地下通路を通り抜けた先のヌメーレ湿原で、ついにヒソカは快楽殺人鬼の本性を現した。
「てめぇ!! 何をしやがる!!」
「くくく♦ 試験官ごっこ♥」
深い霧によって後続集団がサトツからはぐれてしまった後に始まった
凶器となったトランプが受験生たちに襲い掛かり、筋肉も骨も関係ないと言わんばかりに断ち切り命を刈り取っていく。瞬く間に湿原が赤く染まった。
飛んでくるトランプをクラピカは手にした木刀で切り払ったが、鞄に武器を仕舞ったままだったレオリオは左腕に怪我を負ってしまった。
「うああああ……」
大量の死体が転がる中で、運悪く即死を免れた重傷者が悲鳴を漏らすがそれもすぐに消えた。
「二次試験くらいまでは大人しくしていようかとも思ったけど、一次試験があまりにタルいんでさ♠ ボクが君たちを判定してあげるよ♣」
「殺人狂め……!」
ヒソカの最初の攻撃に狙われなかった受験生たち十数人が周囲を取り囲む。
「貴様などハンターになる資格はねーぜ!」
「二度と試験を受けれないようにしてやる……!!」
殺気立つ彼らを前に、ヒソカはおちついた態度でカードを一枚手に取った。
「君達、まとめてこれ一枚で十分かな♣」
――その宣言通りに、ヒソカに襲い掛かった受験生たちはカード一枚で皆殺しにされてしまった。
「さて……、おや♠」
「レオリオ! クラピカ! 大丈夫!?」
「バン! ……と、確か幻海とか言ったか?」
「お前たち、どうしてここに来た! すぐに逃げるんだ!!」
「くくく……♠ 困るなあ、ああ、本当に困っちゃうよ♥」
悲鳴を駆け付けてやってきた二人を前に、ヒソカは恍惚の笑みを浮かべた。
「ただの品定めのつもりだったのに、こんなに美味しそうなメインディッシュを二つも並べられたら、我慢できないじゃないか……♠」
ズキィィン!!!(股間が)
「な、なんだあいつ……マジでヤバすぎだろ……」
「変態め……っ!」
「こ、こんな奴に付き合っていられるか! 俺は逃げるぜ!!」
他の者たちなど目に入らない様子で、熱い視線をバンと幻海に送る。
シュシュシュッ!!
先ほどとは比べ物にならない速度で念の込められたトランプが飛ぶ。
「速い!」
「チィッ!!」
バンと幻海が避けるが、完全には避け切れずに幻海の覆面が取れてしまう。
「な……あ、あれが覆面野郎の素顔だと……?!」
「……」
覆面の下から現れたのは20歳前後の可憐な美貌の美女。
レオリオもクラピカも状況を忘れて思わず見惚れてしまう程。
「いいねえ、そちらの彼は90点♠ でも、君は100点満点だ♥ ああ、素晴らしい……、最高だよ♦ んん~、どっちから
だが、異常者のヒソカは幻海の美貌よりも、その強さに釘付けだ。
これまで見たこともない極みに到達している能力者。
こんなものを見せつけられて我慢できるはずもない。
「決めた♥ 先に君を殺して、余韻を味わいながらじ~っくりと彼を殺してあげよう♠ 大切な人を目の前で殺された時に、彼の念がどこまで成長するか……ああ♥ 想像するだけで達してしまいそうだ……♣」
ビクンビクンと震えながら、悍ましい殺気を幻海に向ける。
「とんでもない変態だね。――バン、こいつは生かしておけない。私が仕留める。手出しは無用だよ」
「……わかった」
「あは♠ 君最高だよ♦ さあ、二人きりで思う存分ヤろうじゃないか♥」
ヒソカの望む一対一。他の邪魔が入らない命をかけた殺し合いに、殺人狂は更に禍々しいオーラを溢れさせた。
念の宿ったトランプが幻海に襲い掛かるが、その攻撃をすり抜けるような独特の歩法で距離を詰め、
乱打。拳と拳がぶつかり合う。お互いの攻撃をしっかりと防いでいるのでダメージは微々たるもの。
――だが、それは奇術師が仕掛けた罠だった。
「フフフ……♠」
ヒソカの念能力「
ヒソカのオーラに触れてしまえば最後、一度くっつけば決して離れず、ヒソカの意志一つで自由に伸縮するのだ。
(さあ、君にこの攻撃が防げるかな?)
『隠』で見えにくくしたバンジーガムはすでに幻海の両腕に張り付けてある。
バンジーガムを縮めて奇襲を行うことで幻海の体勢を崩し、先に痛打を食らわせようとして。
――気がつけば、ヒソカの世界がぐるりと回転していた。
「え」
今何が起きたのか――驚愕と感動と共に、冴え渡るヒソカの直感が真実を悟った。
幻海はヒソカがバンジーガムを縮めようとした瞬間の『起こり』を読み、彼の能力を逆に利用してヒソカを投げたのだ。
(まさかそんなことが――まずい、空中で身動きが、バンジーガムを……ダメだ、力が逃がされる、姿勢を変えられない、オーラを飛ばす暇もない、避けられない、防ぐ、不可能――)
刹那の思考。時間が引き延ばされたような感覚の中で、死神と恐れられた男は自分の終わりを予感した。
「――完敗だよ、どうやって僕の
「簡単さ。あんたみたいな性悪を嫌というほど相手にしてきただけだよ」
修行に費やしてきた時間と、積み重ねてきた戦闘経験の差。
ただ純粋に、幻海の方が一枚上手だったというだけのこと。
「ああ、残念……♠ もっともっと、君と戦いたかった……♥」
幻海の拳がヒソカの胸に叩き込まれ――内部に浸透した衝撃がヒソカの心臓を粉砕した。
「やれやれ。面倒な相手だったね。もう二度とごめんだよ」
◇
地面に倒れ伏したヒソカは自分の状況を正確に理解していた。
心臓が破壊されて、すぐにでも意識を失い、死を迎えるだろう。
ヒソカは死を恐れない。圧倒的な強者との激闘の中で殺し合うことがヒソカの望みなのだから、幻海の手にかかって死ぬのは本望だった。
だが、幻海のような最高の使い手ともっと殺し合いたかったという欲望も真実。
こんなものでは足りない。まだだ、まだヤりたい――!
迫りくる最期を前に、稀代の
(
死が迫る。意識が薄れていく中、ヒソカは笑みを浮かべながら満面の笑みを浮かべていた。
(やっぱり僕の能力は最高だ……♠)
幻海vsヒソカのバトル回。
ヒソカには戸愚呂弟のような理不尽な防御力や攻撃力がないから、戦えば幻海の方が一枚上手だと思われる。異論は認める。
バンくんの出番が空気。