第四の壁を越えて   作:タカリ

38 / 57
薔薇とゴリラ

 四次試験終了後。

 

「バン! ありがとうな! お前のお陰で無事に四次試験を合格できたよ!」

 

 飛行船の中でなんと、晴れやかな笑顔を浮かべるポックルの姿が!

 

「残る最終試験、手加減するわけにはいかないけど俺が合格したら絶対にこの恩は返させてもらう。本当に感謝しているぜ」

 

 一週間の逃亡生活、土や草の汁ですっかり汚れ、他の受験生との戦闘もあったのか血が滲んでいる箇所もあったが、それでも元気な様子だった。

 

「こっちこそ、最終試験では全力で相手をするよ。どっちが合格しても恨みっこなしだよ!」

「おう!」

 

 ポックルと固く握手を交わし、三日後の最終試験でお互いの健闘を誓った。

 

 ◇

 

「恐ろしいな……」

「なにがだ?」

「バンとポックルのあの様子だ」

 

 クラピカとレオリオが二人の様子を離れた場所から見ていた。

 

「なにが恐ろしいんだよ? バンのお陰でポックルが合格したからお礼を言っているだけだろ?」

「その『バンのお陰』というのが恐ろしいんだ。いいかレオリオ。私は四次試験終了後に違和感を抱き、それぞれの所持プレートを数えてみた。その結果、最低でも40枚のプレートが存在していたことに気がついた」

「40枚? 四次試験の参加者は36人だぜ? 40枚もあるわけねえだろ」

「いいや、プレートなら大量にあったのさ。……これまでの試験の脱落者のプレートがな」

「脱落者のプレート!? そんなのありなのかよ!?」

「ルールでは禁止されていない。『自分とターゲットのプレートは3点』『それ以外のプレートは1点』。それだけだ」

「そりゃ……そうだけどよぉ!? マジかよ!」

「おそらくだが、バンは今までに脱落した受験生のプレートを大量に抱えていたんだろうな。それが何故なのか、私には想像できないが……」

 

 普通ならプレートだけを集めて持っている意味がない。荷物になるだけだ。それなのにわざわざ脱落者から収集していた理由を、クラピカは説明することができなかった。

 

(もしかして四次試験の内容をバンは知っていた? ……いや、まさか、そんな不正をハンター試験が許すはずがない)

 

 クラピカが優秀な頭脳を働かせるが、納得のいく答えは見つからなかった。

 

「とにかく、バンは試験前から大量のプレートを持っていた。そして、ポックルを捕らえて6点分のプレートを渡した時に、この脱落者のプレートを……区別をつけるために『偽プレート』と呼称するが、この偽プレート6枚を渡したんだ」

「ああ。そのプレートを使ってポックルを囮にするって作戦だろ? バンもとんでもねえ作戦を思いつくよな」

「それも重要だが、本質はそこではない。『偽プレートが本当に1点になるのか保証がない』、というのが最大の問題だ」

「1点になる保証がない……。確かに、偽プレートは点数に数えないって試験官が言い出せば従うしかねえか。本来ありえねえシロモノだからな」

 

 偽プレートが1点になるのか、それとも偽物だから0点になるのか、それは試験が終了する時まで誰にもわからなかった。

 

「だからバンは正規のプレート6点分を隠し持った上で、偽プレートをポックルに持たせてばら撒き、受験生たちの目を逸らせた。さらに、もしも偽プレートが0点扱いだった時に、他の受験生を落とすための毒餌としたんだ」

「そうか! もしも誰かがポックルからプレートを奪っても、それが0点なら不合格! ポックルもプレートの枚数が足りないから当然不合格になって最終試験に進む人間を減らせるってわけか!」

「ああ。それにポックルを襲った人間が2人でチームを組んでいた場合、その2人は両方とも落ちることになる。ポックルを含めて最大で3人の受験生を……あるいはそれ以上の人間を排除できる恐ろしい毒だ」

 

 偽プレートは6枚。それが全て拡散していた場合、被害は更に拡散した可能性がある。まるで『貧者の薔薇』のように、毒(0点)を周囲にばら撒き、連鎖的に犠牲者を増やしていた可能性だ。

 

 もちろん、途中で偽プレートの番号に気がつき、脱落者のプレートだと気がつけば回避はできるのだが、36人という大人数で受験生全員のプレートの番号を正確に把握している者はほとんどいないだろう。

 意外と記憶力のいいトンパなら見破っていた可能性もある。

 

「そして、さらに質が悪いのが『偽プレートが1点になる場合』だ」

「1点になる場合の方が質が悪い? なんでだよ。そりゃ合格者が増えちまってライバルは増えたが、質が悪いってほどではねえだろ」

「違う。先ほどのポックルの様子を見ていただろう。『偽プレートが1点になる場合』だと『騙されていた者が騙されていたことに気がつかない』。――毒餌を持って一週間囮にさせられた上で、『合格できたのはバンのお陰』だと感謝するように仕向ける」

 

 正規のプレートを持っていて、守り切れば合格確実だというならいいだろう。

 だが、一週間必死に逃げ回り、ボロボロになりながら守り抜いたプレートが実は偽物だった……など。

 ポックルはバンに怒る権利がある。よく騙したなと怒って当然だ。

 だが、実際にバンに向けられているのは怒りではない。感謝なのだ。バンはポックルを騙し切ったことで『ポックルの恩人』となっていた。

 

「えげつねぇな……」

 

 ハンター試験は騙し合い。出し抜き合い。お互いを利用し合って当然。

 

「ゴンさんの目に見える武力も脅威だが、その陰に隠れているバンもとんでもない曲者だ。味方になれば頼もしく、敵に回れば恐ろしい。フリークス兄弟、か」

 

 残るは最終試験のみ。

 友人たちが最大のライバルなのかもしれないと、レオリオもクラピカも気を引き締めるのだった。




ゴレイヌ「えげつねぇな……」
レオリオ「えげつねぇな……」

二人は仲良し!


というわけで、正解は『ポックルに持たせたプレートは脱落者のプレートだった』でした。
仲間は全員正規のプレートで確実に合格させて、ポックルは偽プレートで合格でも不合格でもどっちでもいいやという戦略。

バンくんには人の心とかないんか?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。