2008年 4月21日 福岡県-『天神館』
《天神館》
個性を重んじる校則、ユニークな授業が特徴の九州を代表する学校である。
此処 天神館は全国でも珍しい『武術』をカリキュラムに取り入れた学校で、弱肉強食を教訓に日々生徒達は切磋琢磨し、各分野で好成績を残している。
そんな天神館の館長をつとめている『鍋島正』は、ある問題を抱えていた。
Side:鍋島正
「桜の匂いが濃くなってきた...もう僅かってところか。」
「毎年ながら惜しく感じますね。此処の桜並木はとても綺麗ですか...」
窓から香ってくる校内の桜の匂いを嗅ぎながら、鍋島は教頭の教員と一緒に校舎の廊下に立っていた。
「....で? ”例の二人”は見つかったのか?」
「....それが、まだ....警察からもそれらしい情報は入ってないとのことで...」
「はぁ、たくッ...噂通りの”問題児”ってことか...」
ガシガシと頭をかいて、鍋島は胸ポケットから葉巻を一つ取り出し、それに火をつけた。
鍋島は、いや天神館は今、創設以来最大の問題を抱えていた。今春から、県外の学校から転学してくる生徒が二人いたのだが、入学式を終えて一週間経つというのに一向に姿を見せないのだ。教員が調べてみると、その生徒達は地元の新幹線で見かけたのを最後に行方が分からなくなっていた。天神館はすぐに警察に捜索願を出したが、今日まで何の手がかりも出てこなかった。
「前の名古屋の学校にも連絡いれたのかい?」
「はい。そしたら「そのくらいで慌ててたらこの先やってけませんよ」って笑われたんですが...」
「....ったくエラそうに。生徒の面倒も見られねぇで
鍋島はイライラする気持ちを紫煙と共に吐き出す。
今春転学してくるという生徒は、通常の転学理由とは大きく違っていた。普通生徒が転学する理由としては親の仕事の都合などが一般だろう。しかし、件の生徒は”学校側が転学してほしい”という理由で天神館に転学してくるのであった。退学になったわけでもないらしいので、完全に向こう側の”教育放棄”であった。
「無事だっつうんならさっさと来てほしいもんだ。ただでさえ
「あぁ、例の”新入生達”ですか。全員個性が強くて、一筋縄ではいかなそうな者ばかりでしたからね。」
教頭の教員は先日行われた入学式でのことを思い返す。
今年、天神館は数年ぶりに”逸材”とも言える将来有望の若人が十人も入学してきた。”壁越え”、とはいかないがそれに限りなく近い者も何人かいた。
その内の一人、新入生代表の挨拶にも任命された『石田三郎』という生徒は、歓迎の挨拶に対しこう答えた。
「俺は出世街道を歩むエリート。この学園での生活も、俺の栄光の道の通過点にすぎん。西の武士共よ...俺は必ず此処の頂点に立ってやる。腕に覚えのある者は、遠慮なくかかってくるがいい。」
全校生徒を相手に宣戦布告したのであった。だが、大口を言うだけの実力はあるらしく、挑発に乗って勝負を挑んでくる生徒を次々と倒していった。今では、石田三郎を中心とした派閥のようなものまでできた。
長らく武士学校として”東”に後れをとっていた天神館としては石田のような生徒は歓迎だった。ただ性格に難があり、今後教師達の手を焼かせるであろうと不安の声が上がっていた。
「新入生に転入生、今年はゆっくり花見酒もできそうにねぇなぁ...」
窓から見える校庭に咲き誇る桜を見て、ポツリとこぼす。例年ならあの桜を肴に一杯やっていたのだが...と鍋島が考えていると。
「かかかかか、館長ぉぉぉおおおおお!!」
廊下の奥からものすごいスライディングで一人の教員が汗だくの顔で現れた。。
「おいおぃ、どうしたい? 何かあったのか?」
「はい! あの、今く、黒のあれが、今..!」
「落ち着け、何言ってんのか分かんねぇよ。ゆっくり喋れや。」
鍋島に言われ、ぜぇぜぇと息を切らしていたのを大きく深呼吸して整え、教員は火球の要件を鍋島に伝えた。
「じじ、実は校門にいきなり黒のリムジンが何台も来て..! しかもそれから、どう見ても一般職には就いてないような強面の連中が降りてきたんですッ!」
「あぁ? 何だそりゃ?」
「とにかく来てください!」
切羽詰まった表情の教員を先導に、鍋島は校庭が一望できる正面玄関上の廊下に向かった。いつのまにか校庭には黒のスーツで着飾ったキズ持ち面の男達が歩いていた。まるで軍隊のような規律的な行進で校舎に近づいてくる。生徒達も男達に気付き、何事かと不安視しはじめた。
これはただ事じゃないと皆が判断し、勇みある生徒は校庭に降り、屈強な男達とぶつかろうとした...その時だった。
「天神館! 到着しましたっ! ”信長さん”!」
「「「 到着しました!!」」」
それはまるでモーセの十戒のような光景だった。一台のリムジンが校庭内に入ってき、それを中心に校舎入口まで伸び、二つに分かれたキズ持ち達は軍隊顔負けの敬礼をとっていた。
暫くして、ギィ...とリムジンの扉が開いた。校庭の様子を見ていた生徒達はゴクリと唾を飲む。鍋島も同じだった。緊張が走る中...”彼”は現れた。
「ようやく着いたか.....此度の旅は実に長旅であったな.。なぁ”帰蝶”。」
「長旅になったのは、誰のせいだと思っているんです? どうお詫びする気ですか、”信長さん”。」
目測でも190はあるだろう長身、雄々しく腰まで伸ばされ後頭部で束ねられた黒髪、西洋人形のように整った貌、耳に残る色気のある低い声色、赤と黒を基調とした着物をまとい右手には煙管らしき物を持っていた。何より全身からただよう妖しい色気...『完成された人間の雄』がそこにいた。
そしてもう一人、先に出てきた”彼”と同じく綺麗に手入れされた黒髪、凛とした雰囲気、可憐というより美麗な貌、母性を象徴する豊満な体。こちらは着物ではなく天神館の制服を着ていた。『大和撫子』を連想させる美少女が男の側に立つ。
現れた二人の圧倒的な美貌に、不振な目を向けていた生徒達は全員目の色を変えて呆けていた。二人は言葉を交わしながら校舎の方へ歩いていく。その一挙一動も実に”様”になっていて、生徒達はただ魅入っていた。
”真の実力者”である数名の生徒と館長・鍋島を除いて......
「な、何者だあの男は!?」
「なんやえらいキレェな二人が来たなぁ。」
「フッ、かばり美点は高いが、私ほどではないな。」
「ひゅぅ、いいねあの娘。落としがいがあるじゃないの。」
「っ!? あの男の方、今それがしの方を見た!?」
「あぁ? 気のせいじゃぁねぇか?」
「ゴホっ...データにはない連中だ。能力は完全に未知数だな。」
「し、しかし何とも豪快な登場をする男だな。西国の男でも、あんな豪快な奴はそうはいないぞ。」
「ぬぅ、目を見ればどんな人間か分かる。あの男、只ならぬ眼光をしておりますな。」
「はッ! それが何だ? あの下品な行動から、奴のさもしい生まれが手に取るように分かる。出世街道を進む俺の敵ではない。」
「うっわぁ...何だかとんでもないことになりそうな予感がするよん...!」
「ったく...ようやくお出ましか。待たせやがって、遅刻もドが過ぎるぜ。」
「か、館長! 知っているのですか、あの二人を!」
「知っているも何も、テメェウチの生徒の顔ぐらい全員分覚えとけ。」
持っていた葉巻の火を消し、事態がのみ込めていない教員に、鍋島は答えた。
「アイツ等が今年からウチに来ることになってた転入生...『織田信長』と『織田帰蝶』だ。」
この日、天神館に二人の転入生がやってきた。彼等が巻き起こすは災いの嵐か。それとも新たな可能性を開く風か。
この物語は、一人の『魔王』が巻き起こす、壮大な学園碌。彼の影響は、多くの若人の人生を変える。
どこまでも豪胆で、不遜で、不敵な『魔王』がおりなす物語が、今始まる。
改変前を知っている方は、改変前と後の違いを見比べたりするとおもしろいかもしれません。