第四の壁を越えて   作:タカリ

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狩りの時間

「俺、ゲレタって人を探してくるよ!」

 

 ゴンさん、動く……!

 ちゃんと試験の目的に沿って狩りに行くんだから偉い!

 

「つい流れでこのグループで行動しちゃったけど、オレの獲物もうリタイアしちゃったんだよね。暇だしゴンさんに一緒についていこうかな」

「うん! それじゃあキルアも一緒にいこう!」

 

「俺は246番なんだが、246番って誰だ……?」

「私のハント(トンパ)も終わってしまったし、よければレオリオのターゲット探しを手伝おう」

 

 ゴンさんとキルア、レオリオとクラピカがそれぞれのターゲットを求めて行動に出る。

 

「俺もスパーさんとポンズさんをハントしてくるよ。いってきまーす!」

「バンくん、気をつけてねー」

 

 男性陣がハントに出ている間、女性陣は拠点の準備と食事の支度。

 トンパ組を潰した時のままグループ行動になってしまったので、他の受験生の襲撃はまずないだろう。

 万が一襲われても幻海師匠がいるんだから安心だ。

 

 さて、まずはどっちから狙おうかな。

 

 ◇

 

(――見つけた)

 

 森の中に潜伏しているスパーはターゲットが一人で行動しているのを発見した。

 運がいい。

 

 スパーは地元では男性をも凌ぐ銃の使い手と呼ばれている名手だ。

 距離は300m。この距離ならアサルトライフルの射程内。ヘッドショットよりも的の大きいボディを狙う方がいい。銃で撃たれてまともに行動できる人間など皆無なのだから。

 

 そして、いざ撃とうとした瞬間。

 

『水着あるけど良かったら使う?』

『俺と勝負しない?』

『俺の恋人になってもらおうかな!』

 

「……っ!」

 

 ターゲット――バンと交わした会話を思い出してしまう。

 小さな体のまだ11歳の少年。胴体部を撃てば重要な臓器を傷つけ、致命傷になる可能性が高い。

 

(あの坊やだって、ハンター試験は命懸けだと分かっているはず……!)

 

 人を撃つのは初めてではない。地元ではアマチュアハンターとして活動し、何人もの賞金首をハントした実績もある。

 だが。

 

(……足を狙う。動けなくなれば、向こうも負けを認めるしかないわ)

 

 プロにあるまじき逡巡。感情の揺れを抑えるために、一瞬目を瞑る。

 スパーが常にサングラスをつけているのはこの感情の揺れを敵に見破られるのを恐れていたからだ。

 

(大丈夫。今度こそ――!?)

 

 再び目を開けてバンを狙おうとしたスパーは、いつの間にか獲物の姿が消えていることに気がついた。

 

(移動した! どこへ? 絶好の狙撃チャンスだったのに……!)

 

 自らの甘さを悔やみながら、まだ遠くへは行っていないはずだと周囲に目を配る。

 その頭上から手が伸びてきて、スパーのサングラスをひょいっと取り上げた。

 

「っっっ!?」

 

 驚いたスパーが上を見上げても何もない。

 そして、背後から伸びた腕がスパーの首に絡みつく。

 

「スパーさん捕まえた!」

 

 300m先にいたはずのバンが彼女の後ろに立っていた。

 

「……負けたわ。どうやって私に気がついたの?」

 

 隙だらけの背後を取られては言い訳もできない。観念したスパーが降参する。

 

「スパーさんが俺を狙っているのは分かっていたからね。あとは狙撃しやすい位置に注意しながら周囲を歩いていただけだよ」

「私が坊やを狙うのが分かっていた? 私の獲物があなただって知っていたの?」

「うん、船の上で確かめたからね」

 

 バンは四次試験の始まる前の船上で『わざとナンバープレートをつけたまま歩き回っていた』。

 

「俺たちのグループって403番から410番まで、全員が400番台で人数も多いでしょ? そうするとさ、400番台のカードを引いた人は『自分の獲物が誰か不安になる』じゃない。番号と標的を覚えていても、本当にその番号だったかな?って考えちゃうよね」

 

 だからこその罠。

 

「俺がナンバープレートをつけて歩いていたら、みんな俺の番号を確かめる。ターゲットと全然違う番号ならすぐに関心をなくすし、俺以外の400番台がターゲットなら俺のグループの誰がターゲットかを考える」

 

 試験が開始する前から、バンのグループ、400番台のナンバープレートを狙っている人間を絞り込んでいた。

 

「そして、俺の405番のプレートを一番熱心に見ていたのは――スパーさん。あなただったよ」

 

 目の前に合格の切符があればそれに気を取られてしまうもの。

 

「……サングラスをかけていたから、目線はわからなかったと思うのだけど」

「(オーラの揺らぎから)バレバレだったよ」

 

 背後からスパーに抱き着きながらバンがクスクスと笑う。

 スパーは少年の垂らした餌に気がつかず、食いついてしまったのだ。

 

「私に勝負を持ちかけたのも、もしかして他に狙いがあった?」

「ライフル銃で狙撃されると危険だから、他のみんなに被害がいかないように俺に集中してほしかった。ああ言えばスパーさんなら俺だけを狙うでしょ?」

「……完全に私の行動を読んでいたのね」

 

 元々プライドが高いスパーはターゲット以外を狙うつもりはなかったが、獲物(バン)から勝負を持ちかけられて完全にその気になってしまっていた。

 

「完敗ね。ここまで差を見せつけられたんだもの……むしろ私の方から頭を下げて教えを乞うべきかしら」

 

 狩る者と狩られる者。試験が始まる前から既に勝負はついていた。

 さりげない行動に秘められた罠を見抜けなかったスパーよりも、バンの方がハンターとして遥か上に立っていると認めた。

 

「やったー! スパーさんを弟子にしたぞ!」

 

 無邪気に喜ぶ師匠の姿に油断しそうになるが、これも実は巧妙な擬態なのでは……という疑惑が拭えない。

 

「じゃあまずはレッスンその1! スパーさんはこれからサングラス禁止!」

「……どうしてかしら?」

「スパーさんの綺麗な顔を見られないのはもったいないから! 瞳の色も綺麗だね!」

「……師匠の言うことなら、仕方ないわね」

 

 自分の容姿は知っている。あのサングラスは男避けの効果もあったけど、バン師匠はお気に召さなかったようだ。

 

「それにサングラスで感情の揺れを隠すなんて初心者丸出しだよ。しっかりと感情を抑え込んで顔に出さないようにしないと、いつまで経っても上に上がれないよ?」

「――っ!」

 

 さらりと注意された自分の弱点。それを克服しろとバン師匠は言う。

 

(本当に底が知れないわね……)

 

 ◇

 

 スパーを無事に釣りあげたので次はポンズ狙い。

 

「ポンズは自分のターゲットを狙っているはずだけど、バン師匠に当てはあるのかしら?」

「ポンズさんが誰を狙っているのか分からないんだよねー。400番台じゃないのは確かだから、他の受験生だと思うよ」

 

 たぶん原作の通りバーボンがターゲットだと思うけど。

 ただ、スパーのターゲットがギタラクル(イルミ)じゃなくて俺になっているから、もしかしたらポンズのターゲットがギタラクルになっている可能性もありえる。急いで回収した方がいいだろう。

 

「でもポンズさんを追いかけるのは難しくないよ。いろんな薬品を持ち歩いているからその匂いを追いかければすぐに見つかるはずだよ」

「薬品の匂い? そんなものしたかしら?」

「俺、鼻がいいから」

 

 これでもくじら島の大自然で育った野生児だからね。原作のゴン並に鼻が利くんだよ。

 というわけで、スタート地点の方向に移動しながら薬品の匂いを追ってみたらすぐにビンゴ! 森の中を移動するポンズの背後につけることができた。

 

「じゃあ、ちょっと行ってくる」

「行ってくるって……!?」

 

 足にオーラを集めて一瞬で距離を詰めよった。頭上を確保。

 

「きゃあっ!!」

 

 そして、大きな袋を頭からすっぽりと被せてしまう。

 こうすれば蜂は袋から出られないし、薬品を使っても自爆に終わる。

 

 ブブブブブウウウウウウンンン!!!

 

 わー。袋の中で大量の蜂が飛んでいる音が凄い。ポンズの悲鳴で『スイッチ』が入ったんだろう。でも、襲い掛かる標的がいなくて混乱している。

 

 その間に転がして、足元の口を縛って――はい、『ポンズの袋詰め。蜂と薬を添えて』の完成です!

 

「何! 何がどうなって!? み、みんな落ち着いてっ!!」

「ポンズさん、俺の勝ちでいいー?」

「わ、わかったから! 私の負けでいいから、助けて!!」

「とりあえず暴れている蜂を落ち着かせてよ」

 

 最悪睡眠ガスで眠らせてくれればちゃんと袋から出してあげるよ。

 

 ◇

 

「……ひどい目にあったわ」

 

 自分の蜂にたかられてすっかり疲れ果てたポンズ。それでも蜂に刺された様子はないんだから大したものだ。

 

「ポンズさんも俺に負けたから俺の弟子ね!」

「……一つだけ聞かせてちょうだい。なんで袋を使おうと思ったの?」

「俺、耳もいいんだよ。ポンズさんの帽子の中に大量の虫が潜んでいるのもすぐに分かったよ」

「……そう。私の奥の手だったけど、バンくんにはバレていたのね」

 

 蜂の巣の駆除で袋や瓶を被せて巣を丸ごと確保する動画を見たことがあった。

 それからヒントを得て、ポンズに袋を被せちゃえば無力化できるんじゃないかって思ったんだよね。

 

「蜂の大群と正面から戦うのはちょっと面倒だからね。ああしちゃえば薬も使えないし、一石二鳥のいい作戦でしょ」

「薬のことも気がついていたわけ。……はあ、自信なくすわ。もうちょっと上手くやれると思ったのに」

 

 一般人が道具を使わずに蜂の群れに対処するのは難しいから、トリックタワーの攻略でもポンズはこの蜂と薬で上手く戦ってきたんだろう。

 

 蜂と薬を使うポンズに、アサルトライフルを使うスパー。二人とも下手な受験生より火力が高い。少なくともレオリオのナイフよりは殺傷力が高いよね……。

 

「ポンズとスパー、二人ともゲットだぜ!」

 

 右手にポンズ、左手にスパーを抱えて勝利宣言! 俺の勝ち!!

 

 ◇

 

 ――その頃、ポンズのターゲットだったバーボン。

 

「カタカタカタ……」

 

 顔中を針だらけにして地に伏していた。彼も、彼の使う蛇も、針で串刺しにされて死んでいた。




ターゲット

・スパー→バン→イモリ

・クラピカ→トンパ→レオリオ→ポンズ→バーボン→イルミ(ギタラクル)


原作だとスパーのターゲットがイルミで返り討ちにあって死亡。
バーボンのターゲットは不明。
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