「なぁなぁ、祭りの日はどうする……? 待ち合わせの時間とか、場所も考えておかねぇとだろ……!?」
モンティは興奮醒めやらぬ様子で’、身振り手振りも大きく尋ねた。
「目立つ場所が良いけど、あんまり分かり易い場所もな……。人でごった返すんだし……」
「じゃあ、ココは?」
そう提案して、ミーナは学舎を指差した。
「あたしたちには分かり易いけど、他の人は待ち合わせ場所なんかに使わないでしょ!」
「おっ、それいいな! 採用!」
モンティが腕を振り上げて回すのは、少々オーバーに見えたが、彼の興奮度合いを考えれば、まだ抑えた方だったかもしれない。
今からそんな様子だと、当日前に潰れてしまいそうだが……。
いや、こういう時は心の思うまま、はしゃぐ方が正解だと思うので、微笑ましく見ていた。
「それにさ……! グンシキンも、しっかり用意しておけよ。へへっ、オレは先月から家の手伝いガンバってさ、小遣い多めに貰えそうなんだ……!」
「あたしもー! ちゃんと手伝えば、お祭りの日は沢山、おこづかいくれるって!」
二人が期待に胸を膨らませて当日を思い描き、顔にはこれまで努力して来たという自負さえ見えた。
実際の金額がどうかまで知らないが、本人たちが納得するだけの量を貰える予定なのだろう。
相応に努力した対価を得られる興奮に満ちており……そして、その逆にリルの表情は浮かなかった。
「リル……、おまつりのことゼンゼンしらなかったから……。おてつだいとかも、ゼンゼンしてない……」
「おい、そりゃあ……。そりゃ……、ツライなぁ……。今からでも間に合わないか?」
「あとチョットだもん……。お母さん、まにあう? いまからちゃんとおてつだいしたら、おこづかいもらえる?」
縋り付いて見上げる目には、多少の怯えさえ見えた。
友人二人に置いていかれると思ったからだろうが、勿論私は、リルに悲しい思いをさせるつもりなどなかった。
「安心しなさい。リルはこのところ、収穫の手伝いを良くしてくれたからね。お祭りの日は、十分なお小遣いを上げられるよ」
「ホント!? やったぁ……!」
リルが両手を挙げて喜ぶと、他の二人も我がことの様に喜んだ。
仲の良い三人だと頬を緩め、そしてその出会いに感謝した。
「じゃあ、お祭りの日は、たくさん遊べるね! ね、リルちゃん!」
「うんっ! どんなのがあるんだろ? リル、はじめてだから、なんにもわからないの!」
「そりゃ、色々あって……その、色々さ!」
モンティは何事かを説明しようとしたものの、うまい言葉が浮かばなかったらしい。
気難しそうに目を伏せて、それからカラリと笑った。
「まぁまぁ、その日になれば分かるさ! それも楽しみの一つ、ってことで!」
「んぅ……! いま、しりたいのに……! お母さぁん!」
「ふふっ、じゃあ少しだけ教えてあげようか。食べ物の屋台は勿論、ちょっとした賞品つきの遊びを用意していたり、占い師がいたり、吟遊詩人がいたり……とかだね。お祭りだからこそ稼ぎになる人達が、この日の為にやって来たりする」
私がざっくりと説明すると、リルは感心したり、不思議そうにしたりと、表情をコロコロと変えた。
「うらないし……って、なに?」
「明日の天気を予想する小さなものから、近しい未来やその人の将来を言い当てる大きなものまで、教えてくれる人の事さ。実際に当たるかは……さて、色々だね」
「そうなの!? リル、じぶんがおっきくなったら、どうしてるかしりたい!」
「でもね、天気の方はともかく、未来予想は余り信じてはいけないよ」
「そうなの……?」
残念そうに見上げるリルの頭を、私はそっと撫でる。
「そういう事もあるかもね、という程度に思うくらいが丁度良い。お母さんは、そういうので正確に言い当てられる人を、一人しか知らないからね」
「いるんだ、ひとり! じゃあ……!」
「その人には会えないし、祭りにやって来たりしないよ」
私は苦笑しながら、リルの髪の毛を指で漉きながら撫でる。
「本当に未来を見られる人はね、安易に人前で披露したりしないのさ。そういう人はお金にも困らないから、お祭りで小金稼ぎしなくても良いし……」
「あぁ、そりゃあ、そうだよなぁ……」
意外にもモンティは即座に理解を示し、どこか達観めいた視線を外に向けた。
「未来が見えるなら、カネも上手く稼げそうだもんなぁ。それに、祭りの占いってのは、当たり外れが大きいって言うぜ? ちゃんとした人が来たら良いけどさぁ……。若い占い師は信用出来ないってのが、相場らしいぜ」
「そうなの?」
リルが問うと、モンティは大いに頷く。
「それにアレだぜ、イチバン人気なのはホラ、恋占いとかだって。誰ソレと恋人になりたいとか、そういうヤツ」
「ふぅ〜ん……」
リルにまだ恋は早すぎるのか、全く興味を惹かれていなかった。
だが、反してミーナは興味津々だ。
小さな手を胸の前でキュッと握って、恨みがましい目でモンティを睨む。
「モンティはそうかもしれないけど、女の子には大事なんだから! 将来、素敵な旦那様ができるかどうか、知りたいのは当然なのっ! ね、リルちゃん!」
「んぅ……、リルそういうの、よくわかんない」
「そっかぁ……。リルちゃんには、まだちょっと早かったかぁ……」
ミーナはお姉さん風を吹かせて、どこか余裕な笑みを見せる。
しかし、リルとは一歳違いでしかなかった筈だし、見せる余裕も私からすれば微笑ましいばかりだ。
「とにかく、お祭り、楽しみだね!」
「うんっ!」
リルの笑顔が満開に咲く。
子ども達の期待感を胸いっぱいに広げているのを見ながら、リルたちが楽しく祭りを過ごせるよう、サポートしようと改めて思った。
※※※
そして祭りの当日、私は朝からお出掛けの準備を着々と整えていた。
朝食の方は既にシルケが用意してくれているから、手間も少なくて助かっている。
そうこうすると、二階からはバタバタと慌ただしい音が聞こえてきて、リルが転げる様な危うさで降りてきた。
「んもぉ〜! お母さん、どうしておこしてくれないの!?」
「楽しみ楽しみって、すぐ寝ないからそうなるんだよ。それより、おはようの挨拶は?」
「おはよう、お母さんっ!」
「はい、おはよう」
リルは私の挨拶を聞く前に、食卓の席に座ってパンを手に取る。
シルケが注いでくれるお茶に礼を言いながら、朝の挨拶もおざなりにしていた。
スープと一緒にパンを流し込む様な有り様で、ろくに噛んでもない。
急ぐ気持ちは良く分かるが、喉にものを詰まらせてしまってはコトだ。
「誰も置いていったりしないから、もう少しゆっくり食べなさい」
「でも、みんなまってるもん!」
「時間には早いから、まだ大丈夫。祭りは逃げたりしないよ」
「あそぶじかん、へっちゃう!」
「どうせ午前中は、出店の準備とかで始まってもいないから。昨日だって、そう言ったろう? 本格的に始まるのは、大体……そうだな、お昼ごろからだ」
そして、祭りは夜まで――夜が更けるまで続く。
大人の参加者にとっては、むしろ夜からが本番、と言っても良いくらいだ。
祭りは男女の出会いの場でもあり、火を囲んでの踊りなどで親睦を深めていく。
それ狙いで別の村などからやって来る場合もあるので、祭りにかこつけて……というケースは少なくなかった。
「ともかく、ゆっくり食べなさい。……って」
「ごふぃそうばまっ!」
言っている間に、リルは口の中にパンを押し込み、食べ切ってしまった。
最後にお茶を飲み干し、盛大に息を吐くと椅子から飛び降りる。
「お母さん、いこいこっ!」
「だから、まだ早いって……」
私は苦笑しながら、口の端に付いたパンくずを摘み取り、自分の口に運ぶ。
「祭りが始まる時は鐘を鳴らす筈だし、昼前に到着していれば十分だろう」
「じゃあ、それまでミーナちゃんとかとあそぶ!」
「うぅん……、待ち合わせ時刻も、お昼前にしてたんじゃなかったか?」
それならば、リルの方こそが待ちぼうけを受けるだけになる。
「なるべくはやくいく、って言ってたもん。だから、きっとすぐくるよ!」
「さて、どうだろう……」
何しろ、家の手伝いでお小遣いが貰える、と言っていた二人だ。
祭りの時は稼ぎ時、みたいな事も言っていたし、ギリギリまで手伝わされていたとしても、当然としか思えない。
だが、今にも走り出しそうなリルを、家の中に押し込めておくのは骨が折れそうだった。
実際どうかは私も分からないのだし、とりあえず連れて行けば大人しくなるだろう。
「分かった。それじゃ、着替えるから歯を磨いちゃいなさい」
「はぁ~い!」
リルは甘える様に顔を突き出すアロガを振り払うと、洗面所の方へ駆けていく。
アロガは寂しそうに喉を鳴らし、慰めるつもりで頭を撫でたのだが、素っ気なく去ってしまい苦笑する。
アロガもアロガで、大概リル以外には興味がない。
私はリルの歯磨きが終わる前に、服を用意しようと二階に昇っていった。