ようこそ暗殺者の卵がいる教室へ   作:塩安

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5.食堂にて

 

 入学二日目だ。大抵の生徒たちにとっては初めての一人暮らしということもあって、なんだか少し落ち着かないような雰囲気がある。

 

 地に足が着かないってこういう状態のことを言うのかな。

 

 今日から授業があるのだけれど、内容はほとんどオリエンテーションだった。

 

 触りだけ授業に入った科目もあったけれど、大体は教材の説明や評価方法について、あとはちょっとした雑談なんかがメインでかなり緩い雰囲気のまま進行している。

 

 そして恐ろしいことに、この日の午前中だけでDクラスにはもう既に学級崩壊の兆しが見え始めていた。

 

 先生方の誰も注意しないのをいいことに、須藤君なんかは全ての科目で爆睡しているし、一部生徒はもう既に授業中の雑談を躊躇わなくなっていた。

 

 こうなると陽キャグループと席が離れていたのはラッキーだったかもしれない。話しかけられて返事をしたら減点されてしまうし、かといって無視するわけにもいかないから。

 

 ただ、思っていたより自由時間がないのは問題だ。

 

 今日は放課後はボウリングの予定が入ってて、多分流れ的に明日も何か誘われそうだし……しょうがない、学校のことは早朝に調べようかな。

 

 そんなことを考えていたら昼休みに入っていた。

 

「綾小路君、良ければ一緒にご飯食べようよ」

 

「あ、ああ。二人か?」

 

「いや、他にも誘おっか……うん」

 

 さすがに真隣にいて、しかも話さない仲でもないのに完全スルーするわけにもいかないし、断られるだろうけど一応声をかけておく。

 

「堀北さ「断るわ」……うん。一応聞いておきたいんだけど、もう誘わない方がいい?あ、別に他意はなくて、誘われるのが迷惑なら辞めるよって意味ね?最初に聞いておきたくて」

 

「ええ、言い訳がましいのはともかく、その通りね。もう誘わないでくれるとありがたいわ」

 

「わかったよ」

 

 断られる速度以外は概ね予想通りの反応だ。多分堀北さんに関してはこちらからは話しかけず、あちらの言葉に返事をするだけ、という対応を徹底するべきだろう。

 

 このクラスには論外な人が多すぎて、半ば無視するような対応でもむしろ相対的に好感度が上がりそうな気がする。

 

「……昨日も思ったけど、お前のメンタルどうなってるんだ?」

 

「え?綾小路君にだけは言われたくないんだけど……」

 

「?!」

 

 僕的には君のその機械メンタルの方がどうなってるのか気になるよ。0巻の士郎君や雪ちゃんの性格はかなり人間的だったし、多分それ生来のやつだよね?

 

「他に人いるかな……」

 

 きょろきょろと周りを見渡すと、洋介君とバッチリ目が合った。

 

「渚君、今からみんなで食堂に行くんだけど、良ければ一緒にどうだい?」

 

「あ、私も渚君と話してみたいかも〜」「綾小路君も来るかな?」「誰?」

 

「もちろんいいよ。一緒に食べようか」

 

 いいよね?と綾小路君に目で問いかけると、こくこくと頭を縦に振って賛同してきた。

 

 洋介君は更に教室を見渡していたが、それとなく森さんたちに遮られて移動を開始する。

 

 他の孤立してそうな男子生徒たちに気を遣っていたんだろうけど、あの場に残っていた高円寺君や幸村君らは助ける必要はないと思うよ。

 

 

 

 学食に移動し、各々が好きな料理を持って大きなテーブルを囲うようにして座った。ちなみに僕はエビフライ定食だ。

 

 洋介君も綾小路君もそれぞれ両隣に女子生徒を侍らせて、すごい絵面である。対面の顔面偏差値高くない?

 

 いや、僕も負けてないけどね?……でもかわいい系だからいじられることはあってもモテはしないんだよね。

 

「え?綾小路君カップ麺食べたことなかったの?」

 

「あ、ああ。実は昨日初めて食べたんだ」

 

「え〜すごい。本当にそういう人いるんだ。上流階級ってやつ?」

 

「いや、普通の家だ。親が……」

 

 凄い。あの綾小路君がギャルに囲まれてたじたじだ。元からイケメンではあったし、お金持ち疑惑が生まれたことで一気に優良物件にランクアップして注目の的になっている。

 

 特にアタックしているのは佐藤さんだ。原作でも綾小路君に惚れてたし、元々見た目で好感度は高かったんだろうね。うんうん、良い傾向だ。

 

 ちなみに平田君にアタックしてるのは篠原さん、森さん、松下さんだ。松下さんはハイスペック好きらしいし、さもありなん。

 

 ……元の計画では櫛田さんグループと仲良くなるつもりだったんだけど、予定通りには行かないものだね。それなりに地味に過ごしたつもりだったんだけど。

 

 綾小路君の自己紹介をプロデュースしたのがダメだったのか。いや、洋介君効果か。それとも……

 

「渚君って身長何センチあんの?」

 

「……前測ったときは159だったよ」

 

「え、ちっちゃ。……あ、ごめん」

 

「あはは、別に気にしてないよ。軽井沢さんは体重何キロあるの?」

 

「ごめんってば〜」

 

 何故か僕に構ってくる軽井沢さん効果の可能性もある。

 

「それにしても10万ポイントってすごいよね〜!何でも買えるし!私この学校に入学できて良かった〜」「確かに〜」

 

 どうやらこのグループの女子は順調に?油断しまくっているようだ。新生活とお小遣いに浮かれまくっている。

 

 ただ、この時点で支給されるポイントの減少について注意するのはさすがに早過ぎるかな。

 

 綾小路君目線でも、僕が掴んでいる情報はクラス分けまでだと思ってるはずだし。

 

「……渚君と綾小路君はどう思う?この学校の、仕組みとか、その……」

 

 だが一人だけ、洋介君はどうやら色々と思うところがあるらしい。あまりにも都合が良すぎるこの学校のシステムに疑念を持っているようだ。

 

 ちらちらと綾小路君が目配せしてくる。……まぁ、昨日時点でも堀北さんなんかは漠然と警戒してたし、少しくらいならいいか。

 

「うーん、ぶっちゃけ怪しいよね。なにか裏があるんじゃないかな」

 

「……やっぱり君もそう思うかい?」

 

「え?なになに?どういうこと?」

 

 ああ、もう一人警戒してる人がいた。松下さんもどうやら待遇の良さに何かあるんじゃないかと思っていたらしい。何も気づいていないふりをして、話を広げにきた。

 

「さすがにちょっと都合が良すぎて怖いよねって話だよ。10万なんて学生に持たせていい額じゃないし」

 

「えーそうかな?」

 

「考え過ぎじゃない?」

 

「まぁ考え過ぎならそれでもいいんだけど……綾小路君はどう思う?」

 

「え、俺か?」

 

 君だ。というか、なんでまた空気になろうとしてたの?責めるように目線を送ると、綾小路君はおずおずと意見を言い始めた。

 

「まぁ、俺もなんか変だな、とは思うぞ。雰囲気とか」

 

「雰囲気?」

 

「ああ、上級生の雰囲気、暗くないか?」

 

 その言葉に、同じテーブルに着いていた全員が周囲を見回し始める。

 

 一年生や一部の生徒たちは、ここのテーブルと同じように楽しそうに談笑している。しかしそれ以外の生徒たちはむしろかなり暗い雰囲気を纏っていた。

 

「……確かに?なんかみんな疲れてる?というか、絶望してる感じ?」

 

「暗い顔してる理由まではわからないが、本当に毎月10万貰えるなら、もうちょっと楽しそうな顔してるんじゃないか?」

 

「……え?もしかして、来月は貰えるポイント減るの?」

 

「……まじ?」

 

 その言葉の意味に気づいたのか、一瞬の静寂の後にグループ内に驚愕と不安と焦りが広がった。

 

「じゃあ先生が嘘ついたってこと!?」

 

「篠原さん、声が大きいよ。みんなも一旦落ち着こう」

 

「あ、う……ご、ごめん、平田君」

 

「で、でも、わざわざ学校がそんな嘘つく必要なくない?」

 

「嘘はついてないんじゃない?毎月10万振り込む、とは言ってなかった気がするよ、今思えば」

 

 本当はここまで言うつもりはなかったんだけどなぁ……まいっか。特に何も問題はないし。

 

「……そうだね。その点も踏まえて、先生に一度聞いてみようか」

 

「多分答えてくれないと思うよ。わざわざ情報伏せてたぐらいだし……それよりも--」

 

 言葉を続けようとしたちょうどその時、スピーカーから音楽が流れ始めた。

 

『〜♪本日、午後五時より、第一体育館の方にて、部活動の説明会を開催いたします。部活動に興味のある生徒は、第一体育館の方に集合してください。繰り返します--』

 

「……たしか洋介君、サッカー部に入る予定だったよね?」

 

「え?ああ、うん。そのつもりだけど、それがどうかしたのかい?」

 

 良いタイミングの放送だなぁ、と思いながらも洋介君に質問すると、話題が変わったと思ったのか、少し困惑したように彼は聞き返してきた。

 

「できればでいいんだけど、先輩たちにさっきのこと質問してみてくれないかな?僕も僕で色々調べてみるよ」

 

「……!なるほど、わかったよ。でもそのかわり、ではないけど……」

 

「うん、わかった情報はみんなに共有するよ。それと、何かわかるまでは無駄遣いしない方がいいと思う」

 

「そうだね。ありがとう、渚君。それに綾小路君も」

 

「いや、俺は何もしてないぞ?」

 

「そんなことないよ。綾小路君のおかげでみんな気付けたんだ。礼を言わせてほしい」

 

「……もしかしてこの三人って、めっちゃ頭良い?」

 

 男子三人で会話をしていると、置いてけぼりを食らっていた女子の中から、少しだけ早く復帰した松下さんがそんなことを言い始めた。

 

「確かに〜」

 

「やばいと思ったけど、なんとかなる?」

 

「他の男子はともかく、平田君と綾小路君と渚君の三人は、まともだし頼りになるね!」

 

「いや、俺が気づいたのはたまたまだぞ」

 

 綾小路君は一瞬だけ「しまった」とばかりに表情を崩した。もう目立たないようにするっていう目標は無理なんじゃないかな?

 

「だとしても凄いよ〜!ね、綾小路君と渚君も、連絡先交換しよーよ」

 

「良いね、賛成〜!グループも作っちゃおっ!」

 

 貰えるポイントが減るかもしれないと判明した時にはパニックになりかけたけど、何とか落ち着いた。

 

 懸念があるとしたらここが食堂で周りに他クラスの生徒が居たこと。それとクラス対抗戦だという意識が微塵もないせいで情報統制が全く取れていないことかな。

 

 まぁ原作では僕たちのクラスポイントは0ポイントだし、それより状況が悪くなることはないから気楽に考えよう。

 

「〜〜じゃあ部活の説明会終わってから、寮の前に集合ね!綾小路君も今日のボウリング来るよね?」

 

「え?い、いいのか?」

 

「いいに決まってるじゃん!あ、もしかしてだけど、ボウリングも初めてだったりする?」

 

「あ、ああ。実はやったことない」

 

「じゃあ私が教えてあげるよ〜」

 

 いつの間にか放課後の話になっていた。無駄遣いしないという話から中止になることを少し期待してたんだけど、どうやら今日のボウリングは予定通り決行されるみたいだ。

 

「渚君は?ボウリング自信ある?」

 

「僕?ボウリングは得意だよ。一度だけスコア180獲ったこともあるからね!」

 

「え、凄。プロじゃん。あたし90いったこともないかも」

 

「軽井沢さん、それは下手すぎ、ぷぷ」

 

「うっさい!そういう松下さんはどうなの?!」

 

「私のベストは130だよ〜どやぁ。平田君は?」

 

「僕かい?あんまりボウリングは経験がないんだけど、確か120ぐらいだったかな?」

 

「……ボウリングのスコアって平均はどれくらいなんだ?」

 

 まぁ、情報収集は明日でもいいか。

 

 取り敢えず今日のところは、青春を謳歌しよう。

 




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