「ようせい、め~っけ!」
すると、花がぱっと弾けて妖精が飛び出し、くるくる回って降参の合図をした。
そうして、くすぐるように頭や肩に乗り、耳元で何か囁いては笑って飛び去る。
私には聞こえなかったが、リルが嬉しそうにしている所を見ると、どうやらお褒めの言葉だった様だ。
リルは次々と妖精達を見付けていく。
まるで、最初から居場所が分かっているかに、その見つけ方は早い。
おかしいと思ったのは私だけではなく、妖精達も不思議がってリルに問い掛けた。
「どうして、分かったんだ?」
「におい! さっきたべた
「いやぁ、これはしまった……!」
あれだけバクバク食べていたのだ。
頭から突っ込み、体中で堪能していた者までいた。
それならば確かに匂いがべったり付着し、鼻の利く獣人には明かりがなくても見付けられるだろう。
「また、リルのかち~!」
「チェ~っ! 最後のは自信あったのになぁ~!」
「ホントホント! 見つかんない~、って泣くリルを見て、笑うつもりだったのにさ!」
「へ~んっ、だ! リル、ないたりなんか、しないもんね!」
「ま、なんにしても……おめでとう、リル! 悔しいけど、負けを認めるよ!」
「沢山、勝ったよなぁ~」
「でも、今回だけね!」
「次はないぞ! ゼ~ッタイ、負けないからな!」
リルの周囲を飛び回り、口々に言う中で、リルは一つの単語に反応した。
「つぎ!? つぎ、あるの!? いつ!?」
「そりゃ、また来年か……あるいは、もっと先さ」
「んぇぇ……? とおいよぉ……」
「いや、やっぱ来年はないな。何しろ……妖精にしちゃ、今回ちっと頑張り過ぎた。もっとノンビリしたいもんな」
妖精のやる事だ、気分次第で開催したり、しなかったりする。
今回の件については、収穫祭への異常な対抗心が元となっているので、そういう意味でも例外だった。
リルは不満そうだったが、妖精が思うとおりに動かないのは周知の事実だ。
だから、不承不承ながら納得するしかなかった。
「次の開催は未定だけど……でも、楽しかったろう?」
「うん、たのしかった! たのしかったけど……!」
そう言って返ってきたのは、疲れ切っているのにまだ遊び足りないという、輝く笑顔だった。
普段の鍛練などからすると、これくらいは動いた内に入らない。
リルは未だに元気満々だった。
しかし、宴の中で競技に割かれる時間は多くなく、そしてどうやら、新たな催しが開催されそうだった。
屋台の辺りにあった賑わいも、それを察してか静かになる。
そうして、広場の中心からは深く、長く、木霊するような音が響いた。
「これ、なんのおと?」
「『舞踏の刻』を告げる合図さ」
私にくっ付きながら零した言葉に、妖精の一人がそう返した。
それと同じくして、広場の端から端までを包み込むような笛の音が流れ、精霊も妖精も、ゆっくりと中央へ歩み寄る。
火の精霊は揺らめく炎の衣を纏い、足跡には朱色の火花が咲く。
水の精霊は薄い水の膜を纏い、動くたびに光が波紋となって流れた。
風の精霊は羽衣のような風をまとい、通るたびに周囲の髪や花がふわりと揺れる。
大地の精霊は花や草を咲かせながら歩み、中心へ放射線状の模様を作った。
妖精たちは、それぞれの精霊の周囲に寄り添い、小さな足取りで輪を広げていく。
その輪が三重、四重と重なり、森の中に幾重もの光の環が生まれた。
私とリルも、その外側の輪へと加わる。
音楽は最初、ゆったりと流れるような調べだったが、やがて笛、竪琴、鈴、太鼓が重なり、拍子が早まっていった。
火の精霊が空へ炎の花を咲かせれば、水の精霊が蒼い雨に変え、風の精霊がその雫を外に拡げる。
足元の花弁は踏む度に弾けて光を散らし、風は髪を持ち上げ、甘い香りを運んだ。
「スゴい、スゴい! おもしろい!」
リルは笑いながら小さく跳ね、私もつられて足を軽く踏み鳴らす。
隣では、妖精が手を取ってくるりと回し、精霊がその動きに合わせて光の弧を描いた。
全員の動きが一つの波のように連なり、森全体が呼吸するような感覚に包まれる。
これがどうやら、『舞踏の刻』であるらしい。
今回ばかりは、妖精達も好き勝手に踊らない。
儀式めいた雰囲気があり――、そして、それは事実なのだろう。
舞踏の終わりは、唐突に訪れた。
音楽が一瞬だけ消え、代わりに森そのものの音――葉擦れ、草花と土の微かな息――が満ちる。
火の精霊が赤い尾を引くように駆け抜け、夜空に炎の花を咲かせると、妖精たちがその中でくるくると回り、炎を星屑に変えていく。
水の精霊はその星屑を受け止め、空中に湖面を作り出し、湖全体を光る絨毯のように染め上げた。
その星屑が少しずつ空へ昇ると、参加者たちは一斉に両手を天へ掲げる。
夜空には大輪の光の花が咲き、それがゆっくりと星々の中へ溶けていった。
最後に、何処からか古い竪琴の音が響く。
すると、精霊と妖精たちは円を描き、手を取り合い、静かに感謝の歌を紡いだ。
歌声は夜空へと昇り、やがて流星の群れとなって森を見守るように降り注いだのだった。
※※※
私とリルは、その光景を見上げながら、言葉を交わさなかった。
ただ手を握り合い、その幻想的な光景に見入る。
ナナは勿論として、アロガさえもこの時はリルの真横で、行儀良く座って見上げていた。
誰からも、何の声も上がらない。
それは全ての流星がなくなるまで続いた。
しかしそれもいつしか終わる時が来て、舞踏の方も終わると、広場には静かな安堵の空気が漂った。
精霊たちは互いに挨拶を交わし、妖精たちは笑い声を残して夜の森へ散っていく。
屋台の灯りも一つ、また一つと消え、代わりに月明かりが地面を柔らかく照らし始めた。
とうとう、宴も終わりの幕が降りようとしている。
それまでの熱気で溢れていたからこそ、今のしんみりとした雰囲気が、より一層重く感じられる。
「もう、おわり……?」
リルが切ない顔をして言った。
「もう、とは言うけど、普段ならぐっすり寝ている時間だよ。こんなに夜更かし、した事なかったろう?」
「そうだけど……」
楽しい時間は、あっという間に過ぎ去る。
そして、心から楽しんだからこそ、終わってしまうのが惜しいのだ。
リルは、火の精霊から受け取った『恵みの燈火』を、両手で大切に包む。
そうする事で、一夜限りの宴をもっと身近に感じられる、と思っているかのようだ。
その時、横合いから妖精が顔を出して、リルの肩に留まった。
「……で、どうだった? 街の祭りとこっち、どっちが楽しかった? 勿論、こっちの圧勝だよな?」
「んぅ……、どっちかなぁ……?」
「おい、ウソだろ!? 街の祭りは、そんなに凄いのか!?」
妖精は大袈裟に驚いて、大きな身振りで飛び退いた。
「絶対、こっちの方が凄いだろ!」
「うんとね、スゴいのはこっち! キレーだったし、みたことないのとか、たべたことないの、いっぱいだった!」
「そうだろう。そうだろうとも」
妖精は腕を組んで、したり顔で何度も頷く。
「でもね、まちには、ともだちがいたし……。いっしょにね、あそぶのスゴいたのしかった!」
輝く笑顔で言うリルに、妖精は眉間に皺を寄せて閉口する。
しかし、すぐに顔を近づけて、挑むように言った。
「でもさ、凄いのはこっちだろ!? 人間の祭りには、こんな派手なモンなかったろ!?」
「うん、なかった。こっちのほうが、みててすっごくカンドーした!」
「ほらな、ヨシッ! ――皆ァ、この勝負、妖精達の勝ちだっ!」
「ひゃっふぅ~っ!」
「だと思った! だと思った!」
「所詮、人間の祭りに、僕らの本気が負ける筈ないんだよなァ~!?」
どこにいたものやら、一人の勝利宣言を皮切りに、次々と妖精達が姿を現し、それぞれの個性が見える形でふんぞり返った。
「でもまぁ……、疲れたよ。ホント疲れた……」
「精霊に参加させるのが、一番苦労した~……」
「基本、排他的なんだよ、アイツら。もしくは、ヒトとの触れ合いに興味ないか、だね」
「どっちもじゃない?」
「ま、いいさ。リルにどっちが上か認めさせたんだ。勝利をもぎ取った我らに!」
『我らに~!』
腕を振り回し勝ち鬨を上げ、妖精達は回転しながら夜の空へ消えていく。
そして、いつの間にやら精霊達の姿もなかった。
ただそこには、光の粒が宙に舞い、星屑のようなきらめきが残されていた。