「船長! いろいろありがとう!」
「う、うむ……。こちらこそ世話になった」
ゴンさんが船長と握手を交わしている。
船員を助けるためにボッ!した後も嵐を乗り越えるために大活躍し、一人で十人分は働いていたと思う。さすがゴンさんだぜ。
そんなゴンさんのお陰もあって嵐を無事に乗り越え、俺たちは全員合格となってドーレ港に到着した。
レオリオとクラピカも一生懸命働くゴンさんの姿に感化されたのか、いがみ合うのを止めて普通に接していた。
「ごほん。最後にわしからアドバイスだ。あの山の一本杉を目指せ。それが試験会場に辿りつく近道だ」
「わかった! ありがとう!」
船長にお礼を言って別れる。
ゴンさんは図体は大きくなったけど、中身は11歳のゴンのままだから素直なんだよね。
優しい心と激しいマッスルによって目覚めたスーパーゴンさん、それが今のゴンさんだ。
「というわけで俺たちは一本杉を目指すけど、レオリオとクラピカはどうする?」
「あー……。すまねえが、その話はちょっとおかしくないか?」
レオリオがゴンさんを気にしながら、けれどはっきりと言った。
「ほら、この地図を見ろよ。ザバン市はデカい都市だ。わざわざ山の中に入らなくてもサバン直行便のバスが出てるぜ。近道どころかヘタすりゃムダ足だぜ」
「彼の勘違いなのではないのか?」
レオリオに引き続きクラピカも常識的な意見を述べているけど、ハンター試験は普通の試験とは違うからね。
「二人ともまだまだハンター試験を舐めてるね。サバン市への直行バスは一つもザバンまで辿り着かないよ。あれは受験者を振るい落とすための罠だからね」
「はあ!? 罠!? そんなのありかよ!」
「……いや、船での船長の発言から考えると、確かにその可能性は高い。何らかの妨害があると考えるのが自然だろう」
「でしょう? だから船長のアドバイスに従うのが一番の近道なんだよ」
いやー。原作知識で無双! 楽しいね!
「バン。どうやら私よりも君の方がハンター試験に詳しいようだ。ここは素直に助言に従うとしよう」
「とんでもねえマセガキだと思ったが、そういえば船長のことを試験官と見抜いたのもお前だったか。へっ、やるじゃねえかよ、バン」
どうやらようやく二人に認められたらしい。しっかりと握手を交わした。
「あ、一応紹介しておくけどこっちはゴン。俺の双子の弟で11歳だよ」
「よろしくね、レオリオ! クラピカ!」
「「弟!? 11歳!?」」
顎が外れそうなほど驚く二人の顔に、深い満足に包まれるのだった。
◆◆◆
天空闘技場での修行を終えた少女は、試験開始の一か月前にサバン市に向かって移動を開始した。
気をつけないといけないのは道中のデストラップ。試験官の機嫌一つで試験を落とされてしまう類いの問題だ。原作の知識がある分、他のルーキーよりも有利とはいえ、どこに落とし穴があるか分からない。試験会場に辿り着いたのに門前払いなどされたら最悪だ。
一発即死のデストラップと比べれば移動妨害はまだリカバリーが効く。移動時間を多めに見ているので、バスや飛行船などを避けて歩いて移動するのも不可能ではない。一次試験の長距離マラソンの練習にちょうどいいくらいだ。
慎重に確実に少女はザバン市を目指していく。それでも途中でハンター協会に雇われた審査員が立ち塞がることもあったし、ナビゲーターを紹介されて一気にショートカットしたこともあった。
「ここが、今回の会場のザバン市……。やっとたどり着けた」
試験開始三日前。
長い旅路の果てに、ついに彼女は『原作』の舞台に立つことができた。
「まだ時間はある。お金も十分ある。それなら『準備』をしないとね」
身を隠すために今までずっと続けてきた男装をついに止める時が来た。動きやすさを重視した汚れても構わない服装だったが、正直見窄らしい。やはり第一印象は重要だ。
残り三日。
今まで我慢を続けていた反動のように、美容室で髪を整え、エステで全身のケアをし、女性ハンターも愛用するブランド店の服を試着する。
資金には余裕があった。150階クラスで数か月間戦って得たファイトマネーは億を超える。
試験当日。鏡の前でしっかりと『女の子』になった自分を確かめて、ホテルを出た。
ゴンたちが会場に辿り着くのは一番最後。405人の受験者の405番目がゴンだ。あの三人は試験開始時刻の直前にやってくる。
「ちゃんと来てくれるよね?」
逸る気持ちを抑えながら、試験会場の入り口が見える場所に立っている。
もうすぐ訪れる『出会い』の瞬間を待ちわびながら。
◇◇◇
いやあ、途中の試験は難関でしたね。
『ドキドキ2択クイズ』はレオリオが本当にお婆さんをぶん殴るんじゃないかとドキドキしたけど、ちゃんとクラピカが止めてくれた。
レオリオがいい奴なのは認めるけど、クイズでムカついたからって木の棒で殴ろうとするのはさすがに喧嘩っ早過ぎるんじゃないだろうか。
やっぱり試験のプレッシャーとかで切れやすくなっているのかな? ちゃんとカルシウム取ってる?
そして、その次。一本杉の下の一軒家に住んでる凶狸狐一家。
変身能力を使って人間に変身し、一芝居打とうとしたわけだけど。
「ゴンさん、練」
「はあっ!」
ゴオッ!!!!
バタンバタンバタン……。
ゴンさんの圧倒的なオーラによる威圧を受けて、凶狸狐一家はその場で気絶してしまった。
さらに無防備な状態で、すぐ間近で受けてしまったレオリオとクラピカまで気絶しちゃったよ。
その後は気絶した全員を家の中の運び込んで介抱し、怯えて命乞いをする凶狸狐たちと青白い顔のレオリオたちを宥めて、ザバン市目指して夜間飛行となった。
ちなみに父ちゃん凶狸狐にレオリオ。母ちゃん凶狸狐にクラピカ。お兄さん凶狸狐は幻海師匠で、妹さん凶狸狐はレツを運んでいた。
俺とゴンさんはどうしたのかって?
ゴンさんは凶狸狐たちが怖がるので(そして重いので)地上の森を、木から木へ飛び回っていたよ。
そして俺はそんなゴンさんの肩に乗っていた。
そう、戸愚呂兄弟スタイルだったってわけだ!!
まだ肩幅が足りなくて座り心地が悪かったけど今後の成長に期待しよう。楽しみだね!!!
……幻海師匠が複雑そうな顔をしていた気がするけど、いつもの覆面姿だし気のせいかな?
◇
そして一夜明けて、ついに辿り着いた『めしどころ「ごはん」』。
「親父、ステーキ定食」
「焼き方は?」
「弱火でじっくり」
これ漫画やアニメで見た!!
ナビゲーターの凶狸狐と店主の親父のやり取りに感動していると、入口のドアが開いた。
「すみません、私もステーキ定食をお願いします」
「焼き方は?」
「弱火でじっくり」
「あいよ。全員奥へ入りな」
原作では存在しなかったはずのやり取り。
驚いて入口に目を向けると、俺と同じくらいの年齢の女の子が立っていた。
転生者だ。
一目見た瞬間に、すぐに分かった。