ようこそ暗殺者の卵がいる教室へ   作:塩安

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20.チキンレース

 

 僕たちDクラスの面々が話し合いで集まるのは、基本的にカラオケボックスだ。

 

 そこそこの人数でも集まりやすくて、防音性があって、ドリンクバーがあって、まぁ便利だからね。

 

 

「始まりました!Dクラス作戦会議〜!司会進行は潮田渚でお送りさせていただきます」

 

「いえーい!ふぅー!」

 

「にゃっ?!い、いえー!」

 

「記念すべき第七回!今回はなんと、ゲストにBクラスの学級委員長、一之瀬帆波さんを呼んでおります!」

 

「一之瀬帆波です!よろしくね〜!」

 

 

 パチパチと部屋に拍手が響く。男子二人、ノリ悪いぞー。

 

 ちなみにメンバーは僕、一之瀬さん、櫛田さん、平田くん、綾小路君、堀北さんの6人だけだ。かなり厳選したね。

 

 

「堀北さんも来てくれてありがとうね」

 

「……私は手伝う事を確約した訳ではないわ。くだらない内容だったら、帰らせてもらうから」

 

「堀北さんには弁護人をやってほしいんだよね。あ、審議には生徒会長も参加するって」

 

「無駄に前置きが長いわね。早く内容を話しなさい。甘いところがあれば遠慮なく指摘させてもらうから」

 

「気合い十分だね。じゃあ洋介君、説明よろしく」

 

「うん」

 

 

 作戦は僕が考えたけど、事前に実行の許可は洋介君に取っていた。

 

 かなり危険で汚い手だから、もし洋介君が否と言えば、原作通りの監視カメラを使ったハッタリ作戦の方に切り替えるつもりだった。

 

 けど洋介君は、僕の作戦で行くことを決断した。

 

 

「作戦の説明をする前に、一つ報告させてほしい。実は、目撃者が見つかったんだ。そして、櫛田さんの説得のおかげで、証言もしてもらえることになった」

 

「え!本当!じゃあ……」

 

「いや、一つ問題があってね……実は、目撃者はDクラスの佐倉さんなんだ」

 

「あ〜……あちゃ〜……って感じだね。そっかぁ」

 

「うん、正直、証人としてはかなり弱いよね」

 

 

 一瞬だけ盛り上がりかけた空気が、すぐに萎んでいった。

 

 

「証言させない方が無難ね。Dクラスが苦し紛れに嘘の証人を仕立てあげたようにしか見えないわ」

 

「そうだね。僕も最初はそう考えた。でも、彼女は勇気を出して名乗り出てくれたんだ。僕は彼女の勇気を、無駄にしたくない」

 

「……そう。否定するつもりはないけれど、このままではただの綺麗事よ。ただ彼女を傷付けるだけに終わるかもしれない」

 

「いや、それは大丈夫。勝てばいいんだ」

 

「……?」

 

「勝てばいい。彼女を嘘つき扱いされたくないなら、完膚なきまでに、Cクラスに負けを認めさせればいい。嘘をついていたのはCクラスだったと、みんなに結果で示せばいい」

 

 

 うん……なんかね。ちょっと自信がある作戦だったから、没にされたくなくて、説得するの頑張ったんだよね。

 

 その流れで、洋介君に発破をかけるつもりで、僕の過去とか色々と話したら、変なスイッチが入っちゃった気がする。

 

 おめめギラギラ覚悟完了モードって言ったらいいのかな……

 

 

「そのための作戦を、渚君に考えてもらったんだ。今から説明するね。……絶対にこの部屋の外では口外しちゃダメだよ?」

 

「う、うん」「……ええ」

 

「じゃあ早速なんだけど、綾小路君--」

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 

 

「ではこれより、先日起こった暴力事件について、生徒会及び事件の関係者、担任の先生を交え、審議を執り行いたいと思います。進行は、生徒会書記、橘が務めます」

 

 

 須藤君の暴力事件の審議が、生徒会室で行われている。

 

 参加しているのはCクラスから、小宮君、近藤君、石崎君の3人に、坂上先生。

 

 Dクラスからは、須藤君、洋介君、堀北さんの3人に、茶柱先生だ。

 

 普段は粗暴な態度の目立つ須藤君も、今日ばかりは少し神妙な様子だ。

 

 堀北さんは生徒会長の姿を見て少し固まったけど、事前に知らされていた分マシだったのか、すぐにいつも通りの様子に戻った。

 

 

「---以上のような経緯を踏まえ、どちらの主張が真実であるかを見極めさせていただきたいと思います」

 

 

 議論は事前の予想通りに進む。

 

 暴力行為そのものに焦点を当てて、怪我という物証で話を有利に進めたいCクラスと、Cクラスの細かい矛盾点を突いて、証言自体の信憑性を下げたいDクラス、と言ったところだ。

 

 

「つまり、喧嘩になるかもしれないと思って石崎君を呼んだのに、特に何の抵抗もせずにただ殴られただけ、と」

 

「……こちらには、喧嘩をする意思がなかったんです」

 

「なるほど、そうですか……」

 

 

 洋介君は先程からジャブのように細かく質問をしているのに、返答に対しては即座に引いていく。

 

 Cクラスの坂上先生なんかは、かなり不気味そうにこちらを見ていた。

 

 明らかにCクラス優勢で議論が進んでいるのに、Dクラス側に焦っている様子が見えないからね。

 

 

「では、Dクラスから報告のあった目撃者を入室させてください」

 

「一年Dクラス、佐倉愛里さんです」

 

「……目撃者はDクラスの生徒でしたか」

 

 

 明らかにほっとした様子で坂上先生はそんなことを言った。

 

 こちらの余裕そうな様子を見て、勝ちを確信できるほどの証人を用意したんじゃないかと警戒していたのに、良い意味で裏切られた。そんな心境だろう。

 

 

「あ……私、その……」

 

 

 佐倉さんは、緊張からか、そこで言葉を途切れさせてしまう。

 

 そのまま、10秒、20秒と時間が過ぎていく。

 

 佐倉さんは真っ青な顔で俯いたまま、固まってしまった。

 

 

「ふっ……どうやら、彼女は目撃者ではなかったようですね。これ以上は時間の無駄です」

 

「ふむ……どうやらそのようですね。確かに、これ以上は時間の無駄でしょう。下がっていいぞ、佐倉」

 

 

 茶柱先生、味方する相手間違えてますよ。

 

 

「少し黙っていてください。坂上先生、茶柱先生」

 

「なっ」「……ほ、ほう?」

 

 

 両先生は絶句した。坂上先生はともかく、茶柱先生にとっては結構な衝撃だろう。まさか洋介君がこんな強い言葉を使うタイプだとは思っていなかったはずだ。

 

 

「佐倉さん、ゆっくりでいいんだ。大丈夫だよ」

 

「っ!……は、い」

 

 

 佐倉さんはゆっくりと深呼吸を繰り返し、そして意を決したように話し始めた。

 

 

 「……その、私、見たんです!し、Cクラスの生徒が、先に須藤君に殴りかかったところを!……わ、私がその日にそこに居た、証拠もあります!」

 

 

 佐倉さんは、そう言うと、いくつかの小さな紙を机の上に広げた。

 

 

「これは……」

 

 

 佐倉さんが提出したのは、特別棟での写真だ。その中には、須藤君と、殴られた後であろう倒れた石崎君も写っていた。

 

 これ以上なく、事件の日にその場にいた事を証明出来る写真だ。彼女の証言に、信憑性が生まれた。

 

 

「……なるほど、確かに、彼女は事件当初、その場にいたのでしょう。しかし、彼女はDクラスです。クラスメイトを庇うのは当然なのでは?実際にこの写真からでは、この喧嘩がどちらから仕掛けられたものなのかはわかりません」

 

 

 そして、ここらで落とし所を探りませんか?と、坂上先生は提案してきた。

 

 

「このままではお互い、埒が明かないでしょう。私はCクラスの生徒が被害者だと確信していますが、そちらも目撃者と口裏を合わせることをやめるとは思えません。お互いに、痛み分け、ということにしませんか?茶柱先生」

 

 

 坂上先生は少し旗色が悪くなった瞬間に、損切りの体勢をとった。

 

 具体的には、Cクラスの3人を1週間の停学。須藤君を2週間の停学処置にする、という案を出してきた。

 

 客観的に考えるなら、悪くない妥協点ではある。

 

 

「ふむ……なるほど。では」

 

「認められません」

 

「……は?」

 

 

 今までほとんど発言をしていなかった堀北さんが、ここに来て茶柱先生の発言を遮ってまで発言した。

 

 

「そもそも、どちらが悪いのかを見極める審議で、それがわからないからと判断を有耶無耶にして、双方に罰を与えるなんて判決は、間違っています。それに、私は須藤君の言い分を信じていますが……」

 

「ほ、堀北……!」

 

「……そもそも、お互いに主張が食い違っている以上、どちらかが嘘の証言をしていることは明らかです。そしてその悪質さは、到底1〜2週間程度の停学で済んでいいようなものではありません」

 

 

 感動したように堀北さんを見上げる須藤君を無視して、堀北さんは更に言葉を続ける。

 

 

「Cクラスの生徒3人を殴って怪我を負わせた挙句、責任を相手に擦り付けようとした。もしくは、3人で結託し、Dクラスの生徒1人を停学に追い込むべく、偽装工作を行った。どちらが事実であれ、加害者側は退学が妥当な事件です」

 

 

 実際に過去の判例を調べてもらったので間違いありません。

 

 堀北さんがそう言った瞬間、生徒会室の端にただ座っていただけの僕に、いくつもの視線が突き刺さった。

 

 

「そこで提案なのですが、この件における関係者の最終的な処遇を、退学にまで引き上げませんか?」

 

「は?!」「んなっ!!」

 

「Cクラス、Dクラス両者の同意があれば、可能なはずです。過去の判例から考えても、決して過剰な処分ではありません」

 

 

 坂上先生やCクラスの3人に加え、須藤君まで声を上げて驚いている。

 

 

 「お互いに、偽証を証明出来る何らかの証拠を提示できたら、その時点で偽証した側の生徒が退学になる。とするのはどうでしょうか。そちらは当然、小宮君、近藤君、石崎君の3人。こちらは須藤君と佐倉さんの2人が対象です」

 

「な、何を言っているのか、わかってるんですか?!」

 

「何か、不都合なことがありますか?」

 

「っ!」

 

 

 はい。とは言えないはずだ。だってそれは、「もしかしたら自分たちの偽証の証拠が出てくるかもしれない」と言うのと同じだから。

 

 けど、即座に飲むのも難しいはずだ。居ないはずだった目撃者がいたのだから、もしかしたら、既に偽証の証拠を掴んでいるかもしれない。そう思うのが当然だからだ。

 

 だけど、坂上先生の判断は早かった。

 

 

「……っ!いえ、問題ありません。飲みましょう。偽証しているのはDクラスの生徒なのですから、こちらに不都合があるわけありません」

 

「せ、先生!?」

 

 

 正しい判断だ。なんせ、そんな証拠があるならわざわざお互いの処罰のレートを上げるようなことはしない。

 

 さっさとCクラスの生徒の有罪を確定させた上で、その悪質性について言及するなりすればいいだけだから。

 

 ハッタリでビビらせ、その様子を見せることで、判決を下す生徒会への心証を悪くするのが狙いだと見抜いた。

 

 

「ありがとうございます。では続けて提案なのですが、審議の延長をお願いします。現状持ち寄った証拠では、お互いに偽証の証明はできないので、当然それも飲んでいただきます。よろしいですね?」

 

「……ええ、もちろん。生徒会の判断にもよりますが、審議の延長についても、こちらに否やはありませんよ」

 

「……生徒会としても、当事者同士で合意があるのであれば、特例として審議の延長は認める。明日の午後4時に、再審の席を設ける。それまでに相手の嘘を証明するような証拠の提出がない場合、今出揃っている証拠で判断を下す。そして、明確な証拠が提出された場合は、偽証していた生徒を退学処分にする」

 

 

 堀北先輩はそう言うと、CクラスとDクラスの生徒たちの様子を、ぐるりと見回した。反対意見はないと確認できたのか、さらに言葉を続けた。

 

 

「では、今日の審議はここまでだ。双方、退室しろ」

 




佐倉さんはクラスメイトのためを思って証言台に立ったのに、何も知らされないまま勝手に退学を賭けられてビビり散らかしてます。可哀想で可愛いですね。ちゃんと描写できないのは心残りなので、ここに供養しておきます。


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