ようこそ暗殺者の卵がいる教室へ   作:塩安

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渚君にメイド服着せたいですね。めっちゃフリフリの短いやつ着せて赤面させたい。
ああでも本作の渚君は、最初はともかく途中からは普通にノリノリで接客してそうですね。


8.Dクラス

 

 事前に櫛田さんに話通しておいてよかったね。

 

 大天使クシダエルは伊達じゃない。彼女のおかげでクラスの混乱は最小限だったと思う。

 

 一部の生徒にヘイトが向いてるのは仕方ない。自業自得だし、暫くすれば収まるだろうから厳粛に受け止めてください。

 

 情報統制の方については……まぁ無理かな。一応口止めはしたけど、守られなくても別にいいんだ。現時点でも情報は漏れてるし。

 

 より多くのポイントを残すことができるなら、他クラスに負けててもいい。

 

 そう、思ってたんだけどなぁ……

 

 

 

「ふざけないで!さっき注意されたばっかじゃん!なんで授業中に寝てるの?!」

 

「ああ〜?眠いんだから仕方ねえじゃん」

 

「真面目に授業を受ける気がないだけでしょ……!せめて教科書やノートを机の上に広げてから言いなさいよ!」

 

「篠原さんの言う通りだよ!こっちは真面目にやってんのに、あんたらのせいで来月貰えるポイント減ったらどうすんの?!」

 

「そうは言われてもさ。授業の内容わかんねぇし。子守唄と変わんねーよ」

 

「つーか、教科書もノートも持ってきてないし〜?」

 

「なっ!〜〜〜っ!と、取りに帰って!」

 

 嘘でしょ……なんで注意する前より治安悪化してるの?

 

 というか須藤君ですら紛いなりにもちゃんと授業受けてる(少なくともそう見せかけてる)のに、山内君と池君はなにしてんの……?

 

「……?……??」

 

「渚、大丈夫か?」

 

「あ、うん。ちょっと混乱しちゃって……あの二人が何を考えてるのか、本当にわからないよ……」

 

「考えるだけ無駄よ。あの二人は何も考えていないのだから」

 

「いや多少は理解してると思うぞ?でも半分意地になってるんだと思う。ま、だからこそ、渚が何を言っても逆効果になるだろうな」

 

「……やり方間違えちゃったってことかぁ」

 

 多分あれは自分たちが責められていることに対する反抗というか、拗ねてしまったのだろう。あとは現実逃避も入ってるのかな?

 

 先に櫛田さんにでも頼んで三バカたちを注意してもらって、ある程度授業態度が改善してからクラス全体に注意する。って流れで事を運ぶべきだったのか。

 

 いや僕も櫛田さんも保育士さんじゃないんだけど?

 

「まずいね……」

 

 このままだと、五月一日のポイント支給&情報開示の日に、あの二人のクラスでの居場所が完全に消滅する。

 

 そうなれば、ヘイトタンクもしくは生贄ぐらいにしか使えないお荷物になってしまう。なんなら龍園あたりに懐柔されてスパイにされそう。

 

 ……ん、龍園?

 

「……ぶん殴って言うこと聞かせるのは、ありだね」

 

「野蛮ね。退学したいのならそうすればいいんじゃないかしら」

 

「さすがにダメだろ。ちょっと冷静になれ」

 

 ……特別棟にほとんど監視カメラがないことを知らなかったら、そういう反応になるか。

 

 実は僕たちが集めた情報の中には、洋介君たちと相談した上で、意図的に公表せず伏せたものもある。

 

 監視カメラに意図的に死角が作られていること、それに、上級生に退学者が多数いることなんかも公表してない。

 

 みんなの不安を煽り過ぎると判断したからだ。

 

 暴力もちゃんとバレないようにやれば、問題ないわけで……うーん、この二人には先に説明しておこうかな?

 

「……今後のクラス統制にも、悪影響だぞ」

 

 何かを察したような綾小路君の忠告に、ハッと冷静にさせられる。別にあの馬鹿二人からの心象はどうでもいいけど、あの二人が暴力を振るわれたことを言いふらさないわけがない。

 

 うん、龍園ぐらい振り切って暴力による圧政をするのならともかく、中途半端なやり方はクラスメイトから反感を買うだけになりそうだ。

 

 ……それによく考えれば、そのやり方は洋介君のトラウマにドリルを突き立てるような行為だ。ブチギレ洋介君と全面戦争とか絶対嫌だし、やめておこう。

 

「……あれ?詰んでる?」

 

「あの二人に関しては諦めるしかなさそうだな。来月までポイントが残っていることを祈ろう」

 

「これなら注意しない方がマシだったかも……?」

 

「……いや、そんなことは無いと思うぞ」 

 

 でも陽キャ女子グループの態度が改善したこともあって、多分何もしなくてもポイントは残ってたんだよね。

 

 クラスメイトに情報を公表したことで、ポイントは間違いなく増えた。

 

 でもそのかわり、五月一日からの教室の空気が原作以上に終わりそう。しんどい……

 

「そもそもさぁ、ポイント減るって決まったわけじゃないんだろ?普通に貰えるかもしれないじゃん!」

 

「それは……いや、でも」

 

 ちょ、お願いだから、他の生徒をそっち側に引きずりこもうとするのはやめて!

 

 あ、なんかお腹痛くなってきた。助けて櫛田さぁん!

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 

 願い虚しく、クラスの雰囲気はどんどん悪化の一途を辿っている。まず最初に堕ちたのは須藤君だ。友人二人につられたのか、単に我慢の限界だったのか、普通に授業中に寝始めた。

 

 それを皮切りにどんどん脱落する生徒が出始める。自分だけ我慢するのが馬鹿らしいと思ったのか、山内君たちの喋る都合のいい言葉に流されたのか、一人また一人と陥落していく。

 

 以前ほどやかましくしているわけじゃないけど、こっそり端末を弄ったり、うつらうつらと船を漕いでいたり、小声で喋ったりしている。

 

 洋介君は自分が関わるとむしろ悪化することを理解しているのか、不満を持っている生徒のフォローに回ることしかできていない。

 

 櫛田さんも直接的な注意をするタイプじゃないので、一部女子や幸村君なんかが爆発しそうになった時に宥めるのが精一杯だ。

 

「はぁ……」

 

「……少し同情するわ」

 

 まさか堀北さんからこんなに優しい表情を引き出せるとは。今の僕は相当顔色が悪いらしい。

 

 自分でもちょっと限界かなと思い始めている。

 

 高円寺君をポイントで雇って外付け暴力装置にする案を出して、綾小路君にアイアンクローされたぐらいには限界だ。

 

 美しくないものを嫌う高円寺君なら、割とノリノリで賛同してくれそうじゃないかなと思ったんだけど、制御できない制御装置とか普通にダメに決まっている。

 

 あの時の僕は本当にどうかしていた。

 

「お〜い博士!来てくれ」

 

「呼んだでござるか?」

 

 うわぁ……これもしかしなくても、例の賭博じゃない?なんて思っていたら、ちょうど綾小路君が佐藤さんと一緒に登校してきた。

 

「あ、綾小路君、おはよ〜」

 

「ああ、おはよう、じゃあまたな」

 

「うん!またね」

 

 最近佐藤さんと良い感じらしい綾小路君は、見るからにほくほく顔だ。土曜のサッカーにもわざわざ応援に来て、二人で甘い空気を撒き散らしていた。

 

 このクラスの最初のカップル成立はあの二人なんじゃないかともっぱらの噂で、洋介君以上に池君たちに嫌われている。

 

 ……あれ?原作どこ行ったんだろ?この頃の綾小路君って堀北さんとしか喋れなくて悶々としてたはずだよね?

 

「……なぁ、あれ、止めなくていいのか?」

 

「うーん、盗撮は止めるよ」

 

 多分外村君は注意されればやめるだろうし。他の子たちは注意するとむしろ悪化するだろうから無理だ。

 

 

 

 

 昼休みが終わり、五時間目の体育の授業だ。男女間で対立構造ができつつあるこのクラスにとっては、鬼門としか言えない。

 

 朝っぱらから下品な言葉が飛び交い、しかし評価のことを考えればサボるわけにもいかない。

 

 そして実際に水着に着替えて授業を受ければ、男子の下卑た視線に晒されるわけで……正直女子生徒にとっては地獄の時間だろう。

 

 洋介君もダメ元なのか、居ても立ってもいられなかったのか、男子たちに一度強めに注意していた。けどまぁ、もちろん効果は無かったよね。

 

 櫛田さんは主に女子生徒の愚痴やら相談やらを受けて奔走していて、正直可哀想だ。彼女だって内心穏やかじゃないだろうに。……過労死しないでね?

 

「プール大きいね……」

 

「そうだね。二人は泳ぎに自信はあるかい?」 

 

「うーん、どうだろうな。……男子の50mの平均タイムってどれくらいなんだ?」

 

「30秒切ったら速い方なんじゃない?僕は泳ぎはあんまり得意じゃないなぁ。ギリギリ29秒だったよ、中三の時で」

 

「得意じゃなくても人並み以上って凄いことだと思うよ。さすが渚君だね」

 

「ありがとう。……あ、そういえば綾小路君。金曜日の放課後、茶柱先生に呼び出されてたけど、何やらかしたの?」

 

「何もやらかしてないぞ。ちょっとした進路相談だ」

 

「なんだ、つまんないの」

 

 洋介君と綾小路君に挟まれ、現実逃避気味にそんなことを話していると、プールの入口側が騒がしくなってきた。

 

「うおおお女子だ!女子が来たぞ!」「最高!この学校来て良かった!」「見ろよ長谷部の巨乳!すげえ……」「佐倉も負けてないぞ!」「櫛田ちゃん櫛田ちゃん櫛田ちゃん……はぁはぁ」

 

 ドン引きだ。いや男子高校生として気持ちは理解できるよ?でもせめて態度に出さないよう我慢しなよ。

 

「平田君〜!」「うわ、綾小路君、結構筋肉すごい……」「えっろ」「ちょっと腹筋触らせてよ〜」

 

 ……いや、そういえば女子も同レベル(Dクラス)だったね。最近大人しかったから忘れてたよ。

 

 波のように押し寄せてくる女子生徒たちからこっそり避難する。綾小路君からは助けを求められた気がしたけど無視だ。僕だって男なので、あの恐ろしい空間には長くは居られない。 

 

「はぁ……私が彼らと同レベルの評価を受けたなんて、思わず自殺したくなってくるわ」

 

「堀北さん。なんか、ごめんね」

 

 避難した先に偶然居合わせた堀北さんに、男子を代表して謝っておく。

 

「潮田君が謝ることじゃないでしょう……それにしてもあなた、本当に男だったのね」

 

「酷っ!……それ、広義の意味ではセクハラだよ」

 

「いいえ、ただの事実確認よ」

 

「二人で何話してんの?!」

 

 突然叫ぶように声をかけてきたのは、軽井沢さんだ。僕と堀北さんの間に滑り込み、焦ったように問い詰めてきた。

 

「…大声を出さないで、耳が痛いわ。ただの雑談よ」

 

「そ、そう……ってえ?」

 

 もう話したくないとばかりに背を向けて向こうへ歩いて行った堀北さんに、軽井沢さんは目を白黒させている。会話の切り方が予想外過ぎたらしい。

 

「え?なにあいつ、感じ悪くない?」

 

「堀北さんは誰にでもあんな感じだよ」

 

 むしろ軽井沢さんは、このクラスの中では好感度が高い方だろう。真面目に授業受けてるし、話しかけにこないから。

 

「そ、そうなの?ならいいんだけど。……ねえ」

 

「うん、なに?」

 

「その傷、それ」

 

「ああこれ?よく気づいたね」

 

 僕の左腕の前腕には古傷がある。一本の細い切り傷だからそんなに目立たないんだけど、よく見てるね。

 

「野良猫に引っかかれちゃって」

 

「……ふーん、そうなんだ。……渚君、体細過ぎじゃない?筋トレしなよ」

 

「それ、綾小路君たちと比べてるよね?あのレベルで筋肉つけるのは無理だよ、骨格から違うから」

 

「いいからもっと体重増やして!女子にもプライドがあるの!」

 

「え?あ、うん」

 

 これでも一応鍛えてるんだけど……ちょっとショックだ。頑張って増量しよう。

 

「……ねえ、なんかあっち喧嘩してない?」

 

「本当だね。はぁ……」

 

 少し目を離した隙に、何やら言い争いが勃発していた。

 

「クソ!なんであいつらばっかり!!俺にも筋肉があればあれくらい……!」

 

「ズリぃぞ綾小路!!」

 

「はぁ?!あんたらが嫌われてるのは中身が終わってるからでしょ!こっち見んな変態!」

 

「は、はぁ?!誰がお前みたいなブスなんか見るかよ!」

 

「っ!」

 

 あ、やばい。これ収拾つくのかな。いやどっちにしろ行かないとだよね。

 

 ため息を飲み込みながら口論の現場に向かおうとすると、それよりも早く動いた人たちがいた。

 

「池君、言い過ぎだよ!女の子に向かってブスなんて……酷いよっ」

 

「く、櫛田ちゃん!……い、いやその……」

 

「言い訳すんなよ。今のはお前が悪いぞ。いや、今というか朝からずっとだな。やり過ぎだ。ちゃんと謝れや」

 

 櫛田さん!須藤君も?!

 

「う……いや、そうだな……っす。その、篠原、言い過ぎた。俺が悪かったよ。ごめん」

 

「……ふん!別に。あんたからどう思われてるかとか、どうでもいいし」

 

 まさか須藤君が注意する側に行くとは。

 

 今、僕は近づかない方がいいかな。まとまりかけてるし。

 

 ……もしかして、須藤くんと仲良くなることができれば、池君と山内君の態度も改善できる?試してみようか。

 

「よーしお前ら集合しろー。準備体操をしたら、とりあえず泳いでもらうぞ」

 

 先生の指示に従って泳ぎながら、その方法について考える。といっても取れる手段は実質一択だ。

 

 安直ではあるけど、須藤君と仲良くなる方法ならバスケだろう。上手くやれば、洋介君と須藤君の仲を修復できるかもしれない。

 

 まずはメンツを集めないと。まとまった時間が取れるのは、やっぱり週末かな。もう少し早く気づけばよかったなぁ。

 

 少しだけ見えた光明に、心の重しが取れたような気分だ。肌を撫でる水も気持ちいい……ん?

 

「あれ?なんか、すごく重大なものを見落としてる気がする……」

 

 ふと、頭の片隅に何か引っかかるものを感じた。だけどそれが何かは、すぐには思いつかなかった。

 

 ……まぁ、思い出せないならそこまで重要なことじゃないかな。

 

「げっ、最悪……補習確定じゃん」

 

「軽井沢さん、泳げないの?」

 

「一応泳げるけど50mは無理、絶対体力もたないし……ねえ、渚君泳げるんでしょ?お願い、教えて〜」

 

「いいよ。じゃあとりあえず、どれくらい泳げるのか見させてもらうね」

 




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