暗殺教室 零の瞳に映るもの   作:ディーエー

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今回もよろしくお願いします。


第2話 暗殺の時間

 

渚side

 

世界中に衝撃を与えた月の爆発から数週間が過ぎた頃。春休みも終わり、今日から3年生になった僕はE組の教室に向かっていた。

 

「おはよう!」

 

「おはよう渚!久しぶり!」

 

「渚くんおはよう」

 

「おはよう前原くん、片岡さん」

 

教室に入ると、春休みの話題や一月前の大事件の話題でみんな盛り上がっていた。いつもと変わらない光景に見えるが、どこか落ち着かない空気も混じっている。

 

「あの……」

 

教室のざわめきの中、隣の席の小柄な少女が声をかけてきた。見たことのない顔だ。本校舎から落ちてきた(エンド落ち)生徒だろうか。

 

「はじめまして、“茅野カエデ”です。よろしくね!」

 

「こちらこそはじめまして、潮田渚です。渚って呼んで欲しいな」

 

「よろしくね渚!」

 

「こちらこそよろしく。茅野はどうしてE組に?」

 

「あはは…私、転校生なんだけど、ここに入るときにちょっと“問題”起こしちゃって」

 

そう言って彼女は苦笑いを浮かべた。この教室にいる生徒は皆、何かしらの事情を抱えている。きっと彼女もそうなのだろう。そう思った僕はこれ以上それ以上深くは聞かなかった。

 

 

 

《ガラガラ》

 

茅野や前原くん達との会話が盛り上がっていると教室の扉が音を立てて開いた。

 

その瞬間、それまでの喧騒が嘘のように消えた。扉の向こうにいた男子生徒が周囲を見定めるような目で教室を見渡し、そのまま一番後ろの席へと向かう。

 

「ねえ、渚。あの人だれ?」

 

雰囲気の変化を感じ取った茅野が僕にだけ聞こえるようなヒソヒソ声で彼のことを聞いてきた。

 

周防零二。E組でもひときわ目立つ存在だ。

雪村先生よりもさらに大柄な体格と、どこかすべてを見下しているような視線が特徴の男子生徒。無断欠席や警察沙汰になるほどの素行不良が原因でE組送りになった生徒であり、ここに来てからもその態度はほとんど変わっていない。

他人と関わろうとせず、結果としてクラスの中でも孤立している。

正直、今日も来ないと思っていた。

 

僕は茅野にこう説明する。

 

そして、そうこうしていると今度は強面のがっしりした男の人が入ってきた。

 

「単刀直入に言う。この怪物を君達に殺して欲しい!」

 

この一言で僕らを取り巻く環境は一変した。

 

 

***

 

 

烏間さんの説明が一通り終わり、僕は頭の中を整理していた。

 

国家機密、月を破壊した超生物、来年には地球が消滅する、そして暗殺——。

 

どれも現実感のない話だ。普通の中学生が受け止められる内容ではない。

 

「とんでもない事になったねー渚」

 

「うん。いきなり殺してほしいっていわれても……」

 

「そうだよね。それに来年の春には地球を爆破するなんて言われても正直ピンとこないよ……」

 

混乱するのも当然だった。

 

だが、その空気を一変させる要素がひとつだけあった。

 

「暗殺に成功すれば賞金100億だよ、100億! 100億円貰ったら何に使う?」

 

暗殺の成功報酬100億円。

一生遊んで暮らせる金額。さっきからクラスではその話で持ちきりだ。100億を何に使うだのと楽しそうに話し合っている。すでに将来を諦めている生徒も多いこのクラスにとってこれは天から降ってきた蜘蛛の糸のようなものだった。

 

そんな中、クラスの喧騒には目もくれずに教室を出ていく生徒が1人。

 

僕はその人物を見つめる。

彼はこのような突拍子のの無い話にも特に驚いている様子はなく、何かを考えているかのようにこの教室を出た。

 

 

***

 

 

零二side

 

黄色いタコが俺たちの担任になってから数日。俺はあの日以降、できる限り学校に通うようにしていた。旧校舎に到着し、オンボロになった時計を確認すると8時45分を指していた。

 

ちょうどいいな…

 

『き、起立、気をつけ、礼』

 

クラスの誰かが号令をすると同時に一斉に弾が放たれる。

 

一見すると躱す隙間も無いように思えた。

 

『おはようございます。発砲したままで結構ですので出欠をとります。』

 

だが、あのタコはそれをすべて回避しながら、何事もなかったかのように出欠を取り始めた。

 

(……やはり速いな)

 

動きに無駄がない。予め弾の到達点がわかっているかのように処理している。

 

『磯貝くん』

 

『はい!』

 

銃弾を撃ち込まれながら出欠を取る担任と銃を撃ち込みながら返事をする生徒。この教室がいかに異常な空間か、この様子を見て改めて思い知らされた。

 

『はい、1名を除いて全員出席!』

 

結局、彼らの放った弾丸はこのタコを捉えることはなかった。これまで毎日このような弾幕を張っているがたったの1発すら当てることはできていない。

 

出欠を終えたタコは窓の方を向いて口を開く。

 

『その1名ももう来ているようですしね。入ってきなさい周防くん』

 

どうやら窓の外で見ていることは気づいていたようだ。

呼ばれた俺は“目の前の窓”から中に入る。

 

((ドアから入れ!!!))

 

「周防くん、昨日も言いましたが、もう少し早くきて教室の中で出欠を受けるようにしましょう」

 

「ああ悪りぃ悪りぃ、ここの教室遠すぎるんだわ」

 

「何はともあれ今日も欠席者はゼロ!素晴らしい!先生とても嬉しいです。」

 

椚ヶ丘中学校3年E組。

生徒は暗殺者。ターゲットは先生。

 

ということになっている。

 

 

 

「残念ですねぇ〜、今日も命中弾ゼロです」

 

「速過ぎ……」

 

「クラス一斉射撃でもダメなのかよ……」

 

どうやらクラスの連中は今日も弾を当てることができなかったことにショックを受けているようだ。重苦しい雰囲気が教室を支配する。だがまあ……

 

——あの撃ち方では当てられないわな

 

殺気は丸出し、目線、指先の動き、銃口の向き、息遣いは単純そのもの。これでは今からそこへ撃ちますと言っているようなものだ。

 

堅気の素人相手ならこれで当たるのかもしれないが、少し戦い慣れした戦闘者なら全て躱してしまうだろう……

 

人間すら捉えることができない弾でマッハ20の怪物を捉えることができるわけがない。

 

「数に頼る戦術は思考を疎かにします。皆さんの目線や銃口の向き、指の動き一人一人が単純過ぎますね」

 

どうやらコイツも同じことを考えていたようだ。

 

「もっと工夫しましょう。でないと、マッハ20の先生は殺せませんよ」

 

タコが煽るような口調でこう言うとクラスの誰かがこう呟いた。

 

「いや……ていうかさ本当に全部避けてんのかよ」

 

「どう見てもこれただのBB弾だろ。当たってるのに我慢してるだけじゃないの?」

 

「「「そうだそうだ!」」」

 

(……なるほどな)

 

だが俺もあの弾が当たったらどうなるのか興味がある。せっかくのいい機会だ。俺も見学させてもらおう。

 

 

***

 

 

渚side

 

 

「では、弾を込めて渡しなさい」

 

銃弾があまりにも当たらないので実は当たっているけど我慢しているんじゃないかという疑惑が出た先生はこう言って弾の入った銃を受け取った。

 

「前に言ったでしょう。この弾は君たちにとっては無害ですが……」

 

《バンっ》

 

《ブチュッ》

 

次の瞬間、引き金が引かれ先生の触手が爆ぜた。

 

教室がざわめく。

 

「国が開発した対せんせー用特殊弾です。当たれば先生の細胞を豆腐のように破壊できる。もちろん数秒あれば再生しますがね。だが、君たちも目に入ると危ないので、先生を殺す以外の目的で教室内での発砲はしないように」

 

僕らはあまりの光景に呆気にとられていた。周りのみんなも心ここにあらずという感じだ。

 

「殺せるといいですねぇ……卒業までに……」

 

そんな中……

 

「さぁ片付けをしましょう」

 

この光景に驚く様子もなく、何かを考えこむように先生のことを見つめている周防くんの姿が印象的だった。

 

 

***

 

 

零二side

 

「昼休みですね。先生、ちょっと中国行って麻婆豆腐食べて来ます。もし、暗殺希望者がいれば、LINEで呼んでください」

 

大学生が空きコマに出掛けるようなノリで中国に行くと言ったタコ型新生物は俺たちのやった小テストを抱えながら目にも止まらない速度で飛び立っていった。

 

「えっと、マッハ20だから……麻婆の本場の四川省まで10分くらい……?」

 

「......あんなのミサイルでも落とせんわな」

 

「しかもあのタコ、飛行中にテストの採点までしてるんだぜ?」

 

「てかあいつ、何気に教えるの上手くない?」

 

「分かる!放課後に暗殺行った時に数学教わってさ、その次のテスト良かったもん」

 

クラスの連中がこのような会話をするが、あのタコのチートぶりにみんな引いてる……

 

「ま、でもさぁ……所詮、俺らE組だしなぁ……」

 

「頑張っても仕方ねえよな」

 

この言葉で、教室の雰囲気が暗くなる。

 

“エンドのE組”

成績不振や素行不良から不良品の烙印を押されたこのクラスの蔑称。

ここに落ちた生徒は見せしめのような扱いを受け本校舎の生徒や教員からは差別の対象になる。

 

そんな待遇から抜け出すため最初はここから這い上がろうと必死に努力をするも結局結果に結びつかなかった者も多い。その結果自己肯定感が薄れてしまい差別を受け入れてしまうのだ。

 

あれだけ頑張ってもダメだった。努力したのにできなかった。自分は“落ちこぼれ”だと。

 

(くだらないな……)

 

「おい、ちょっと付き合え。暗殺の計画進めようぜ」

 

バカそうな顔をした男子数人が水色の髪色をした“女子”に暗殺の計画を持ちかけているのを横目に俺は教室を出た。

 

 

***

 

 

椚ヶ丘中学校・旧校舎

本校舎の裏山の中腹に建てられた古い木造建築の校舎だ。山の中腹にあるので当然さらに上の方まで登ることもできる。

 

教室を出た俺は山の頂上方面に向かって移動している。獣道を走り、時には木と木や崖を飛び移りながら最短経路で山を登る。10分ほど進むと目的の場所に到着する。

 

山の頂上付近の岩場。

街の様子を一望できるこのスポットは俺のお気に入りの場所の1つだ。眺めのいい景色に加えここに来るためにはかなりの身体能力が要求されるため他に誰も来ることがないのだ。そのため、俺のサボりスポットとして重宝していた場所である。

 

「あいつにだけ有効な武器か」

 

壮大な景色を見ながら朝のことを思い浮かべた。

 

専用の弾が入った銃を撃った瞬間奴の触手が弾け飛んだこと、弾け飛んだ触手も数秒で再生すること、この弾は奴にのみ有効で人間には無害であること……

 

正直、気になることがいくつもある。

 

「……暗殺ね」

 

俺の呟きはこの広い山の中に消えた。

 

 

***

 

 

「はい、それではお題にそって短歌を作ってみましょう。ラスト七文字を『触手なりけり』で締めてください」

 

「「「は?」」」

 

昼休みが終わり午後の授業が始まったが訳の分からない課題を出されて生徒たちは困惑している。

 

「『触手なりけり』ですか?」

 

「はい、書けた人は先生の所に持って来てください。文法の正しさと触手を美しく表現できたかをチェックします。例文です、

『花さそふ、嵐の庭の、雪ならで、はえゆくものは、触手なりけり』

できた者から今日は帰ってよし!」

 

「「「えー」」」

 

「そんなの思いつかないよー」

 

意味不明なお題にブーイングが飛び交う中、手を挙げた生徒がいた。

 

「先生しつもーん!」

 

「……ん?なんですか?茅野さん」

 

「今更だけどさぁ、先生の名前なんて言うの?」 

 

「にゅ?」

 

「他の先生と区別するのに不便だよー」

 

「名前ですか……」

 

「そういえば名乗ってないね」

 

「うーん名乗るような名前はありませんねぇ。なんなら皆さんでつけてください。」

 

((つけていいんだ……))

 

「でも、今は課題に集中ですよ」

 

「はぁーい」

 

「そういえば……周防くんの姿が見当たりませんがどこにいるかわかりますか?」

 

話の話題は教室にいないもう1人の生徒の話題になった。

 

「知らなーい」

 

「あいつ2年の頃から授業サボってばっかりだったからな」

 

「帰ったんじゃない?」

 

その話題になった途端、先ほどまで明るかったクラスの雰囲気が悪くなる。

 

「なるほど……わかりました。先生は彼のことを探してきます。皆さんは課題の方を進めていてください。」

 

そう言って超生物は飛び立ってしまった。

 

「なんであいつのことを気にかけるんだろう」

 

「ほっとけばいいのに」

 

「別に帰ってこなくていいのにね」

 

 

***

 

 

「おはようございます。サボりは良くないですねぇ。周防くん」

 

昼飯を食い終わり山頂近くの木の上で昼寝をしていた俺はタコ型新生物に叩き起こされた。

 

「わざわざ俺のために授業抜け出してくるとか暇なんだな」

 

「当然です!君も大事な生徒ですから。そして今は課題を進めてもらっているので心配は無用です」

 

そう言って課題の説明を始めやがった。なんなんだよ『触手なりけり』って……

だが『これが終われば帰っていい』って言ったよな?だるいがさっさと終わらすか。

 

「そういえば、ここは眺めがいいですね。先生こんなところがあるなんて知りませんでした」

 

「そりゃ山の上なんだから当たり前だろ」

 

「かなり高い木にも登っているようでしたからね。しかしよくここまで来れましたね。校舎近くの登山道から登ったら昼休みの間には到底たどり着けないと思うのですが……」

 

このタコずいぶんカンが鋭いな……

 

「別に登山道を使わなければもっと早く来れるさ。それよりよく俺のこと見つけたな」

 

「先生は少々鼻が効くので匂いを辿ってきました」

 

鼻が効くか……少し探ってみるか

 

「それって五感が鋭いってことか?俺が見る限り授業中の暗殺の音とか全部聞こえている感じだろ?視力についても生半可な視力だとマッハ20で飛び回るなんて芸当はできないはずだ」

 

(ほう……意外やるようですね)

 

反応を見るに、どうやらビンゴみたいだな

 

「そうですね。君の考えは概ね正しいです。ですので先生の授業をサボろうなんて真似をしても無駄ですよ」

 

「なるほどな、じゃあかめはめ波みたいなのはできるのか?」

 

「うーん……かめはめ波はできませんねぇ」

 

「じゃあ螺旋丸はどうだ?呪いは見えるのか?瞬間移動は?超サイヤ人になれるんか?」

 

「にゅっ、流石に先生にも限界がありますよ!」

 

「なんだこの程度か、ガッカリだな」

 

「ガッカリしないでください!じゃあ今から一瞬で教室に移動しますよ!実質、瞬間移動です!」

 

奴がそう言った瞬間、俺は教室に移動していた。やはり速いな……

 

俺が教室に戻ると周りの連中の空気が悪くなったのを感じた。大方『なんで戻ってきた』とでも思っているんだろう。俺は別に戻るつもりはなかったからこのタコに言ってくれ。

 

 

 

一方、俺を連れ戻したコイツは桃色になりながら一息ついていた。

 

まるで一仕事終えたかのように……

 

すると、1人の生徒が立ち上がった。先ほど絡まれていた水色の髪色をした生徒だ。

 

(……コイツ殺る気だな)

 

そいつは課題を出すふりをして超生物の前に立つとそのままナイフを振りかぶった。

 

「言ったでしょう。もっと工夫を……」

 

そのナイフは止められてしまう。

 

すると、その生徒は超生物に倒れかかった。

 

——首に手榴弾をつけて

 

「マズい!」

 

奴の目的に気づき対応しようとしたその瞬間、手榴弾が爆発、対せんせー用BB弾が教室中を飛び散った。

 

「渚っ!」

 

「しゃあー!」

 

「やったぜー!」

 

爆発の白煙が充満する中、水色の髪をした生徒を心配する声と超生物を殺したと“思っている”奴らの喜びの声が教室を包む。手榴弾を仕掛けた首謀者は勝ち誇ったような声色で自らの犯行を自慢していた。

 

「寺坂、お前!」

 

「ちょっと!渚に何をしたの!?」

 

周りの連中は寺坂と呼ばれる首謀者に非難の声を浴びせている。

 

その瞬間……

 

殺気——!

 

「——!」

 

喧騒の中、尋常じゃない気配を感じた俺はとっさに上を見た。

 

そこには真っ黒な色をして明らかに怒っているのが分かる超生物が張り付いていた。普段は見せないようなおぞましい殺気を放ちながら……

 

他の連中は爆心地の様子に気を取られて気付いていない。

 

(あー、殺せなかったのね)

 

「人間が死ぬ威力じゃねえよ。俺の100億で治療費くらいは出して……あ?」

 

爆発で齎された白い煙が晴れ爆心地の様子が露わになる。

 

「……無傷だ、火傷1つ負っていないのか?」

 

渚と呼ばれた水色の髪色をした生徒は謎の膜に覆われており無傷だった。現状に理解が追いついていない生徒たちの頭の中に様々な疑問が顔を出す中、彼らの頭上から声が聞こえた。

 

「実は先生、月に一度だけ脱皮します」

 

尋常ではない程の殺気を放ちながら、やつは続ける。

 

「脱いだ皮を渚くんに被せて守りました。月1で使える奥の手です」

 

誰もが顔色を見るまでもなく察した。

 

——怒っている。

 

顔色は真っ黒、そして空気すら歪ませるような殺気を放つ超生物を見た寺坂達はその場に跪き、ガタガタと震え出す。

 

「寺坂、吉田、村松。首謀者は君たち3人だな」

 

「い、いやっ……!」

 

「渚が勝手に……」

 

その瞬間凄まじい風と共に超生物は姿を消した。

 

そして、自らが残した風が消えないうちに教室に舞い戻る。戻ってきた超生物の足元に何かが転がる。

 

表札だ。転がった表札に書かれていた名前は奇しくも寺坂、吉田、村松。3人の苗字だった。

そして大量の表札を抱えた超生物が語り出す。

 

「政府との約束ですから決して君達には危害は加えない。だが、しかし次また今のような方法で暗殺に来たら……《君達以外》には何をするかわかりませんよ。家族や友人……いや、君達以外を地球ごと消すとかね」

 

「「「——!」」」

 

教室にいる全員が息を飲む。それは明らかな脅しだ。ここにいる誰もが思ったことだろう。

例え、地球の裏でも逃げられないと。

 

「な、なんなんだよ、テメェ!いきなり来て地球爆破とか、暗殺しろとか!迷惑なんだよぉ……!迷惑な奴に迷惑な殺し方をして何が悪いんだよ!?」

 

寺坂が泣きべそをかきながら叫ぶ。するとこれまでの禍々しい殺気が消え去った。

 

「迷惑?とんでもない!君たちのアイデア自体は凄く良かった!」

 

先ほどまでとは嘘のような笑顔で顔には丸の模様が浮かんでいる。

 

「特に渚くん。キミの肉薄までの自然な体運びは100点満点です。先生は見事に隙を突かれました」

 

これについては俺もそう思う。反応が遅れたからな。

 

「ただし!寺坂くん達は渚くんを、渚くんは自分を大切にしなかった……そんな人間に暗殺する資格はありません。人に笑顔で胸を張れる暗殺をしましょう。君たち全員、それができる力を持った有能なアサシンだ。ターゲットである先生からのアドバイスです」

 

……人に笑顔で胸を張れる暗殺か、周りの連中は奴の言葉が心に響いているような顔をしている。

 

(理解できないな。どういう理屈であれ他者を殺めた時点で、そいつの手は一生消えない呪いに汚染されているんだよ……)

 

しかし、俺には奴の言葉は全くと言っていいほど響いていなかった。

 

それを他所にタコの話は続く。

 

「さて、問題です渚くん。先生は殺される気など微塵もない。皆さんと来年3月までエンジョイしてから地球を爆破です。それが嫌なら君たちはどうしますか?」

 

「……その前に先生を殺します。」

 

「ヌルフフフフ、ならば今殺ってみなさい。殺せたものから今日は帰ってよし」

 

帰りまでのハードルがバカ上がった。これじゃ一生頑張っても帰れないだろ。

 

その時、教室内で誰かが呟いた。

 

「殺せない先生かー。あ、殺せんせーは?」

 

「殺せんせー?」

 

どうやらこのタコの名前が決まったようだ……はっきり言ってどうでもいいがな。

 

話の隙にくすねたタコの抜け殻を鞄に入れ、速攻で考えた短歌を紙に書き殴り机の上に置く。

 

 

桜舞う、景色見ながら、うたた寝を、

      邪魔をするのは、触手なりけり。

周防零二

 

 

「こんなのでいいだろ……」

 

そしてこの明るい暗殺の雰囲気に耐えられなくなった俺は気配を消しながら外へ出た。

 

『短歌を書けたら帰っていい』という言質は貰っているから文句は言わせない。

 

「『自分を大切にしない殺し方をするなら、家族や友人には何をするかわからない』か」

 

残念ながら、俺には家族も友人もいないんだよ……

 

 




あとがき

ここまで読んでいただきありがとうございます。

零二くん冷めてますね。殺せんせーの言葉が彼には全くと言っていいほど響いていません。
暗殺教室という空間の外から教室の様子を冷たく見ている。それが今の零二くんの立ち位置です。

当然、そのスタンスで、他の生徒に好かれることはないわけで……

早速、孤立しつつある零二くんですが、今後、大丈夫でしょうか……

ちなみに、メインヒロイン等はすでにほぼ決めています。
ですが、今の孤立気味の状態で発表してもアレなので、追々発表しようと思います。

では、次回もよろしくお願いします。



【次回予告】

昼休みが終わるチャイムと同時に殺せんせーが戻ってきた。

「みなさん午後の授業を始めます」

結局、昼休みが終わっても周防くんは来なかった。

殺せんせーを見ながらこれまでのことを思い返す。殺せんせーは、僕ら一人一人をよく見て真剣に向き合ってくれる先生だ。この前も落ち込んでいた杉野のためにわざわざアメリカにまで行ってまで励まし、彼の才能を引き出していた。

周防くんには殺せんせーのこと、どう見えているのだろうか……


次回 『サボりの時間』

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