混沌の魔女と獣人の子   作:鉄鎖亡者

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魔女の戦い その7

 家から離れ、来た道を戻る。

 そうしながら、気配探知の魔術、生命探知の魔術を併用しながら走った。

 

 気配の探知より、より広範に優れる生命探知だが、これには弱点もある。

 人の生命と、その他の生命を別けて見られない。

 

 生命の持つ輪郭を写し取ってくれるものの、森の中は生命の宝庫だ。

 

 無数に見つかり過ぎるから、返って邪魔になると使わずにいたのだが、この際どんな些細な情報でも欲しい。

 

 蹲ったりされていると、他の獣と見分けが付かない場合もあるから、探知には引っ掛かっても、やはり見逃す可能性は大きかった。

 

「今は藁にも縋る……、だな」

 

 妖精や精霊達は、我が家を中心として扇状に散開し始めた。

 

 その速度は私を追い抜く程で、そして私より上手く探るからこそ、ここには居ないという見切りも速いのだろう。

 

 常に適当な部分あがるから、全幅の信頼は難しいが……だから、私も妖精の後を追いながら精査を続けた。

 

 そうして、走り続けること暫し――。

 妖精の一人がふわりと近付いて来て、私の肩に腰を下ろした。

 

「ねぇねぇ、見つけたってよ!」

 

「本当か!」

 

「うん、もっと先の、あっちの方!」

 

 妖精が指を向けるのは二時の方角だった。

 私は目の前で塞ぐ倒木の上を跳んで、妖精が指示する方へ向きを変える。

 

「それで……、相手は一人か? 男と女、どっちだった?」

 

「ん〜……、ちょっと待って」

 

 妖精同士は、ちょっとした念話みたいなものを扱える。

 

 しかし、距離が遠くなると繋がらなくなるし、今回の様に離れていると、何人もの妖精と中継を経ることになる。

 

 妖精は基本、考えることが四方八方に散るので、正確な情報伝達手段としては頼りなかった。

 

「うんとね……。相手は一人。それは間違いないみたい」

 

「そうか、一人か……」

 

 逃げた二人が合流していてくれた方が、色々と面倒も少なかったのだが、これは仕方ない。

 

 一人だけでも見つかったのは、御の字と考えるべきだ。

 その一人を相手している間に、もう片方の発見もあるかもしれない。

 

 今はそこに期待しておこう。

 

「それで、そいつの性別は?」

 

「分かんない」

 

「……どういう意味で?」

 

「なんかワチャワチャ言ってて、よく分かんない。それより、魔獣が興奮している方に興味津々みたいだね」

 

 なぜ興奮を、とは思わない。

 多くの血が流れた。その匂いにつられて動く魔獣は多いだろう。

 

 そして、一箇所に集まりつつ魔獣を見て、妖精達は無駄に興奮している……と言ったところか。

 

 妖精達は娯楽に飢えている部分が多いから、普段見られないものに注目しがちだ。

 

「しかしそれじゃあ……、ちゃんと捜しているんだか怪しく思えるな……」

 

「なんか、一人発見したし、もう終わった気分のヤツもいるみたいだ」

 

「それは困るな」

 

 私は苦笑しながら、独りごちる。

 とはいえ、妖精は気ままなものだ。

 

 思い通りに動いてくれる方が珍しい。

 一人だけでも見つけてくれた事に、感謝した方が良いだろう。

 

「でも、最低限の仕事はしてくれた。――こっちで良いんだな?」

 

「そう、そっち。聞いた話が間違いじゃないならね」

 

 私が進む方向に頷くと、妖精は小さな羽を動かして、ふわりと飛び上がった。

 

「もうすぐそこだから。倒れた木の後ろに隠れてるよ。邪魔になるから、もう行くね」

 

「あぁ、ありがとう。ついでにもう一人、捜してくれると助かるんだが……」

 

「ん〜……、近くだけならね。俺はさ、畑から遠く離れるの、イヤなんだ」

 

 そう言われてしまえば、無理強いも出来ない。

 仕方ないな、と困って笑うと、私は前方に倒木があるのを発見した。

 

 聞いた通りだ、間違いない。

 私の生命探知にも引っ掛かっている。

 

 速度を緩めて、慎重に近付きながら倒木の陰を睨む。

 蹲る形で屈んでいることは分かるが、それだけでは男女どちらか分からなかった。

 

 相手取るのはどちらでも構わないが、先にミッコラの方なら面倒が少ないだろうな、とは思った。

 

 雷の魔術士は実際、実力が頭一つ抜けている。

 

 逃がしたくない相手、と思うのと同時、一人を逃している状態で戦闘を長引かせたくなかった。

 

「隠れてるって事は、こちらに気付いてると考えていいのか……? 決めるなら不意打ちが望ましいが……」

 

 あるいは単に、体力や魔力を回復させる為、何かを背にしていたかった、とも考えられる。

 

 いずれにしろ、足を一度止めて、ゆっくり近付くことにした。

 

 生命探知の魔術は、今だ身動ぎすらしていないと教えていて、また周囲に他の人間らしき反応はない。

 

 一人なのは間違いなかった。

 伏兵はなし。

 

 私は掌に魔力を集中し、如何なる対応も出来るようにしておく。

 倒木を越えるか、それとも迂回するか……。

 

 少し悩んで、倒木ごと穿つことにした。

 魔力を二本指の先端一点に集中し、生命探知で捉えた輪郭の中心へ放つ。

 

 ピシュッ、と言う空気を斬り裂く音と共に、倒木の太い幹に穴が空いた。

 直後、同様の攻撃で魔力を放ち、穴の数を二つ、三つと増やす。

 

「……おかしい」

 

 何かしらの防御反応を見せて然るべき――。

 なのに、一切の反応がないだけでなく、反撃すらもなかった。

 

 そして、生命探知は倒木の陰の何かが、息絶えたと伝える。

 薄っすらと見えていた輪郭が消え、ただの倒木を映すだけになった。

 

「ともかく、確認か……」

 

 不審であろうと、そこにあった命が絶えたのは確かだ。

 

 そうして、倒木を迂回し死体を確認しようと首を伸ばし、そこで見たものに驚愕した。

 

「なに……!?」

 

 それは人間ではなかった。

 獣を無理やり縄で縛り、蹲る格好を強制させた偽物――ダミーだった。

 

「妖精め、何を見てたんだ……!」

 

 これは見間違いなどというレベルではない。

 悪意ある嘘、とでも言うべき内容だ。

 

 しかし、畑の妖精が進んでつく嘘としては、あまりに悪辣だった。

 ――では、発見したその時、間違いなくそこに居た、のだとすれば……。

 

 相手も馬鹿ではない。

 妖精が索敵したことに気付いたのだろう。

 

 だから、見つかるのは時間の問題として、偽装工作することにした……。

 だとすれば、敵は近くに居る筈だ。

 

 ごく近く、それも不意を打てるような場所に。

 その時、ごく僅かなマナの乱れを感じて、咄嗟に反応する。

 

「――上かッ!」

 

 頭上を見上げると同時、一つの影が降ってきた。

 私は同時に結界を張って、何らかの攻撃を防御する。

 

 魔術秘具の武器であろうと、何らかの魔術だろうと、大概はこれ一つで防げる。

 だから心情の驚き以上に、鷹揚に構え、次の攻撃に備えた。

 

 ――だというのに。

 

「なに……ッ!?」

 

 結界には、何かが突き刺さって、あっさりと砕けた。

 落下の勢いのまま貫き、そして私の頭目掛けて振り下ろされる。

 

「チィ……ッ!」

 

 咄嗟に横へと避け、逃げようとしたが一拍遅れた。

 まさか結界が砕けるとは予想もしていない。鷹揚に構えていたのが仇となった。

 

「これで終わりだッ!」

 

 野太い男の声だった。

 その声が耳に拾うのと同時、脇腹に鋭い痛みが走る。

 

 肉を抉られる感触がして、それと同時に寒気にも似た痛みが身体中を駆け巡った。

 

「こ、の……ッ!」

 

 私は腰を落として重心を確保し、滑るような体重移動と共に拳を繰り出す。

 その一撃で、男の身体はくの字に折れ曲がり、衝撃と共に吹き飛んでいった。

 

 マナを込めた、手加減なしの一撃だ。

 

 遠くまで吹き飛び、太い幹を三本圧し折ってなお止まらず、更に草花の生える地面を長く削って、ようやく止まった。

 

「くそ……!」

 

 脇腹には一本の杭が刺さっていた。

 ミスリル銀製の、腕の太さ程もある杭だ。

 

 ともすれば建築資材にも見えるその杭が、深々と私に突き刺さっていた。

 

「私の防御を抜くなんて、どういう杭だ……」

 

 単なる魔術秘具ではない。

 それならば、常に身に纏うマナの鎧が直撃を防いでくれる。

 

 最低でも、拮抗くらいはするだろう。

 それさえなく、結界さえ貫いた杭は、相当厄介な代物に違いない。

 

「どういうモノか、確認が必要だな。生きていれば、だが……口を割らせよう」

 

 薙ぎ倒された木々と地面、それが森の中に一直線の道を作っている。

 

 一歩進む事に杭が痛みを与えて来る。

 抜いてしまいたいが、下手に触れると別の魔術が展開される危険もあった。

 

 だから仕方なく、杭は刺さったまま、私は男に向けて歩いて行った。

 

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