ようこそ暗殺者の卵がいる教室へ   作:塩安

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11.五月一日

 

「31,000ポイント……思ったより少ないね」

 

 ベッドの上で、素早く端末を操作し、グループチャットの内容を確かめていく。

 

「他のクラスは……Aが94,000、Bは78,000、Cは58,000」

 

 Cクラスにほぼダブルスコアかぁ……おかしいな。クラスポイント500は残すつもりだったんだけど。

 

 ……原作のDクラス、何となく1,200ポイントぐらい減点を食らってクラスポイントを0にしたんだと思い込んでたけど、もしかして2,000ポイントぐらい減点食らってたのかな?

 

 だとしたら、ここまで改善したのに300ちょっとしかクラスポイントを残せなかった、というのも計算が合うんだけど。

 

 もしくは知らないところで、誰かがとんでもないやらかしをしてた可能性もある。

 

 授業態度の方は最終的にかなり改善したけど、生活態度の方は徹底しきれてないからね……

 

「まぁでも、これだけあれば生活には困らないし、上出来かな」

 

 チャットに返信しながら、原作とのポイントの差を考察する。

 

 Aクラスは原作と全くポイントが変わっていない。DクラスからSシステムの情報が漏れたにも関わらずだ。つまり、元から知っていたんだろう。

 

 多分坂柳さんだろうね。Sシステムについて看破して、初日か二日目あたりにクラスに周知させたんだろう。

 

 そしてBクラスは原作より130ポイント、Cクラスは90ポイント伸ばしている。

 

 元の減点が多かったCクラスの方がポイント伸ばさないとおかしいんだけど……もしかして龍園君もSシステムについて元から気づいてたのかな?その上でクラスを統一することを優先した。うん、ありえるね。

 

 おっと、急がないと洋介君たちと約束した時間に遅れちゃう。

 

 少し急いで身支度を整え、部屋を出る。エレベーターに乗って一階に降りると、そこには既に洋介君と軽井沢さんが待っていた。

 

「おはよう、二人とも」

 

「渚君、おはよう」

 

「おはよ……」

 

 そのまま三人で学校へと歩き出す。

 

「いやぁ、予想してた通りっぽいね。クラス毎の評価とポイント支給」

 

「……そうだね」

 

「……うん」

 

 二人ともテンションが低い。どうかしたのかな?

 

 ……あ、そっか。Sシステムの仕組みは予想できてて、その上で頑張ったのに、Aクラスにトリプルスコアで負けてるのか、僕たち。

 

 予想よりは少なかったけど、原作より310ポイントもAクラスに詰め寄ってる!やったね!とか思ってるの僕だけだよね。

 

 その上、この後Aクラス特典についても聞かされて更に凹むのか。うーん……よし。

 

「ほら洋介君!クラスのリーダーがどんよりしてたらみんな路頭に迷っちゃうよ。こういう時こそどっしり構えないと!」

 

「リーダー……僕が、かい?」

 

「そうだよ。他に誰が居るの?」

 

「……そっか。そうだね、うん。その通りだ。こういう時こそ、みんなを支えないとね」

 

 洋介君はそう言うと、ぐっと拳を握った。

 

「軽井沢さんには頼みがあるんだけど、いい?」

 

「えー、なに?」

 

「できればでいいんだけど、ポイントが減る原因になった生徒たちに、ヘイトがあんまり向かないように調整してほしいんだ」

 

「ああ…女子の方ね?うん、おっけー。任せて!」

 

 これでよし。ひとまずこの二人は回復した。

 

 通学路を歩きながら、周囲を観察する。

 

 生徒同士が何やら真剣に話し合っていたり、もしくは頭を抱えていたり、明らかに昨日までとは空気が違う。

 

 教室にたどり着くと、既に半分ほど席が埋まっていた。

 

「平田君っ!やっぱり平田君の言う通りだったよ、どうしよう!ポイント滅茶苦茶減ってる!!」

 

「みんな、落ち着こう。大丈夫だよ」

 

「う、うん」

 

 洋介君がよく通る声でそう言った途端、浮き足立っていたようなクラスの雰囲気が一気に沈静化する。

 

 クラスで誰よりも早くSシステムについて情報を掴んでいたという事実が、洋介君の言葉に説得力を持たせている。

 

「平田君頼りになるよね〜。それに比べて……ほんと最悪。なんであんな奴らと同じクラスなの……!」

 

「はいはい。森さん、うちらも最初はポイント減らす側だったでしょ」

 

「うっ。そ、それはそうだけど……」

 

「気持ちはわかるけど、今クラスメイトを責めても空気悪くなるだけだよ。そろそろ歩み寄らないと、いつまでもクラスがまとまらないし」

 

「……確かにそうかも」

 

 そして軽井沢さんが場の空気をクラス内で協調する方向へ誘導し始める。

 

 軽井沢派の、発言力が強い女子生徒たちがそちらを向けば、ほとんどの女子生徒はその方向を向かざるを得ない。

 

「渚君っ!ちょっといいかな?」

 

「櫛田さん、どうしたの?」

 

「今日の放課後、また話し合いするって言ってたよね?その時になんだけど……」

 

「ああ、なるほどね。良いと思うよ」

 

 そして僕は比較的落ち着いている生徒たちから相談を受けていた。リーダーは洋介君で、参謀は僕だというイメージがあるらしい。

 

「大変そうだな、渚」

 

「綾小路君、手伝ってくれてもいいんだよ?」

 

「今、この状況で俺にできることなんて特にないだろ」

 

 彼はぬぼーっとした顔で他人事のようにそんな事を言ってくる。呑気で羨ましいね。

 

「そうだね……ちょっと佐藤さん呼んで、そこでイチャイチャしててくれない?それだけで人が寄り付かなくなるから」

 

「渚、最近俺への扱いがちょっと雑じゃないか?」

 

「二律背反、あちらを立てればこちらが立たず。ってやつだね。女に走れば男の友情は脆く崩れさるものだよ」

 

「まじか……」

 

「冗談。気が置けなくなっただけだよ」

 

「まじか……!」

 

 

 

 始業チャイムが鳴り、茶柱先生が脇に丸めたポスターを抱えながら入室してきた。教卓の前に立ち、険しい顔のまま話し始める。

 

「これより朝のホームルームを始める。が、その前に何か質問はあるか?聞いておきたいことがあるなら、聞くぞ?」

 

 シンと静寂が教室に訪れた。しかしすぐに、一人の生徒が真っ直ぐ手を挙げそのまま発言し始める。こういう時にクラスの為に真っ先に行動するのは、やっぱり洋介君だ。

 

「茶柱先生。質問はありません。元々こうなることは予想できていました。それよりも、ポイント支給の仕組みについて、先生の口から説明して頂きたいです」

 

「そうか、ふむ。いいだろう」

 

 茶柱先生はそう言うと、ポスターの片方を広げ、黒板に張り出した。

 

「お前たちは既に理解しているようだが、規則なのでな。重複する内容も全て説明させてもらう……これが何か、わかるか?」

 

 紙にはクラスポイントの文字。そして、その下の表には、各クラスと三桁の数字が記載されている。

 

 Aクラス:940cl

 Bクラス:780cl

 Cクラス:580cl

 Dクラス:310cl

 

「クラスポイント……?」

 

「そうだ。この学校はお前たちの実力を評価する、と言ったことは覚えているか?この数値こそが、この一ヶ月の間で再査定された、お前たちの評価そのものだ」

 

「「……」」

 

 声を荒らげるような人は居なかった。事前に櫛田さんや軽井沢さんが根回しをしていたからだ。

 

 ここで池君たちを責めるような声が上がれば、説得した櫛田さんの顔に泥を塗ることになるし、クラスの雰囲気がどん底まで落ち込むことになる。

 

「では、順に説明していくぞ」

 

 そこからの説明も、内容の詳細や実際の仕組みはともかく、ほとんど事前の予想通りだ。

 

 クラス毎に評価され、その評価はクラスポイントという名称であること。

 

 毎月支給されるプライベートポイントは、所属するクラスのクラスポイントに100をかけた額になること。

 

 学力だけでなく素行や授業態度も評価対象であること。

 

「くくっ、まさか、平田がSシステムの裏に気づき、注意を促したにも関わらず、遅刻や欠席、私語やスマホでここまで評価を落とすとはな」

 

「お前たちは見事、自分たちが救いようのない不良品だということを証明してみせたわけだ。立派だな」

 

 この人、本当に教育者なの……?

 

 わざわざこっちのやる気を削ぐ意味がわからない。内心では下克上を狙ってる、はずなんだよね?

 

「それと、お前たちの中にはこの学校の進学、就職実績の高さに惹かれてここへの入学を決めた者もいるだろう。だが、世の中はそんなに甘くない。希望進路を叶えてもらえるのは、卒業時にAクラスに在籍していた生徒だけだ」 

 

「な?!どういうことですか先生!!まさか、騙したんですか?!」

 

 幸村君が勢いよく立ち上がり、茶柱先生へ怒鳴るように言い募る。

 

「座れ幸村。嘘をついたわけじゃないし、お前達にもチャンスはある」

 

「チャンス…?」

 

「言ったはずだ。卒業時にAクラスに在籍していることが条件だと。この学校は、成績によって()()()()()()()()()()()()()。例えばお前たちが、もし940以上クラスポイントを残していたのなら、お前たちはAクラスになっていた、ということだ」

 

「っ!それが、特典か」

 

 洋介君が発表した推測の中にもあった内容だ。貰えるポイントが増減するだけじゃ、クラス間での競争を促す仕組みとしては弱い。

 

 生活に困らない程度のポイントが手に入るなら、そこそこで満足する人もいるだろうから。

 

 だから何らかの特典、もしくはペナルティがあると予想していたけれど、それがまさかこの学校が看板として謳っていた就職、進学実績のことだとは思っていなかったらしい。

 

「それともう一つ、お前たちに伝えなければならない残念な知らせがある」

 

 茶柱先生はそう言うと、残っていたもう片方のポスターを、先程のポスターの横に張り出した。

 

「馬鹿な生徒が多いお前たちにも、これが何かは理解できるだろう?そう、先日受けた小テストの結果だ」

 

 張り出された紙には、名前がずらりと並んでいる。点数が高い順だ。

 

 1位は同率で高円寺君、堀北さん、幸村くん、王さんの90点。僕は85点で、櫛田さんと洋介君に並んで同率5位だね。

 

 うーん、パッと見で平均は……70くらい?原作での平均点とか覚えてないけど、みんな真面目に授業受けてた分、少しは上がってるはず。 

 

「揃いも揃って粒揃いだな。中学で一体何を学んできたんだお前らは?」

 

 しかし、茶柱先生はこの点数でも不満らしい。

 

 まぁ解いてみた感じ、中学基礎レベルだったしね。1問5点だし、最後の難問3つはともかく、ちょっとしたミス込みで80点は取ってほしいテストだったんだろう。

 

「良かったな。これが本番なら、6人の生徒が退学になっていたところだった」

 

「た、退学?どういうことですか?」

 

「おっと、言い忘れていたな。この学校では、中間テスト、期末テストで一教科でも赤点を取った者は、退学することになっている。今回のテストで言えば、35点未満の生徒だな」

 

「は、はああああぁぁ?!」

 

「ちょっ!聞いてないですよ茶柱先生!!」

 

 茶柱先生が赤ペンで35点未満の生徒の上に線を引くと、教室の中から悲鳴が上がった。

 

「当たり前だ、今初めて言ったんだからな。だが、これはこの学校のルールだ。腹を括れ」

 

「そんな!酷すぎますよぉ!退学なんて冗談じゃない!!」

 

「本堂くん、みんな、落ち着いて。大丈夫だよ、テストに関しては僕に考えがある」

 

「ひ、平田……」

 

 洋介君の株がストップ高だ。頼りになり過ぎる。……トップが優秀過ぎると下が思考停止しちゃうかもしれないから、ちょっと加減を気をつけないとだね。甘やかしすぎは良くない。

 

 まぁ洋介君のテスト対策は、みんなで勉強しましょうっていう至極当然のものだから、ひとまずは大丈夫かな。

 

「ふっ、お前たちも多少は目が覚めたか?これで伝えるべき事は全て伝えた。質問があるやつは居るか?」

 

「はい」

 

 おっと、茶柱先生はすぐに質問打ち切るから、急いで手を挙げないと。

 

「潮田か、なんだ?」

 

「えぇと……質問は3つです。最初に、今回のクラスポイント減少についてなんですけど、具体的にどんな計算で減点されたか、教えて貰えますか?」

 

「それは言えない。規則なのでな。社会に出ても人事考課の査定内容を教えるか否かは企業が決めることだ。それと同じで、この学校でも詳細は教えられないことになっている」

 

 知ってた。しかも多分この評価、四月中はかなり厳しいんだよね。四月以外でまともに素行不良での減点があったとわかるような点数変動、ほとんどないし。

 

 基準が変動する上に、先生方の見落としも間違いなくある。そりゃ公表したら不満爆発するだろうし、できないだろう。

 

「わかりました。では二つ目に、クラスポイントを増やす方法について、教えて貰えませんか?」

 

「……いい着眼点だな。先程言った通り、この学校はお前たちの実力を評価する。評価が上がれば、自ずとクラスポイントも上昇するだろう。だが、その詳細は現時点では教えられない」

 

 はい、次。 

 

「では最後に、先生は赤点について、今回は35点だとおっしゃいましたが、それは赤点が変動するという意味ですか?」

 

「その通りだ。科目ごとの赤点は、その科目のテストの平均点、それを2で割って小数点一位を四捨五入した点数だ。ああ、以下じゃなくて未満だぞ。良かったな」

 

「な?!ふざけんな!めっちゃ重要なことじゃないですか!なんで説明してくれなかったんですか!?」

 

「すまないな。ついうっかり忘れていた」

 

「はあぁ?!ちょっと!他にもなにか伝え忘れたことないか!ちゃんとチェックしてくださいよ!」

 

「そう怒るな。うっかりすることは誰にでもあるだろう。伝え忘れたことは、もうないぞ」

 

 あまりにも態度がおざなりだ。謝意があるようには全く見えない。そんな様子に毒気を抜かれたのか、声を張り上げた生徒もズルズルと力なく椅子に座り込んでしまった。

 

「……ありがとうございました。質問は以上です」

 

「他に質問があるやつは……居ないな。では、中間テストまでは後3週間だ。まぁじっくりと熟考し、退学を回避してくれ。お前らが赤点を取らずに乗り切れる方法はあると確信している。できることなら、実力者に相応しい振る舞いをもって挑んでくれ」

 




昨日投稿した最新話ですが、今後の展開と合わない部分があったため、取り下げさせていただきました。楽しみにしてくださっていた皆さん、混乱させてしまって本当にごめんなさい。

また改めて良い形でお届けできるよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします。
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