いざククルーマウンテン
「それじゃ、俺たちはキルアの実家にご挨拶に行ってくるから念の修行をがんばってね!」
ハンター試験も合格して一段落、とはいかず。
折角ゴンさんが生け捕りにしてくれたイルミを連れてキルア君のご実家、ククルーマウンテンにあるゾルディック家に突撃しようと思います。
「バンちゃん、気をつけるんだよ。あたしもゴンちゃんも今回はついていけないんだから、くれぐれも危険はしないようにね」
「大丈夫だよ! バッチリ交渉を決めて帰ってくるから安心して!」
今回向かうのは俺、幻海師匠、キルア、そしてイルミの4人。幻海師匠は俺の護衛と死にかけのイルミの生命維持のために付き添いをしてくれている。つまりゾルディックとの交渉は俺一人でやるってことだね。
まあ大丈夫大丈夫! なんとかなるさ!
「メイちゃん。今回は危険だから連れていけないけど、会長に頼んだ師匠もそのうち到着すると思うから、修行がんばってね」
「うん。バンくんの足を引っ張らないように私も強くなるね!」
しばしの別れを惜しみながら、俺たちはククルーマウンテンに向かって出発した。
移動時間は飛行船で3日。こういう時、ノヴさんみたいな長距離転移ができる能力が欲しくなるけど、あれだけ便利な能力は滅多にないっぽいから難しいか。
――というわけで、やってきましたククルーマウンテン。
移動中に暇だったのでキルアに念を教えていたけど、一日も経たずに念に覚醒し、纏と絶を即座に習得。三日で練を覚えたのは呆れるしかない。
キルア=ゾルディック、やはり天才か……。
まあ、それはともかく。
「帰ってきたか、キル」
「親父、ただいま!」
キルアと同行したので強面な執事さんたちにもにこやかに出迎えられて、スムーズにゾルディック家の当主シルバと先代のゼノに会うことができた。
シルバもゼノもキルアを大事に思っているのが見てわかるし、キルアも嬉しそうだ。ここだけ見ると仲良し家族と愛され息子なんだけどなぁ。
「それで、君たちがキルの友達か」
「はじめまして! バン=フリークスです!」
「……幻海だ」
「オレの友達はこっちのバンだけね! 幻海のねーちゃんは……バンのお目付け役?」
ひどい言いようだ。お目付け役が必要なのはキルアの方だろうに。
「キルアの父のシルバ=ゾルディックだ」
「祖父のゼノ=ゾルディックじゃ。……なるほどのう」
お父さん、お祖父さん。なんで俺のことを興味深そうに見ているの?
なんか勝手に納得したように頷いているのはなんなの……?
「キルアとは仲良くさせてもらってますが、今回の本題は挨拶じゃなくて。イルミ=ゾルディックの身柄を引き渡すのでゾルディック家と取引がしたいんです」
「――ほう」
空気が一瞬で張り詰める。目の前の二人と後ろに控えていた執事たちが静かに殺気を放ち始める。
俺みたいなガキがゾルディック家と対等に取引をしようというのが気に入らないんだろう。確かにハンターになったばかりのペーペーの俺じゃ、シルバとゼノを相手にこんな生意気なことは言えない。
「親父はイルミが俺の頭に針を刺していたことを知っているんだよな?」
「……そうだ。俺も把握していたし、母さんやミルキも知っている」
だけど、こっちは
「オーケー。それなら条件は二つ。『二度とオレを操ろうとしないこと』。そして『オレの友達とその周りの人間を狙わないこと』だ。もちろん、暗殺の仕事を受けるのもなしだぜ?」
「むう……」
「イルミの奴は俺を操っていた。そしてオレに友達は必要ないと言ってバンやゴンさん、友達を殺そうとした。要求としては妥当なところだと思うぜ?」
当然、断ったらイルミは殺す。あんな危険人物を首輪も嵌めずにリリースできるほど俺も幻海師匠も甘くない。
キルアも本心ではイルミを殺したくはない(アルカ編でもイルミを殺さなかった)と思っているけど、何のペナルティもなしで許すようなバカではない。
「シルバさん、ゼノさん。取引の詳しい説明をする前に、俺の念を説明させてもらっていいですか?」
「……君の能力を?」
「呼びにくいならバンと。呼び捨てでいいですよ」
息子の友達と話をするのは初めてなんだろうな。ちょっと距離感が掴めていないのがおかしい。
「俺の能力は特殊な念空間を作り出す能力。殺傷力はほとんどありません。ただ、出入りに俺の許可が必要なのと、内部で結んだ契約を順守させるというルールがあります」
・ルール④ この空間内の商品はバンが管理している。
この商品とは物品だけではなく契約も含む。俺が認めたものは全て『商品』だ。
「ふむ。契約を結ぶことで条件を満たす要請型の操作系能力かの」
「
「ああ、構わんぞ。のうシルバ?」
「うむ。問題ない」
「ありがとうございます」
俺が能力を使っていいかと聞いた時に執事たちが身構えたけど、ゼノさんとシルバさんが許可を出したことですぐに元に戻った。
俺がどんな能力を使っても対応できるという二人の自信。そして主人に対する絶対的な忠誠。やはりゾルディック家はいい。なんとしても引き込みたい。
「ゲート・オープン。『
俺の背後に開いた夏への扉。突き抜けるような大空が広がる青いプールの入り口。
「「……っ!!」」
そんなどこにでもありそうな『ごく普通のプール』に、シルバさんとゼノさんが一瞬表情を変えた。
俺にわかったんだから、キルアも幻海師匠も気がついただろう。
こんな普通のプールなのに、二人にはどんな風に見えたんだろうね?
「このゲートは今は出入り自由にしておきますね。シルバさんもゼノさんも執事の皆さんもご自由にどうぞ」
ゲートの中に足を踏み入るとあの日の熱気が体中に纏わりつく。湿気の多い日本特有の、うだるような暑さ。プール遊びにはちょうどいい。
「そして、俺は『この取引の間、一切嘘をつきません』。約束します」
俺がそういった瞬間、オーラが動く。
「もう一度言いますが、このルールは
誰かに約束を守れと強制するのではなく、交わした約束を破らないという自分への誓い。それがルール④だ。
「そして、制約と誓約であるが故に、この約束は
自分がいつ約束を破ったのかは本人が一番よく知っている。
約束を破ろうと行動を始めた時点で、すでに約束を破っているのだ。
「シルバさん。ゼノさん。俺もキルアも嘘をつきません。俺たちは『イルミ=ゾルディックの身柄を渡す』。ゾルディック家は『二度とキルアを操ろうとしない』『キルアの友人とその周りの人間を狙わない。暗殺の仕事も引き受けない』」
先ほどキルアが言った条件をもう一度くり返す。
「どうでしょう、この条件で俺たちと
頭上に燦燦と輝く永遠に暮れない真夏の太陽の下から、ソファーに腰かけるシルバさんたちに笑いかけた。