混沌の魔女と獣人の子   作:鉄鎖亡者

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兆し その5

 事前に十分注意していただけあって、リルはアロガの背の上で、非常に大人しくしていた。

 

 すぐ傍にはナナが宙を周遊していて注意を払ってくれているし、だから殊更気を配る必要もないだろうと、私も採取をし始めた。

 

 探すのは基本、水薬の材料となるものを優先だ。

 特に今回は金策の為に求める材料なので、回復薬の材料に絞って探す。

 

 ただし、只の回復薬ではない。

 上級ランクの回復薬だ。

 

 水薬としては鉄板だし、冒険者が基本的に買い求める物なので、在庫を余らせることもなく、商店としても仕入れやすい商品だ。

 

 だから当然、街の錬金術士たちも大量に作成する。

 

 ならば、その市場に入る隙間がない様に思えるが、私が作る上級ランクという部分に価値があった。

 

 錬金術士の腕前で、水薬の効果は幾らでも上下するものだが、それにもどうしたって限界がある。

 

 上級にランク付けされる効果は、中級とは一線を画し、そこには明確な差があるものだ。

 

 よく出来た下級と、粗末な中級では、その効果の差が曖昧だ、などと言われるものだが、中級と上級ではそうした差異は生まれない。

 

 それだけ、隔絶した効果を上級と定めていて、そして物を言うのが、腕前以上に使用素材だった。

 

 一級品の素材から作られる、一級品の腕前で仕上げられた水薬。

 それのみが上級水薬と位置づけられている。

 

 当然、作りたいからと言って作れるものではないし、素材を入手するにも伝手が必要になる。

 

 冒険者に回収を依頼すれば、その分だけ値段が上乗せされ、それだけの物になれば、Bランクが精々の木っ端ギルドでは需要などない。

 

 王都で華々しく活躍する、Sランク冒険者が求める程の回復薬だ。

 では何故、私が作るのかと言えば、ベントリーが買い取るからだった。

 

 そのベントリーにしても、それを格安で卸す私との縁を切りたくないから、未だに自分の拠点を街に置いている。

 

 他にも色々と売れる商品を持ち込むから、という理由もあるのだろうが、この縁を切るより有益だ、と思っているからこそではあった。

 

 それだけで、どれだけ上級水薬が魅力的か分かるだろう。

 纏まったお金を得る為にも、水役作りは私にとって魅力的なのだ。

 

「さて……」

 

 私は慣れた手つきで草を掻き分け、素材となる材料を探す。

 この辺りで採れるのは、主にナームタケと、つむじ草だ。

 

 つむじ草は根から綺麗に抜かないと駄目だが、ナームタケは傘部分さえ無事なら、薬効にそれほど問題はない。

 

 だから、妖精達が主に持って来るのも、主にナームタケの方だった。

 

「ほい、持って来たよ!」

 

「こっちも、こっちも!」

 

「へへ〜ん! 見ろよ、この見事な傘を! おっきくて赤くて、見事なもんだろ!」

 

「おや、本当だ」

 

 集められた素材は、私が持って来た、竹で編まれた籠の中へ投入されていく。

 

 特に見事な素材を持って来た妖精には、指先で頭を撫でながら、微量のマナを放出してやる。

 

 マナは彼らにとって栄養素みたいなもので、活力の源だ。

 褒められる事、マナを浴びられる事、その二つを受けて、よりやる気になる。

 

 他の妖精達も、その遣り取りを見て俄然やる気を出し、方々に散って行った。

 

「んぅ……! お母さん、リルも!」

 

「うん?」

 

「リルもいっしょに、さがす!」

 

 どうやら、疎外感に我慢できなくなったらしい。

 しかし、最初に約束したはずだ。

 

「でもね、リル。説明しただろう? 森には多くの危険が潜んでる。迂闊に動くのは、それだけで危険なんだ」

 

「でも……、でも……」

 

「大人しくしてる約束だ。リルは約束を守れる、良い子だものな?」

 

「んぅ……」

 

 返事とも否定とも取れない、曖昧な返答をして、リルは俯く。

 

「仕方のない子だ……」

 

 そういう態度をされると、まるでこちらが悪役の様だ。

 しかし、何も突き放したくて、そういう態度を取っている訳ではない。

 

 それにリルだって、妖精達より上手くやれる所を見せたいだろう。

 私は仕方なく、という態度を取りつつ、リルを近くに呼んだ。

 

「それじゃあ、リル。少し手伝って貰おうか」

 

「ほんとっ!?」

 

 リルは満面の笑みで顔を上げた。

 アロガの上で弾むように動き、早く行ってと言わんばかりに、背中をてしてしと叩く。

 

 それに急かされてアロガがやって来ると、私は初めにナナヘと注意を促した。

 

「こうなっては仕方がない、お前も警戒度を強めてやってくれ。何が危険な草花か、どれが罠めいた植物か、十分に注意してな」

 

「えぇ、任せてちょうだい。それにアロガだって、その辺は心得ているでしょう?」

 

 それにしても、とナナは苦笑を禁じ得ず、口元を歪める。

 

「貴女って本当に、子どもには弱いわよね。こんな事になるなら、最初から参加させてやれば良かったのに」

 

「弱い以上に過保護なんだよ、私は」

 

「驚いた……。自覚あったのね」

 

「さっさと行け!」

 

 私が手を払うと、大袈裟に驚く振りして、ナナは逃げる。

 リルの後ろに隠れて、背後から抱き締めるように、肩から顔だけ出して舌を出す。

 

 アロガは私の言葉を聞いて方向転換しようとしたのだが、その前に、私は自分の足元を指さしながら呼び止めた。

 

「あぁ、ちょっと待って。リル、探して欲しい物を教えよう」

 

「うんっ、なになに?」

 

「ナームタケについては、妖精達が沢山採って来てくれるから、どうせならコレが欲しい」

 

 そう言って示して見せたのは、ナームタケより見つけ辛い、つむじ草だった。

 一見、雑草にも見える植物だが、成長すると茎が伸びて、房を付ける。

 

 この房が地中から栄養を吸い取ると、そこが伸ばして蓄える場所で、蓄える程に房が伸びて()()()を巻く。

 

 森の外では半端なつむじが多い中、マナに溢れたこの森では、実に見事なつむじを巻く。

 

 私が求めているのは、その見事なつむじを巻いた物だった。

 

「いいかい、リル。欲しいのは、こういう綺麗につむじを巻いた草だ。中途半端に巻いているのは、まだ子どもの草だから、間違って抜かないように」

 

「んぅ! 分かった! ちゃんと、ぐるぐるしてるやつ!」

 

「そう。それと、ちゃんと根っこから引き抜くこと。周りの土を取り除いて、傷付けないようにね」

 

「……どうやったらいいの?」

 

「見ててごらん」

 

 小さなシャベルを取り出して、手早くつむじ草の周りの土を起こして行く。

 十分に深くまで土を取り除くと、軽く力を入れれば、綺麗に引っこ抜けた。

 

 根本には土が沢山付いているので、軽く叩いて振り落とせば採取完了だ。

 

「リルにはこの……、お母さん特性シャベルを与えよう。小さい力でも、楽に土を削れるよ」

 

「わぁ……っ! ありがとう、お母さん!」

 

「移動中は絶対アロガの上から降りない事。降りる時は、ナナの許可を待ってからにすること。……約束できる?」

 

「できますっ!」

 

 使命感に燃えるリルをしばらく見つめ、それから微笑んで頭に手を置いた。

 

「それじゃあ、行っておいで。――でも、お母さんが見えない所まで行かないように。それだけは絶対だ」

 

「はいっ、リルはとおくにいきませんっ!」

 

 行かないというより、アロガがそれを許さないだろう。

 

 ナナに目配せすれば、こちらからも大丈夫、という頷きが返って来て、それでとりあえず許した。

 

 採取の量が多ければ、それだけ多くの水薬が出来る。

 そうすれば、学校に通う頭金くらいは出来るだろう。

 

 リルが通う為の学校だし、一部なりとも自分で稼いだとなれば、また思い入れも変わるかもしれない。

 

 アロガは踵を返すと、地面をフンフンと嗅ぎ分けながら前進していく。

 

 ナナもしっかりと前方とその周囲を確認している様だし、私が見る限りにおいても、十分警戒できてるようだ。

 

 あの調子ならば、過剰に心配する必要はないかもしれない。

 

 うんうんと頷き、自分の作業に戻ってみれば、妖精達がナームタケを持って来てくれる。

 

 それをありがたく受け取ってから、私は一応、何があっても即座に動ける様にしつつ、採取の続きを再開した。

 

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