暗殺教室 零の瞳に映るもの   作:ディーエー

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注意

このお話では競馬の描写が入ります。一部競馬用語や法律違反の描写がございます。
可能な限り、分かるように描写をするつもりですが、わかりにくかったらごめんなさい。



第3話 サボりの時間

 

桜の花もほとんど散ってしまった頃、そろそろ見慣れてきた三日月が椚ヶ丘近くのある施設を照らしていた。

 

ここは国家の一大プロジェクトを進めていた大規模研究施設だったが、今はまるで時間そのものが止まってしまったかのように静まり返っていた。

 

1ヶ月前に起きた爆発事故のせいで、建物の壁や天井はところどころ黒く焦げ、無数の大きな穴が穿たれている。割れた窓ガラスが月明かりを歪ませながら床に散らばっており、鉄骨はねじ曲がり、柱は途中からへし折られ、床には瓦礫が無造作に積み重なっている。冷たい風が壊れた通路を抜けるたび、どこか遠くで金属がきしむ音が小さく響いた。

 

そんな廃墟のような施設の中を、ひとつの人影が動いていた。

 

人影は懐中電灯を握りしめ、慎重に足を進めていく。光の円が暗闇を切り裂き、崩れた機材や倒れた棚を浮かび上がらせた。人の気配もなく、ただ事故の爪痕だけが残っている。

 

「……ただの爆発事故ではないな」

 

人影は小さくつぶやいた。その声は静まり返った廊下に吸い込まれていく。

 

それは周囲を見回しながら、爆発の中心だった研究室へ向かって歩き出した。

1ヶ月前のあの日、ここで何が起きたのか——そしてあの日、なぜあんなことが起こったのか。

 

人影は足を止め、懐中電灯の光を暗闇へ向ける。そこには、崩れた壁と長い影しか見えなかった。

 

崩れた天井から月明かりが差し込み、その男の白く透き通った髪を照らす。そしてまるで何かに導かれるように、彼はさらに研究施設の奥へと進んでいった。

 

 

***

 

 

渚side

 

朝のホームルームが始まる時間。殺せんせーが出席簿を開き、いつものように銃弾を避けながら僕らの名前を呼んでいく。

 

「……周防くん」

 

返事はない。

 

僕は窓の外を覗いた。しかし、今日は周防くんの姿が見えない。どうやら本当に来ていないようだ。

 

クラスの何人かが苦笑いを浮かべた。またか、という空気が教室に流れる。

 

彼が学校をサボるのは、もう珍しいことではなかった。

 

 

***

 

 

零二side

 

朝のホームルームが始まる頃、俺は椚ヶ丘から離れる方向の電車に乗っていた。

 

今日は学校をサボることにしたのだ。理由はなんとなく行きたくなかったからだ。

あの教室の明るい暗殺の雰囲気が心地悪かったのか、それともここ数日の情報量が多すぎて疲れてしまったのか、とにかく気分転換をしたかった。

 

「さて、どうするか……」

 

スマホをいじりながら予定を考えていた。

 

正直、今日は目的などない。そういう日は家に引きこもるか近所のパチ屋で時間を潰すようにしているのだが、椚ヶ丘にいれば、あのタコが俺を見つけて拉致されるのが目に見えている。そのため、椚ヶ丘からは離れないといけない。当然、奴の五感についても対策済みだ。

 

「今日重賞あるのか……」

 

競馬の情報サイトを見ていると今日は重賞レースが行われることがわかった。

 

そうだな、他にやることもないし金稼ぎに行くか……

 

 

***

 

 

1時間ほど電車を乗り継ぎ目的の場所にたどり着いた。

 

関東のとある地方競馬場。今日は夜に重賞レースが行われる。

 

本来であればパチンコ屋は18歳以上でないと入店できないし、馬券も20歳未満は購入できない。だが、雪村先生を上から見下ろせるくらいには背が高い俺は実年齢より上に見られることが多い。よく言えば大人っぽい、悪く言えば老けて見られるのだ。

 

そのため、年齢確認をされたことはこれまでで一度もない。

 

まあ、警察沙汰が多すぎて椚ヶ丘周辺では目をつけられているがな……

 

こうして、レースの時間までタコの情報を整理しながら時間を潰していた。

 

 

***

 

 

渚side

 

結局、周防くんは昼休みになっても学校には現れなかった。

 

「渚どうしたの?」

 

茅野が声をかけてきた。

 

「いや、周防くん来ないなと思って……」

 

「別にあいつが授業サボってるのは今更でしょ、茅野っちは知らないかもしれないけどあいつ2年の時はほとんど学校来ていなかったんだから」

 

近くにいた岡野さんがこう答えた。こればかりは珍しいことではない。

現に2年の時はズル休みをたくさんしていたし、それが原因で彼はE組に来ることになったのだから。

 

ただ……

 

「最近はちゃんと来ていたから珍しいなって思って」

 

確かに彼はサボり癖があるが、3年生になってからこの時間まで来なかったのははじめてだ。これまでは遅刻はあっても昼休みまでには学校に来ていたから……

 

「ねぇ、私転校したばかりだからよく知らないんだけど周防くんってどんな人なの?」

 

「……根っからの屑ね」

 

岡野さんが即答する。

 

(あはは……嫌われてるなぁ……)

 

「まあずっと暴力沙汰で問題になっていたかな。2年の時に転校してきたんだけど初日から他の生徒と喧嘩したって言うし……」

 

「気に入らない生徒を体育館裏でボコボコにしてお金巻きあげたりとか、他の学校の生徒に大怪我させたりとか、駅近のカジノで喧嘩して警察に捕まったりとかしていたそうよ」

 

「え、こわ!?そもそもカジノって未成年立ち入り禁止じゃ……」

 

「そんなのお構いなしよ。パチンコ屋とか競馬場とか入り浸ってるらしいし、違法の賭博施設にも通ってるって噂もあるわ。どうせ今もギャンブルして遊んでるんでしょ」

 

「……周防くん大きいから、年齢確認とかされないんだと思うよ」

 

「「………」」

 

僕がこう言うと2人とも気まずそうな顔をして黙った。

 

この2人も背小さいからなぁ……

 

周防くん5cmでいいから僕らに身長を分けて欲しいよ。

 

すると、岡野さんはさらに厳しい顔をして口を開く。

 

「あとあいつ、ヤクザと繋がっているらしいわよ。」

 

「え、本当!?」

 

「う、うん、ヤクザの人と並んで歩いているのを見たって……」

 

この噂はこの学校の中では有名な話だ。よく、ヤクザの人と一緒にいて、暴力行為に及んでいるって。この噂も相まって、彼に近づかないようにしている生徒も多い。

 

「うわぁ……」

 

「しかもあいつの“全てを下に見るような態度と目つき”ホントにムカつく!」

 

茅野が顔を青くしてる中、岡野さんがヒートアップする。

 

「聞いてよ、茅野っち!あいつE組初日の自己紹介で何って言ったか知ってる?」

 

「……何って言ったの?」

 

恐る恐る茅野が聞く。それに対して、岡野さんはさらに怒りを滲ませながら答えを言った。

 

「『別にこいつらのことなど興味ない』って言ったのよ!お前らなんて眼中にないと言ってるような目つきで!」

 

「あれは衝撃的だったね……」

 

それを言った瞬間の空気の悪さはよく覚えてる。雪村先生も気まずそうだったし……

 

「でも、周防くん勉強は悪くはないんだよね、学年末試験はクラスの中でも上位だったし……」

 

これ以上は岡野さんの怒りが爆発しそうなので話題を変える。

 

彼はあくまで“素行不良”でE組に落とされたのだ。上位50位までは行かずとも学年の平均くらいは取れている。順位も全体の真ん中くらい。学年全体の人数187人中、彼の順位は93番前後だ。

 

特筆するような成績ではないかもしれない。でも、この成績はこのクラスでは上位なのだ。

 

「それも腹立つけどね……こっちは這い上がろうと必死にもがいてるのに、授業すら出てない奴にも敵わなかったんだから……」

 

岡野さんの声が暗くなる。ほとんどの生徒のE組に落ちた理由が学力不振だ。このクラスの多くの生徒が3桁順位である。

 

実際、僕の学年末試験の順位が163位、岡野さんの順位が178位だった。

そんな中、周防くんは80位の磯貝くん、88位の片岡さんに次いでクラス3位となる93位。

 

その事実が僕らの自己肯定感をさらに薄れさせた。E組落ちした僕らはすぐにでも本校舎に戻ろうと必死に努力した。学年上位50位以内を目指して……

その結果が、普段学校をサボっており特に努力もしていない生徒よりも下という事実。あの結果は本校舎の生徒から受けたどの差別よりも心に来た。

 

ただ、僕はこうも思う。

 

「意外と周防くんから学ばないといけないところがあるのかもしれないな……」

 

「どういうこと?」

 

「彼の要領の良さは僕らには無い武器だと思う。ただがむしゃらにやるんじゃなくて効率よくやらないと、本校舎に戻るのも暗殺も難しいんじゃないかなって思っただけだよ。なんとなくだけどね……」

 

僕がそう言うと2人はハッとした表情を浮かべた。

 

僕らはまだ彼のことをよく知らない、だけど彼の結果をただ才能という言葉で片付けているうちは殺せんせーを殺せないような気がした。

 

 

 

《キーンコーンカーンコーン》

 

昼休みが終わるチャイムと同時に殺せんせーが戻ってきた。

 

「みなさん、午後の授業を始めます」

 

結局、昼休みが終わっても周防くんは来なかった。

 

殺せんせーを見ながらこれまでのことを思い返す。殺せんせーは、僕ら一人一人をよく見て真剣に向き合ってくれる先生だ。この前も落ち込んでいた杉野のためにわざわざアメリカにまで行ってまで励まし、彼の才能を引き出していた。

 

周防くんには殺せんせーのこと、どう見えているのだろうか……

 

きっと殺せんせーは休み時間の間周防くんのことをずっと探していたのだろう、先生はとても熱心な先生だから……

 

「あ……」

 

この時、僕はとんでもないことに気づいた。

 

彼は今日一日、殺せんせーに追われながら逃げ切ったということになる。

 

(マッハ20の怪物からいったいどうやって……)

 

もしかすると僕らの知らない殺せんせーの弱点を知っているのかもしれないな。

 

「いつかお話できるといいな……」

 

教室の一番後ろにある誰も座っていない席を見ながらこう呟いた。

 

 

***

 

 

零二side

 

ここで問題だ。ギャンブルで勝つにはどうすれば良いだろうか?

 

答えは“絶対に勝てる場所で勝負すればいい”だ

 

絶対に勝てるギャンブルは存在しないって?確かに勝率100%は不可能だ。ただその確率を100%に近づけることはできる。

 

ギャンブルで負ける奴は大きく2パターンある。

見境なく勝負する奴と期待値が低い場面で勝負する奴だ。

これらの点で共通しているのは負ける可能性が高い場面で勝負をしているということだ。

 

ならどうするか……

 

勝てる可能性が高い場面で勝負すればいい。そのために勝てる可能性を上げる作業をする。

 

これはギャンブルに限らない、勉強やスポーツにおいても同じことが言える。

 

例えば暗殺も……

 

 

 

日も沈んで空が暗くなった頃、関東のある地方競馬場でレース前の馬の様子を見ていた。

 

(13番……動きにおかしいところはない……体調は問題なさそうだ)

 

俺が本命にする予定の馬の動きを見てアクシデントがないことを確信し、馬券を購入する。

 

今日行われるレースは地方競馬と中央競馬の馬が一緒に走る交流重賞競走だ。

このようなレースの特徴として、

 

・紛れが少なく堅く決まりやすい

・ある程度、出走メンバーが固定化される

 

というものがある。

 

すなわち、参考になる材料が多く当てやすいということだ。

つまりこのレースは勝てる可能性が高いということ、稼ぎどころのレースだ。

 

こういう場面で大きく勝負する。それが俺のやり方だ。大事なのは勝負どころでは大胆に、ただし大胆に行くところはしっかり見極めること。

 

『先頭13番ショウナンナデシコ!圧勝!2着は10番サルサディオーネ!3着2番レーヌブランシュ!』

 

レースが終わった。結果は完璧に的中だ。

 

「結構戻ってきたな。帰りは特急乗るか。飯も豪華なの食べに行こう」

 

払い戻しの札束を見てわずかに表情が緩む。金が増えたこともそうだが自分の読みが的中したこと、それが一番面白く感じる。この読み合いがギャンブルの醍醐味だ。

 

 

***

 

 

「いい気分転換になったな」

 

帰りの電車に乗った俺は昼間にまとめたメモ書きと“1枚の写真”を眺めていた。

 

殺せんせー。

突如、俺たちの担任兼暗殺対象になったタコ型超生物。その生態は謎に包まれている。

 

「とりあえず方針は決まった。あとは……」

 

そんな呟きは車両の振動音にかき消された……

 




あとがき

ここまで読んでいただきありがとうございます。

まず、ご感想を送ってくださった方、本当にありがとうございます。多忙で返信できてませんが、全部読ませていただいてます。時間がある時に返信できたらと思います。

競馬シーンの元ネタは2022年のマリーンカップというレースです。また、今作の時間軸はコロナが無かった世界線の2022年に設定しています。

それと、パチンコは18歳、馬券などは20歳になってから購入するようにしましょう。
これはフィクションだということを忘れずに……

しばらくの間は零二くんとE組の他の生徒がお互いに積極的に絡むことがないため野球回は泣く泣くカットになりました。杉野ごめん。

多分、何個かカットされる話があるので先に謝っておきます。ごめんなさい。

さて、今回は普段サボっている時の零二くんの様子と、4月時点でE組生徒たちが零二くんのことをどう思っているのかを描きました。

まず、普段の零二くんですが、こうやって学校をサボってはギャンブルに興じているクズ人間です。岡野さんが「どうせ今もギャンブルしてるんでしょ」と言ってましたが、大正解です。
ただ、見境なく勝負するというわけではなく、ちゃんと見極めて勝負して、しっかりお金を増やしているのが彼の特徴です。そこら辺のギャンブル中毒者と同じというわけではありません。

そして、E組生徒たちの印象ですが……。まあ、よくないですよね。
最初の自己紹介や、改善されない生活態度、数々の悪い噂、暗殺にも消極的……
クズと呼ばれても仕方ありません。

そんな零二くんですが、ついに事件を起こします。

では、次回もよろしくお願いします。



【次回予告】

「待て周防、まだ話は終わってないぞ」

それを見た磯貝くんが彼を止める。

「これ以上は時間の無駄だ。俺は降りさせてもらう」

「待ちなさい周防くん、あなたもE組の生徒なのよ。決して無関係な話ではないわ」

メグが止めるとあいつは“下に見るような目”で私たちを見回した。
そして、一息ついてからこう言った

「ちょうどいい機会だから言っておく、()()()()()()()()()()。これは国……防衛省の人間から許可をもらっていることだ」


次回 『分断の時間』
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