混沌の魔女と獣人の子   作:鉄鎖亡者

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母の副業 その5

「はい、それでは(わたくし)から説明いたします」

 

 ラーシュの方をチラリと見て、未だ立ち直っていないのを確認し、深く頷いてからオンブレッタは話を続けた。

 

「今回、お願いしたい事は、冒険者の捕縛です」

 

「いきなりキナ臭い話になって来たな……。捕縛? 冒険者を?」

 

「はい、彼らは犯罪を犯し、逃亡しました。その彼らというのが、先程ギルド長が持って来た資料になります」

 

 私はテーブルの上へ乱雑に置かれた羊皮紙に目を向け、手に取って良いか尋ねる。

 

 ラーシュから返事はなく、オンブレッタからどうぞ、との声があったので手に取った。

 

 羊皮紙の数は全部で五枚。

 

 そして、最初の一枚にチーム名と人数、所属冒険者の名前や体格、毛髪の色などの特徴が記されていた。

 

 二枚目には得意武器や技能について書かれ、魔術士の項目には、扱える魔術の種類まで詳細に載っている。

 

 そうして、三枚目以降は、これまでの依頼達成内容が記されていた。

 

 合計五枚ある事から、それなりに場数を踏んで、そしてそれなりの依頼を達成した事が伺える。

 

 ――パーティ名は、“黒鉄の戦鎚”。

 リーダーの得意武器から、そういう名前になったようだ。

 

 ランクは中堅上位と言える、Bクラス。

 

 魔術士を擁しているパーティ、しかも五人の人数を抱えているなら、そのぐらいは当然と言えるレベルだ。

 

 そして、普段からの素行は、あまり良くなかったらしい。

 

 つらつらと(めく)って、パーティの特徴を読み取ってから、私は羊皮紙を投げるようにしてテーブルに置く。

 

「……それで、この毒にも薬にもならなそうなパーティを? 捕獲して欲しいって?」

 

「はい、そうなります。罪状は在り来りのものです。酒に酔って喧嘩、相手を致傷。殴り殴られ、パーティ同士の刃傷沙汰に発展。相手を死傷させてしまった事で、彼らは逃亡しました」

 

「ふぅん……? まぁ、在り来りと言うのはどうかと思うが……、有り得る事ではあるな」

 

 冒険者など、野盗をしてないだけのならず者と変わらない。

 常に斬った張ったの世界で生きていて、己の腕っぷしだけが自慢の奴らだ。

 

 酒に酔えば暴れる事など珍しくないし、暴力沙汰は尚さら珍しくない。

 怪我さえ彼らからしたら日常なので、それなりに発散すれば落ち着くものだ。

 

 しかし、殺しとなれば話は別だ。

 しっかりと監獄送りにされるし、冒険者資格は剥奪される。

 

「彼らは国境を超えるつもりでしょう。現在は山岳地帯を移動中のようです。そして、追跡できない海の外まで、このまま逃げ切るつもりだと推測しています」

 

「それもまた在り来りだが……、他に手もないしな」

 

「えぇ……。ギルド同士に横の繫がりはありますし、国を変えたからと仕事を斡旋される訳ではありませんが、ギルドを交えない仕事をする可能性は高まります」

 

「所謂、非合法依頼か。ギルドでは斡旋できない、危うい類いの仕事……。一応、ギルド徽章で実力が証明できれば、仕事に困らなそうだしな」

 

「はい、彼らとしても荒事以外で、収入を得ようとはしないでしょう。実入りの良い仕事でなければ、今更魅力に感じないでしょうから。しかし、当然こちらも、黙って見ている訳にはいきません」

 

 話は分かった。

 しかし、それならば尚さら言いたい事がある。

 

「だったら素直に、自分のギルド員に命令しろよ。誰それが“黒鉄の戦鎚”に殺された、なんて……もう知られているだろう? 被害者パーティにも、友人とかいた筈だ。彼らが黙っていないと思うがな」

 

「それはその通りなのですが……、困った事が……」

 

 オンブレッタは非常に言い難そうに顔を顰め、それからラーシュを見つめる。

 

 代わりに言え、という視線をぶつけているのだが、残念ながら彼は未だに再起不能だった。

 

「えぇとですね……。うちのギルドでは、在籍している冒険者で、最高ランクがBだったんですよ……」

 

「……うん? そうなのか?」

 

「……はい。そしてつい先日、最高ランクがCになりました」

 

「どうなっているんだ、お前の所の冒険者……」

 

 私がラーシュに蔑む視線を向けると、ようやく、のっそりとした動きで起き上がった。

 

「仕方ないだろ……。近くに旨味のある魔物やら、遺跡やらがないんだから……。実力ある冒険者は、もっと実入りのある地域に、居を移したがるモンなんだよ」

 

「まぁ、それはそうだな……」

 

「こっちにはボーダナンっていう、究極にヤバい森があるけどよ……。だから、逆にそこ以外の魔物は小粒っていうか……。つまり、森を無視すれば、初心者には嬉しい地域なんだな」

 

 だから、それなりの実力になると、途端に魅力を感じなくなり、ホームを移す事になるわけだ。

 

 中堅と言えるのはCランクからだが、Cになったばかりなら、中堅の底辺と言える。

 まだまだ、己の実力に不満があり、鍛えたいと思う頃合いだろう。

 

 そして、そういう実力しかないのなら、確かにBランクを追った所で相手になるものではない。

 

「実力者がいないギルド、ってのは侘しいな……」

 

「だから、俺みたいな若輩者が、ギルド長なんて任せられてんだろうよ。禁足地にさえ足を踏み入らなければ、まぁ……のんびりした所だからな」

 

 そう言ってから、ラーシュは盛大に舌打ちし、眉間にシワを寄せた。

 

「この前はSランクパーティが、うちに来てくれたんだぜ? 森を狙っててよ、自分達が制覇する一つ目のパーティになる、って張り切ってた」

 

「だったら、そいつらに任せろよ」

 

「もういねぇよ!」

 

 ラーシュはまたも舌打ちし、腕を組んで盛大に息を吐く。

 

「こっちも色々、接待したんだぜ? 優遇処置だって沢山つけた。アイツらが留まってくれりゃあよ、このギルドにも箔が付くし、他のSランクも来るかもしれねぇ。未だに未知の森を切り拓こうって話になったかもしれねぇし、何より奥の山にはドラゴンが棲むんだ……!」

 

「宝の山ですからねぇ……。そこが冒険地として広まれば、S級とは言わずとも、A級の冒険者がわんさと来たかもしれませんよ」

 

 オンブレッタも夢見る様に手を組み合わせ、祈るようなポーズをして目を輝かせたが、それも一瞬の事だった。

 

 即座に現実へ引き戻され、しゅんと肩を落とした。

 

「……が、そうはならなかったんだな?」

 

「そうともさ。今まで一度も、挑戦できた者がいねぇってのは、伊達じゃなかったって事だな。たった一日でとんぼ返りよ」

 

「結構な錯乱状態でした……。もう嫌だ、行きたくないの一点張りで。逃げる様に帰っちゃったんですよねぇ……」

 

 私は満足気に鼻を鳴らす。

 そうしてまた返り討ちの噂が広まれば、同じように挑戦しようと思う輩は減るに違いない。

 

 しかし、私が浮かべる余裕の笑みを、ラーシュは違う意味で捉えたようだ。

 

「そう小馬鹿にしてくれんなよ。っていうか、“黒鉄”が荒れたのも、アイツらのせいだよな……。今までアイツらなりに、お山の大将って自覚はあったんだろうけどさ、それを指摘されたんだかして、荒れたって話だ」

 

「でも、それで身内を殺して良い理由にはなりませんよ。そりゃあ、弾みでやったんだとは思いますが……」

 

「これまでのキャリアがパァだ。そりゃあ俺にも、逃げたい気持ちは分かるよ? でも、本当に逃げちゃ駄目だろ。……実際、暴れた理由も下らねぇもんだ。どの面下げて、ってのもあるんだろうが……」

 

「しかし、捕縛して罰を科さねば、ギルドのメンツが立たない、か……」

 

 ラーシュは、うっそりと頷く。

 

 そして、現状のギルドメンバーだけでは、Bランクを捕縛できないとなれば、出来る者に頼むしかない、という理屈らしい。

 

 その理屈はよく理解できる。

 しかし、それで外部の者を頼るのは、如何なものだろう。

 

「言わせて貰うが、それなら素直にギルド本部に掛け合えよ。あるいは、近くにいるかもしれない冒険者を招集するとか……。ギルドに所属する者は、緊急招集を拒絶できない規則があったんじゃなかったか?」

 

「そんな事したら、俺の評価に響くだろ! 今まで上手くやって来て、次の査定で給料上がるかもしれないってのに!」

 

「は……? 何でお前の査定の為に、私が苦労しないといけないんだ? これまでだって、散々協力してやってたろ。それに……」

 

 そこまで言って、もしや、という疑惑が首をもたげる。

 ラーシュは人当たりこそ良いが、突出した実力を持っていたりしない男だ。

 

 現役時代Aランクだった、と聞いた覚えこそあるが、これまでも数々の問題を解決してやったものを着服していたとすると――。

 

「お前、私が外部の協力者なのを良い事に、自分の手柄にしてたのか?」

 

「いや、全然? 全然、そんな事してない! 全然!」

 

 語るに落ちるとはこの事だ。

 私は額に手を当てて、大きく溜め息をついた。

 

 話だけは聞く、という約束だった事だし、聞いてやった以上ここで本当に帰ってしまおうか……。

 

 やる気を完全に失くした私は、眉間のシワを解しながら、もう一度大きく溜め息をついた。

 

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