運営判断で非公開にされていた事を、作者当人が把握しておりませんでした。
理由としては、先に投稿されている他サイトにおいて、当サイトにも投稿されている旨の記載が存在しない、という理由です。
この為に、第三者による無断転載と同様の状態と判断されました。
申し開きもないミスです。
読んでくれた読者の皆様に、改めてお詫び申し上げます。
エルフはその憤怒を、隠そうともしていなかった。
なのに、唐突にストンと表情が落ちる。
感情を露わにするのを恥じているのかと思ったけど、……違う。
その顔は、「まだ終わっていない」と告げているものだった。
そこには羞恥以上に、冷たい計算が宿っていた。
「あぁ……一つ、勘違いをしていたな」
低い声が、広場に落ちる。
騒がしかった周囲も、嫌な気配を感じ取ったのか、動きかけていた足が止まる。
エルフは腕を組み、淡々と告げた。
「今回の試練は、あくまで“お前がS級に至れるか”を測るものに過ぎなかった。一足飛びに認めるものじゃない」
その言葉に、ざわめきが走った。
「……何だと?」
獣人の男が眉をひそめ、モンティも顔を険しくする。
「突破したら終わりじゃねぇのかよ」
だがエルフは、まるで子供に説明する教師のように続けた。
「試練を突破したからといって、即座にS級が与えられると思ったか?」
口元に浮かぶ笑みは、嘲りだった。
「S級とは“格”であり……、そしてその格を厳格にするため、席数は明確に決められている」
私は思わず喉が詰まった。
――そう、確かにそういう話だった。
エルフは指を一本立てる。
「S級の席数は、あくまで六つ。試練を突破すれば七席目を与えられるとか、そういう話ではない」
広場がシン、と静まり返った。
その沈黙を楽しむように、エルフは言葉を続けた。
「つまりだ。お前がどれだけ実力を示そうと、試練を突破しようと――」
立てていた指で、私を指差す。
「その席が空かなければ、お前はS級になれないのだ」
周囲の空気が、ひどく冷えた。
今まで必死に話し合い、走り回ろうとしてくれた皆の熱気が揺らいでいく。
だけど、私の方はむしろ怒りを力に、一歩を踏み出した。
「風向きが悪かった時はだんまりだったのに、制度を思い出したら、いきなりおしゃべりになるんだね」
でも、それで分かった。
このエルフは、単に難癖を付けてS級への道を閉ざそうとしてるんじゃない。
「あなたは、私が“S級”に行かくのが嫌というより……」
一度大きく息を吸って、整える。
「“獣人が上に立つ”のが嫌なんだ」
ざわっ、と空気が揺れる。
エルフから返答がないと、冒険者たちの中から、低い唸り声が漏れた。
「……図星か」
「差別かよ」
《今まで獣人にS級がいなかったのも、案外そこに理由があるのかもしれないわね。その昔、獣人を奴隷にしてた訳だし、エルフが作った組織――その“顔”に、獣人は要らないって判断なのかも》
ナナは正しい指摘をしている様に思えた。
エルフの難癖は、可能性の芽を潰そうとしている感じだし、何より偏執的だ。
でも、周囲の視線も構わず、エルフは鼻で小馬鹿にしたように笑う。
そして、それから勝ち誇る顔付きで言った。
「本当にS級を目指すのなら、現S級のいずれかから、その席を奪うしかない」
その声は鋭く、切り裂くかのようだ。
「挑み、無様に追い落とされるが良い」
そして、決定的な一言を落とす。
「まぁ、獣人にはそこまでが限界だ。どうせ挑むだけ無駄になるだろうがな」
ざわっ、と怒りが広がる。
「ふざけんな!」
「そんな話、聞いてねぇぞ!」
「どんだけ、後出しで条件つけ加えてんだ!」
誰かが叫び、別の誰かが拳を握って怒号を放った。
でも、エルフは完全に冷静さを取り戻していて、その怒りすら計算に入れているみたいだった。
「元から勘違いしていた、というだけだろう。達成者に新たな席を与えると、そんな文言があったか? ないというなら、そういうことだ」
彼は静かに目を細めた。
「S級とは、誰もが羨む頂だ。限りあるから価値があり、その席を欲するが故に切磋琢磨する。席が増えることは、今後においても、まずあり得ない」
私は唇を噛み、拳を握りしめた。
――この人は、私を追い詰めたいんだ。
魔獣の従属を証明しただけでは終わらない。
次の鎖を、私の首にかけようとしている。
その時、モンティが唸るように言った。
「……じゃあ、試練を突破しても意味ねぇって言うのか」
エルフは肩をすくめる。
「意味はある。“S級に到れる“資格を得られたのだからな。昇級を重ねても、挑む権利はA級上位から順番、という部分もある。それを飛ばせるだけでも、大いなる恩恵ではないか」
興が乗ったのか、淡々と告げる声から次第に熱を帯びてくる。
「試練とは、例えるなら……門だ。他と違い、壁を乗り越える必要がない。僅かな突起に指を引っ掛け這い上がり、時として下から足を引っ張られる――そうした苦労をせずに済む、というな」
エルフは私の方を小馬鹿にする様にして見つめ、更に続けた。
「そして、門を越えた先にある椅子は、あくまで六つしかないのだ」
その言葉は、刃だった。
冒険者同士の不文律、それを端的に表現していた。
私は息を呑み、視線を落としかけ――そして、アロガを見る。
アロガは静かに座っていた。
先ほどまでの騒がしさなど気にも留めず、ただ私の横にいる。
その存在が、私の心を支えてくれた。
エルフは最後に、冷たく言い捨てる。
「勘違いするな。お前は“実力を認められた”のではない。あくまで、優先権を得ただけだ」
そうして、強い敵愾心を浮かべて笑う。
「S級の席を欲するなら、挑んでみろ。そうでなければ、永遠に下で吠えていろ」
そこまで言って、今度こそ背を向ける。
広場に残ったのは、怒りと困惑だった。
誰もが言葉を失い、互いの顔を見合わせる。
その沈黙の中で、私は小さく息を吐いた。
胸の奥に、熱が灯る。
怒りでも、悔しさでもない。
それは決意だった。
――奪え。
その言葉は、脅しみたいなものだったろうけど。
けれど……。
私はアロガの額に手を置いて、揉む様にして撫でた。
その温もりが、私を現実に繋ぎ止める。
(奪わなきゃ、ならないんだ)
私は、拳を握る。
誰かを倒す。席を奪う。
そんなもの、望んでいない。
だけど――。
この世界がそういう仕組みなら、そうするしかないと言うなら。私はやるしかない。
私が一つの決意をしていると、モンティが苦い顔で笑った。
「……萎縮するかと思ったら、リルは全然やる気みたいだな」
灰髪の女冒険者が、静かに言った。
「頂点は、いつだって椅子取りゲームだ。だからこそ、頂点なんだろう」
獣人の男が唸る。
「席を奪う……」
そして、私を見た。
「おい。お前、本気でやるのか」
「……やるよ」
声は小さかったが、確かだった。
「アロガと一緒に、S級になる」
その言葉に、周囲の者たちが一瞬黙り――次に、強く頷いた。
「いいじゃねぇか!」
「奪ってやれ!」
「どうせなら、このまま一気に上まで行く姿が見てぇよ!」
一度は静まっていたものが、再び熱になる。
その熱気、そのやる気を見て、私は改めて知った。
この街は、私を守ろうとしてくれている。
でもそれは、お母さんがこの街に対して、やった事のお返しで……。
お母さんはもう傍には居ないけど、それでも守ってくれているのだと、そう感じた。
――いつも見守ってる。
お母さんは、そう言った。
(お母さん……っ)
目の奥が熱くなり、泣きそうになる。
けれど私はもう、“守られるだけ”では終わらない。
一人で立ち向かえる強さを手に入れる、とあの日に誓った。
だから、奪う。
六つしかない椅子の、一つを。
そして必ず、西に渡って……お母さんの剣とペンダントを取り戻す。
その決意を新たにしている時、アロガが短く鳴いた。
「ガォウ……!」
力強く響いたその声は、まるで宣言のように響いた。