軍艦島の呼び名の通り、この島には軍艦が座礁していて内部がホテルに改装されている。宿泊費1000万ジェニーの超高級ホテルとは思えない設備だけど、それでも水や食事が出てくるだけマシ。この島では湧き水もないのでこのホテル以外では飲料水は手に入らない。
俺たちは海中からお宝をサルベージした後、それぞれのお宝の価値に応じて部屋割りが決められた。ほとんどの部屋は2人部屋。たまに1人部屋もあるけど、そういう部屋は他よりも劣悪な環境だったりする。
「ようやく他の人がいなくなったねぇ」
「そうだね」
クラピカやレオリオ、キルアを含む念能力を使えない人間には見せられない力。そして、いつ敵対するかわからないイルミには絶対に見せられない俺の『発』。
他の人間が入ってこない個室を確保できたことで、ハンター試験開始からずっと使う機会がなかった能力を、やっとメイに見せることができる。
「改めて説明するね。俺の系統は具現化系と特質系の
「二重系統かぁ。そういうことなら私ももしかして二重系統だったりするのかな?」
「可能性はあると思う。他に転生した人なんて見たことないし。……いや、キメラアントも転生と言えば転生なのかな?」
「一度死んで蘇ったって意味だとそうなる? じゃあバンくんが特殊なだけなのかも?」
「うーん、そうなるのか?」
一応、念系統の中には「二つの系統の中間点」に位置する能力者というのも存在する。
たとえばキルアは「変化系能力者だが、強化系と変化系の中間」。クラピカは「具現化系能力者だが、具現化系と特質系の中間」という設定になっていた。
じゃあ俺も「特質系と具現化系の中間」なのかと言われると違う。俺は「特質系能力者の俺A」と「具現化系能力者の俺B」が一つの体に重なって融合しているというイメージだ。だから
「まあ、俺の系統は特質系と具現化系ってことで、何を具現化するかを考えた時に自然に出来ていたのがこれだった」
俺の目の前に出現する青いゲート。
『無意識の発』が作り出した念のプール。それを元として、俺が後から調整して出来上がったのがこの能力だ。
「これ、私たちが最後に行ったあのプールの……」
「そう。俺たちの最期の場所、Rプール。中に入れる?」
「……大丈夫」
メイと手をつないでゲートをくぐり、中に入る。
頭上に輝く太陽。プール日和のいい天気で、青い空に白い雲が浮かんでいる。
壁にかけられた時計は1時23分で止まっていて、あの日の光景のまま、人っ子一人いない無人のプールがそこにあった。
「これが……バンくんの念能力……」
ふらふらと前に出ようとするのを手を引いて止めた。
「大丈夫? やっぱりきついならやめようか?」
「……ううん。大丈夫だよ」
あの日の記憶が蘇ったのか少し顔色が悪いけど、大丈夫だとメイは笑った。
「ここってどんな能力なの? ノヴさんの四次元マンションみたいなテレポートとかできるの?」
「それは無理。あれは『空間転移』だからノヴさんみたいな放出系向けだと思うよ。俺の能力は言ってしまえば幽遊白書の能力者が使う『領域』に似ている。この空間内部にいる者に『ルール』を課す力」
「『領域』ってあれだよね! 『あつい』と言ってしまうと魂を取られるやつ! 飛影と桑原くんとぼたんさんが魂を取られちゃって蔵馬くんが変顔して勝つの!」
「それは海藤の能力だけど、大体そんな感じ。能力のルールは次の通り」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『
・ルール① 内部の時間は1時23分で止まっている。内部に収納された物体は劣化しない。
――バンが死亡した時刻。時計は最期の時を刻んだまま、二度と前に進むことはない。
・ルール② 内部にあるものは絶対に破壊できず、傷つかない。
――バンとメイが殺された暴力の否定。もう二度と繰り返さない。
・ルール③ この空間の出入りにはバンの許可が必要である。
――青いゲートは現世に通じる出口である。
・ルール④ この空間内の商品はバンが管理している。
――取引は厳密に。契約は誠実に。賭け事は冷静に。
※バンとメイが最期の時を迎えたプール。全てが終わった場所。そしてバンの新たな始まりの能力。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ルールはこの4つ。基本的には物資の保管所と避難場所って感じで使ってるね。二次試験で使った魚もここから出したけど、いくら劣化しないとわかっていてもその辺に放置するのは気が進まないからフードコートの冷蔵庫に入れてあるよ」
水や食料、着替え、医薬品、非常用の物資などの他に、このプール内の販売所に置いてあった新品の水着や、幻海が使っていたビーチパラソルにビーチチェア。トリックタワーからパクってきた家具などもあった。
「うわー。いろいろ貯めこんでる! こうやって移動できる倉庫になるって考えると念空間って本当に便利だよね!」
「便利なのは間違いないけどサポート系というか、戦闘力が低いのが難点だよ。放出系と違って強化系の倍率も低いし、クラピカが苦労する理由がよく分かった」
「たぶんこの世界でも具現化系だから大変だろうね。絶対時間を使うと寿命があっという間に縮むし、人差し指の能力もリスクが高すぎて使いにくい」
「あの緋の目って念能力を覚えてない状態でも1秒で1時間寿命を縮めるのか気になる……」
手頃な椅子に腰かけて、ドリンクを片手にメイとどうでもいい話で盛り上がる。
ハンターハンターの能力考察とか、メイが水見式をしたら何系なのか予想してどんな能力を作るかとか、ポンズとスパーが死なないようにがんばろうとか。
お互いの姿かたちは変わってしまったけど、あの頃に戻ったような気がしてとても楽しい。
俺たちが殺された『流れるプール』を隠しておいてよかった。これはまた今度でいいだろう。
さあ、これから始まる軍艦島でのエクストラステージ。メイと一緒に頑張るぞ!
◆◆◆
「あれは……ヤバそうだね♠」
赤いプールのルールを把握してきた。
時間停止による劣化の防止。
殴っても念をぶつけても何も破壊できない無敵。
プールの中を彷徨う人型のナニカ。
そして、目の前の赤いゲートの先に広がる、何もない――『無』。
「あの先に行ってはいけないという恐怖と、あの先に進みたいと惹かれる気持ち♥ 戻って来られるなら見てみたいけど、たぶん無理だろうね♣ うーん、気になる♦」
人型のナニカはゲートを潜って消えていく。彼らが戻ってきたことは一度もない。
「それに、こっちも♥」
「ご相談か♥ 早く来てくれないかな?♦」