混沌の魔女と獣人の子   作:鉄鎖亡者

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大変申し訳ございません。
運営判断で非公開にされていた事を、作者当人が把握しておりませんでした。

理由としては、先に投稿されている他サイトにおいて、当サイトにも投稿されている旨の記載が存在しない、という理由です。
この為に、第三者による無断転載と同様の状態と判断されました。

申し開きもないミスです。
読んでくれた読者の皆様に、改めてお詫び申し上げます。



アロガの傷、リルの決意 その1

 エルフはその憤怒を、隠そうともしていなかった。

 なのに、唐突にストンと表情が落ちる。

 

 感情を露わにするのを恥じているのかと思ったけど、……違う。

 

 その顔は、「まだ終わっていない」と告げているものだった。

 そこには羞恥以上に、冷たい計算が宿っていた。

 

「あぁ……一つ、勘違いをしていたな」

 

 低い声が、広場に落ちる。

 騒がしかった周囲も、嫌な気配を感じ取ったのか、動きかけていた足が止まる。

 

 エルフは腕を組み、淡々と告げた。

 

「今回の試練は、あくまで“お前がS級に至れるか”を測るものに過ぎなかった。一足飛びに認めるものじゃない」

 

 その言葉に、ざわめきが走った。

 

「……何だと?」

 

 獣人の男が眉をひそめ、モンティも顔を険しくする。

 

「突破したら終わりじゃねぇのかよ」

 

 だがエルフは、まるで子供に説明する教師のように続けた。

 

「試練を突破したからといって、即座にS級が与えられると思ったか?」

 

 口元に浮かぶ笑みは、嘲りだった。

 

「S級とは“格”であり……、そしてその格を厳格にするため、席数は明確に決められている」

 

 私は思わず喉が詰まった。

 ――そう、確かにそういう話だった。

 エルフは指を一本立てる。

 

「S級の席数は、あくまで六つ。試練を突破すれば七席目を与えられるとか、そういう話ではない」

 

 広場がシン、と静まり返った。

 その沈黙を楽しむように、エルフは言葉を続けた。

 

「つまりだ。お前がどれだけ実力を示そうと、試練を突破しようと――」

 

 立てていた指で、私を指差す。

 

「その席が空かなければ、お前はS級になれないのだ」

 

 周囲の空気が、ひどく冷えた。

 今まで必死に話し合い、走り回ろうとしてくれた皆の熱気が揺らいでいく。

 

 だけど、私の方はむしろ怒りを力に、一歩を踏み出した。

 

「風向きが悪かった時はだんまりだったのに、制度を思い出したら、いきなりおしゃべりになるんだね」

 

 でも、それで分かった。

 このエルフは、単に難癖を付けてS級への道を閉ざそうとしてるんじゃない。

 

「あなたは、私が“S級”に行かくのが嫌というより……」

 

 一度大きく息を吸って、整える。

 

「“獣人が上に立つ”のが嫌なんだ」

 

 ざわっ、と空気が揺れる。

 エルフから返答がないと、冒険者たちの中から、低い唸り声が漏れた。

 

「……図星か」

 

「差別かよ」

 

《今まで獣人にS級がいなかったのも、案外そこに理由があるのかもしれないわね。その昔、獣人を奴隷にしてた訳だし、エルフが作った組織――その“顔”に、獣人は要らないって判断なのかも》

 

 ナナは正しい指摘をしている様に思えた。

 エルフの難癖は、可能性の芽を潰そうとしている感じだし、何より偏執的だ。

 

 でも、周囲の視線も構わず、エルフは鼻で小馬鹿にしたように笑う。

 そして、それから勝ち誇る顔付きで言った。

 

「本当にS級を目指すのなら、現S級のいずれかから、その席を奪うしかない」

 

 その声は鋭く、切り裂くかのようだ。

 

「挑み、無様に追い落とされるが良い」

 

 そして、決定的な一言を落とす。

 

「まぁ、獣人にはそこまでが限界だ。どうせ挑むだけ無駄になるだろうがな」

 

 ざわっ、と怒りが広がる。

 

「ふざけんな!」

 

「そんな話、聞いてねぇぞ!」

 

「どんだけ、後出しで条件つけ加えてんだ!」

 

 誰かが叫び、別の誰かが拳を握って怒号を放った。

 でも、エルフは完全に冷静さを取り戻していて、その怒りすら計算に入れているみたいだった。

 

「元から勘違いしていた、というだけだろう。達成者に新たな席を与えると、そんな文言があったか? ないというなら、そういうことだ」

 

 彼は静かに目を細めた。

 

「S級とは、誰もが羨む頂だ。限りあるから価値があり、その席を欲するが故に切磋琢磨する。席が増えることは、今後においても、まずあり得ない」

 

 私は唇を噛み、拳を握りしめた。

 ――この人は、私を追い詰めたいんだ。

 

 魔獣の従属を証明しただけでは終わらない。

 次の鎖を、私の首にかけようとしている。

 

 その時、モンティが唸るように言った。

 

「……じゃあ、試練を突破しても意味ねぇって言うのか」

 

 エルフは肩をすくめる。

 

「意味はある。“S級に到れる“資格を得られたのだからな。昇級を重ねても、挑む権利はA級上位から順番、という部分もある。それを飛ばせるだけでも、大いなる恩恵ではないか」

 

 興が乗ったのか、淡々と告げる声から次第に熱を帯びてくる。

 

「試練とは、例えるなら……門だ。他と違い、壁を乗り越える必要がない。僅かな突起に指を引っ掛け這い上がり、時として下から足を引っ張られる――そうした苦労をせずに済む、というな」

 

 エルフは私の方を小馬鹿にする様にして見つめ、更に続けた。

 

「そして、門を越えた先にある椅子は、あくまで六つしかないのだ」

 

 その言葉は、刃だった。

 冒険者同士の不文律、それを端的に表現していた。

 

 私は息を呑み、視線を落としかけ――そして、アロガを見る。

 

 アロガは静かに座っていた。

 先ほどまでの騒がしさなど気にも留めず、ただ私の横にいる。

 

 その存在が、私の心を支えてくれた。

 エルフは最後に、冷たく言い捨てる。

 

「勘違いするな。お前は“実力を認められた”のではない。あくまで、優先権を得ただけだ」

 

 そうして、強い敵愾心を浮かべて笑う。

 

「S級の席を欲するなら、挑んでみろ。そうでなければ、永遠に下で吠えていろ」

 

 そこまで言って、今度こそ背を向ける。

 広場に残ったのは、怒りと困惑だった。

 

 誰もが言葉を失い、互いの顔を見合わせる。

 その沈黙の中で、私は小さく息を吐いた。

 

 胸の奥に、熱が灯る。

 怒りでも、悔しさでもない。

 

 それは決意だった。

 

 ――奪え。

 その言葉は、脅しみたいなものだったろうけど。

 

 けれど……。

 私はアロガの額に手を置いて、揉む様にして撫でた。

 

 その温もりが、私を現実に繋ぎ止める。

 

(奪わなきゃ、ならないんだ)

 

 私は、拳を握る。

 誰かを倒す。席を奪う。

 

 そんなもの、望んでいない。

 だけど――。

 

 この世界がそういう仕組みなら、そうするしかないと言うなら。私はやるしかない。

 私が一つの決意をしていると、モンティが苦い顔で笑った。

 

「……萎縮するかと思ったら、リルは全然やる気みたいだな」

 

 灰髪の女冒険者が、静かに言った。

 

「頂点は、いつだって椅子取りゲームだ。だからこそ、頂点なんだろう」

 

 獣人の男が唸る。

 

「席を奪う……」

 

 そして、私を見た。

 

「おい。お前、本気でやるのか」

 

「……やるよ」

 

 声は小さかったが、確かだった。

 

「アロガと一緒に、S級になる」

 

 その言葉に、周囲の者たちが一瞬黙り――次に、強く頷いた。

 

「いいじゃねぇか!」

 

「奪ってやれ!」

 

「どうせなら、このまま一気に上まで行く姿が見てぇよ!」

 

 一度は静まっていたものが、再び熱になる。

 

 その熱気、そのやる気を見て、私は改めて知った。

 この街は、私を守ろうとしてくれている。

 

 でもそれは、お母さんがこの街に対して、やった事のお返しで……。

 お母さんはもう傍には居ないけど、それでも守ってくれているのだと、そう感じた。

 

 ――いつも見守ってる。

 お母さんは、そう言った。

 

(お母さん……っ)

 

 目の奥が熱くなり、泣きそうになる。

 けれど私はもう、“守られるだけ”では終わらない。

 

 一人で立ち向かえる強さを手に入れる、とあの日に誓った。

 だから、奪う。

 

 六つしかない椅子の、一つを。

 そして必ず、西に渡って……お母さんの剣とペンダントを取り戻す。

 

 その決意を新たにしている時、アロガが短く鳴いた。

 

「ガォウ……!」

 

 力強く響いたその声は、まるで宣言のように響いた。

 

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