。とにかく時間がない。地球が消えれば逃げる場所などどこにもない。」

 

(伝える相手がいないから安心してくれ……)

 

「そういうことです。さあ皆さん!残された一年を有意義に過ごしましょう!」

 

なるほどな。

 

理事長が無理矢理にでも連れてきた理由が分かった。

 

 

***

 

 

烏間という男の説明が終わってしばらくしてから、教室は一気に騒がしくなった。どうやらようやく話の内容を飲み込めたらしい。

 

「暗殺に成功すれば賞金100億だよ、100億! 100億円貰ったら何に使う?」

 

さっきからクラスはその話題で持ちきりだ。金の使い道だの夢だの、楽しそうに語り合っている。

 

(……お気楽だな)

 

そんな喧騒を背に、俺は席を立った。

 

「失礼します。」

 

教室を出て、先ほど説明をしていた烏間という男のもとへ向かう。

 

聞きたいことがあるからな。幸い、あのタコはいない。

 

「君は…?」

 

「はじめまして、周防零二です。先程のお話で質問があります」

 

男は一瞬だけこちらを観察するような視線を向けてから、静かに頷いた。

 

「周防くんか、答えられる範囲で答えよう」

 

「ありがとうございます。では2点ほど、まずこの暗殺依頼はあくまで任意ということでよろしいですか?」

 

そう告げると、男の目つきがわずかに鋭くなる。

 

「どういうことだい?」

 

「そのままの意味です。嫌なら暗殺に参加しなくてもよろしいですよね?」

 

「……こちらはお願いしている立場だ。君たちに強制させることはできない。だが理由を聞かせてくれないか?」

 

予想通りの反応だな。

 

「理由は2つ、1つは命のやり取りの最前線に立つリスクが大き過ぎること。烏間さん個人は信用できる人間だと感じましたが、組織として信用できるわけではない。外部の殺し屋が生徒ごと殺すように仕向けたり、組織の上の人間が強硬手段を取るかもしれない ……はっきり言って信用できません。2つ目は今の段階であのタコを殺すのは不可能です。どうせ俺が関わっても殺せないならわざわざやる意味が無いでしょう」

 

現段階ではリスクでしかない。

 

情報も足りないし、得体の知れない殺し屋と関わるのも危険だ。クラスの連中は金に釣られてやる気満々だが、将来詐欺に引っかからないか心配になるレベルだ。

 

だが、この人にも立場がある。

 

ここで完全に突っぱねれば、向こうの態度も硬化する可能性がある。敵対関係になるのは避けたい。

 

多少は譲歩する。

 

「もちろん、ここまで国家機密の情報を知ってしまった以上何もしないというわけにはいかないと思います。ですのであくまであのタコの監視をするということでどうでしょうか?もちろん他の生徒が暗殺をする際の邪魔などは絶対にやりません」

 

男は少し考える素振りを見せる。その視線は真っ直ぐにこちらを捉えたままだ。

 

「……君の言う通りリスクが大きいのも確かだ。わかった、今はヤツの監視をお願いしたい。ただ、我々は君達の安全を全力で確保する。信頼できないかもしれないが信じて欲しい」

 

その言葉で確信した。

 

この人は信用できる側の人間だ。

 

とりあえず言質は取れた。なら次だ。

 

「ありがとうございます。続いて2つ目の質問です。前担任の雪村あぐり先生はどうされましたか?」

 

これが一番確認したいことだ。

 

()()()()()()()()()()()()

 

学校をサボりがちだった俺でも、2年の3学期末まではE組の担任をしていたことは知っている。そして3年になった瞬間、あのよくわからないタコと交代になっていた。

 

じゃあ彼女はどこに行ったのか。

 

……正直、他の連中があっさり流しているのが理解できない。

 

「……申し訳ない、以前の担任の方の情報は貰っていない。ただ“退職した”と聞いている」

 

“退職”ね……

 

「わかりました。質問は以上です。お時間いただきありがとうございました」

 

聞きたいことは聞けた。

 

少なくとも、この場で得られる情報はこれ以上ないだろう。

 

「これは独り言だと思って聞いて欲しいのだが……」

 

背を向けたところで、烏間さんの声がかかる。

 

「正直、今日の話をここまで冷静に受け止めて、今後のことまで考えられる中学生がいるとは思わなかった。どこかで君の力は必要になると思う。今は我々が信用できないかもしれないが、いつか力を貸してもらえるとありがたい。」

 

その言葉に対して、特に返事はせず、そのまま旧校舎を後にした。

 




あとがき

主人公の零二くんは早速殺せんせーの暗殺をサボりはじめました。
元々サボりが原因でE組落ちになっていましたが、ここでもそれが発揮された形です。

しかし、彼には彼なりの考えがあります。
この不良のサボり魔がE組をどうかき乱すのか、今後の展開にご期待ください。

ちなみに、しばらくは週1〜2話を目安に投稿していこうと思っています

では、次回もよろしくお願いします。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。