暗殺教室 零の瞳に映るもの   作:ディーエー

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第7話 カルマの時間

 

5時間目 体育の時間

 

俺は校庭横の木の上から体育の授業の様子を見ていた。烏間さんが磯貝と前原の2人を圧倒している。今のこの教室で2トップの2人を圧倒する烏間さんに誰もが言葉を失っていた。

 

「さすがだな」

 

他の連中は呆気にとられているようだが当然だろう。あの人は特殊部隊のトップだった人だ。これ以上の修羅場を何度も潜っているはず。中坊2人のナイフを躱すなど赤子の手をひねるよりも簡単だろう。

 

「……」

 

そして俺は、烏間さんの無駄のない洗練された動きを瞬きすることなく観察していた。

 

「……」

 

しばらく授業の様子を見ていると、俺の真下から気配を感じた。下を見ると、これまでE組に姿を見せていなかった赤髪の少年が校庭の様子を見ていた。

 

(うーわ、まじか……コイツいるのかよ)

 

赤羽業。

成績優秀だが度重なる暴力行為で教師から目をつけられていた問題児。お互いに不良として認識していることもあり何かと絡んでくる面倒なやつだ。礼儀知らずで俺の知り合いにも失礼な態度をとるから本当に勘弁してほしい。

 

こいつに絡まれると面倒だ。気配を消して見つからないようにしよう。俺はそう思いながら体育の授業の様子をただ眺めていた。

 

 

***

 

 

渚side

 

「6時間目小テストかー……」

 

「体育で終わって欲しかったね……」

 

体育の授業(烏間先生の訓練)が終わり教室に向かって歩いていると、石階段の上から校庭を見下ろす人影があった。

 

「やあ渚くん、久しぶり」

 

「……カルマくん帰ってきたんだ」

 

カルマくん停学昨日までだったんだ。

 

「へぇ……あれが噂の殺せんせー?すっげほんとにタコみたいじゃん」

 

カルマくんは殺せんせーの姿を見つけると、興味津々の様子で殺せんせーに近いていく。

 

「赤羽業くんですね、今日から停学明けと聞いていましたが、初日から遅刻はいけませんね」

 

「アハハハハ……生活のリズム戻らなくて……気安く下の名前でカルマって呼んでよ。とりあえずよろしく先生」

 

そう言ってカルマくんは握手を求めるように手を差し出した。殺せんせーもそれに応じる。

 

だが、

 

「こちらこそ楽しい1年にしていきましょう《バンッ》——!」

 

「「「——!」」」

 

カルマくんと握手した瞬間殺せんせーの触手が爆ぜた。カルマくんが破壊したんだ。その光景にみんなが絶句する。

 

「へぇ……ほんとに速いし、ほんとに効くんだ。このナイフ。細かく切って貼っつけてみたんだけど」

 

(はじめてだ。殺せんせーにダメージを与えた人……)

 

僕たちは、その光景に戦慄していた。これまで殺せんせーにダメージを与えた人は世界で誰1人もいなかったのだから……

 

「けどさー先生。こんな単純な手に引っかかって、しかもそんなところまで飛び退くなんてビビり過ぎじゃね?殺せないから殺せんせーって聞いてたけど……」

 

「ムゥ……」

 

「あーれ?せんせーもしかしてちょろい人?」

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ……!」

 

カルマくんに煽られた殺せんせーの顔色が怒りの色に染まっていく。僕たちはその様子を見ていることしかできなかった。

 

「渚―。カルマくんってどんな人なの?」

 

その時、まだこの学校に来たばかりの茅野からカルマくんについて聞かれる

 

赤羽業。

僕とは1年2年で同じクラスだった赤髪が特徴の男子生徒。成績は学年トップクラスだけど、2年の時続けざまに暴力沙汰で停学を食らいE組に落とされたようだ。

 

「——このE組にはこういう生徒も落とされるからね」

 

「ふーん、周防くんみたいな感じってこと?」

 

「……まあそうだね」

 

そう、カルマくんは周防くんとほぼ同じだ。周防くんも成績は学年平均レベル、カルマくんと違って特段目立つ成績ではないけど、E組に落ちるほどの悪い成績でもない。

 

でも、カルマくんは今この場じゃ優等生かもしれない。

 

「ん?どう言うこと?」

 

「凶器とか騙し討ちなら多分カルマくんが群を抜いてる」

 

現状周防くんが暗殺に参加していない今。この教室でカルマくんの右に出るものはいないだろう……

 

 

***

 

 

零二side

 

体育の授業が終わったので一足先に教室に戻る。めんどいやつもいたからな。絡まれないように気配をいつもと変えて寝るとしよう。

 

「あれ?周防くんじゃん。いつもと気配が違うからわからなかった!体育でてなかったけど、サボり?」

 

「あ゛?」

 

だが、俺の計画は隣の席に座った男により呆気なく失敗に終わった。コイツ隣かよ……

 

すると、赤羽はニヤニヤした笑みを浮かべて俺に話しかけにくる。

 

「あーそういえば周防くん、暗殺やらないって言ったらしいね。聞いたよ?岡野さんのこと泣かせたって、いやー、俺そういうのよくないと思うなー」

 

またその話か。何度も言うが、俺は間違ったことを言っていたとは思っていない。岡野が勝手に泣きだしただけだ。

 

あれ以降、岡野は俺に敵意を孕んだ視線を向けてくるし、タコには定期的に謝るように言われるから鬱陶しい。

 

「知らねえよ。あいつが勝手に泣いただけだ。奴のジェラート勝手に持ち出したお前が言えたことじゃないだろ」

 

「あ、気づいた?周防くんも食べる?」

 

そう言って余ったジェラートを渡してくる。

 

「せっかくだしな、いただこう」

 

せっかくなので赤羽からもらったジェラートを食べる。うん、うまい

 

「あれ?周防くんもう食べちゃうんだ?殺せんせーの前で食べた方が面白くない?」

 

「早く食べないと溶けるだろ?俺はあいつにあんま目をつけられたくない」

 

「アハハ、もう十分つけられてると思うよ」

 

それは流石に勘弁してもらいたい。俺はあまり目立ちたくないからな。

 

「ところで周防くん、さっきの俺と殺せんせーのやつ見てたでしょ?どう?あいつ殺せると思う?」

 

するとさっきまでの薄ら笑いが嘘のようになくなり、真剣な表情でこんなことを言い出した。

 

「なぜ俺に聞く?近くにいた連中に聞けばいいだろ?」

 

「いやー、この中で()()()()の周防くんじゃん?だったら君の意見が一番参考になるでしょ?」

 

「……俺は別に強くない」

 

「まあまあ、意見聞きたいだけだからさ」

 

めんどくさいので答えたくはなかったが、コイツ引き下がる気はなさそうだ。

 

「はぁ……ちなみに殺すっていうのは“どういう意味”でだ?命を奪うという意味か?それともお前の中での死か?社会的に……はもう死んでるか」

 

なら、これ以上絡まれるのはだるいから答えてやることにする。

 

「へえ……さすがだねー周防くん。俺の聞きたいことをちゃんとわかってる。じゃあ、両方お願いしようかな」

 

赤羽がこう告げると、俺は一息吐いてから、赤羽に目を合わせる。

 

「前者については()()無理だ。お前が最初にダメージを与えたタイミングで殺せなかった時点でゲームオーバーだ。鉄虎(てとら)さんもよく言ってるだろ。『不意打ちするなら一撃必殺で』ってな?後者の方は知らん。お前のさじ加減次第だしな。ただ、本校舎の連中よりは手強いと思うぞ」

 

俺の見解を述べると赤羽は一瞬ムッとした表情になった後、いつもの薄ら笑いを浮かべてこう言った。

 

「あちゃー。やっぱり難しいか。でも、まあ見ててよ俺が殺してやるから」

 

「俺は関わらないからな、せいぜい頑張れ」

 

俺は暗殺にはしばらく関わるつもりがないし、どうでもいいから勝手にやってて欲しい。

 

「えーそんなこと言わないでさ。そうだ、明日朝市行こうよ。新鮮なタコを買ってあいつをおちょくってやるんだ」

 

「いやだ、行かない」

 

「そっかー、なら鉄虎(てとら)おじさんに連れて行ってもらおうかな。あの人、金持ってるし」

 

「あの人まだ24だぞ。おじさんとか言ったら殺されるぞ。それとお前、さっきから俺らに金出させようとしているな?」

 

「アハハ、バレた?」

 

「バレバレだ。とりあえず俺は暗殺には関わらない。巻き込んでくんな」

 

そう言って隣の赤羽のことはあしらった。あーマジで疲れた。これからコイツの隣だと思うと先が思いやられる……

 

ちなみにさっきから出てきた鉄虎(てとら)さんは俺の知り合いだ。この人についてはいずれ紹介することになると思う。

 

 

***

 

 

渚side

 

《ぺちん、ぺちん、ぺちん、ぺちん》

 

「「「………」」」

 

「さっきから何やってんだ殺せんせー」

 

「……壁パンじゃない?」

 

「あーさっきカルマにおちょくられてむかついてるのか」

 

「触手が柔らかいから壁にダメージ伝わってないな……」

 

6時間目。僕たちは小テストをしている中、カルマくんにコケにされた殺せんせーはわかりやすく落ち込みながら壁を殴っていた。落ち込むのはわかるけど、テスト中にこれやられると集中できないからやめて欲しい

 

「ぬあー、もう!ブニョンブニョンうるさいよ!小テスト中でしょ!!」

 

「こ、これは失礼」

 

ここで我慢できなくなった岡野さんがキレる。僕も同じことを思っていた。そんな中、寺坂くんたち3人組がカルマくんを煽っている。

 

「よおカルマ、大丈夫か?あの化け物怒らせちまってよ?」

 

「どうなっても知らねーぞ」

 

「またお家にこもっていた方がいいんじゃなーい?」

 

「フッ……殺されかけたら怒るの当たり前じゃん寺坂、しくじってちびっちゃった誰かさんの時と違ってさ」

 

寺坂くんが机を叩いて怒鳴る。

 

「ちびってねえよ!てめえ喧嘩売ってんのか!?」

 

「こらそこ!テスト中に大きな音立てない!カンニングとみなされますよ!!」

 

殺せんせーは騒いでいた彼らのことを叱る。でもさ、それ殺せんせーが言えることかな……

 

「その言葉、そっくりお前に返すわタコ」

 

流石に我慢できなかったのか珍しく周防くんがツッコミを入れた。

 

(((は、はじめて周防(くん)と意見合った……)))

 

「ごめんごめん、殺せんせー。俺もう終わったからさ、ジェラート食って静かにしてるわ」

 

そう言ってカルマくんはジェラートを食べ始める。小テスト中なのにめちゃくちゃだ。

 

「ダメですよ!授業中にそんなもの——ん?」

 

殺せんせーがカルマくんの持つジェラートをよく見る。

 

すると、殺せんせーは叫びだした。

 

「そ、それは……昨日先生がイタリア行って買ったやつ!」

 

(((お前のかよ……)))

 

「あ、ごめーん。職員室で冷やしてあったからさあー」

 

「まあいいです。先生ジェラートは2つ買ったので、もう1個の方はどこですか?」

 

だけど、ジェラートはもう1個あったようで、表情が戻った。

 

だが、

 

「あーそれ?余ってたから、さっき隣の席の周防くんにあげちゃった」

 

「ぬあー!本当ですか周防くん!」

 

「あー確かにもらったが、あれ、あんたのだったのか。悪いな」

 

(((お前も食ったのかよ!!!)))

 

そのもう1個はカルマくんの隣の席に座るもう1人の不良の手に渡っていた。

 

殺せんせーの表情は見る見るうちに変わる。

 

「『悪いな』じゃないですよ!溶けないように苦労して寒い成層圏を飛んできたのに!!」

 

殺せんせーはキレているだけど、周防くんたちの表情は変わらない。

 

「やかましいな。テスト中に大きな音を立てるなよ。みんなの邪魔になるだろ?」

 

さっきの殺せんせーの言葉をそのまま周防くんが返した。

 

(((みんなの邪魔って……お前が言うな!!!)))

 

カルマくんと周防くん、この2人の相性は意外と良さそうだった。その事実にクラスのみんなは頭を抱える。悪魔のような不良コンビの誕生に今後が思いやられた……

 

「へぇ……で?どうするの?殴る?《ペロリ》」

 

カルマくんがジェラートを舐めながら挑発する。

 

「殴りません。残りを先生が舐めるだけです。そう、ペロペロと——《パンッ》!」

 

溶けて落ちたジェラートを舐めに行こうとカルマくんの席へ向かう。すると突然殺せんせーの触手が爆ぜた。床に散らばっていた対せんせーBB弾を踏んだのだ。

 

「あははは、まーた引っかかった〜」

 

カルマくんはまたしても殺せんせーにダメージを与えた。一度ならず二度までもダメージを与えたカルマくんはこの教室ではやはり群を抜けて優秀だ。

 

「何度でもこういう手使うよ。授業の邪魔とか関係ないし。それが嫌なら、俺でも他の誰かでも殺せばいい。でも、その瞬間から誰もあんたを先生とは見てくれないよ。ただの人殺しのモンスターさ」

 

殺せんせーにジェラートを押し付けながらカルマくんはこう言う。

 

「あんたという先生は俺に殺されたことになる」

 

教室には重苦しい空気が流れる。実力があることは事実だけど、やっていることはめちゃくちゃだ。

 

「はいテスト、多分全問正解だよ〜」

 

そんな様子を気にも留めずにカルマくんは殺せんせーにテストを投げ渡す。

 

「じゃあね、先生。明日も遊ぼうね〜」

 

そう言ってカルマくんは教室を出た。カルマくんが出て行った教室には気まずい空気が流れている。

 

カルマくんは頭の回転がすごく早い。今もそうだ。先生が先生であるためには越えられない一線があるのを見抜いた上でギリギリの駆け引きを仕掛けている。けど“本質を見通す頭の良さ”と“どんなものでも使いこなす器用さ”を人とぶつかるために使ってしまう。

 

「カルマくん……」

 

そして()()()()()()()()()()がこのクラスにはもう1人……

 

その人物は持ち主がいなくなり空席になったカルマくんの席の隣でまるで何か“見定める”ような顔をして殺せんせーのことを眺めていた。

 

 





あとがき

ここまで読んでいただきありがとうございます。

ようやくカルマくん登場です。カルマくんと零二くんの関係は不良仲間。いわゆる悪友のような関係です。カルマくんから見たら零二くんは気の合う友達ですし、教室で孤立している零二くんから見ても、数少ない話せる関係の人間です。まあ、零二くんはカルマくんのことを友達だとは思っていませんが……。

また、どちらも頭の回転が早い不良で、実力ではなく素行不良で落とされた生徒と共通点も多く、E組の生徒の中で唯一零二くんが見えている世界に近いところを見ている生徒でもあります。零二くんとカルマくん。今後この2人の不良がE組を大きくかき回すことになるでしょう。

では、次回もよろしくお願いします。


【次回予告】

「そっか、良かった。なら……殺せるよ」

だが、俺はこのまま様子を見ることを選んだ。

それは、俺がとっくに他者の命はどうでもいいと言えるくらいの“人でなし”に成り下がっていたからなのか、それともタコ教師を心のどこかで信頼していたからなのか

——それは俺にはわからない。

赤羽がチャカを抜いて笑う。

「……確実に」



次回 『カルマの時間 2時間目』


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