ようこそ暗殺者の卵がいる教室へ   作:塩安

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19.暴力事件の手がかり

 

 須藤君はどうやら、原作通りに問題を起こしたらしい。

 

 Cクラスの小宮、近藤、石崎の3人が、須藤に暴力を振るわれたと生徒会へ訴えてきた。

 

 須藤君も呼び出され、状況を教師に説明した。喧嘩を売ってきたのも、先に襲いかかってきたのも3人の方からだと。

 

 しかし現状はCクラス3人の方が圧倒的に有利だ。被害者の訴えには証拠能力があり、しかも怪我という物証もある。

 

 更に言うなら、普段から粗暴な態度の目立つ須藤君の言葉に、信憑性が無さ過ぎた。

 

 

 

  

 

「俺は何も悪くねえ、正当防衛だ正当防衛」

 

 

 須藤君は悪びれた様子もなく、むしろ不機嫌そうにそう言い放った。

 

 演技でもしおらしくしていれば、少しは心証が良いんだけどね……

 

 

「向こうとこちらで完全に証言が食い違っていて、結論が保留されている。どちらが悪かったかでその処遇と対応が大きく変わるからな」

 

 

 茶柱先生はあくまで教師として中立を貫くつもりなのか、ただやる気が無いのか、事実を淡々と語り続ける。

 

 

「目撃者が居たら手を挙げてくれ。………ふむ、居ないようだな」

 

 

 嫌な雰囲気だ。須藤君の無実を信じている人が、誰一人いない。

 

 いや、洋介君は信じているけれど、誤差でしかないね。

 

 

「学校としては目撃者を探すために、各担任の先生が詳細を話している」

 

「は!?バラしたってことかよ!」

 

 

 それに関しては仕方ないことだろうに。そもそも冤罪を主張したのも、目撃者がいると言い出したのも須藤君だし。

 

 学校としては当然の対応だろう。むしろ須藤君側に寄り添っているぐらいだ。

 

 

「話は以上だ。目撃者や証拠のあるなしに関わらず、来週の火曜には判断が下される。それでは、ホームルームを終了する」

 

「くそっ!」

 

 

 

 

 Dクラスの教室は喧騒に包まれていた。

 

 櫛田さん、洋介君、軽井沢さんの説得で一応は須藤君を助けるという方向で纏まったものの、さっき教室から出て行った須藤への不満はどうしても大きい。

 

 

「なぁ、渚はどうするつもりなんだ?」

 

「あー……実は僕、今回の件は大っぴらには動けないんだよね。生徒会役員として審議を見学することになっててさ」

 

「まじか……」

 

「僕の分まで頑張ってね〜」

 

 

 綾小路君はショックを受けたように頭を抱えていた。

 

 須藤君は今回の件、まず真っ先に洋介君に相談しにきた。呼び出された櫛田さんを含め、その場に居た三人には既に説明していたけど、今回の僕は一応中立的な立場で、戦力外だ。

 

 こっそり助言するぐらいはできるけど、目撃者探しや証拠集めには参加できない。ラッキー……じゃなくて、残念なことに。

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 

「ね〜ほんっと最悪なんだけど!なんであたしらが、こんな面倒くさいことしなきゃいけないの!」

 

「ええ……冤罪だったら可哀想とか言い出したの、軽井沢さんじゃん」

 

 

 今回の審議でのDクラスの勝利条件は、Cクラスに訴えを取り下げてもらうことだけだ。

 

 だから目撃者の証言は無くてもいいし、なんなら目撃者はDクラスの佐倉さんなので、聞きこみ調査は無駄足だ。

 

 もちろん、クラスの団結に水を差すようなことは言えないけど。

 

 

「わかってるわよ。でもめんどくさいの!それに須藤のやつ、全然反省してないし……!」

 

 

 軽井沢さんは僕の部屋のソファーにうつ伏せで寝そべって足をパタパタさせている。

 

 当然のように僕の部屋に入り浸っているけれど、彼女にも端末から位置情報が見られることは教えている。それを広めないで欲しいということも言った。

 

 すると軽井沢さんは即座に自分の位置情報をOFFにし、そのまま普通に友達の位置情報を確認し始めた。

 

 うん。広めてないからいいけど……ぶっちゃけ、引いた。

 

 

「渚君はなんか良い方法思いついてないの?」

 

「うーん、すぐに使える解決方法は無い、かな」

 

「はぁ、使えな」

 

「……パンツ見えてるよ」

 

「……」

 

 

 軽井沢さんは足を止め、スカートの裾の捲れを手で直す。顔は見えないけど、首まで真っ赤だ。初心だね。

 

 

「……で!本当に何も思いついてないの?どうせなんかあるでしょ、渚君だし。早く言ってよ」

 

「僕をなんだと思ってるのさ、本当に無いよ」

 

「えぇ〜じゃあ、明日からもまた無駄に歩き回るの……?」

 

「無駄かどうかは成果次第だよ。頑張って」

 

「うぇ〜〜……渚君、なんで生徒会入っちゃうかなぁ……」

 

 

 軽井沢さんは心底げんなりした様子で、そんなことを呟いた。ちょっと前には凄い凄いと褒めてくれたのに、手首の関節柔らかいなぁ。

 

 

「……ねぇ、それ、誰と連絡取ってるの?」

 

「ん?櫛田さん」

 

「最近2人、仲良いよね」

 

「まー櫛田さんは愚痴吐ける相手とか、少ないしね」

 

「ふ、ふーん。でも、それの相手、私でもよくない?」

 

「え、そりゃ……いや、うん」

 

 

 愚痴で出てくる女子の名前、二位は多分、軽井沢さんだし……そりゃ君には愚痴吐きに行かないだろうさ。

 

 

「で、何の話してたの?」

 

「今週末、一緒にデパートに…「私も!一緒に行っていい?!」……いや、佐倉さんが怖がりそうだから、ダメかな」

 

 

 佐倉さんの壊れたカメラを修理しに行く予定だ。綾小路君じゃなくて、僕がお相手に選ばれたらしい……僕が追加で綾小路君を誘うのは、さすがに変だよね。

 

 これ大丈夫かなぁ……?

 

 

「あ、なんだ……てか佐倉さん?って誰?」

 

「須藤君の斜め前に座ってる、ピンク髪の子だよ」

 

「ああ、あの子ね……あの、子ね」

 

 

 軽井沢さんは下を向くと、とある一点を凝視し始めた。

 

 

「まさか……あ、あたしも無いわけじゃないんだからね!?」

 

「え、急にどうしたの」

 

 

 胸の話かな?それなら、僕はノーコメントを貫くしかないんだけど。

 

 

「くっ……意外とある方だから……!へ、平均ぐらいだけど」

 

「軽井沢さん、にじり寄らないで」

 

 

 立ち上がった軽井沢さんは、両手を広げながらこちらにゆっくり歩いてくる。どう見ても正気じゃない。

 

 

「櫛田さんといい、佐倉さんといい、どいつもこいつも……!最近は一之瀬さんとまで仲が良いらしいじゃん……!」

 

「確かに生徒会入ったから色々聞かれたけど、元々知り合いだし……というか、落ち着いて」

 

「やっぱデカい方が……うぅ……!サイズより形だから!」

 

「ちょっ?!」

 

 

 

 その後どうなったかは、軽井沢さんの尊厳を守るために伏せさせてもらうね。

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 

 日曜日のデパートは、かなり人の往来が激しい。

 

 最大でも480人しかいない生徒たちのためにデパートを建てるとか、馬鹿でしょ。そう思ってたけど、どうやら学校の敷地内で働いている職員さんやその家族の人も利用しているらしい。

 

 待ち合わせ場所に着くと、佐倉さんは既にそこに居た。

 

 見事な不審者ルックだ。あの特徴的なピンク髪と眼鏡がなかったら、ちょっとわからなかったかもしれない。

 

 

「佐倉さん、おはよう」

 

「あ、潮田君、おはよう、ございます……」

 

「マスクと帽子は外した方が良いんじゃないかな、逆に目立ってるよ」

 

「……やっぱり、そうですよね」

 

 

 そう言うと、佐倉さんはおずおずと顔に手を伸ばし、その二つを外した。

 

 

「うん、そっちの方が可愛いよ。メガネも外す?」

 

「か、わ……っ!いえ、これ以上は、その、無理です」

 

 

 佐倉さんはなんというか、もう少し自分に自信を持てば、それだけで覚醒しそうな気がするんだけどな。

 

 いや、容姿には自信持ってるのか。だから隠してるわけだし。

 

 

「おはよー!」

 

「おはよう、櫛田さん」

 

「二人とも、もしかして待たせちゃったかな」

 

 

 元気よく登場したのは櫛田さんだ。ごめんね、と手を合わせてるけど、ちゃんと集合時間五分前だよ。

 

 

「僕は今来たところだよ」

 

「私も、大丈夫です」

 

「そう?じゃあ早速移動しよっか、ショッピングモールの電気屋さんでいいんだよね?」

 

「はい。……すみません、こんなことに付き合わせてしまって」

 

「友達と一緒にお出かけするのに、謝ることなんてないよっ!」

 

「そうだね。実は僕も、結構楽しみにしてたんだ」

 

「!……すみませ…あ、いえ……ありがとう、ございます」

 

 

 三人で歩いて家電量販店へ移動した。

 

 ……にしても常々思うけど、金かけてるね、この学校。

 

 ここまで品揃えよくする必要あるのかな?最新の高画質大型テレビ198万ポイントって……誰が買うのさ、それ。

 

 

「えっと、確か修理の受付は……あった」

 

「行こっか。早く直るといいね」

 

「う、うん。あ……」

 

 

 佐倉さんの足がピタリと止まった。僕はその視線の先にいる店員さんを見る。

 

 なるほど、あいつね。覚えたよ。

 

 

「どうしたの?佐倉さん」

 

「あ、えっと……なんでもない、です」

 

 

 そう言ってぎこちなく笑うと、そのまま修理受付のカウンターへと歩いていった。

 

 櫛田さんと目があったので、少し近づいて小声で忠告しておく。

 

 

「あの人かも、ストーカー」

 

「えっ」

 

「いや、もしかしたら、ね。行こっか」

 

「わかった」

 

 

 佐倉さんを追いかけ、そして一歩前に出て店員さんに声をかける。

 

 

「すみません、この子のカメラ壊れちゃって、修理頼みたいんですけど、いいですか?」

 

「っ!え、ええもちろん。この店舗で購入した商品ですね?購入時のレシートもしくは、保証書はお持ちですか?」

 

「あ……はい、これです」

 

「はい、確かに。ではこちらに、必要事項をご記入ください」

 

 

 そう言って渡されたペンを、横から奪うように受け取る。そしてそのまま、紙に僕の名前や部屋番号を書き始めた。

 

 

「え?ちょ、ちょっと君?このカメラの所有者は彼女だよね?」

 

「プレゼントとかで購入者と所有者が違うこともありますよね?なら、修理後に受け取る人が違っても問題ないはずです。メーカー保証書にはちゃんと販売店も購入日も書かれてますし、法律的にも何も問題はありませんよね?なにか間違ってますか?」

 

「っ!い、いえ。わかりました……だ、大丈夫です」

 

 

 意図的にイラついているふりをしながらそう言えば、店員さんは引き下がった。

 

 記入し終えたので、店を離れる。

 

 

「いてっ!」

 

「佐倉さんまで怖がってるっての」

 

 

 櫛田さんに肘打ちされ、小声で注意される。

 

 横目で反対隣を見れば、佐倉さんが真っ青な顔で縮こまっていた。

 

 

「あ、ご、ごめん」

 

「い、いえ。その、大丈夫です。私のため、ですよね?むしろ、ありがとうございます」

 

 

 そんな健気なことを言われると、なおさら申し訳なくなってくる。

 

 

「ねえ!せっかくショッピングモールに来たんだから、他にも色々見てこうよ」

 

「いいね!そうしようか。よければ二人に、お昼ご飯ご馳走するよ」

 

 

 櫛田さんのフォローに乗っかる。ありがとう!

 

 

「え?いえ、その、ショッピングはいいですけど、さすがに奢ってもらうわけには……」

 

「まぁまぁ、佐倉さん、こういう時は言葉に甘えるものだよ!」

 

「そうそう。佐倉さんみたいな可愛い女の子とお出かけできるなら、それくらい安いものだしね」

 

「んー、そういう軟派なセリフは言わない方が良いんじゃないかな?ちょっと印象悪いよ」

 

「?!」

 

 

 いや、怖がらせたお詫びとか言ったら空気悪くなるから、便宜上そう言っただけで……え、そこで梯子を外すの?

 

 

「ふっ……ふふ」

 

「「!」」

 

 

 え、佐倉さんって笑うんだ。

 

 なんか、鶏が飛んだ時みたいな感動を味わってるよ、今。

 

 

「!……す、すみません」

 

「えっ、謝ることなんかじゃないよ!」

 

「こっちこそごめんね、変にびっくりしちゃって」

 

「いえ、その、色々してくれたのに……あの、今日はありがとうございました。本当に助かりました」

 

「いいよ、いいよ。お礼言われるようなことじゃないし、友達なんだからさ。あ、そうだ佐倉さん、良かったら普通に話してくれないかな?敬語だと少し他人行儀な感じするし」

 

 

 距離を詰めるのが早い。でも、今なら行けると踏んだのか。

 

 こと対人コミュにおいては、櫛田さんは百戦錬磨だ。だからその判断を信じることにする。

 

 

「え、あ、変ですか?意識してるつもりはなかったんですが……」

 

「悪いわけじゃないよ?でも私は敬語が無い方が嬉しいかな。ね、渚君」

 

「うん、そうだね。僕もそっちの方が嬉しいかな」

 

「あ……う、うん。わかり……わかった。頑張ってみるね」

 

「無理はしなくていいからね!」

 

「だ、大丈夫。私も……から……」

 

 

 最後は何を言っているのか聞こえなかったけど、悪い意味ではなさそうだ。

 

 

 

 3人でウインドウショッピングを楽しむ。

 

 たまに何か小物を買っていたりはするけど、基本的にDクラスの僕たちは金欠なので、見て楽しむのが主だ。

 

 でも隣で豪遊してる生徒たちを見るのは、結構胸に来るものがあるね。

 

 うん、頑張ろう。

 

  

 

 櫛田さんは午後に予定があるらしい。なので、昼食を食べたら、そのまま解散する流れになった。

 

 

「いやぁ、美味しかったね。渚君、ご馳走様!」

 

「あ、ありがとね」

 

「僕の方こそありがとう。楽しかったよ」

 

 

 そしてそのまま解散の流れになった。けど、佐倉さんがその場から動かない。

 

 そして一度ぎゅっと目をつぶったかと思うと、意を決したように喋り始めた。

 

 

「あ、あの!……す、須藤君のこと……今日のお礼ってわけじゃないんだけど……その、私でも協力できるかもしれない……」

 

「それって、佐倉さんが須藤君たちの喧嘩を見たってこと?」

 

 

 櫛田さんが、佐倉さんの言葉の意図を拾って纏める。

 

 

「うん。……信じられない、かな」

 

「僕は信じるよ。けど、無理はしなくていいんだよ?別に、恩を着せたかったわけじゃないし」

 

「ううん……大丈夫。目立つのが嫌で黙ってたけど、このままだと後悔、すると思うから」

 

 

 佐倉さんの目には、決意が宿っていた。何を思って、その決断をしたのかはわからない。

 

 けど彼女が勇気を持って、成長の一歩を踏み出したのは間違いない。

 

 

「そっか……ありがとう佐倉さん。きっと須藤君も喜ぶよ!」

 

「うん、佐倉さんが勇気を出してくれて、僕たちも嬉しいよ。ありがとう」

 

「う、うん!」

 

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