ようこそ暗殺者の卵がいる教室へ   作:塩安

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17.生徒会の刺客

 

「渚君、生徒会書記任命おめでとう。でも言ってくれたら良かったのに」

 

「ごめんごめん。ちょうどテスト期間中だったからさ、言い出せなくて」

 

「渚君!生徒会入ったって本当?!」

 

「一年生は渚君だけなんだよね?凄いじゃん!」

 

「あ、うん」

 

 

 朝のホームルームで僕の書記任命が公表され、クラスメイトにもみくちゃにされていた。

 

 一時的なものだとはわかってるけど、ちょっと嬉しい。

 

 僕の現状の立ち位置は、Aクラスで言うところの橋本君に近い感じだ。

 

 サブリーダーって感じではなく、能力は高めだけど、トップレベルでもなく。

 

 クラスメイトから見ればリーダーの付き人、みたいな印象だろう。

 

 クラスになにか働きかける時は必ず洋介君を経由してたし。

 

 だからこそ今回の生徒会入りは目立つ。

 

 「え?お前が?!」みたいに思われてる感じだ。

 

 とはいえ、多分三日もせずに落ち着くと思う。Dクラスの生徒は良くも悪くも感性が若いというか、そんなに面白い話題でもないからね、生徒会なんて。

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 

「お前、なんでDクラスに配属されたんだ?」

 

「え?」

 

 

 いつも通りの日常に、生徒会業務が加わって1週間経った。そろそろ通常業務は慣れてきたかなというタイミングで、生徒会副会長の一人、南雲雅先輩にそう声をかけられた。

 

 

「いや、単純に気になってな。お前が優秀なのは、ちょっと見てたらわかる。最初はヘラヘラしやがって気に食わねーな、って思ってたんだがな。思ったより役に立つじゃねえか」

 

「いやぁ、褒めてもお茶しか出せませんよ?アイスティーでいいですか?」

 

「くく、褒めてみるもんだな。得したぜ」

 

 

 南雲副会長はなんというか、不思議と憎めない先輩、という皮を被るのが上手いタイプだ。いい感じに空気を読まず、でも相手が嫌がる一線は越えてこない。

 

 櫛田さんのコミュニケーション能力とはまた別種の、相手に心地良さを覚えさせるような不思議な距離の詰め方をしてくる。

 

 まぁ、演出なんだけどね。

 

 

「だからこそ気になってな。優秀だし、教師ウケもいい。お前はどう考えても上位クラスに配属されるタイプだろ?」

 

「あー……まぁ、その辺は聞かないでいただけるとありがたいですね」

 

「ま、言いづらいよな。わかるぜ、俺もそうだったからな」

 

「どういうことですか?」

 

「俺は二年Aクラスのリーダーをやってるんだが……実は入学時はBクラスだったんだ。中学の頃に、ちょっと人間関係が上手くいかなくてな」

 

「なるほど」

 

 

 うーん適当言ってるね。僕に嘘は通じませんよって言ってあげた方が良いのかな。

 

 多分、こちらの共感を得る事で、親近感を覚えさせようとしてるんだろう。

 

 人の悩みの9割は人間関係なんて言われるぐらいだ。適当に人間関係が上手くいかなかったなんて言っても、大抵の人にはそこそこ刺さる。

 

 

「別にもう克服したんだけどな!で、お前はどうなんだ?別に言いたくなきゃそれでもいいが、人に言えばそれだけで心が軽くなることもあるんだぜ?」

 

 

 なるほど、これは人たらしだ。この人になら、と思わせられるというか、カリスマというか、魅力かな?つい心を傾けたくなるような力がある。

 

 今も、あくまで善意で聞いているように見える。実際はこっちの弱みを探ってるんだろうけどね。

  

 

「すみません。言えないですね」

 

「おいおい、人に言えないぐらいやばいやらかしって事か?ま、お前みたいに優秀な奴がDにいるんだし、そりゃそうなんだろうけど。別に言いふらしたりしないっての」

 

「いや、そうじゃなくてですね。……南雲副会長みたいな危険人物に、わざわざ弱み見せるようなことする程馬鹿じゃないんですよ、僕は」

 

「……」

 

 

 南雲副会長の表情は、何も変わっていない。人好きするような無邪気な笑顔のままだ。なのに、一気に部屋の温度が下がったような錯覚を覚えた。

 

 

「あー……なんだ、知ってたのかよ。いや、堀北先輩から聞いたのか?」

 

「まさか!多分僕も要監視対象扱いです。ただまぁ、二年の要注意人物について全く知らないです〜。なんて危機意識の欠片もないやつを、堀北先輩はスカウトしたりなんてしませんよ」

 

「なるほどな。確かに、それはそうか」

 

 

 南雲先輩は何が面白かったのか、口に手を当て、くつくつと笑いを堪えている。

 

 

「今年の一年は面白い奴が多いな。お前といい、坂柳といい」

 

 

 もう接触してたんだ、そこ。

 

 

「坂柳さんですか、まだ話したことないんですよね」

 

「そうか、なら、楽しみにしとくんだな。いずれお前らはぶつかる事になる。必ずな」

 

「なるほど……南雲先輩的には、僕と坂柳さんで戦えば、どっちの方が勝つと思いますか?」

 

「坂柳だな」

 

「即答ですか……」

 

 

 まぁ僕もそう思う。闇討ちありなら勝てるかもしれないけど、その後困るし。というかそこまで手段を選ばずに勝ちたいわけでもない。

 

 

「くく、そもそも坂柳は人を動かすタイプで、お前は自分で動くタイプだろ。純粋な知恵比べでも、クラス同士の戦いでも、どっちにしろ坂柳の土俵だ」

 

「なるほど」

 

 

 一理ある。

 

 ただ一つ南雲先輩が勘違いしてることを指摘するなら、クラス同士の戦いなら割と勝ち目はあるんだよね。

 

 なんせDクラスは役者が揃い過ぎている。

 

 綾小路君と高円寺君という超級のジョーカーが二人。洋介君、櫛田さん、堀北さんといったエース枠に、松下さん、須藤君、幸村君、王さんみたいな主力キャラがゴロゴロと居る。

 

 よく考えなくてもバランス調整間違えてるよね。実際、二年の最終盤でDクラスはAクラスまで上がってるし。

 

 

「お前はどうなんだ?同学年で、面白そうなやつの目星、ついてないのか?」

 

「そうですね……Cクラスの龍園君とかですかね?泥臭くて僕の好きなタイプですよ」

 

「へぇ、熱血系か?あんまりこの学校では見ないタイプだな」

 

「いえ、熱血では…ない、と思います、努力家ではあると思いますけど」

 

「?」

 

 

 冷血系かな。そんな言葉ないけど。

 

 

「飲み終わりましたか?ちょっと教えてほしいことがあるんですけど…」

 

「なんだ?」

 

「剣道部の牧野先生に伝えることがあるんですけど、牧野先生の顔がわからなくてですね」

 

「あーわかった。ついてってやるよ」

 

「え、いいんですか?ありがとうございます」

 

「あの人ほとんど職員室にいねえからな。呼び出せないし顔知らねえと困るんだよ」

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 

 そろそろ五月が終わる。つまり、須藤君の暴力事件の季節だ。

 

 バタフライエフェクトとかでそんな事件起きませんでした!なんてことになる可能性もあるけど、まぁ起きるだろうね。

 

 須藤君、学力方面は多少改善してるけど、性格的には全く変わってないし。

 

 

「ねえ、聞いてんの?」

 

「……え、ごめん。聞いてなきゃいけない話してた?…いたたたたた!」

 

「私の話に聞かなくていいものなんて一つもないんだけど?」

 

 

 嘘でしょ……いつも誰がキモいだの誰がウザいだの愚痴しか喋んないじゃん。情報量カッスカスじゃん。

 

 

「……ん?なんで櫛田さんいるの?上げてないよね?」

 

「は?今さら気づいたの?」

 

 

 え、こわ。なんで僕の部屋に勝手に入ってるの?

 

 

「合鍵作ったからに決まってるでしょ。あ、軽井沢さんも持ってるよ」

 

「……僕のプライバシーは?」

 

「浜で死んでたよ」

 

 

 そっかぁ、とはならないよ。

 

 

「せめて連絡して、本当にお願いだから」

 

「大丈夫、大丈夫。あんたがオナニーしてるとこに出くわしても、写真撮って脅しのネタ増やすくらいしかしないから」

 

「ドアチェーンかける癖つけないとだね……」

 

 

 あとドギツい下ネタやめてほしいな、心臓がドキドキしちゃう。悪い意味で。

 

 

「で、池のことなんだけど」

 

「あ、話続けるんだ」

 

「真面目に聞いて、割と本気で悩んでんの」

 

「うん」

 

「最近、池がマジで気持ち悪いの。どうやってるのか知らないけど、出先で偶然を装って挨拶してきたり、謎にこっちの予定知ってたり、完全にストーカーだよあれ……」

 

「……ん?……あっ」

 

 

 そうじゃん、連絡先交換した人の位置情報わかるって仕様を最初に見つけたの、池君じゃん。もう見つけてたんだ……あれ?ヤバくない?

 

 

「櫛田さん、今すぐ自分の部屋戻って」

 

「は?なんでよ」

 

「いや、マジでやばいかもしれない。ちゃんと説明するから、一旦、今すぐ、部屋に戻って。一応聞くけど櫛田さん、30分もここにいなかったよね?」

 

「え?う、うん、来てから10分も経ってないと思うけど」

 

「ならバレててもギリギリ言い訳効くかな」

 

「ちょっと、押さないでよっ!歩くから!」

 

 

 池君から何か連絡とか来てないから、まだセーフだと思う。でも、櫛田さんが僕の部屋に居るってバレるのは、本当によろしくない。

 

 

 

 

 

『はああああぁぁっ?!!なにこの機能!バッッッカじゃないの?!』

 

「耳が痛い」

 

 

 右耳がキーーンってなって聞こえなくなったので、左耳に端末を移す。

 

 

『最低、最低、最低、なにこれ。気持ち悪過ぎるんだけど?!』

 

「設定からOFFにできるよ」

 

『デフォルトをOFFにしとけよ!頭おかしいんじゃないのっ!この学校!』

 

 

 それはそう。

 

 ああ、いやでも、今その機能を女子に広められるのはちょっとまずいか。

 

 

「ごめん、OFFにするの待ってくれない?」

 

『は?嫌だよ』

 

「ごめん、お願い。事情があるんだよ。それも説明するから、ちょっと待って」

 

『……くだらない理由だったら殺すから』

 

「OK、ちゃんと説明するから、ちょっと待ってね」

 

       ・

       ・

       ・

 

『佐倉さんがグラビアアイドルの雫で、絶賛ストーカー被害に遭ってて、念の為に佐倉さんの動きを見守りたいから、この件が解決するまでは女子に位置情報OFFにできることを広められるのは困る、と』

 

「うん、櫛田さんは絶対一人だけOFFにしたりしないでしょ?絶対他の人に注意喚起する……だからまだ気づいてないってことにしてほしいんだよね」

 

 

 正直、原作の佐倉ストーカー問題の解決方法はほぼ理論値だ。僕という変数がある以上、間違いなく誤差は生まれるし、その誤差が致命的な方向に転がらないとも限らない。保険はいくらあってもいい。

 

 

『……っ、ふーー……そうだね。そういうことなら、仕方ないかな。……で?それ、いつ解決すんの?』

 

「あーそれはちょっと、わかんないんだよね。犯人の目星もついてないし、そもそも何から始めればいいのやら」

 

『ちっ……!これってさ、警察に通報したら一発なんじゃないの?』

 

「無理かな。ストーカーって罪を立証しにくい犯罪の代表格だからね……被害がなきゃ警察は動けないし、即解決ってことにはならないと思う。というかそもそも、僕が気づいたのはたまたまだし、被害者の佐倉さんが声をあげないことには解決しようもないっていうか」

 

『……そういえば、顔見て気づいたって言ってたよね』

 

「ん?うん」

 

『ふーん……渚君、雫のファンなの?』

 

「いや、別にかな。佐倉さんの顔、なんか見覚えあるなぁと思ってたんだけど、ふと思い出したんだよ。それで確かめるために調べたらブログの粘着コメントを見つけたって感じ」

 

『……そう』

 

 

 原作知識です!なんて言えないし、ファンでもないから詳しいこと聞かれてもわからない。多少不自然でも、たまたま気づいたってことにするしかない。

 

 

「問題は、聞き出すにしても僕も櫛田さんも佐倉さんに怖がられてるってとこだよね」 

 

『……いるのよね、ああいう、対人経験カスの癖にやたら人の視線に敏感なやつ』

 

「視線に敏感だから人とうまく話せないタイプなんじゃない?」

 

『なのにアイドルしてるって何?自分の体には自信ありますよ〜って?あーヤダヤダ気持ち悪い』

 

 

 ブラック櫛田さん、そんなだから佐倉さんに怖がられてるんですよ。

 

 というか、アイドルへの適性は多分、櫛田さんの方が上だよね。佐倉さんはどちらかと言うとモデルへの適性が高い。そんな気がする。

 

 

「僕よりは櫛田さんの方が距離近いし、ちょっと気にかけてくれないかな。一番仲良くなれば相談してくれる可能性もあるし」

 

『それしかないか……いざという時は渚君が肉壁になってね』 

 

「わかってるよ。これで何もしないつもりだったら、それこそただ位置情報抜き続けてるだけのストーカーじゃん……あ、そうだ櫛田さん、佐倉さんの連絡先、僕に送ってよ」

 

 

 そうだった。そもそもまだ佐倉さんとは連絡先交換してないんだった。

 

 

『は?嫌だけど。てか持ってなかったの?なのに連絡先手に入れた前提の作戦立てるとか馬鹿じゃないの』

 

「ぐっ……いや、いいから連絡先……」

 

『絶対無理。自分で交換してよ。友達の連絡先を勝手に他人に渡すとか、私のイメージ壊れるでしょ、ちょっとは考えてよ』

 

「えぇ…許可取ればいいじゃん」

 

『そのまま返すよ、自分で声掛けて交換すればいいじゃん』

 

「だから僕、佐倉さんに怖がられてて……」

 

『知らないって、私が佐倉さんに嫌われるリスク冒すよりはマシでしょ。二人とも佐倉さんに近づけなくなったら、その時点で詰みなんだけど?』

 

「……それは確かに」

 

『そもそも私は、もう既に池にストーカーされてるのを我慢してんの。ちょっとはあんたも身を切りなよ』

 

「ごもっとも」

 

 

 うーん、でも僕、佐倉さんとほとんど話したことないんだけど、上手くいくかな……?

 




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