混沌の魔女と獣人の子   作:鉄鎖亡者

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一角獣と戯れ その8

 慎ましやかな音楽祭が終わると共に、いよいよアイスも完成した。

 

 シャーベット状に凍った苺の果肉と、それより少し固めの牛乳アイスを、それぞれ器に盛っていく。

 

 木製の飾り文様の上に、赤と白のコントラストが半々に映える。

 先にリルの分と妖精達の分を作り、余った僅かな物が私の分だ。

 

 妖精たち全員分の器は流石に用意出来ないので、いつもながら一つの器だが、彼らも慣れたもので不満を口にしない。

 

 それどころか、器の周囲にワッと群がって、顔を突き出す様に食べ始めた。

 

「おい、ズルいぞ!」

 

「早い者勝ちだよ!」

 

「ん~っ、ちべた~い!」

 

「やっぱ、音楽の後のアイスは格別だね!」

 

 口々に言っては顔を突き出し、そして別の者に押し出されて、また食らい付く。

 その繰り返しで、みるみるうちに減っていった。

 

 それを見たリルは、負けじとスプーンを掴んで、まず苺を口に含んだ。

 シャク、と音がして、リルの頬が緩む。

 

 それを見てから、私も同じく苺の方から手を付けた。

 

 早摘みだからこその爽やかな酸味が口いっぱいに広がり、次いで柔らかな食感と甘味の牛乳アイスを口にする。

 二つの味が口の中で合わさり、思わず笑みが零れた。

 

「お母さん、これおいし~!」

 

 リルが次々と口に含んで、口周りをベタベタに汚した。

 見かねたのか、ナナが出て来て口元を拭う。

 

「ほらほら、そんなに急ぐから……」

 

「また頭キーンってなるぞ、リル」

 

「へーきだよっ!」

 

 その自信は、一体何処から来るものやら……。

 しばらく景気よくかっ込んで堪能していたリルだが、やはりというべきか、すぐに頭を押さえて身を捩った。

 

「あ゛ぁ゛~……っ!」

 

「ほら、見なさい」

 

 ナナが何処か勝ち誇る顔で、頭の後ろを撫でる。

 そんなことをしてもあまり意味はないのだが、彼女なりの優しさが出た形だった。

 

 そこへシルケが温かいお茶を持って来て、リルの前に置いた。

 

「ほら、リル。シルケが温かいの持って来てくれたぞ。ぬるま湯だから、勢い良く飲んでも火傷しない。飲みなさい、少しは良くなる」

 

「んぅ……っ!」

 

 リルは言われるまま、木製マグを手に取って飲み始める。

 ごくごくと、喉を鳴らして飲むと、大きく息を吐いて肩を落とした。

 

「すこし、らくになったかも……」

 

「前も急いで食べて、頭キーンってなってろう? 誰も取らないから、ゆっくり食べれば良いのに……」

 

 そう言って諭したが、リルは非常に不満げだ。

 器を腕で囲んで、威嚇するように遠くを睨む。

 

「とるもんっ! よーせーは、とるもんっ!」

 

「そうだぜぇ、リル。頭をキーンとさせて、痛い思いしてんなら、俺はその苦しみから助けてやらなきゃならねぇ……!」

 

「そういう訳で、ちょっくらアイス、こっちに寄こしな!」

 

 まるて山賊みたいな言い分だ。

 しかし、甘味の前では妖精さえ、蛮族に変えてしまうという事なのかもしれない。

 

「やっ! これ、リルの! あげない!」

 

「へっへっへ……。いいぜぇ、それでこそだ。他人から奪う菓子ってのが、最高に美味いしなぁ……!」

 

「やっ!」

 

 リルは更に器を抱え込み、妖精達の魔手から守ろうとする。

 だが、多勢に無勢……余りに不利なのは、見ていても明らかだった。

 

 リルの目に涙が浮かぶより早く、救出しなければならない。

 私は手を振って魔力を操り、リルから妖精達を引き離すと、自らの器を前に出した。

 

「ほら、私のをあげるから、リルから盗るのは止めろ。奪う方が良いって言う悪い子が、我を通そうって言うなら、私にも考えがあるぞ……」

 

「そんな奴いねぇよなぁ~? 貰えるモンは、素直に受け取るもんだろ!」

 

 余りに早い変わり身に、苦笑が禁じ得ない。

 

 妖精達は即座にリルの傍から離れ、腕の隙間に頭をつっ込んでいた者まで、翻して私の方へとやって来た。

 

 妖精達が私のアイスに夢中の間、リルに急げのジェスチャーと共に言う。

 

「ほら、早く食べちゃいなさい。それと、お茶を持って来てくれたシルケにも、ちゃんとお礼を言うこと」

 

「んっ! ありがと、シルケ!」

 

 やはり口元をベタベタにさせながら、リル笑った。

 そして今度は、きちんとお茶を口に運ぶのを忘れない。

 

 シルケは終始柔らかな笑顔で、リルには頷く事で返事とし、私の方にも遅れてお茶が運ばれてきた。

 

 礼を言って受け取り、カップを口に運ぶ。

 爽やかな風味で苦味もなく、アイスの甘味を邪魔しない香味に溢れたものだった。

 

 流石のチョイスに満足して、思わず口元が緩む。

 その後は流石に、リルのアイスを奪おうとする者も出ず、妖精達も静かなものだった。

 

 満腹になってお腹を風船の様に膨らませ、テーブルの上で横になる者までいる。

 他の妖精は満足するなり、開け放たれていた窓から、好き好きに飛び立っていった。

 

 賑やかさが大分薄れ、リルも安心して食べられる様になる。

 だが、余分な時間を駆けすぎた弊害か、アイスが少し溶けかかっていた。

 

「お母さん、とけるぅ……」

 

「はい、はい」

 

 手を翳して冷気を送り、器の中だけ氷点下まで冷やした。

 リルが器の中でスプーンをかき混ぜると、水っ気のあったアイスは元のシャーベット状に戻る。

 

「良いなぁ、リルも使いたい……」

 

「うん? 冷やすこと?」

 

「うん、べんり!」

 

 そう言って笑い、スプーンを頬張ってはシャクシャクと音を鳴らす。

 

 かき混ぜられたアイスは、既に赤と白のコントラストが消えており、混ぜ合わされてピンク色になっていた。

 

「リルもお母さんみたいに、いろんなまほー、つかいたいな」

 

「色んな、と言うのは……リルには少し難しいかも知れないな」

 

「えぇ……? なんでぇ?」

 

 私とリルでは、使用している魔力体系からして違う。

 片や魔術で、片や精霊魔法だ。

 

 精霊から力を借りる前提なので、何と契約したかで、その内容に制限が掛かる。

 そこが魔術士との大きな違いだ。

 

「リルはもう、ナナと契約しているからね。基本的には、どれか一つの属性のみ、って決まっているから……」

 

「じゃあリル、こおらせたり……そういうの、できないの?」

 

「それはまた、話が別だな」

 

「んぅ……?」

 

 アイスをまた一つパクつきながら、リルは首を傾げる。

 私はそれに微笑みながら、指を一本立てて講釈を始めた。

 

「風属性の応用力は高いと、前にも言ったね?」

 

「うんっ、キズとかも、なおせるかもって……」

 

「うん、それは大気中に含まれるマナを、風を操ることで、無理やり一カ所に集められるからだ。それを利用して、治癒術に近いことを発現できる」

 

 ただし、あくまで治癒術と発動プロセスが違うので、治せる傷は多くない。

 

「でも、気を付けなければならないよ。切り傷、擦り傷ぐらいは治せるし、軽い腹痛や風邪くらいも治せるだろう。でも、例えば骨折とか、少しでも重い症状は治せない」

 

「そうなんだぁ……」

 

 リルは落胆こそしなかったが、残念そうな息を吐いた。

 

「でも、ころんだときとか、べんりだよねっ!」

 

「それ以外にも、例えば刀傷とかも有効だ。綺麗に斬られた場合はね、逆にくっ付き易い事もあるから」

 

「ほぇ~……」

 

「逆に、魔獣の爪なんかは駄目だ。大抵は傷口がズタズタになるし、悪い病気の元が入り込んでいたりする」

 

 更に詳しい説明をしようと言葉を探している時、横から苦笑と共にナナが割って入った。

 

「それってちょっと、食べてる時に話す内容としては、少し重すぎるんじゃない?」

 

「それもそうだな」

 

 少々、配慮に欠けていた、とリルに謝り、ズレ始めていた話題を元に戻した。

 

「まぁ、ともかく……。風の魔法は応用が利いて幅広い。物を冷やすくらいは出来るぞ」

 

「ホント……っ!?」

 

「そうとも。温かい空気を外に出してやれば、相対的に冷える。風の層を作って器を囲み、外から空気が入るのを防ぐんだ。そうすると、器の中はドンドン冷えていくぞ」

 

「なんか……、むずかしいかも……」

 

「分かり難かったか?」

 

「それもだけど……、かぜのそうとか。それだけでも、なんかすごいタイヘンそうだもん……!」

 

「それは間違いないわね」

 

 ナナはそう言って腕を組み、リルの周囲を寝転がりつつ周遊した。

 

「風の操作は私がやるけれと、高度な運用には沢山のマナがいるし、それにどうやれば可能かを知っていると精度も増す。モノによっては威力も上がるわね。色々と学び、識るのは大切なことだわ」

 

「んぇ~……っ」

 

 リルは舌を出して嫌がるが、こうした勉強に対する反応はいつものことだ。

 そして、何だかんだと言っても、やる気にさせれば飲み込みが早いのも、よく分かっていた。

 

 リルを一人前にする為には、そのやる気を出させなければならないだろう。

 その為の方法を考えながら、リルがアイスを食べ終わるまで、その姿を見守った。

 

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