ようこそ暗殺者の卵がいる教室へ   作:塩安

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誤字報告ありがとうございます。地質調査してました。


6.情報収集の時間

 

 昨日のボウリングは楽しかったなぁ。8ポンドの玉を綾小路君におすすめしたら指が抜けなくなって爆笑したり、綾小路君が僕に対抗してきた結果、軽井沢さんがダブルスコアで負けてみんなで軽井沢さんを弄ったり。

 

 運動が得意って言ったからスコア伸ばしたんだろうけど……後でこっそり初心者はスコア100越えても普通にすごいレベルだから、140越えはやばいよって教えてあげた。

 

 そしたら二回目は106点取って、さっきのはビギナーズラックだったんだ、とか言い始めた。それでも結構高いし、佐藤さんのアピールは激化していたんだけどね。うん、青春だ。

 

「……ちょっと早く来すぎたかな」

 

 現在時刻は7時40分。朝のHR(ホームルーム)が始まるのは8時20分からだ。さすがにちょっと時間が余りそう。

 

 あ、須藤君がランニングしてる。……この時間に?

 

 これから寮に戻って汗流して制服に着替えて、ご飯も食べるのかな?そりゃ遅刻するよね。あ、止まらずにもう一周走り始めた。うーん、ストイックだけど馬鹿だ。

 

「あ、渚君じゃん。早いね〜おはよう」

 

「松下さん、おはよう。松下さんも早いね?」

 

 昇降口を少し過ぎた辺りで、後ろから松下さんに声をかけられた。

 

「あは…あ〜その」

 

「もしかして松下さんも、情報収集しにきたの?」

 

 ちょっと考えればわかることだった。松下さんは実力を隠してるけど優秀だ。昨日のあれを聞いたら自主的に動き出すに決まっている。

 

 少なくとも原作知識ありきの考察や、この舞台のことを知った上で考察を重ねて思いついたアイデアならともかく、僕が即興で思いつく程度のことは彼女も当然思いつくだろう。

 

 放課後に動けないなら早朝にと考えるのは自然な流れだ。

 

「まーうん、そうだよ」

 

「そっか。良かったら一緒に調べない?」

 

「そりゃいいけど……でも何となく早く来ただけで、何から調べるかも全然決めてないよ、私」

 

「それは僕もだよ。でもとりあえず、普段は立ち寄らない場所……上級生の教室とか見に行ってみない?」

 

「お、いいね〜。そうしよっか」

 

 二人で並んで歩きながら、雑談として昨日のボウリングの話なんかをする。

 

「それで結局さ、軽井沢さんとはどうなの?」

 

「どうって?」

 

「え?そこで鈍いふりするの?それはないよ〜」

 

「いや、本当に何もないよ。軽井沢さんも迷惑するだろうから、そういうのやめた方がいいよ」

 

 いや、本当に。

 

 別に、自分なんかがモテるわけない!なんて卑屈になってるわけじゃない。

 

 ただ軽井沢さんは過去のトラウマから自身のカースト上げを優先するはずで、僕に近づいているのは恐らく何か別の狙いがあるんだと思う。

 

 稀に何かを探るような視線を感じるし。

 

「うわ……こいつまじか」

 

「……それよりさ、松下さん。なんかわざと自分のレベル下げてるよね?周りに合わせてるの?」

 

 なんか朴念仁だのなんだの、不名誉なあだ名をつけられそうな予感がしたので話題を変える。

 

「……どういう意味?」

 

「そのまんまの意味だよ。僕、人を見る目はあるほうなんだよね」

 

「それは絶対嘘だけど、参考までになんでそう思ったのか聞いていい?」

 

 嘘じゃないけど?

 

「今ここにいるから、だね。昨日の話を聞いて、「なんかやばそうだけど何とかなりそう」以上のことを考えてたのは女子では松下さんだけだよ。実際にこうして行動してるし」

 

「……まぁそう、そうだね。みんなには内緒にしてくれる?」

 

「ん、まあいいよ。誰にも言わない」

 

「ありがと〜」

 

「その代わり何かあれば頼らせてもらうね」

 

「うげ」

 

「まぁ、今回みたいなことがあれば、だよ。着いたね」

 

 二年Dクラスの教室だ。今のところ誰も登校していない。しかし、うん、パッと見てわかる程度には席が少ないね。

 

「それで〜?自称目がいい渚君は、何か見つけたのかな?」

 

 明らかにニヤニヤとからかう調子でそんなことを聞いてくる松下さんは、どうやらそのことに気づいてないらしい。

 

「席が足りないね。34席しかない」

 

「え?……うわ、まじじゃん」

 

「成績不振は即退学かな?自力で進学、就職できない人の首を事前に切るなら、なるほど、進学・就職率ほぼ100%になるかもね」

 

「……私、入る学校間違えたかも」

 

「ただの予想だからね?他のクラスも見てこう」

 

 二年生の教室を順に見たところ、Dは6人、Cは5人、Bも5人、そしてAは2人の退学者がいるようだった。たった一年でこんなに退学者出したのか、しかもほぼ南雲先輩が関与してるらしい。そりゃ堀北先輩も警戒するよ。

 

 BCDクラスの差が思ったより小さいのは……あれか、逆らった人を退学させるとかいうスタンスだったはずだし、Bクラス(元Aクラス)が対抗するから、より苛烈に被害にあってるとかそういう感じかな。

 

「あれ?三年生は退学者少ない?」

 

「うーん、どういうことだろうね」

 

 三年生の退学者は、Dは7人、Cは5人、Bは2人、Aは1人だけだった。一年長く学校にいるはずなのに退学者の総数は二年生の方が多い。暴れすぎでしょ南雲パイセン……

 

「それになんか……人数が……」

 

「あー実はね」

 

 恐らく退学者の人数がAから順に多くなっていることに引っかかったんだろう。僕は一昨日のコンビニであった出来事を松下さんに教えた。恐らく、優秀な人からAクラスに配属されるということも。

 

「……」

 

「松下さん、大丈夫?」

 

「う、うん……」

 

「……そこのお前たち、一年生だな?ここで何をしている」

 

「あ、やば。逃げよう」

 

「え?ちょっ!」

 

 松下さんの手を取って走り出した。しかしすぐに右肩に衝撃を感じたかと思えば、体をグイっとかなりの力で引き寄せられてしまう。目を向ければ、がっちりとした手に肩を掴まれていた。

 

「待て!……別に取って食ったりはしない。ただ質問しているだけだ」

 

「あ、堀北先輩、でしたか」

 

 黒髪に切れ長の目、メガネをした真面目そうな雰囲気の男だ。入学式と部活動説明会で見た顔なので、覚えていても不自然ではないだろう。

 

「……俺のことを知っているのか。なぜ逃げた?」

 

「ここで何をしている!って言われたら逃げたくなりませんか?」

 

「渚君……バカなの?」

 

「……はぁ、まあいい。それで何をしていたんだ?」

 

 心底呆れたようなため息をつかれた。仕草というか雰囲気が堀北妹とかなり似てる。というか、妹側が真似してるのか。

 

「情報収集ですね。昨日友達と話してて、この学校のシステムは生徒に甘すぎるというか、こんなに上手い話はないだろう。なにか裏があるかもしれない。と結論が出まして、色々探っているところだったんです」

 

「ほう、良い警戒心だな。……名前を教えてもらえるか?」

 

「一年Dクラスの潮田渚です」

 

「同じく、Dクラスの松下千秋です」

 

「ふむ、Dクラスか……」

 

 そうですね。あなたの大好きな妹がいるクラスですよ。

 

「落ちこぼれのクラスか、なら期待できないか。って思いましたか?」

 

「いや、Dクラスだからといって無条件で見下すようなやつは、この学校では……む?」

 

 ニコニコと笑いながら先輩の顔を見ていると、彼は失言に気づいたのか目を見開き、そしてこちらを睨んできた。

 

「……カマをかけたのか」

 

「ほとんど確信してましたけどね。上級生の席を数えたら綺麗に階段になってましたし」

 

「ふっ……面白いな。潮田渚と松下千秋か、覚えておこう」

 

「私の事は覚えなくていいですよ。ただの付き添いですので」

 

「引っ掛けられたついでに一つ質問してもいいですか?」

 

「答えられるかはわからないが、いいだろう」

 

「あの〜……」

 

 僕は基本的にこの学校のシステムについて知りすぎている。だからこそ、一つ一つ情報を集めて謎を紐解いているという言い訳が必要だ。

 

 そして目の前にいる男は、総合力という意味ではこの学校で一番高い。それこそ現時点では綾小路君よりも。

 

 少しでも隙を見せたら、矛盾する情報を出せば怪しまれる。今すぐ問題がある訳じゃないけど、今後の……特に混合合宿あたりでの立ち回りに大きな影響が出かねない。

 

 ……現時点でも事前に決めたチャートからはだいぶ逸脱してるんだけどね。当初は櫛田さん傀儡化ルートを進もうとしてたのに、なんか現状は洋介君をリーダとしたときの参謀みたいになってるし。

 

 まぁ、それについては今度考えるとしてだ。

  

「Aから順に優秀な人が配属されてるのに、なんでクラス替えはないんですか?優秀な人が上に行く仕組みじゃなかったら、入学した時点での評価が見えるだけというか……競争を促すシステムにしないと、なんの意味もないというか。いえ、何かあるんですよね?それを教えてもらえたりしませんか?」

 

「ふむ……」 

 

 堀北先輩は僕の質問に対して少し悩んだが、しかしすぐに言葉を返してきた。

 

「そうだな。その質問には答えられない。お前が知りたいであろう仕組みは教えられない。だが、そうだな……この学校が評価するのは、個人としての優秀さだけではない、とだけ言っておこう」

 

「……なるほど、そういうことですか」

 

 それほとんど答え言ってませんか?松下さんもなるほど!クラス対抗戦か!って感じの顔した後に、え、うちらあのゴミみたいなメンツで戦うの?!最悪!って顔になってるし。

 

「……少し話し過ぎたな。もうそろそろ生徒が登校してくる時間帯だ。お前たちも教室に戻るといい」

 

「「はい……」」

 

 

 

 

 とぼとぼと廊下を歩きながら、松下さんと小声で、さっきわかったことについて話し合っていた。

 

「ねぇ、やっぱ評価はクラスごとってことよね?」

 

「うん、あと評価で貰えるポイントが増減するんじゃないかな」

 

「あ、たしかに、それだと色々しっくりくる……はぁ」

 

「しんどいねぇ……でもやれることからやってかないと」

 

「無理でしょこんなの……いや、平田君と渚君がいるだけ、まだマシか」

 

 お、やったね。どうやら僕は松下さんの中の有能な人カテゴリに入っているらしい。

 

「みんなには内緒にしてほしいんだけど、綾小路君も松下さんと同じく実力隠してる系男子だよ」

 

「……それ言っちゃダメなんじゃないの?てか、私のこともそんな感じで広められると困るんだけど?」

 

「大丈夫、大丈夫。松下さんのことは誰にも言わないよ。綾小路君には口止めされてないし、あと似たようなポジションだから二人には一緒に暗躍してもらうことがあるかもしれないなって思って」

 

「なるほど……わかったよ。綾小路君には私から話通しておくね」

 

「うん、お願い」

 

 二人とも、教室へ向かう足取りは重かった。どうやって洋介君たちにこの情報を共有するかもしっかり考えなきゃいけない。

 

 僕の場合は、序盤のこのクラスはしんどい、ということをちゃんと理解した上でここにいるので、文句を言う権利はないんだけどね。

 




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