1582年 6月21日 京都-『本能寺』
虫の羽音すら聞こえぬ静かな夜に、火の粉が散る音が響きわたる。
それは『寺』の燃える音…寺全体をつつみこむ炎は空をも包みこむのではと思うほど燃え盛っていた。
煉獄を彷彿させる灼熱の中、男が一人、倒れていた。
「........」
朦朧とする意識の中、男は震える手で自分の腹部をまさぐる。ネチョ..と不快な音が男の耳に届く。ゆっくりと手のひらを顔に近づけると、そこには”自分の血”がベットリついていた。
「.....これが..余(オレ)の......最期、か.....」
手のひらについた血を見て、男は悟った。己の死を……今宵、此所で、自分の生命は終わるのだと.....
「.................フフ、フフフ....フフハハハ、フフフハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
崩れていく寺内に、男の”ワラい声”が響く。それに悲痛や無念、後悔といった感情は一切なく、男は清々しい笑みを浮かべて”ワラっていた”。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!! .....これがッ! これが余(オレ)の最期かッ!『第六天魔王』の死に様かッ!! ハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
炎が男をつつんでいく。腕が焼けただれ、足が炭と化しながらも、男は”ワラう”。その高笑は男が灰になるまで…寺が燃え尽きるまで続いた。
この日、人々を恐怖で震え上がらせた魔王がこの世を去った。魔王の肉体は骨はもちろん髪の毛一つ残らず灰塵と帰した。
しかし、魔王の『魂』は消えていなかった。
1991年 5月12日 愛知県-名古屋市内の病院
「よく頑張ったね! 由妃さん! お疲れさま!」
「うん、ありがと信秀君。ほら、見て...可愛い男の子だよ!」
白を基調とした簡素なデザインの病室で、若い夫婦が産まれたばかりの新しい生命を腕に抱き喜びあっていた。
「フフ♪ 鼻の形が信秀君にソックリ♪ 」
「でも、耳の形は由妃さんのだ。間違いなく…僕達の子供だよ♪ 」
夫婦はお互いの特徴を探しながら我が子を見ていた。しばらくして、子供がぐずり始めた。
「あ、おっぱいかな? 信秀君、タ~ン・ライト!」
「はいはい...今のうちに実家に連絡しとくよ。」
夫は病室を後にし、廊下脇にある公衆電話を使って実家に報告をした。会話は盛り上がり、財布に入っていた小銭はいつのまにか無くなっていた。親族に報告を終え夫は病室に戻った。そして、驚愕した。
妻が胸を押さえて苦痛の表情をしていたからである。夫は急いで妻のもとへ駆け寄る。
「ど!? どうしたの由妃さん!? 具合悪いの!?」
「へ、平気だよ...ちょっと..」
苦笑いを浮かべながら妻は答えた。夫は安堵したが、何故妻が胸を押さえていたか気になった。
「.....この子におっぱいあげてたんだけど...信秀君、この子の『口の中』、見て?」
妻の言葉の真意は分からず、言われるがまま夫は我が子の口の中をのぞきこんだ。
「!? こ、この子...!」
夫は再び驚愕した。そして理解した。妻の言葉の真意を、何故胸を押さえていたかを。答えは我が子の口の中にある”あるはずの無いもの”にあった。
「この子......『歯』が生えてる...!」
まるで吸血鬼の牙のように、産まれたばかりの赤子には『歯』が生えていた。
改変前の作品はチラ裏に上げてあるので、大まかなストーリーをしりたいという方はどうぞご覧ください。
新しくこの作品を楽しみたい方は、今後をお楽しみに。