ようこそ暗殺者の卵がいる教室へ   作:塩安

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13.承認欲求モンスター

 

 今思えば、原作の堀北勉強会のメンツって、Dクラスで一番組み合わせちゃいけない人たちの集合だったよね?

 

 水と油と金属ナトリウムとガソリンとウランって感じ。化学災害でも起こそうとしてたのかな。

 

 なんであれで上手くいったんだろう……?

 

 

 

 

 今日は勉強会の始動日だ。堀北さんが最初から洋介君と連携を取る意思があったから、勉強会は二手に分けて運営するという事になった。

 

 平田組と堀北組だ。名前は原作と変わらない。

 

 平田組は洋介君と僕と王さんを教師役にして、主に女子生徒を教えるグループだ。男子生徒も大人しめの人たちはこっちに参加している。

 

 堀北組は、堀北さんと櫛田さんを教師役にして、主に洋介君に反発していた男子生徒を中心に教えるグループだ。

 

 人数的には平田組の方が倍は居るけど、教えるための労力は間違いなく堀北組の方が大きい。

 

 そして須藤君は池君と山内君に付き合って堀北組に参加するらしい。

 

 うーん、不安だ。

 

 須藤君、昼休みとか部活のない日にちょくちょく洋介君から勉強を教わってはいるものの、まだまだ中学生レベルから抜け出してない。

 

 三バカ全員そうなはずだし、堀北さんとは間違いなく衝突する。そこまではいい。

 

 そこに綾小路君が居ないんだよね。フォローしてくれる人員がいない。そして他の男子生徒たちがいて、延焼する可能性もある。

 

 ああ……適当な理由つけて抜け出して、最初だけでも堀北さんたちの方を見ていたいぐらいだ。

 

「渚君〜!これどうやって解くの?」

 

「えっと……そうだね、濃度計算は全体の重さが大事なんだ。単位に注意して書き出して整理すれば……」

 

「えっと、こう?」

 

 そんなことできないんだけどね。こっちも余裕があるわけじゃないし。

 

「……すまん。ちょっと腹痛いから、トイレ行ってくる」

 

 あ、綾小路君……!

 

「ありがとう!後でジュース奢るよ」

 

「なんで腹痛に感謝されてるんだ……?まぁ貰うが」

 

 だってそっちトイレじゃないし。あと少しはお腹痛そうな顔しなよ。

 

 

 

 

綾小路『すまん、堀北グループの勉強会は失敗した。解散した生徒をそっちに合流させてくれないか?』

 

平田『了解したよ。何があったのか教えてもらえるかい?』

 

櫛田『堀北さんが須藤君たちにキツい事を言って、それで口論になっちゃった感じだよ( > <。)ごめんね』

 

佐藤『絶対やると思った。堀北さんって勉強できない人のことめっちゃ見下してるもん。上手くいくわけないよ!』

 

森『それ言えてる。てかさ、堀北居なかったら櫛田さんが上手くやってたんじゃないの?』

 

 

 グループチャットを閉じ、端末をしまう。

 

 まぁそうなるよね……んー綾小路君が居るなら堀北さんと櫛田さんは大丈夫だろうし、他の男子生徒たちのフォローしないと。

 

「渚君どうしたのー?」

 

「ごめん、ちょっと用事できたから抜けるね。今やってるプリント終わったら、幸村君に採点してもらって」

 

「えー。私、幸村くん苦手なんだけど……しょうがないなぁ」

 

「ごめんね、急ぐから」

 

 チラリと洋介君にアイコンタクトを送ると、彼も頷いてくれた。洋介君は抜けられないからね、僕に任せておいてよ。

 

 教室を出て昇降口に向かうと、ちょうど櫛田さんが校舎に入ってきたところだった。しかし彼女は僕に気がつくことはなく、そのまま階段を登っていく。

 

 そして、彼女を追いかけるように、綾小路君も階段へ向かった。

 

 あ、これ櫛田さんの裏の顔がバレるイベントだ。

 

 僕はスマホのカメラを起動しつつ、気配を殺して綾小路君の後をつける。

 

「っ?!」

 

 こっそり音を立てないように追いかけたはずなのに、急に振り返った綾小路君と目が合って、肩が飛び跳ねるぐらいびっくりした。

 

 綾小路君は顔の前に指を立てて「静かに」のジェスチャーをしながら、僕を手招きした。逆らえるわけもなく、僕はそそくさと彼に近づく。

 

「あーーーーウザい。マジでウザい。ムカつく。死ねばいいのに……」

 

 ちょうどその時、階段の上から櫛田さんのものとは思えないほどの低く重い声が聞こえてきた。

 

 綾小路君は「ほぇ?」とでも言いそうな間抜けな顔を晒している。写真撮っちゃダメかな?ああ内ポケで録音してるんだった。

 

 しばらくの間彼女がブツブツと愚痴を吐いているのを聞いていると、何を思ったのか彼女は思い切りドアを蹴りつけた。

 

 ガンッ!と予想以上に音が響き、櫛田さんは周囲を警戒するように見渡す。当然、綾小路君と、そのすぐ後ろに居た僕もばっちり彼女に見つかってしまった。

 

「ここで……何してるの?」

 

「あー道に迷ってな。いや、悪い。俺たちはすぐ立ち去るよ」

 

「嘘くさ……」

 

「嘘だよ。綾小路君が櫛田さんを尾行してたから、事件性を感じて追いかけてきたんだ」

 

「!!?」

 

 おお、綾小路君、最近は表情筋を鍛えてるのかな?

 

「うわ、気持ち悪……」

 

「ちが、いや、その、えっと……!」

 

「はぁ……最悪。一番バレたくない奴にバレちゃったなぁ」

 

 櫛田さんはギロリと僕の方を睨みつけながらそう吐き捨てた。

 

「それ僕のこと?でもお互いに何となく察してたし、別にバレたところで何もないでしょ。同類のよしみとして誰にも言わないよ」

 

「アンタのそれと一緒にしないでくれる?気持ち悪い。というか、察してるのとバレてるのとじゃ全然違うんだけど?」

 

 そうかな。どっちにしろ八方美人には変わりないと思うけど。

 

 強いて言うなら、櫛田さんのそれは仲良くなること自体が目的なのに対して、僕は人脈とか情報網として使うためにやってる。

 

 つまり下心バリバリなのが僕で、ただみんなと仲良くなるために努力してるのが櫛田さんだ。 

 

 ん?いや、なるほど。確かに櫛田さんからしたら一緒にしないでと言いたくもなるか。 

 

「ああ、確かにそうだな。潮田も友達には優しいけど、性格の悪さはあんまり隠してないしな」

 

 そこ?それより、もう復活したのか。

 

 というか今、間違いなく櫛田さんの地雷踏み抜いたね、綾小路君。ご愁傷さま。

 

「……性格の悪さ、隠してて、悪かったね?」

 

「あっ」

 

「はぁ……」

 

 つかつかと、櫛田さんが階段を降りてきた。

 

「今ここで聞いたこと、誰かに話したら容赦しないから」

 

「ああ、わかった。誰にも話さない」

 

「僕も誰にも話さないよ」

 

「もし約束を破ったら、あんたらにレイプされそうになったって言いふらす」

 

「冤罪だぞ、それ」

 

「大丈夫よ、冤罪じゃないから」

 

 そういうと櫛田さんは()の手をつかみ、その手のひらを自分の胸に押し付けた。

 

 あれ?なんで僕?うわ、でか、おっぱい、やわ。

 

「これで指紋取れたから、証拠もある。私は本気よ。わかった?」

 

「…………」

 

「……?……おい」

 

「……っ痛ぁっ!えっ!なに?!」

 

 脛につま先蹴りがヒットし、あまりの痛みに悶絶する。

 

「返事してよ!いつまで呆けてんの?馬鹿っ!!」

 

「しょうがないじゃん!馬鹿はそっちだよ!自分の可愛さとその体の破壊力、ちゃんと自覚してるくせに、なんてことするのさ!」

 

 ほら、横を見なよ!綾小路君ですら「いいなぁ…」みたいな顔してるんだけど?!

 

「いたた……というかさ、誰でも裏の顔くらいあるでしょ。別に気にすることないと思うけどな。それに、櫛田さんのそれが演技なのは、多分、女子には割とバレてるよ」

 

「は??そんなわけないでしょ」

 

「いや、だって山内君とか池君に対しても優し過ぎるし。まともな女子ならプールの時とかのあの二人には、絶対話しかけないし。違和感ありまくりだよ」

 

「あー、それは確かに……今日の勉強会でも一度も櫛田の顔見てなかったな。ずっとお前の胸見てたぞ、あいつら。あれは男子から見ても相当キツい」

 

「……」

 

 櫛田さんは引きつったような顔になった。「誰とでも仲良くなる」ことが目標なのに、彼ら相手にそれをしようとすると、逆に目標から遠ざかってしまうことに気がついたようだ。

 

「別に裏があろうが無かろうが、櫛田さんが可愛くて優しくて人気者なのは変わらないんだから、自信持ちなよ」

 

「うっさい。そんなこと言っても、このことがバレたらみんな私の事、嫌うに決まってるっての」

 

「本当にそうかな?櫛田さん、裏表のない人を頭に思い浮かべてみなよ。ちゃんとさ」

 

 ちなみに僕の頭には三バカと高円寺君が思い浮かんでるよ。

 

「まぁ、櫛田さんが高円寺君を目指すって言うなら、止めないけど」

 

「ぶっふぅ!」

 

 うわ、綾小路君、汚い。

 

「目指すわけないでしょ。馬鹿じゃないの」

 

「知ってるよ。ちょっとした冗談。ともかく、僕も綾小路君も絶対にこのこと喋ったりなんかしないし、櫛田さんに裏の顔があることを知ったからって嫌ったりしないよ。それをちゃんとわかってほしかったんだ」

 

「…………わかった。もういい。とりあえずは信用することにするよ」

 

 櫛田さんは階段を登ると、自分の鞄を持って降りてきた。

 

「じゃあ、みんなで帰ろっか♪」

 

「うん」

 

「あ、ああ」

 

 いつも通りの櫛田さんだ。さっきまでのドロドロとした情念を微塵も感じられない、人好きする可愛らしい笑顔で、階段を跳ねるように降りていく。

 

 僕とすれ違う一瞬、彼女は小さな声でぼそりと呟いた。

 

「ありがと」ね。良かった。ちゃんと彼女の心に僕の気持ちを届かせることには成功したらしい。

 

 まぁ、この録音は念の為、保存しておくんだけどね。

 

 いざという時のカウンター。もしくは、洋介君が何らかの理由で再起不能になった時に、これで脅して櫛田さんを操縦するサブプランの為だ。

 




平田(須藤君たち、喧嘩しないか心配だ……櫛田さんがいればなんとかなるかな?)
渚(火薬庫で花火パーティしてるじゃん。ウケる)
 ↓
平田(ダメだったか……また櫛田さんに負担をかけてしまった。彼女のメンタルが心配だ、どうフォローしたものか……あ、渚君、行くのかい?じゃあ櫛田さんのこと、頼むよ)
渚(OK!綾小路君のフォロー力なら堀北、櫛田は放置していいし、男子生徒s見てくるね!)
 ↓
平田(櫛田さんの機嫌が凄く良くなってる!さすが渚君!)
渚(いざと言う時のための切り札ゲット!やったぜ!あ、男子生徒s忘れてた……まぁいっか!どうでも)

櫛田(〜♪)
綾小路(櫛田も渚も素の性格は悪いんだな……ま、まさか平田も?!)
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