ようこそ暗殺者の卵がいる教室へ   作:塩安

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25.無人島試験 1日目

 

 綾小路君は高円寺君と松下さんとチームを組んで探索に向かった。絶対に高円寺君がはぐれると予想したのは、僕だけじゃないはずだ。

 

 探索組が出立し、Dクラスの残った生徒は一旦日陰に移動し始める。

 

 

「渚君、ちょっといいかな」

 

 

 そのタイミングで洋介君が僕の近くに来て話しかけてきた。

 

 

「先に渚君の意見を聞いておきたくて。この試験、どう思う?」

 

 

 うーん、どう思う、か。それなら……

 

 

「この試験の裏テーマ……というか狙いは、生徒にストレスをかけることだと思う。わざわざ無人島なんていう逃げ場のない環境で、集団で慣れないサバイバル生活をさせる。どのクラスでも程度の差はあれ、絶対に諍いが生まれるよね」

 

「……なるほど、最初の試験だからこそ、チームワークを競わせつつ、後に火種を作らず上手く立ち回ることを期待するような、そんな試験を用意したってことだね?」

 

 

 さすが、理解が早い……というより、最初からわかってて聞いたみたいだ。

 

 もう既に火種ができかけてたし、周りへの牽制も兼ねてたのかな?

 

 

「うん。まぁ、予想だけどね。で、この試験の乗り切り方なんだけど……ポイントの節約は、ある程度妥協した方がいいと思う」

 

「……それは、さっき言ったように、ストレスをかけるのが学校側の狙いだからってことだよね?」

 

「そうだね。男女や個人の間で、ポイントのためにできる我慢の許容量に大きな差がある。無理やり厳しい位置に線を引いたら、間違いなく失敗するよ」

 

「待て。潮田の言っていることは理解できる。だが最初から妥協するのは賛成できない。この試験は他クラスとのポイント差を埋める千載一遇のチャンスなんだぞ」

 

 

 幸村君が話を遮って意見を言う。

 

 トイレ論争に参加していなかったから、クラスの和を乱さないよう我慢していたのは知っていた。だけどやっぱり勝ちを捨てるような方針には不満があるらしい。当然だね。

 

 

「勝ちを捨てるつもりはないよ。ポイントの使用は、許可制にするべきかな。平田君か櫛田さんに許可を取れば物資を購入できる。なんていうのはどうかな」

 

「それだと緩過ぎる。せめてクラスメイトの過半数の賛成で購入するかどうかを決めるべきだろう」

 

 

 それは無理だよ。ポイント使うたびにみんなを集めるの?そのルールだとトイレもテントも買えないでしょ。

 

 

「それは厳し過ぎるよ。というかそもそも、この試験をポイントの節約で勝とうとするのは、やめた方がいいと思う。それはさすがに他クラスを舐めすぎだ」

 

「なんだと?ベストを尽くそうとしないお前の方が、この試験を舐めているだろう……!」

 

 

 幸村君が爆発する前に、言葉を畳み掛ける。

 

 

「例えばBクラスは……うん。平田君や櫛田さんレベルの万能で人当たりのいい優秀な生徒が、男女にそれぞれ10人ぐらいずつ居るようなクラスだ」

 

「なん……っ」

 

 

 洋介君や櫛田さんの優秀さは、Dクラスの生徒ならみんなが知っているところだ。さすがに幸村君も閉口せざるを得ない。

 

 

「正直、めちゃくちゃ手強いよ。多分Aクラスはそれ以上に優秀だし」

 

 

 さすがに誇張だけどね。この二人のレベルはそういない。

 

 

「ポイント節約は間違いなくどのクラスもやる。だからこそ、同じことをしても地力で劣るDクラスはまず勝てないんじゃないかな」

 

「それ以外の何かで勝つ方法を探るべきだってことだよね?渚君」

 

「うん、そうだね。Dクラスが勝てる要素があるとするなら、スポット占有かリーダー当てだと思う」

 

「……ポイントの節約()、ある程度妥協する、ということか」

 

「両取りを狙うとさすがに破綻するからね。まぁこの作戦だと、かなり博打要素が強くなっちゃうんだけど……普通にやったら順当に負けるんだから、賭けに出るのは悪くないんじゃないかな」

 

 

 A、Bクラスとチームワークや総合力で戦おうとするのは下策だ。

 

 個人の強みを活かす方が、現状では上手くいくと思う。

 

 スポット占有やリーダー当てに注力するためにも、ある程度の出費は必要経費だと思ってほしい。

 

 幸村君はふと思いついたように周囲を見渡し、そして苦い顔をした。

 

「ちっ。そういうことなら、わかった。……話を遮って悪かったな」

 

「そんなことはないよ。みんなも、意見があったらどんどん言って欲しい」

 

 

 幸村君は不満気ではあるものの、最後は素直に引き下がった。なんというか、彼も原作より成長してるよね?

 

 もう少し食い下がると思ってた。けど、あれ以上反論しても自分の意見が通ることがないと理解して、折れてみせた。

 

 

「うん、それじゃあ決定だ。物資の購入は僕か櫛田さんに必ず許可を取ること。よっぽどの物じゃなければ、要望があったその時点で購入するよ。それと既に購入した物資に関しての文句は禁止だ。いいかな?」

 

「うん」「おう」「はーい」「よ、よかった……」

 

「それじゃあ次は、リーダーについてだね」

 

「さっきの話の通りなら、スポット占有は積極的にするんだろう?なら、8時間おきに……いや、他クラスとスポットを奪い合うことを考えれば、四六時中島内を歩き回ることになる。体力のある生徒から選ぶべきだ」

 

「そうだね……」

 

「それについて、少しいいかしら」

 

「堀北さん、何かな?」

 

 

 堀北さんに目を向ける。今まで静かだったからそうなんじゃないかと思ってたけど、やっぱり体調が悪そうだ。

 

 

「私も体力のある生徒にリーダーを任せるのは賛成よ。でもその上で、目立つ生徒や他クラスに名前が広まっている生徒は避けるべきだと思う」

 

「なるほど、確かにそうだね」

 

 

 もし顔を誰かに見られてしまった時に、そのまま名前までバレるような有名人や、わかりやすい特徴で簡単に推理できる人をリーダーに据えるのはリスクが高い。

 

 つまり僕はダメだ。名前が知られてるし、僕を知らない人でも、青髪のチビの名前知らない?と周りの人に聞くだけで即座にバレる。

 

 

「私からの推薦なのだけれど、リーダーは綾小路君が適任だと思うわ」

 

 

 え。

 

 

「なるほど、確かに綾小路君は条件に合うね」

 

「さんせー!私も綾小路君がリーダーやるべきだと思う!」

 

 

 洋介君が堀北さんの提案に理解を示し、佐藤さんが追従する。

 

 どうしよう。綾小路君の仕事量が多くなり過ぎる気がするけど、表立って言える問題点が何も思い浮かばない。

 

 ……ごめんね綾小路君。大変だろうけど、頑張って!

 

 

 

 

 

 

「まじか……」

 

「綾小路君も独自に動くつもりだったんだよね?その、大丈夫?」

 

 

 探索から帰ってきた綾小路君にリーダーの推薦があったことを伝えた。

 

 どうやら洞窟のスポットは、原作通りAクラスに占有されて獲れなかったらしい。

 

 ただ、やたら機嫌の良さそうな高円寺君と、疲労困憊の松下さんと三人で揃って集合場所に戻ってきたことだけは予想外だった。頑張ってついて行ったんだね。

 

 

「……いや、むしろありがたいかもしれないな。渚に追加で頼みたいことがあるんだが、いいか?みんなへの説得なんだが」

 

「スポット巡り、一人でやるつもりなんでしょ?いいよ、その方向で説得するね」

 

「ああ、助かる。……にしても、ポイントの使用をほぼ無制限化するなんて、よく池たちに意見を飲ませたな」

 

「そっちの説得は主に櫛田さんと堀北さんだけどね」

 

 

 スポット探しから帰ってきた池君たちは、当然ポイントの許可制に猛反発した。

 

 ポイントを節約するんじゃなくて、獲得すべく動くんだと説得しても、両方やればいいの一点張りだ。

 

 こうなると、ちゃんと理があれば納得してくれる幸村君より、彼らの方がずっと厄介だった。

 

 そんな時に説得に名乗り出てくれたのが、櫛田さんと堀北さんだ。

 

 櫛田さんは「女の子は、男子の前では可愛くいたいんだよ。そのためにちょっとだけポイント使いたいけど、許して欲しいな?」みたいなことを上目遣いで可愛く言っていた。池君たちは鼻の下を伸ばしていた。

 

 追加で堀北さんが「貴方たちが四月に減らしたポイントの方が多い。でも誰もそれを言い出さないのは、あくまでクラスメイトの配慮でしかないのよ?」と睨みを効かせていた。池君たちは冷や汗をかいていた。

 

 素晴らしい連携の飴と鞭だね。

 

 ……なんかこの二人、仲良くなってない?気のせい?

 

 うん、気のせいだね。堀北さんは櫛田さんの愚痴ランキング不動の1位だし……

 

 

 その後、綾小路君がリーダーを引き受けることが、正式に決定した。

 

 その際に、リーダーをカモフラージュするためにスポット巡りを大人数でやるのではなく、水上バイク用のフルフェイスヘルメットを被って単独で行動するという作戦が採用された。

 

 

「とりあえず、今日のところは日が暮れる前に生活環境を整えることを目標に動いていこう。本格的なスポット探しは、明日からだね」

 

 

 洋介君がそう言うと、クラスメイトもそれぞれ返事を返した。

 

 彼の指揮の元、クラスメイトが協力して生活環境を整える。

 

 途中、池君にキャンプ経験があることが判明して女子に囲まれ、得意げに火の付け方やテントの張り方をレクチャーしたりしていた。

 

 

 

 

 

「平田、渚、ちょっといいか?」

 

「綾小路君、どうしたんだい?」

 

「女の子引っ掛けて来たの?さすがに修羅場は勘弁してほしいな」

 

「違う。……いや、実はだな」

 

 

 聞けば、Dクラスのキャンプの近くで、頬を腫らした伊吹さんが座り込んでいるのを見つけて保護したらしい。

 

 

「ふーん。リタイアすればいいのに。ま、スパイなんじゃない?……洋介君?」

 

「受け入れよう。こんなところで女の子が1人で野宿するなんて、危険すぎる」

 

 

 すごいなぁ、躊躇がない。

 

 そう言うだろうとは思ってたけどね。そろそろ日が暮れるし、他クラスでも女の子を野宿させるぐらいなら、自分の身を切るぐらいはする。それが洋介君だ。

 

 

「それに、綾小路君なら問題無いよね?」

 

「……ああ。実は、あいつがスパイだったとしても問題がないように、対策は考えてある。今説明することはできないが、クラスに不利益は齎さないと約束する。信用してくれ」

 

「わかった、綾小路君を信じるよ」

 

「お、おう。……ありがとう」

 

 

 綾小路君が照れている。平田君みたいに迷いなく全幅の信頼を寄せられると、彼も調子が狂うらしい。

 

 

「……わかった、そういうことなら僕も信用するよ。じゃあ、伊吹さんに対しては何も知らずに受け入れたお人好しのふりでもしとけばいいかな?」

 

「いや、普段通りでいい。あいつは渚のことを知っていた。全く警戒した素振りがないと、むしろ怪しまれるだろうな」

 

「ふーん……OK、じゃあそれとなく警戒しておくよ」

 

 

 話がまとまった……と思えば向こうで何か言い争っている声が聞こえる。

 

 ああ、どうやら川の水を飲む、飲まないで揉めているらしい。

 

 洋介君がそこに向かうのに、僕もついて行く。

 

 

「みんな、一旦落ち着いて。何があったのか教えてくれるかい?」

 

「平田くん!聞いてよ……」

 

 

 揉め事は起こさないように、と事前に言っても大して変わらなかったね。

 

 でも想定内だ。このくらいの衝突は絶対に起きると思っていた。

 

 洋介君や櫛田さんたちと連携して、上手くクラスメイトをなだめて話をまとめる。

 

 しんどいけど、この一週間を上手く乗り切ってみせよう。

 

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