第四の壁を越えて   作:タカリ

36 / 51
/デッドサイド

 修行開始から三日。

 あともう少しで纏を覚えられそうなポンズとスパーを残し、今日は5人で扉の向こう側へ足を踏み入れる。

 

「バンもメイも本当に()()()に行くの……?」

「レツはこっちに残っていてもいいよ? あの二人の修行を見ててくれると助かるし」

「いや、メイが昨日みたいに気分が悪くならないか心配だから僕もついていく!」

「ありがとうレツちゃん……!」

 

 メイとレツがいちゃいちゃしている。

 ハンター試験を一緒に乗り越えている間にすっかり仲良くなったようだ。てぇてぇ。

 

「しばらく向こうの様子も見ていなかったからね。いい機会だから確かめておくよ」

「あの二人はまだあたしを見られないからねー。あたしだけこっちに残るよりバンちゃんたちと一緒の方がいいよ」

「ありがとう、幻海師匠。ぼたんちゃん。それじゃあ、……行こうか」

 

 真っ赤に染まった流れるプール。血の色をした水面に向かって俺たちは飛び込んだ。

 

 

デッドサイド

 

 

 ――気がつくと、流れるプールの縁に立っていた。

 

「なにここ、色が……赤い?」

 

 見渡す限り、全てが赤い――血に染まった世界。

 

 その中で唯一、足元の流れるプールだけが青かった。

 

「メイちゃんは『水中異界』というのを知っているかな? 水の中は異界に通じているという説なんだけど」

「えっと、確か『浦島太郎の竜宮城』もその異界の一種なんだっけ?」

「そう。海、湖、沼、川、沢、そしてプール。水の中には異界が存在しているという話は昔から多くあって、水辺での怪談も事欠かない。俺の小学校にも『トイレのハナコさん』や『プールに出る幽霊』があったよ」

「トイレも水場かぁ……」

 

 水は現世を映す鏡である。現世とそっくり同じ世界が水の中に存在している。大昔の人はそう考えた。

 

「ここは裏側の世界。プールの中にあるもう一つのプール」

 

 『血で真っ赤に染まった流れるプール』に飛び込むと入ることができる『異界のプール』。

 『関係者以外立ち入り禁止』の鏡文字が書かれたドアを開けてプレハブの建物の外に出ると、すぐ外に死神が立っていた。

 

「やあ、ようやく会えた♥ 君たちの能力だったんだね♠」

「思ったよりも元気そうだね、()()()

「お陰さまで寂しくはなかったよ♣」

 

 テーブルに座ってお茶を楽しんでいたようだ。2つ椅子が置いてあって、もう片方の椅子にはヒソカの死体が座っていた。

 

「自分の死体とお茶会なんていい趣味してるよ」

「誉め言葉として受け取っておくよ♦」

 

 メイちゃんが目の前のヒソカと、テーブルに置かれているヒソカの死体を見比べる。

 

「……もしかして、こっちのヒソカは『死者の念』?」

「ふふ、正解♠ いい勘しているね君♣ まだまだ青い果実だけど……育ったら味見してみたいな♥」

「ひえっ。私の体はバンくんのモノだからダメ!」

「そっちの彼と一緒にってことかい? 僕は純愛(1対1)の方が好きなんだけどな♥」

「ハーレム容認派なのでお断りです!!!」

 

 メイもヒソカに目を付けられてしまったみたいだ。

 まあ、一度ここに入った以上、そんなことは許さないけどね。

 

「死者の念で正解だよ。もっと正確に言うと『魂』だね。そして、魂の抜けた抜け殻がそっちのヒソカの死体だよ」

 

 幻海師匠に心臓を破壊されて殺されたヒソカの死体だ。

 死んでから一週間以上経っているのに、今死んだばかりみたいに見える。

 

「僕のバンジーガムで心臓の代わりにしようと思ったのに失敗したみたいだね、残念♦」

 

 あの時何かしていると思ったらそんなことを考えていたのか……。本当にこの変態は戦闘IQが高すぎる。

 ただ、俺の方が圧倒的に有利だった。

 

「俺の周りでは『死後に強まる念』は使えないよ。『死者の魂』も、『死後の念』も、全てはこのプールに流れ着く」

 

 周囲を歩き回る死者の魂――今回のハンター試験で死んだ者たちの魂も、このプールの中を歩いている。ポンズのターゲットだったバーボンもその中に混ざっていた。彼もこの島のどこかで死んだのだろう。

 

 彼らが向かう先、流れていく先はこのプールの出口。赤いゲートへと消えていく。

 

「バンくん。あれは……あの赤いゲートの向こうには、なにがあるの?」

「あれは、霊界(あの世)への道」

 

 あれが何なのか、俺にも本当のところはわかっていない。

 ただ、このプールが出来上がった時から、最初から存在していたナニカ。

 死者の魂が、人も動物も魚も植物も、あらゆる生命が終わりを迎えた先に向かう場所――それがあそこだ。

 

 ぎゅうっと、メイが俺の手を握りしめた。

 

 

 ◆

 

 私はバンくんの手を強く握りしめた。もう二度と離れてしまないように。

 

 バンくんの能力に疑問があった。

 

 ぼたんちゃん、幻海さん、レツちゃんを呼び出したのは間違いなくバンくんの能力だ。

 そして、あのプールを作ったのもバンくんの能力だ。

 

 ――能力の傾向が違いすぎる。そして、能力が強すぎる。

 

 具現化系により『念獣』と『念空間』の具現化と言っても限度はある。

 どちらか一つだけならばまだしも、この二つの能力を両方ともっていうのはいくらなんでも無理なんじゃないかな?

 

 だけど、実際にバンくんはこの能力を使っている。だから、きっと私に見せていないナニカが隠されていると思っていた。

 

 そのナニカとは――だ。

 

 『プールを通じて死後の世界へと繋がっている穴』と『その穴を通って蘇ってきた死者の魂』。

 

 ――ぼたんちゃんは霊界案内人。この世とあの世の穴を通り抜けることができる存在。

 ――幻海さんとレツは死者。幽遊白書の世界と、このハンターハンターの世界で明確に死んでいる死人。

 

 がバンくんの特質系(のうりょく)の本質。

 

 バンくんは死に囚われているんだろうか。あの日の惨劇に、彼の心は一生囚われているのだろうか。

 

 いつか、バンくんが死を望んでしまう日が来てしまうのだろうか……。

 

 怖い。バンくんがあのゲートの先に進んでしまうのではないかと思うと、怖くてたまらない。

 

 だから私は決して離れないようにと、彼の手を強く握りしめた……。




全ての終わり(デッド)そして始まり(プール)』:特質系具現化系能力

・ルール① 内部の時間は1時23分で止まっている。内部に収納された物体は劣化しない。
 ――バンが死亡した時刻。時計は最期の時を刻んだまま、二度と前に進むことはない。

・ルール② 内部にあるものは絶対に破壊できず、傷つかない。
 ――バンとメイが殺された暴力の否定。もう二度と繰り返さない。

・ルール③ この空間の出入りにはバンの許可が必要である。
 ――赤いゲートはあの世に通じている。青いゲートは現世に通じる出口である。

・ルール④ この空間内の商品はバンが管理している。
 ――取引は厳密に。契約は誠実に。賭け事は冷静に。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。