月の爆発からもう1ヶ月も経つというのに今朝のニュースもこの話題で持ちきりである。
「相変わらず変わらねえな」
こうして代わり映えのない朝のニュース番組を見ながら朝飯を平らげていると家の呼び鈴が音を鳴らした。
この家に訪問してくる
「はい」
「おはようございます周防くん!元気そうでなによりです。」
扉を開けると黄色いタコ型の超生物が立っていた。
《バタン!》
『ニュヤッ!開けてください周防くん!怪しいものじゃありません!先生ですよ!』
「いや……なんでいるの?」
こわい、普通にこわい。
「昨日、周防くんが学校に来なかったから事故にでも巻き込まれたんじゃないかと心配で心配で……先生迎えにきたんです」
「………」
シクシクと泣きながらタコはこう呟く。
(マジかこいつ……めんどくさっ)
わざわざここまでするか?
「この様子だと朝ごはんはもう食べ終わったようですね。さあ!学校にいきましょう!」
(えー、めんどくさい)
正直、行きたくない。だが、こいつは無理矢理にでも着替えさせて連れていくだろう……
こうなってしまったら逃げることは不可能だ
「はぁ……わかったわかった。着替えたら行くから、先学校行っててくれ」
「いや、先生も手伝います!私にかかれば着替えも移動も一瞬ですよ!」
「移動は任せるからせめて着替えだけは1人でやらせろ、バカ!」
「分かりました。先生はここで待ってます。」
「……いや、お前国家機密だろ……中入れよ……」
なんで朝からこんなに疲れるんだ……
***
10分後。
「どうやら用意ができたようですね!さあ!行きますよ!」
《ビュン!》
「着きました」
準備が終わると一瞬で学校に連れてこられた。
「ところで、昨日君の家に伺った時も思いましたが、ご両親はいないのですか?」
「ああ、今は一人暮らしだ。よかったな俺に
「にゃっ!確かに……失念していました」
……やっぱこいつ昨日も来てたのか
「中学生で一人暮らしとは珍しい。お金とかは大丈夫なんですか?」
「金はまあ問題ないねえよ、今のところはな」
「なるほど!一人暮らしにしては大きいお家だと思いました。結構裕福なご家庭なんですね」
「……今の家は俺を育ててくれた人が昔使っていたところだ。生活費の方はその人から譲り受けたもので賄っている。現状1人で暮らす分には問題ない」
そう、
「……そうですか。もし何かあれば言ってくださいね!」
「仮に何かあったとしても地球がなくなるよりはマシだろうがよ……」
そう言って俺はまだ誰もいない教室に入った。
***
渚side
朝のホームルームが始まる時間。
殺せんせーが出席簿を開き、いつものように銃弾を避けながら僕らの名前を呼んでいく。
「……周防くん」
返事はない。どうやら彼は今日も来ていないようだ……
「にゃ!周防くん!返事をしてください!今日は君を連れてきたはずです!」
「あっ、悪りぃ悪りぃ、どっかの誰かのせいで朝から疲れてたもんでな」
「え?」
周防くんの声に反応するように彼の席の方を見ると、銃を撃たずに座っている周防くんの姿があった。その姿に僕らは驚く。彼がいたことに全く気がつかなかった。
「いるなら返事をしてください!次、菅谷くん!」
その後もいつも通りみんなの名前が呼ばれて行った。今日も殺せんせーは僕らの弾幕をいとも簡単に躱していく。
その様子を目を見開きながらじっと見ている周防くんの姿が印象的だった。
***
零二side
「今日は全員いますね!素晴らしい!先生感激です!」
結局、今日も命中はゼロ、まあそう簡単には当たらないだろう。
「それでは皆さんで片付けをしましょう。先生は1時間目の準備をしてきます。」
そう言ってあいつは教室から出て行った。
しかし、予想はしていたが教室だとあいつはフルスピードは出せないようだった。
今日の動きも速いは速いがとてもマッハ20のスピードではない。完全にではないが動きを目で追えるくらいのスピードであった。
やはり教室ではこれくらいのスピードが限界なのか?
もちろんこれくらいの速さでもかわせるだけなのかもしれないが、この教室内では最高性能を出すことは難しいのだろうな……
問題は——っ!
「——!」
何者かの気配を近くに感じ取った俺は一気に警戒モードに入る。気配の方向を見ると女子にしては長身で髪を後ろで1つにまとめている女子と、ショートカットで小学生くらいの背丈の女子が不満そうな顔をして俺の前に立っていた。
「……何か用か?」
「周防くん、どうして弾の片付けを手伝わないの?」
「どうして?何故、お前らが撃った弾を俺が片付けなければならないんだ?」
「それどういう意味よ!!」
小さい方が怒鳴りだす。
「そのままの意味だ。俺は一発も弾を撃っていない。何故お前らの尻拭いを手伝う必要がある?」
「撃ってないかなんてわからないじゃない!」
「嘘だと思うならあそこにいる水色の髪をした女にでも聞いてみるんだな。こっちをチラチラ見ていたあいつなら分かるだろうよ」
向こうの方で「僕は男だ」みたいな声が聞こえたが気にしない。
「仮にそうだったとしても、周防くんも
「何を言っているのか理解できないな。言いたいことはこれだけか?だったらさっさと1限の準備でもするんだな。便所行ってくるわ」
「キ——!」
こう言って話を終わらせようと立ち上がった瞬間、小さい方が俺の顔を引っ掻きにかかってきたのでそれを躱す。
「やめとけよ、そろそろあいつ戻ってくるぞ」
教室にいると面倒だ。1限が始まるまで外で時間を潰すことにしよう。
***
岡野side
「あいつ、マジで頭に来る!」
「おい、落ち着けって」
周防がいなくなった後、私は怒りが治らずにいた。
周防零二。
無断欠席の常習犯でE組1番の問題児。月に3回は警察沙汰になるほどの問題を起こす学校1の不良。他の生徒を脅し、他人から巻き上げたお金をギャンブルに注ぎ込んでいる最低の人間よ。
なにより腹立つのがあいつの目つき、私たちを見るときの“ゴミを見るかような”目つき。
——あいつは私たちを下に見てる
初顔合わせの時、あいつは言った『私たちのことなど興味がない』と。
学年末試験の時、クラス上位の成績でもあいつの表情は変わらなかった。『当然だ』と言わんばかりに。
クラス一斉射撃が失敗した時の『私たちじゃうまくいくわけがない』というような侮蔑の視線。私たちが地球を救うために頑張っているのをまるで嘲笑うかのような態度。
そして、さっきのメグに対するまるで“ゴミを見る”かのような視線
正直、私に対してこの態度なのはまだいい。私の成績が悪いのは事実だし、それは私が悪いのだから。
ただ、メグを、私の大切な友達を、大切な仲間達をバカにされるのは許せなかった。
「……っ」
悔しくて涙が溢れる。なによりあいつに対して何も言い返せなかった私の無力さが悔しかった。
「ひなた……」
「ただ、一度クラス全体で暗殺に対しての認識を統一する必要はあると思う」
「どういうことだ?磯貝?」
「現状、このクラスの中でも暗殺に対するモチベーションに差がありすぎる。周防は論外だが、寺坂たちなど俺たちほどモチベーションが高くない奴もいるのは事実だ。相手は世界中のどの軍隊や暗殺者が殺せなかった超生物だ。俺たちがバラバラでかかったところで勝ち目はない」
確かにそうだ。朝のホームルームに時間以外は各々がバラバラに暗殺を仕掛けている状況。ただの中学生の私たちが、そんなやり方をしてもうまくいくわけがない。
「今日の昼休みクラス全員で話し合おう。もちろん周防も入れてだ」
このタイミングで予鈴が鳴った。私は流した涙を隠すように拭き取り、殺せんせーの授業を聞いた。
***
昼休みになり、殺せんせーが教室から出て行ったのを確認した磯貝くんが前に出る。
「みんな、待ってくれ。暗殺についての話をしたい。少し時間をくれないか」
私は教室の一番後ろに座っている周防の様子を見ていた。あいつは何かを“見定めるような目線”で大人しく座っていた。
「俺がこの話をもってきた理由は、暗殺に対してこのクラスで意思統一をしたいと思ったからだ。現状は出欠の時を除いて各々が暗殺を行なっている状態、しかもモチベーションはバラバラだ。この状態では殺せんせーは殺せないと思う。もっとみんなで団結する必要があるんじゃないか?」
磯貝くんの話をみんな黙って聞いていた。意外にも周防もまるで感心したような目つきで真剣な表情だった。
「もちろんクラスの中にはいきなり『暗殺しろ』などと言われて混乱している人もいるかもしれない。そのうえで俺の話を聞いてほしい……」
磯貝くんが一息つく、
「みんな生きたくないのか?」
「磯貝くんどういうこと?」
「いいか?3月までに殺せんせーを殺せなければ地球がなくなるんだぞ。つまり俺たちの命もあと1年だ。俺はそんなの絶対に嫌だ。まだやり残したことがある。俺は死にたくない」
「確かにそうだ……」
「私だって死にたくない……」
そうだ私だって死にたくない。この気持ちはクラス全員一緒のはずだ。
「今世界を救うチャンスがあるのは俺たちしかいない。考えてみろ、俺たちが暗殺に成功したら世界の救世主になれるんだぞ?エンドのE組と蔑まれてきた俺たちがだ。しかも報酬は100億だ。これを成功させれば
そう磯貝くんは力強く語る。
「そうだ!やってやろうぜ!」
「クラス一丸になって頑張りましょう!」
徐々に賛同の声が大きくなる。
しかし、周防の目線は真剣なものから諦めに近いものへと変わっていた。
***
零二side
昼休み、顔が整ったクラスの委員長らしき男子生徒が教壇で熱弁しているのをクラス全員が聞いていた。
正直、感心した。これほどのカリスマ性を持っているとは思わなかったからだ。
ただ、
「これを成功させれば
“人生逆転”
この言葉に賛同するこのクラスの雰囲気。
(……これはダメだな)
こいつらは何も見えていない。今のこいつらがあのタコを殺せる可能性は0%だ。
まさに負け犬根性極まれりってやつだ。
これ以上は話を聞く意味もないと判断した俺は席から立ち上がった。
***
岡野side
周防が席から立ち上がる。
「待て周防、まだ話は終わってないぞ」
それを見た磯貝くんが彼を止める。
「これ以上は時間の無駄だ。俺は降りさせてもらう」
「待ちなさい周防くん、あなたもE組の生徒なのよ。決して無関係な話ではないわ」
メグが止めるとあいつは“下に見るような目”で私たちを見回した。
そして、一息ついてからこう言った
「ちょうどいい機会だから言っておく、
「「「え?」」」
「「「嘘でしょ?」」」
「それ、どういうこと?」
思わず聞き返す。
「そのままの意味だ。証拠もある《ピッ》」
そう言って周防はボイスレコーダーの音声を流す。
『そのままの意味です。暗殺に参加しなくてもよろしいですよね?』
『……こちらはお願いしている立場だ。君たちに強制させることはできない。』
それは烏間さんに暗殺拒否を宣言している周防音声だった。
「確かに強制ではないって言ってるけど……」
「だが、このままだと死ぬんだぞ!生きたくないのか?」
磯貝くんのこの問いにあいつは心底どうでも良さそうな表情でこう答えたんだ。
「知らないな」
「「「——っ!」」」
クラスのみんなが息を飲む。
「別にお前らの邪魔をしたいと言ってるわけではない。好きにやってると良いさ。だが、お前らの事情に俺を巻き込むな」
私たちを馬鹿にするような表情であいつはこう言った。
「どういうことよ!?」
「お前らの暗殺ごっこに付き合っている時間が無駄だと言っているんだ」
もう我慢できなかった。私はあいつに掴みかかる。しかし、あいつは表情を変えることなくそれを躱した。
「それって私たちの暗殺が失敗するって言いたいの?『うまくいくわけない』って言いたいの?」
「ああそうだ。今のお前らじゃ奴を殺すことは不可能だ。天変地異が起きようとありえない。仮に俺が参加したところでそれは変わらない。まさに時間の無駄だ」
「……っ」
視界が滲んで涙が溢れる。悔しい。こんなやつにバカにされるのが。本校舎のやつにバカにされるより何倍も悔しい。
「それは、私たちが“エンドのE組”だから?落ちこぼれだから?落ちこぼれの私たちじゃ何をやっても無駄って言いたいの!?」
「そうだ、“エンドのE組”という立場に甘えて現状を直視せず、夢物語に逃げる。今の自分の状況を客観的に見ることもできない。そんな今のお前達は、何をやっても無駄だろう」
周防は淡々とこう言った。あいつの言葉にクラスのみんなが下を向く。『何をやっても無駄』その言葉が心に木霊する。
「もういいか?暗殺やりたければ勝手にやっててくれ、しょーもないことに俺を巻き込むな」
そう言って周防は教室から出て行った。
***
「……っ、グス」
「……ひなたちゃん、大丈夫?」
「……グスっ……ありがとう……ごめん」
「すまん……岡野、俺のせいで……」
磯貝くんが謝った。彼は悪くないのに……それが何よりも辛い。
「でもそうするんだよ。あいつのせいで結局クラスはバラバラだぞ」
「そうかしら?」
「——?」
「周防くん以外の人達には、磯貝くんの声は届いていたと思うわよ。」
周りを見ると多くの生徒が集まっていた。
「そうだよ磯貝!救世主になってやろうぜ!」
「100億ゲットしてあいつの悔しそうな顔を拝んでやろうよ!」
「岡野を泣かせたあいつをこらしめてやるぞ!」
「100億で人生逆転だ!」
「お前たち……」
磯貝くんの話は無駄ではなかった。あいつには届かなかったけど他の人にはしっかり届いていたんだ。
「あいつはもう私たちに関わらないらしいし、私たちだけで頑張りましょう!」
「よし!俺たちで地球を救って必ず100億を手に入れるんだ!必ず暗殺を成功させるぞ!」
「「「おう!」」」
1つになった仲間たちの声が教室中に響き渡った。
あとがき
ここまで読んでいただきありがとうございます。
零二くんみんなに嫌われてますねー
岡野さんを2回も泣かせたのだからしょうがない……
今回で零二くんとE組には完全に溝ができてしまいました。
大前提として零二くんがクズなことが原因なのですが、完全に零二くんの発言が間違っているとも言えません。言葉は悪いですが、零二くんの発言は意外と的を得ています。
さて、今回で修復が難しいくらいの溝が広がってしまいました。もともと零二くんは周りと積極的に絡むことはないですし、E組メンバーも彼に絡みに行く人はほとんどいないでしょう。割と絶望的ですが果たして今後どうなるのでしょうか?
ちなみに、こんな殺伐とした雰囲気ですが、ちゃんとヒロインはいますし、追々ちゃんとイチャつかせる予定ですので、気長に待っていただけますと幸いです。
では、次回もよろしくお願いします。
【次回予告】
「それにだ。あいつらは暗殺を頑張るあまり、他の努力を放棄している。
自分で制御できないような大きな力は本当の力ではない。それは自分自身や自分の周りを破滅に追い込む猛毒だ。使い方を誤れば取り返しがつかないことになる。そう……
——これは俺の懺悔だ。過去に犯した俺の罪への
次回 『弱点の時間』