第四の壁を越えて   作:タカリ

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現在の使用時間 1時間
三次試験の残り時間 71時間

バンたちは制限時間内に地上に降りることができるのか……!?


心に刻む刃

「残念、私の負けね。ちゃんとプロハンターになって迎えに来てくれるのを待っているわ、バン」

「うん、絶対に迎えに来るから待ってて!」

 

 四番目の試練官レルートとバンの勝負はすぐに決着がついた。レオリオがマジタニの生存を確認し、レルートの持ち時間が0になる。

 バンの勝利で2-1だ。

 

(まさかマジタニの生存に50時間を賭けてくるとは()()()()()()けど、結果としては悪くないわ。私の刑期は伸びずにすんだしね)

 

 バンが女好きだということはレルートは対戦前からわかっていた。

 どうやって連れてきたのか分からないが周りに女の子を侍らせて、試験中でも呑気にお喋りしたり膝枕をしてもらったり。

 気絶したマジタニの扱いに関してレオリオとクラピカが言い争いをしていた時も、自分の意見を口に出さずに女の相手をしていた。

 

(あの様子じゃ試験を合格できるとは()()()()けど、強そうな仲間もいるし万に一つくらいの確率でまぐれで合格するかもしれないわ。その時はたっぷりとお礼してあげなくちゃね)

 

 元・精神科医、レルート。「メスを持たない殺し屋」。

 鋭い洞察力と甘い言葉で何人もの人間を死に追いやってきたという過去がある。

 見た目に騙されて油断する男の精神的な急所を突き止め、意のままに操ることなど造作もない。

 あの周りの女たちは邪魔だから排除するとして、プロハンターのバンは便利に使ってあげてもいい。

 

(まあ、それもこの試練を乗り越えてからの話だけど)

 

 マジタニはもう目を覚ましている。最初の生死確認時にレルートが残したメモを読み、気絶したフリをして時間稼ぎをしているところだ。

 残り71時間。あと三日気絶したフリを続けるだけで、レルートの刑期が72年分短くなる。それはそれで悪くない。

 

(最悪なのはこの試験をすぐに突破されて、バンがハンターになれなかった場合だけど、それでも私にとっては現状維持と同じ。マイナスではない)

 

 どちらかに転んでくれたら儲けものとレルートはほくそ笑む。

 

「クラピカ。あのマジタニって人、もう目が覚めてるよ」

「ああ。俺の見立ても同じ。あいつは気絶したフリをしているだぜ」

 

 だが、そんなレルートの計画は『ただの女好き』のバンによって音を立てて崩れ去るのだった。

 

 ◇

 

 実はレルートと賭けをする前に、ぼたんちゃんに頼んでマジタニの様子を見てもらっていたので、気絶から目覚めていることも最初から知っていたバンです。

 身動きしないでカンペをむしゃむしゃするマジタニくんを俺も見たかったぜ。

 

 というわけでレルートの『診察』から逃れるために大人しくしていたけど、賭けも勝ったし、レオリオの診察でマジタニが目覚めているというお墨付きももらった。

 

 そろそろぶっこんでいこうと思いまーす。

 

「――ねえ、クラピカ。今どんな気持ち?」

 

 レオリオに責められて意固地になって座り込んでいたクラピカの目の前に腰を下ろす。

 

「『彼が目覚めれば自ずと答えが出る』だっけ。あいつ、もう目覚めてるけど?」

「……」

 

 顔を伏せて葛藤しているクラピカの顎を掴み、しっかりと目を合わせた。

 

「賞金首ハンター志望なんでしょ? あの犯罪者に情けをかけて一杯食わされてさ、どんな気持ちなの?」

「私は……」

 

「偽旅団なんかに簡単に騙されて、そんな情けない有様で、本当に旅団を倒せると思ってるの?」

「――ッ!!!!」

 

 緋色の目。とても綺麗な、クラピカの中の激情を現したような色。

 間近で見たのは初めてだけど、確かにこれは世界七大美色に数えられるに相応しい美しさだ……。

 

「お、おい……バン! いくらなんでも言い過ぎだろ…‥!」

「さっさとケリをつけて来いよ、賞金首ハンター『志望』。お前のせいで30分も無駄にしてるんだ」

「……わかった」

 

 ゆらり、と。幽鬼のような生気に欠けた足取りでクラピカがマジタニに向かっていく。

 途中の谷間も飛び越えて、横たわるマジタニの隣に降り立った。

 

「バン、お前、もっと言い方ってものがあるだろうが!!」

「レオリオは優しいね」

 

 クラピカの心境を慮って俺に怒鳴るレオリオは、本当に素晴らしい医者になるだろう。

 だけど、これからクラピカが目指すのは旅団との殺し合いと、殺された同胞の目を集める茨の道。

 人間の悪意を凝縮した裏社会の闇の中だ。

 クラピカがこの程度で折れるような人間なら、暗黒大陸編に辿り着く前にとっくに死んでいる。

 

「クラピカなら大丈夫だよ」

 

「ま、まいった! 俺の負けだ!! 負けを認めるから、助けてくれえええええ!!!」

 

 マジタニが自分の負けを宣言し、バタバタとみっともなく逃げていく。

 その背中をじっと見つめていたクラピカは、胸に手を当ててしばらく佇んでいた後、落ち着いた足取りで戻ってきた。

 

「……すまないみんな。私のせいで迷惑をかけた」

「お、おう……俺ぁ別に気にしてねえけどよ。……大丈夫か?」

「なーにが気にしてねーだよ。クラピカの態度に一番ブチ切れていたのレオリオじゃん。みんなで多数決だーとか言い出してさ」

「う、うるせえ、キルア! 気にしてねえって言ったら気にしてねえんだよ!! くそっ、本当に生意気なガキだぜ……!」

 

「……バン、不甲斐ないところを見せた。お前が言ってくれなければ、私はあのまま……」

「クラピカ。誇り高くあろうとするのは素晴らしいことだけど、ああいった連中はその誇りを利用しようと狙ってくる。手心は無用だよ」

「……」

 

 クラピカの胸に手を当てた。

 心臓。将来、彼が自ら剣を突き立てることになる命の源。

 

「誇りは見せびらかすものじゃない、胸の奥に秘めておくものだ。そうだろ?」

「――ッ」

 

 何かを飲み込むように、クラピカが俺の手の上に自分の手を重ねる。

 

「……助言、感謝する。しっかりとこの胸に刻んでおこう」

「うん」

 胸の奥に秘めた誇りだけは、誰にも傷つけることはできない。

「勝利おめでとう、クラピカ。これで3勝。通過確定だね!」

 

 3勝1敗。最後の1戦を前に、俺たちの勝利が確定した。




バン「(胸が平たい……やはりクラピカは……!)」






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