天神館、館長室。そこには館長鍋島意外に今二人の生徒がいた。
一人は煙管をふかして、一人は申し訳なさそうにしていた。
「よく来たな。天神館(うち)はテメェラを歓迎するぜ。」
鍋島は目の前の二人に語り掛ける。
「歓迎のわりには出迎えが少なかった気がするが...? だがそれは問題ではない。余(オレ)達を此処に呼び出した要件は何だ? こちらは長旅で疲労していて、今すぐ風呂にでも入って寝たいとこなのだが...」
「の、信長さん! 失礼ですよ! 館長さんに向かって!」
「ハハハ! 別に気にしてねぇよ、嬢ちゃん。こんなン一々気にしてたら此処の館長なんざぁ、つとまらねぇ。」
鍋島は信長の態度に、怒るどころか豪快に笑いながら受け入れた。実際、ここ天神館は見方によれば問題児の巣窟ともとれるほど個性の強い生徒が多い。そんな生徒達を何十年と教育してきた鍋島にとって、この程度の素行の悪さは屁でもないのだ。(教師の前で堂々と煙管をふかしているのを笑ってすますのもどうだと思うが…)
「まぁ、聞きたいことは山ほどあるがぁ、これだけは聞いておきたいことがある。」
「何だ?」
「テメェラ”今まで何処で何してた”?」
あぁ...と帰蝶は納得といった表情をし、信長は質問の意味がいまいち理解できていないのか首をかしげた。
「予定だとテメェラ二人は今月のアタマに来るって話だったよな? テメェラが来んのがあんまりにも遅いもんで、こっちぁ警察やらに連絡とったりして色々面倒なことになったんだぜぇ。」
ここ数週間、天神館の教員達は生徒二人が行方不明とあって気の休まる日がなかった。件の生徒はこうして無事登校してきたが、遅れた理由を聞いておかねば
「何をしていたか、か。フム...簡潔に答えるなら.........」
フゥ..と紫煙を吐き、信長は答えた。
「道に迷っていた。」
「..........は?」
時が止まったのかと思うほどの静寂が館長室をつつむ。沈黙を破ったのは、恥ずかしそうに頬を赤らめた帰蝶だった。
「....本当に申し訳ございません。ここへ向かう途中、この人が急に”より道”をはじめたもので...」
「いやぁ、余(オレ)もまだまだ浅薄だったものだ。よもやあんな辺境の地に極上の甘味処があろうとは。」
「だからって”新幹線止めて”まで食べに行きます?」
「良いではないか。退屈な乗車より有意義な時間を過ごせた。」
「その有意義な時間のせいで道に迷って、どれだけ多くの方達に迷惑をおかけしたとおもっているんですか。”山口組”の方達にも無理言って学校まで送迎させて...」
「たかが数日遅れただけだろうが。」
「たかがって..」
「ちょ、おいおいちょっと待て。」
口論になった二人を制して、鍋島は尋ねた。
「何だ?」
「お前等....まさか、遅れた理由は”食いモン屋に寄り道してたから”...っだつぅのか?」
「あぁ、そうだ。中々にイケる葛餅であった。」
鍋島は開いた口が塞がらなかった。てっきり何かの事件か事故にでも巻き込まれていたものと思っていた。だが蓋を開けてみれば何だ...『葛餅食べに行って道に迷った?』
「......ハ、カッハハハハハハハ! 何でぇそりゃ...! ハハハ、心配してそんしたぜぇ..!」
目尻にうっすら涙がたまるほど、鍋島は豪快に爆笑した。今だかつてこんな生徒..いやこんな人物に出会ったことがない。あまりに可笑しすぎて笑っていると、女生徒はまた恥ずかしそうに頬を染めた。
「ご、ごめんなさい! 途中に携帯電話が壊れて、連絡できなくて...本当にごめんなさい!」
「ハハハ、いいよ嬢ちゃん。しっかし新幹線止めてまで食いたくなる葛餅かぁ...今度教えてくれや。」
たった数言しか話してないが、鍋島は何となくこの二人の生徒の性格が分かった。そして、思った。
「面白い」、と。
昨今、天神館の生徒にはなかったぶっ飛んだ感性と行動力。問題児などという枠におさまりきらない態度。
生徒として見れば、失格もいいところだろう。だが、鍋島は思う。
「(何年ぶりかねぇ、こういう奴は....破天荒で、我儘で、自由勝手で、それでいて”一人でいきがっていねぇ”...人を惹きつけ、味方に引き込む”何か”を感じるぜ。俺の師匠とは違うタイプの”カリスマ”とでも言うべきか........いいねぇ、久方ぶりだぜこんな野郎は。)」
もしかしたら、この生徒は自分が思っているよりも強大な”嵐”を起こすかもしれない。鍋島はこの青年に期待をもった。
「.......よぅ、モノは一つ頼みてぇことがあんだが。」
「ん?」
そして鍋島は、青年に願いでた。弱体化してきたこの天神館に活気を呼び起こす”嵐”になってくれることを。
Side:------
場所は変わって此処は天神館一年棟。今年から天神館に入学した血気盛んな若者達で賑わうところ。
その一角。七クラスある教室の一つ1-1で、期待の新星と呼ばれる十人の男女が集まっていた。
「いやぁ、しかしさっきの二人、目立っとったなぁ。入学式ン時の『石田』レベルちゃう?」
「たしかに、なんか雰囲気も似てるしな。」
机の上にひろげられたスナック菓子をほおばりながら、エセ関西弁を使うふくよかな体系の女生徒『宇喜多秀美』と、浅黒い肌の小柄な少年『尼子晴』は喋っていた。
「まぁ、豪快な奴は俺は嫌いではない。何故なら俺自身、瀬戸内海を横断する四国の海人だからだ!」
「ゴホっ...うるさいぞ、長曾我部。私が調べものをしている時は、静かにしていてくれ。」
そのすぐ近くで、ムキムキ筋肉の半裸男『長曾我部宗男』と、マスクをして針金のように背を丸め、高速で持っているノートPCのキーボードを叩く男『大村ヨシツグ』が宇喜多達と同じく、転入してきた二人の人物について語り合っていた。
「ヨッシー、大丈夫か?」
「あぁ...二回ほど臨死体験が、欲しい情報は入手した。」
大村は持っていたノートPCの液晶を皆に見せるように向ける。彼が調べていたのは、もちろん件の転入生についてだ。
「あの二人は、どうやら名古屋から来た者達らしい。ゲホ...調べたところ、名古屋だと結構有名な人物だ。もっぱら、男のほうがだがな。名前は『織田信長』。何でも、たった一年足らずで名古屋を中心に、中部地方の暴走族を”たった一人”で壊滅させ、一つに統合したらしい。」
「な、なんと! それは凄まじいな。」
「織田信長...かの『第六天魔王』と同じ名を持つだけあって、随分と破天荒な男のようだな。」
大村の言葉にビックリしているのは、鼻に絆創膏を貼り、所々ピンッとはねた短い髪の毛が元気な印象をうかばせる少女『大友焔』である。そしてその横で、全身を漆黒の忍者服で覆った青年『鉢屋壱助』もまた、件の男生徒の破天荒ぶりに驚愕している。
「で、だ。転入前の学校の校長が、これ以上は面倒見きれないって投げ出して、ウチに来たらしい。」
「きょ、教育者としていろいろ失格だな。もう一人の女の人はどうなんだ?」
「彼女か...彼女の名は『織田帰蝶』。何でも....男の”嫁”らしい。」
「はぁ、嫁.....え!? よめぇ!?」
「お前は何処のリアクション芸人だ、大友。大声は肺に響くから勘弁してくれ。」
「その話、詳しく聞きたいねぇ。」
「同じく。」
大村の話を聞いて飛びついてきたのは、どちらもイケメンの男子生徒二人だった。
「『毛利』に『龍造寺』か...まぁ、お前等は食いつくと思ったよ。どうせナンパでもしようと企んでいるんだろ?」
「当然。イイ女を口説くのは、ハンサムの仕事みたいなもんだからな。」
「この世の美は全て私への献上品。あの瑠璃色の宝珠は私にこそ相応しいからな。」
互いに自画自賛し、同性から見ればかなりアレなことを言っている二人は『毛利元親』と『龍造寺隆正』。
その整った相貌から、女子生徒から人気の高い存在だった。
「相変わらずわけの分からんことを...まぁいい。手を出すのは勝手だが、気をつけたほうがいいぞ。情報うんぬんの前に、見た感じあの男は”危なそう”だからな。藪をつついたら蛇が出るどころじゃすまないぞ。」
「愛のハンターに危険はつきものさ。それより嫁ってどういう事だ? 日本の法律じゃ十八歳以下は結婚できないはずだろ?」
「あぁ...戸籍上では”養子”となっているそうだが、当人達は夫婦の間柄だと主張しているらしい。名古屋でも『織田夫婦』と呼ばれ、そっちの面でも有名そうだ。」
「いいねぇ。人妻か...そっちのほうはまだ経験がないからな。落としがいがある。」
「私には関係ないな。美しければ、それだけで価値がある。美しいとはこの私と同じく、人を魅了する魔性を秘めている...罪なものだ。」
「....いっそお前達は、ケガをしたほうが良いかもしれんな。」
二人の発言に少し呆れながら大村は注意をする。まぁ、それで痛い目を見て、この二人の悪い癖が直るのなら、それはそれで良いのかもしれないと、思いはしていたが。
「女のことなど、どうでもいい。それよりヨッシー。男の方、織田とやらの情報はそれで全部か?」
そして、大村に声をかける者はもう一人。先程の毛利と龍造寺に負けず劣らずの端正なルックスで、自信にみちた眼差しをした男『石田三郎』であった。
「石田か。あぁ...他にこれといた情報はない。家が名のある武家なわけでもなく、何処かの流派に入門していた記録もない。あくまで、スゴイ記録を持つ”一般人”といったところだな。」
大村は自身の集めた情報をまとめ、件の男・織田信長をそう評した。
名前はかの有名な戦国武将と同じだが、別にその直系の子孫というわけではない。また、中部地方の不良を制圧したとあるが、これも”自分がやろうと思えばできること”。
「ハッ! やhりそうか。まぁ、出世街道を歩む俺には一目見ただけで気づいたは。あの派手な登場も、自分をより大きく見せよういう浅はかな考えからであろうよ。」
まだ会ったこともない人物をこれだけボロくそ言う石田はある意味凄いと言える。石田三郎は優れた能力を持つ人間なのだが、そのせいか他人を軽視しがちで、友人でさえ結果を残さぬのなら無能と切り捨てるほどだ。
そんな石田の口の悪さに物申す男が一人。
「石田さん。まだ会ったこともない人物にそこまで言うのは、少し無礼がすぎますぞ。」
「何だ”右近”。俺に意見するのか。」
「意見もしますぞ。あまり他人を軽視する発言ばかりしていると、かえって自分がちっぽけに見えまする。少し控えたほうがよろしいですぞ。」
「むぅ...お前が言うなら、少し自重しよう。」
「さすがは”お父さん”。叱り方の年季が違う。」
「誰がお父さんか! それがしは立派に其方等と同じ年!」
年のわりにとても老けた顔をしている青年『島右近』はそう言うが、彼はその見た目と落ち着いた態度から、おっさん、お父さん、おとん、などと呼ばれていた。
以上十名が、今年度天神館に入学してきた一年生の中でも、期待の新星と呼ばれる天才達だ。全員が西国出身ということもあり、彼等は『西方十勇士』と呼ばれていた。
「まぁ、あの凡俗の話はこれでいいだろう。そんなことよりヨッシー。例の件はどうなっている?」
話題を切り替え、石田は大村に頼んでいた件の報告を尋ねる。大村はあぁ..と答え、ノートPCの別のアイコンをクリックし、ページを開く。
「噂通り、天神館は今年度の”大将”をまだ決めかねているらしい。今の二年生は、あまり積極的にやりたがらないかららしい。」
それは彼等が入学してすぐ広まったこと。天神館には伝統として毎年春になると学校の代表を決める行事がある。まぁ分かりやすく言えば生徒会長を決めるようなものだ。
だが天神館の代表、”大将”になるというのは普通校の生徒会長になるのとは比べものにならない程の価値がある。
武道学校である天神館の代表とはすなわち、学校一強い者ということ。大将とは最強の証明なのだ。
「フン、腰抜け共が。それでも天神館の生徒かと嘆きたくなる。しかし、やはり今の二年に立候補者はいないか.....フフフ、これはいよいよ実現が見えてきたぞ。この俺、石田三郎が大将になるという実現がな!」
石田三郎はとても野心にあふれた人物だった。入学してそうそう、一年生を支配して、牛耳るほどの実力は確かに大将に相応しい。しかし大将に立候補できるのは二年生以上のみ。だが石田は己こそ相応しいと謳っていた。
「この世は弱肉強食だ。強い者が全てを手に入れられる。そして、誰より強いこの俺こそ、頂点に輝く称号を得るに相応しいのだ!」
「相変わらず高慢ちきやなぁ。どうにかならんの、おとん?」
「だから誰がおとんだ。...こればっかりはどうしようもない。それがしと石田さんは長い付き合いだが、この性格だけは一向に変わらん。そういう性なのだろう。」
島ははぁ..とため息をこぼす。石田と長い付き合いである彼は、この性格がもう少しなんとかならないものかと、日々頭をかかえていた。
そんな時、校内放送を知らせるチャイムが、教室につけられたスピーカーから聞こえてきた。その後に聞こえてきたのは、天神館館長・鍋島の声だった。
《おぉ、全校生徒諸君。新年度が始まって、ようやく新しいクラスにも馴染んできたころか? 一年坊主は友達作ったか?》
「なんだ? 館長が校内放送に出るなんて珍しいな。」
《今日はテメェ等に大事な話があってよ。どうかこの年寄りの話を聞いてくれや。テメェ等も知っていると思うが、今年は二年の出不精共のせいでまだ大将が決まってねぇっつう情けないことになっている。まったく武士のたまごが聞いて呆れるぜ。俺もほとほと困っていてなぁ...しまいにゃ今年の一年坊主の一人が「俺こそ大将に相応しい」っつって、売り込んでくる始末だ。もぉ、考えんのもめんどっちくなってよ、やる気があるなら、いっそソイツに大将やってもらおうかと思っていたんだよ。》
「おぉ! さすがは館長、見る目がある! 俺がことを起こさずとも、天は俺に味方し...」
《.....けどよ....その心配はなくなったんだは。》
「....え?」
《全員知っていると思うが、今朝学校にアホみたいな登場した奴がいんだろ? そいつはぁ、今年からウチに転校してきた奴なんだが....俺はこいつが気に入った! そんでもって、こいつに今年度の大将をやってもらうことにした!》
「はぁ!?」
《異論はさせねぇぞ。こいつは俺が決定したことだ。文句があんなら、天神館の生徒らしく、力づくで訴えてこい。んじゃ、俺の話は以上だ。ちゃんと授業をうけて勉強しろよ、ガキンチョ共。》
その言葉を最後に、鍋島の校内放送が終わった。そして次の瞬間、校内中の生徒が一斉に騒ぎ出した。
「お、おいおい! 聞いたか今の!?」
「転校生ってことはあのでけぇ男と、めっちゃ美人の二人だよな!?」
「どっちだと思う?」
「バカ、んなの男の方に決まってんじゃん。あの目見たか? すっげぇ怖ぇ目してんだ。絶対何人か埋めている目だぜ、あれは。」
「でもかっこよくなかった? 正直私ちょ~タイプだんたんだけど!」
「私も!」
話題にあがるのは件の転入生達。遠目に見ただけでも感じた只者ならぬ気配に、生徒達は鍋島の判断に納得した。
しかし、納得していない者もいた。
「ふざけるなッ!」
それは勿論、石田三郎であった。
「あんな男が大将? 館長は何を考えている!? 由緒正しき天神館の歴史に泥を塗ろうというのか!?」
「お、落ち着いてくだされ石田殿! 館長にも考えがあってのことなのでしょう。」
「荒れてるねぇ、石田。まぁ無理はないか。」
「やりたがってた大将の座、とたれちまったからなぁ。奴の心は今、鳴門海峡の渦潮のようにうねり狂っているのだろうよ。」
憤怒の形相で石田は怒鳴り散らす。それをなだめているのは彼のお目付け役・島。それを遠巻きで見ながら静観する残りの十勇士メンバー達。
石田の怒りは極めて自己的なものだ。どこぞのガキ大将のように、自分の思い通りにならないことを、彼はとことん嫌った。
「石田さん。今年は諦めましょう。もともと一年生は立候補できない決まり。郷に入っては郷に従え...潔く身を引くのも、男というものですぞ。」
「.....何を言う。行くぞ、右近!」
「は..? ど、何処に?」
「決まっている...館長の言葉を忘れたか?」
決して怒りの矛を収めず、石田は教室を後にする。向かうは件の男がいる場所。
「郷に入っては郷に従え、正しくその通りよ。館長は言った。「文句があるなら力で示せ」と....此処は力の強さで全てが決まる武士の学び舎。.....俺は、天神館に泥を塗る不敬に『決闘』をしかけるッ!」
かくして、西方十勇士最強の男・石田三郎は、己の願望を邪魔立てした者...その全貌は今だ謎に包まれた男・織田信長に挑むのであった。
西方十勇士って仲が良いんだか悪いんだか分からない関係が、川神学園側と違っていて凄く見ていて飽きないですよね。
だからこそ、マジ恋の二次創作ではよく書かれるんですかね。