ようこそ暗殺者の卵がいる教室へ   作:塩安

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2.入学

 

 満開の桜並木の道を歩き、そのまま校門をくぐる。

 

 新入生らしき生徒たちの人集りに近づくと、どうやら掲示板にクラス分けが書かれているらしい。

 

 人混みの中に入り、Aクラスから順に名前をじっくりと確かめていく。

 

 葛城、神室、鬼頭、坂柳……うんうん、みんないるね。

 

 空手の全国大会を調べて二つ上に堀北学がいることは確認していた。それでもこうして名簿を見て原作キャラ達の名前を確認すると、こう、胸に込み上げてくる物がある。

 

「ふむふむ……お、あった。Dクラスだね」

 

 Dクラスの欄に潮田渚の文字が書かれていることを確認して、僕はほっと胸を撫で下ろした。苦労の甲斐があったよ……

 

「君もDクラスなのかい?」

 

「え?ああ、うん、そうだよ。えっと……」

 

 振り返ると、すぐ近くに茶髪で優しげな顔の青年が居た。その容貌にすぐピンとくる。この癒し系イケメンオーラは間違いなく平田君だ。

 

「急に話しかけてごめん、僕は平田洋介。実は僕もDクラスなんだ。クラスメイトとしてよろしくね」

 

「うん、よろしく。僕は潮田渚。渚って呼んでほしいな」

 

「いいのかい?なら、僕のことも洋介って呼んでほしい」

 

「じゃあ洋介君って呼ぶね。良ければ一緒に教室に行かない?」

 

「ありがとう、こっちから頼みたいぐらいだよ。実はクラスメイトと上手くやっていけるか不安だったんだ。渚君みたいな人と同じクラスになれて嬉しいよ」

 

 もしかして口説かれてる?というのは冗談だけど、溢れ出る陽キャパワーに思わず後ずさりしてしまいそうになった。

 

 君と同じクラスになれて嬉しい、なんて臭いセリフを全く嫌味無く言えるのは素直に尊敬する。これはモテるだろうな。

 

 というか既にモテているのか?周囲から結構な数の熱い視線が集まってきているのを感じる。

 

 僕も目立つほうではあるけれど、さすがにこれは洋介君効果だろう。ボソボソと周囲から漏れ聞こえる声は「イケメン」だの「尊い」だの概ね好意的なものばかりだ。

 

 ……なんかちょっと腐臭がする子もいるな。気づかないフリをしておこう。

 

 

 

 二人で並んで校舎の中を歩く。それとなく周囲を見渡すと、天井の隅には監視カメラが多数設置されているのが見えた。

 

 なるほど、言われなければ気づかないが、一度目に入るとその数の多さが妙に気になる。

 

「へぇ、洋介君はボランチなんだ。凄くフォワード顔だから、ちょっと意外かも」

 

「フォワード顔?よくわからないけど、渚君もサッカーするんだね。今度良かったら一緒にサッカーしようよ」

 

「主人公っぽいってこと。いいよ、やろっか。部活には入ってなかったけど、よく助っ人で呼ばれてたから結構自信あるんだ」

 

 他愛ない雑談をしながら、洋介君の人となりも確認しておく。話してるだけで人の良さが滲み出て、人徳が隠しきれてないね。

 

 わかっていたとはいえ、やはり顔だけじゃなく中身までイケメンだ。三馬鹿達はどうして彼を嫌うことができたんだろう。

 

 イケメンオーラに圧倒されつつも足を進めると、まもなく目的地である一年Dクラスの教室の前に辿り着いた。 

 

「着いたね。席順は前に貼り出されているみたいだ」

 

「そうみたいだね。うーん…席は少し遠めかな」

 

「そっか……」

 

「休み時間にはこっちに来るよ」

 

「!…うん、待ってるよ」

 

 ……ホモじゃないよね?いや、単純に惜しんでくれているだけだろう、うん。なんというか子犬みたいだ。周りの女子たちも、そのあざとさにやられたのか胸を抑えている。

 

「渚君が良ければ、連絡先を交換しないかい?」

 

「もちろん。後で連絡するね……はい」

 

「ありがとう。……よし、登録できたよ。それじゃあ、またね渚君」

 

「うん、じゃあね。洋介君」

 

「ねえねえ!洋介君って言うの?私とも連絡先交換しよ--」

 

 別れを切り出した途端に女子に囲まれて揉みくちゃにされている洋介君に、心の中でエールを送っておく。イケメンも大変そうだ。

 

 指定された僕の席へ目を向ける。一番右の後ろから二番目、つまり綾小路君の一個前の席だ。既にそこにはかの二人組が座っていた。

 

 茶髪をセンターパートにした死んだ目のイケメン、綾小路清隆君。それと黒髪ロングの正統派美少女、堀北鈴音さんだ。

 

 綾小路君が意気消沈しているところを見るに、どうやら既に堀北さんの舌鋒に切り伏せられた後らしい。

 

「大丈夫?」

 

「……え?あ、俺か?」

 

「うん、もしかして具合悪い?」

 

「ああ、いや、大丈夫だ。元気いっぱいだぞ」

 

「そっか、ならいいんだ。よろしくね、僕は潮田渚。名前の方が気に入ってるから渚って呼んでほしいな」

 

「お、俺は綾小路清隆だ。よろしく、な、渚」

 

 どもり過ぎじゃない?と思ったけど、初期の綾小路君は割とコミュ障だったなと思い返す。いや、コミュニケーションの経験がゼロなだけでコミュ障ではないか。それもすぐに学習するだろうし。

 

「あはは、呼びづらいなら潮田でもいいよ。僕は綾小路君って呼ぶね?」

 

「あ、ああ」

 

「良かったわね、綾小路君。貴方のような日陰者にも話しかけてくる奇特な人がいて」

 

「堀北、お前な……」

 

 で、出た。他人と関わる気なんてありません、みたいな態度の癖に毒づくチャンスと見るや否やぶっ込んでくる初期堀北さん節。これはうざい。

 

「えっと、君の名前も聞いていいかな?あ、聞いてたかもしれないけど、僕は潮田渚だよ、よろしくね」

 

「よろしくするつもりはないから、拒否させてもらうわ」

 

 ……いや、うん。これは最初だけだから。むしろあれだよ、孤高の人になるために頑張って周囲に威嚇してる様子は、何となくチワワっぽさがあって可愛いかもしれない。

 

「お前まじか……」

 

「あ、あはは。まぁ、堀北さんって呼ばせてもらうね」

 

「……はぁ。綾小路君、貴方のせいで名前が無駄に知られてしまったわ。後で賠償を請求しようかしら」

 

「理不尽だな。払わないぞ」

 

 うん、やっぱりちょっと可愛く見えてきたかも。とはいえ向こうもちょっと鬱陶しそうな表情になり始めたし、これ以上話しかけ続けると本格的に嫌われそうだ。ここは撤退しよう。

 

「そうだ、綾小路君、よければ連絡先交換しない?」

 

「する!……したいです、させてください」

 

 必死か。

 

「うん。あ、いや、先生来ちゃったみたいだね。後でにしようか」

 

「あ、ああ……」

 

 露骨にがっかりしている綾小路君を尻目に、教卓の前に立つ女教師へと目を向ける。胸元を大胆に露出した、ポニーテールの美人だ。

 

 ……茶柱先生。カジュアルな服ならともかく、スーツにその高さのポニテは……胸元の開け方も……ぶっちゃけ痛過ぎる。アラサーなんだからもう少し落ち着いてほしい。

 

「全員席に着け。……よし。えー新入生諸君。私はDクラスを担当することになった茶柱佐枝だ。普段は日本史を担当している。この学校には学年ごとのクラス替えは存在しない。卒業までの三年間、私が担任としてお前たち全員と学ぶことになると思う。よろしく」

 

 この時点ではまだ茶柱先生は真面目な美人教師という印象でしかない。クラスメイトもまだたるみきってないからか、静かに説明を聞いている。

 

「今から一時間後に入学式が体育館で行われるが、その前にこの学校の特殊なルールについて書かれた資料を配らせてもらう。以前入学案内と一緒に配布はしてあるがな」

 

 前から回されてきた冊子を、一部取って後ろに回す。内容は既に見知ったもので、代わり映えはない。

 

 毎月一日にポイントが学校から支給される。そのポイントを使って学校の敷地内にあるものならなんでも購入可能。既に全員に10万ポイントが支給されている。等だ。

 

 茶柱先生の説明は全て入学案内を読んだだけでわかる内容と一致していた。支給されるポイントが10万だというところで少し教室内がざわついたが、その程度である。

 

「残高は別途支給された端末からいつでも確認できる。振り込まれた後、ポイントをどう使おうがお前たちの自由だ。好きに使ってくれ。仮にポイントを使う必要がないと思った者は誰かに譲渡しても構わない。それも端末から操作すれば簡単にできる。だが、無理やりカツアゲするような真似だけはするなよ?学校はいじめ問題には敏感だからな」

 

 改めて聞くと悪意のある説明だなぁ。勘違いさせるような言い回し、嘘は言っていないが肝心な情報は伏せられ、生徒たちの自滅を誘っている。

 

「質問はないようだな。では良い学生ライフを送ってくれたまえ」

 

 せめて先に質問があるやつはいるか?とか聞いてから質問を打ち切ってほしいな。これじゃ何か違和感を持った生徒がいても、帰ろうとする先生を呼び止めてまで質問しようとするのはかなり勇気がいるだろう。

 

 一度最底辺まで叩き落とすためにわざとやっているんだろうけど。悪辣だね。

 

「思っていたほど堅苦しい学校ではないみたいね」

 

「確かに。何というか物凄く緩いな」

 

「そうかな?むしろセルフマネジメント能力が試される気もするけど。浪費癖ついたら後で苦労しそうだし」

 

 後ろの堀北さんと綾小路君の会話に少し強引に割り込んでみる。

 

「あー、それは確かに」

 

「自制心や金銭管理能力を鍛える……いえ、それにしても金額が大き過ぎるわ。優遇され過ぎて怖いぐらいに」

 

 まぁ、そうだろうね。というか、原作では言及されていなかったけれど、現時点でもポイントの多さに警戒している生徒は結構いるみたいだ。

 

 周りを見回せば、喜んでいるのが全体の半分ほど。残り半分の生徒は戸惑ったり、考え込んだり、こんなに美味い話があるのか?と警戒しているようだった。

 

 しかしその警戒を続けるのは難しい。確証バイアスというやつだ。何か変だと思っても、自分にとって都合のいい情報や解釈に流されてしまう。

 

 お金のある国立だから、食費や消耗品諸々を全て自分で用意すると結構お金がかかるから、自分たちは選ばれたエリートだから優遇される、等。

 

 何もしなければ数日後には原作通り学級崩壊レベルに治安が悪化するだろう。しかしそれはむしろチャンスだ。

 

 この四月は、全編を通して最も大きくクラスポイントが変動するタイミングでもある。最小限の原作介入で、最大限の結果を出せて、しかも他の試験ほど活躍が目立たない。僕にとっては動き得だ。

 

 三馬鹿達には嫌われそうだけど、授業態度が悪化してくる頃を見計らって、みんなに注意することにしよう。プライベートポイントは欲しいし、綾小路君への有能アピールにもなる。

 

 そのためにもまず、説得の材料として軽く情報収集をしなくちゃいけない。もちろんSシステムの裏は全て把握しているけど、知り過ぎていることを周囲に疑われないために必要な行動だ。 

 




一年Dクラス 潮田渚
学力 B+
知性 B
判断力 A-
身体能力 C+
協調性 B+
備考
学力試験、面接ともに好成績を修めました。周囲からの評判も良く、常に人の輪の中心にいるような人物です。実力だけを見るならAクラスへ配属するのが妥当ですが、中学三年時に事件を起こしたこと、そして被害者がいまだに入院しているという事実を鑑みて、Dクラスへの配属とします。この学校で、精神的に成長してくれることを期待します。

参考 平田洋介
学力 B
知性 B
判断力 B+
身体能力 B
協調性 A-
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