「みなさんお疲れ様です。無事湿原をぬけました。ここビスカ森林公園が二次試験会場となります」
正午直前。予定の時間通りにサトツと受験生たちは二次試験会場に辿り着いた。
ヒソカの攻撃で腕を怪我したが自分で治療して走り抜いたレオリオや、救援に向かったバンや幻海もしっかりとその場にいた。幻海は破れた覆面を手早く直してまた顔を隠している。
「折角幻海師匠の顔が見られたのに……」
「もったいねぇ……」
ゴツン!
「イタタ……」
「か、可愛い顔して、とんでもねえバカぢからじゃねえか……」
「二人とも何をしているんだ。はぁ」
幻海から拳骨をもらった二人にクラピカも呆れていた。
(残り約150人……今年の受験生は豊作ですね)
サトツの一次試験で410人いた受験生のうち250人以上が脱落した。
地下道から地上への階段部分で脱落した100人の受験生は幸運だ。ハンター協会に回収されて無事に生きて帰れるのだから。
だが湿原で脱落した残りの150人は哀れである。ヌメーレ湿原に生息する様々な生物に食われた者や、ヒソカの試験官ごっこで殺された者たち。彼らが生きて帰ることはないのだから。
自分の試験で150人の受験生が命を落としたことなど気にもしていないサトツだったが、気がかりなことが一つあった。
(44番の姿がない……。彼がこの程度の試験で脱落するとは思えないのですが。まさかどこかに身を潜めている?)
試験官であるサトツに殺気を放って挑発していたヒソカの姿がどこにも見当たらない。
実力だけなら合格確実な殺人狂はいったいどこに消えたのか?
「……気になります。しばらく様子をみていきますか」
試験官としての責任感ではなく。
謎を追い求めるハンターの本能から、サトツは今回の試験を見届けることに決めた。
◇
「う~ん、ここはどこなんだろうね♠」
ヒソカは気がついたら『プール』にいた。
真っ赤な血で染め上げたように、何もかもが赤い。
周囲を見渡すと飛び込み台やウォータースライダー、フードコーナーなどもあるようだ。
だが、生きている人間は一人もいない。
プールの床には、大量の死体が転がっていた。
「なかなか素敵なオブジェだ♣ このプールの持ち主とは趣味があいそう♥」
大量の死体を見ても表情一つ変えずに何かを考えこむと、名案を思い付いたかのように破顔する。
「そうだ♠ 念能力なんだろうけど、とりあえずこの場所の呼び名として――
『
――と呼ぶことにしようかな♦ うんうん♥ 死者を貯めこんだプール、ぴったりだね♣」
そうして、ひょうひょうとした足取りで、笑う死神は散策を始めた。
◇
(……あたしは本当に、昔から失敗ばかりだね)
二次試験の課題、森林公園に生息するグレイトスタンプという豚を丸焼きにしながら、幻海は苦悩する。
(ゴンを見た時にあんたに似ていると思ったけど……)
脳裏に浮かぶのはゴツイ体格をしたサングラスに角刈りの男の姿。
だけど、サングラスを外すと意外と優しい目をしていた男。
体格だけならゴンは更に似てきたかもしれない。
だが。
(……本当に気を付けなくちゃいけなかったのは、バンの方だった)
突然現れた少女メイ。バンの前世の恋人。
幻海の推測だが――彼女はバンの目の前で殺されたのだろう。
ヒソカの言い放った『大切な人を目の前で殺された時に』という言葉に、バンのオーラが一瞬暗く淀んだ。
だが、それをヒソカに気がつかれる前に、何でもないかのように取り繕ってみせた。
だから幻海は気がついた。気がついてしまった。
バンがぼたんと一緒に臨界行を――死の危険を冒してでも、力を追い求めていた理由を。
潰煉によって大切な弟子たちを目の前で殺され、喰われた戸愚呂のように。
大切な恋人を目の前で殺されて、何もできないまま自分も殺されてしまった……。
バンが抱えている闇の深さに何一つ気がついていなかった。
(だが、まだ間に合うはずだ。まだバンはあそこまで堕ちちゃいない。今度こそ――)
すぐ近くでメイやゴンたちと一緒に楽しそうに豚を焼いているバンの姿を見て。
あの光景を守ることが自分のやるべきことだと、幻海は心に刻むのだった。