第四の壁を越えて   作:タカリ

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キルア失格

「キルアから離れろ」

「……ゴンさん……!」

 

 ゴンさんが二人の間に割って入り、イルミの腕を掴もうと手を伸ばした。

 だが、並外れた敏捷さで距離を取ったイルミが両手に針を構える。通常の針ではなく濃厚なオーラを纏った特別製の方だ。

 

「なんなの? 今家族の話し合いを邪魔するなんて……殺すよ?」

「ゴンさん! 1対1の勝負に他者は入れません! 離れてください! あなたが手を出せば失格になるのはキルア選手ですよ!」

 

 審判の黒服がゴンさんを止めようとするが、そんな警告など聞くわけがない。さらに幻海師匠まで前に出た。

 

「この子を失格にするってんならさっさとすりゃいいんだよ。こんな状態で合格しても何の意味もありゃしないだろうに」

 

 キルアの隣に立った幻海師匠がキルアの頭――イルミのオーラが強く感じられる場所に手を添えて、自分のオーラを送り込む。霊光波動拳は心霊治療も得意なのだ。イルミのオーラによって操作されていたキルアが、わずかに顔色を良くした。一時的にイルミの操作を緩和しているみたいだ。

 

「そっちの二人には関係ないのに、なんで教育の邪魔するの? 正義の味方でも気取っているわけ?」

「関係あるよ! 俺はキルアの友達だ! 友達が操られているのを見て放ってなんかおけるか!」

「ふん、正義の味方なんかお断りだよ。ただ、あんたみたいな悪党が大嫌いなだけさ」

「……理解できないね」

 

 ゴンさん、幻海師匠、イルミの三者のオーラが膨れ上がり、もはや激突は避けられない。まあ、あの状況のキルアを見て手を出さずにいられるような二人じゃないか。

 俺は目が赤くなっているクラピカや、ナイフを手に今にも駆けだしそうなレオリオが暴走しないように抑える。君たちが行ってもただの足手まといだから下がって下がって。本当に危ないから引っ込んでろ!

 

「審判。キルが失格ならオレは合格なんだよね?」

「はい。残念ながらキルア選手は失格。イルミ選手はハンター試験合格となります」

「ありがとう。それなら――殺す」

 

 試験合格の宣言が出た瞬間、イルミが大量の針をばら撒いた。

 ゴンさんと幻海師匠は飛んでくる針を全て避ける。発動条件は『針が刺さったら』だが、不用意に触らない方がいいという判断だろう。

 そして、針は二人だけじゃなく、俺たちの方にも飛んできた。

 

「こんなこともあろうかとってね!!!」

 

 俺はすぐに『デッドプール』の中からビーチパラソルを閉じた状態で取り出した。

 このビーチパラソルは俺の念で作られたもの。だからクラピカが具現化した鎖のように、オーラを込めることで非常に強固になる。

 

「はっ! はっ! はああああ!!!」

 

 鉄板も簡単に貫く業物と化した(ビーチパラソル)を使って、こちらに飛んできた針は全て叩き落した。

 今の俺のことは夏のランサーと呼んでくれ!

 

「ぐ、ぐわああああああ!!」

「あっ、あっ、あっ」

 

 なんて思っていたら、例のドス黒いオーラの針が他の人を狙っていてしっかり刺さっていた。

 

 ボ、ボドロダイイイイイイイン!!

 そして、ポックルまで……うわああああ!!!

 

 脳みそクチュクチュされる前に頭に針が刺さってるううううう!!!!

 

 しかも刺さっているのは特別製の針の方。非念能力者が念を使えるようになる針だ。

 ボドロもポックルもさっきまでの対戦でボロボロだったはずなのに、針の力で無理やり動き出している。

 

「ゲート・オープン! 一時的に通行を許可! メイちゃん、みんなをこの中に!!」

「わかったよ、バンくん! クラピカとレオリオもこっちに来て!」

「なんだと! ゴンさんと幻海が戦っているのに私に見捨てて逃げろというのか!?」

「ボドロのおっさんたちの様子も変だし、ここで尻尾巻いて逃げるなんて男が廃るぜ!!」

 

「いいから邪魔なんだよ! 素人は引っ込んでろ!!」

 

 ゲシッ!!!

 

 仲間想いなのは知っているけど念能力者同士の戦いに非念能力者が混ざってもただの足手まといだ。

 ボドロとポックルの攻撃を防ぎながら、たまに飛んでくるイルミの針も叩き落しつつ、クラピカとレオリオの二人をカバーできるほどの余裕はない。

 

 ゲートに向かって優しく(幻海師匠基準)吹き飛ばし、メイたちもちゃんとゲートの中に入ったことを確認する。

 

「お荷物(護衛対象)はいなくなったけど、ボドロとポックルが普通に強いな」

 

 ただの一般人ではなくてハンター試験の最終試験まで残った猛者たちだ。しかも体が覚えているのか、拳を使って接近戦で襲ってくるボドロと、遠距離から弓を使って攻撃してくるポックルという嫌らしいコンビ―ネーションまで使ってくる。

 

 さらに悪いことに、横目で確かめてみると審判をしていた黒服たちにも針が刺さっていて、ゴンさんと幻海師匠に襲い掛かっていた。

 

 あの人たちも一応ハンターなのに、なんで針に当たってるの???

 

 選挙編の時に集まったハンターの中に黒服たちもいたくせに、あまりに弱すぎる……。

 ただ、メンチやサトツたちはちゃんと針を防いでいた。

 

 でも、会長以下、全員静観しているのはどうかと思うよ!!!

 

「ネテロ会長! そっちの黒服たち仲間でしょう! 止めてくださいよ!!!」

「うむ? じゃが争いの発端は君たちとイルミくんの言い争いじゃから、わしらは無関係じゃしのう」

「無関係の人間を巻き込んでるから止めろって言ってるんだろうが!! このクソジジイ!!!」

「ほっほっほ」

 

 ネテロのクソジジイが動かないのでメンチたちも動かないみたいだ。

 この謎のカリスマなんなの? 十二支んとかネテロ大好き厄介ファンの集まりだし、本当にさぁ……。

 

 仕方ない。こっちの能力をもう少し見せるか。

 

 ボドロと戦いながら少しずつ後ろに――ゲートに向かって下がる。

 操り人形たちには俺の狙いはわからない。最初に仕込まれた命令に従ってただ愚直に攻撃してくるだけだ。

 そして、俺を追いかけてボドロがゲートの中に足を踏み入れた瞬間。

 

 ――バタン

 

「おっ、ラッキー!」

 

 糸が切れた人形のように、ボドロが倒れ込んだ。

 なるほどね。イルミの操作系能力は『誰かを傷つける能力』だと判断されたみたいだ。

 

 『全ての終わりそして始まり(デッド・プール)』の能力。

 ・ルール② 内部にあるものは絶対に破壊できず、傷つかない。

 

 このルール②にイルミの能力が抵触し、プール内部に足を踏み入れたことで無効化された。そういうことだと思う。

 

 実はこのプール、俺が作ったんじゃなくて最初から存在していたせいで、『全ての能力を正確に把握しているわけではない』んだ。

 だからルール②の詳細も俺はよくわかっていない。

 例えば今回はイルミの念能力は無効化したけど、操作系能力の全てを無効化できるかはまだわからない。

 

 ヨークシンの旅団編で出てきたヴェーゼが使う能力『180分の恋奴隷(インスタントラヴァー)』は『キスをした相手を操る能力』だ。

 キスは相手を傷つける行為ではない。だから俺のプールの中で発動条件を満たしてしまう可能性がある。

 その時にルール②がどう判断するのか、俺はよくわかっていない。

 

「人間を操る操作系能力を使える仲間がいないから未検証なんだよな」

 

 そのうちしっかり確かめたいところだけど。

 まずは目の前のイルミを倒さないと何も始まらない。

 

 こちらを警戒してゲートの外から矢を放っているポックルに接近し、(ビーチパラソル)で引っかけるようにしてゲートに放り投げる。

 そのままゲートイン。ポックルも動かなくなった。

 

「ゴンさん、師匠! その人たちをゲートの中へ放り投げて!」

「わかった!!」

 

 ゴンさんが投げた審判の人が、恐ろしい勢いでゲートの奥に向かって飛んでいった。

 

「ありゃ死ぬんじゃないか……?」

 

 ネテロが冷汗をかいているけど、プールの中に入れば『傷つかない』。つまり今の人もノーダメージだ。

 ……本当は能力のヒントになるようなものをこのジジイに教えたくないんだけど、緊急事態だしゴンさんも焦っているんだろう。多少力加減に失敗しても文句は言えない。

 

「オレの針を無効化するって、その能力なんなの?」

「教えるわけないだろ」

 

 そうこうしているうちに黒服たちも全員プールに放り込まれて、残るはイルミ一人。

 ゴンさんたちとイルミがにらみ合っている間に、俺は座り込んでいたキルアに近づいた。まだ頭に針が刺さっているからキルアも警戒対象なんだ。

 このままキルアもプールに案内しようとしたところで、イルミのオーラが激しく揺らいだ。

 

「キルに触れるな!!! キルはオレのものだ!!!」

 

 これは兄弟愛なのだろうか? それともただの独占欲か?

 大切な家族(キルア)を守るために、危険から遠ざけるために針を打ち込むというのなら理解はできる。

 

 だがこいつは、アルカを利用するためならキルアを完全な操り人形にしてもおつりが来ると考えていた男だ。

 

 物事を損得勘定でしか考えられない。

 そしてその基準はゾルディック家(自分)に利益があるかどうか。キルアの存在など本当は二の次にすぎない。

 

 ゾルディック家が生んだ闇人形――それはイルミに他ならない。

 

 そんなイルミに見せつけるように。

 俺はビーチパラソルを開いた。

 

 夏を思わせる、澄んだ青空と眩い太陽が良く似合う、真っ白なビーチパラソルで――キルアの姿をイルミの視界から隠した。

 

 ――キルアはもう闇の住人ではない。

 ――明るい日差しの下で、堂々と胸を張り。

 

 ――お前とは違って、光の道を歩むのだ。

 

「ッ!!!!」

 

 イルミの放った針がビーチパラソルに当たるが、傷一つつかない。

 

 そして。

 

「最初は――グー!!」

 

 闇が、砕けた。




※ゴンさんが手加減してくれたのでイルミは何とかギリギリ生きています。
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