◇よく動き◇
「そこ、腕が下がっている! もう一度最初からやり直し!!」
「なにへばってんの! まだたったの50kmだわさ! 持久力なさすぎよ!! さっさと立て!!」
「アニタ! 動く時に練を解くなって言ってんでしょうが! あんたが一番下手っぴよ!」
「「「はい(押忍)!!!」」」
指導員の厳しい叱責の声が飛ぶ。
今回集まった参加者のうち、バッテラ氏と婚約者の二人以外の身体能力は一般人を超越している。
ハンター試験の一次試験を突破して100km以上のマラソンを完走した者たちや、ゾルディック家の英才教育を受けた者、執事学校で厳しく鍛えられた者たちだ。
当然、並の運動では苦にもならないので、それぞれの身体能力に合わせた重りをつけているし、纏や練を維持したまま動く練習にもなっている。
「はひー。きついー。死ぬー」
「天空闘技場で重りを使った生活もしていたけど、念も同時に鍛えるのは辛いねー」
ちなみに鬼教官たちがそれぞれの能力に合わせた調整を完璧に行っているので、バンやメイといった実力に差がある者たちでも体力とオーラの限界ギリギリまで搾り取られる。
全ての基本となる肉体とオーラを鍛える重要な修行だ。
◇よく学び◇
「えー、それじゃあ六性図の各系統の説明と、念能力の大まかな分類を説明するね」
運動後、今度は絶をしながら頭も鍛える。絶は疲労回復効果もあるので運動の後にぴったりだ。
ちなみに教壇に立って念について説明しているのはバンだ。指導員たちは受講者の後ろから授業風景を見ている。
「能力の分類は、戦闘型、補助型、
ハンターなら最低限の戦闘力は必須だが、必ずしも戦闘型を作らないといけないわけではない。むしろ戦闘型以外の念を作る念能力者の方が多いと作中で言われるくらい様々な能力がある。
※強化系※ 該当者:ゴンさん・アマネ・アニタ
「強化系は『物の持つ働きや力を強くする系統』。ぶっちゃけ戦闘型の能力を作る人が多いよ。ただ、自分を強化したり武器を強化したりというのが想像しやすいけど、実は補助型にも適している系統なんだよね」
強化系の非戦闘型は原作だとあまり出ていないが、クラピカの治癒力の強化、コムギの思考力の強化、対象の成長力を促す、嗅覚の強化による念能力者や系統の識別など、様々な補助型の能力が存在する。
実は『何を強化するか』の選択肢が非常に多い系統なのだ。
「思考力の強化で頭が良くなる!? ちくしょう、どうして俺は放出系なんだ!! そうすりゃ医者の勉強もちょちょいのちょいで終わったってのによ!」
「私もゴンさんのような強化系が理想だったのだが……。一番戦闘に適しているのはやはり強化系だから残念だ」
受講しているレオリオやクラピカが残念がっているが、それくらいバランスがいい。
しかも強化系の場合、纏と練だけで十分に強いから、発を非戦闘の補助用として割り切ってしまうこともできる。
ウイングの言っていた『強化系に必殺技はいらない』という言葉があったが、正確には『強化系に必殺技(戦闘型の発)はいらない』が正しいだろう。
もちろんゴンやウボォーギンのように完全に戦闘型に振り切った強化系の強さは空恐ろしいものがあるので、戦闘型の能力を作るのが悪いというわけでもない。
戦闘型にしても補助型にしても強い。まさに最優の系統だろう。
※放出系※ 該当者:レオリオ
「放出系はできることが多すぎて逆に困るね。『オーラを体から離して維持する系統』なんだけど、他の系統の人も放出系要素を含んだ能力を作ることが多いくらい重要ってことだね」
放出系で見られるのは『念弾』『空間移動』『念空間』など。さらにメルエムの能力の『徴収』も放出型の能力だと判明した。
「本当は能力を作る前に自分でしっかりと考えた方がいいんだけど、レオリオが医者希望で霊光波動拳の心霊治療に興味があるから説明しちゃうよ。まず重要なのが微量のオーラを患者の体内に送り込むこと。オーラの量が多すぎるとそのまま覚醒してしまうし、最悪オーラの枯渇で体力を消費してそのまま死んじゃうから、これは絶対に気をつけないといけない」
「……わかったぜ。俺の手で患者を殺すなんてことは絶対にやりたくねえからな」
このオーラを使った検査方法、原作のレオリオは師匠に教わらずに独学で念を勉強して編み出したのではないかと言われている。
医者の勉強をしている時に『医術体系―念・燃―』という本がレオリオの机の上にあったらしい(アニオリ?)。
もしも事実ならやはりネテロ会長の仕込みなのではないだろうか。
「うん。で、体内に送ったオーラから患者の容態を確認して、腫瘍などの悪い部分はそのままオーラで攻撃、逆に弱っている場所にはオーラを送って治癒力を強化するっていうのが心霊治療の基本だね。ここでもオーラの量の調整に失敗するとそのまま覚醒するから、腕に自信がないなら非念能力者に使うのはやめた方がいいよ」
このくらい非念能力者を念で治療することは難しい。
逆に覚醒済みの念能力者相手なら多めにオーラを送っても問題ないので、念能力者限定の治癒能力者は少数だがいるようだ。
――長期間の昏睡状態で全身にガタが来ていて、いつ死んでもおかしくないバッテラの婚約者を治療したのに、治療後に覚醒させなかったナニカの治癒能力がどれほど規格外かわかるだろう。
「念を使えばほとんどの怪我や病気も治せるが、患者に覚醒のリスクが付き纏う。ならやっぱり医者としてしっかり勉強して、普通の医術じゃどうにもならない患者を助けるために念を使うのが一番安全か……」
患者の命を救うために何が必要で何を学ぶべきか。
医者としての高みを目指すレオリオなら、霊光波動拳五大拳の『療の拳の奥義』も覚えることができるかもしれない。
※変化系※ 該当者:キルア
「変化系は『オーラの性質や形状を変化させる系統』。ビスケの能力の『魔法美容師』で使うローションもオーラを変化させたものだね。他にも炎、糸、ゴムなどいろんなものに変えられるよ。キルアは何に変えるか候補は考えている?」
「まあ一応ね。あとで相談乗ってよ」
「わかった。ビスケたちと一緒に相談に乗るよ」
キルアはすでに候補を考えていたようで、迷いは見られなかった。
「一応もうちょっと説明するけど、変化系はオーラだけじゃなくて自分の体の変化にも関係するみたい。大きくなったり小さくなったり、ゴムみたいに腕を伸ばすとか、腕を増やすとか。そういうのも変化系になるんじゃないかな?」
「ゴム人間は変化系能力者だったのかよ!?」
護衛軍のモントゥトゥユピーが翼を生やしたり、目を増やしたり、腕を増やしたり伸ばしたり。自分の体を自由に変形することができたのは変化系だったのではないか。
それと、ビスケが小柄な体躯になるのもやはり変化系だからなのでは、と言われている。
つまり、性質変化と形状変化を極めればゴム人間化することも可能なのではないだろうか……。
※操作系※ 該当者:ポンズ・レルート・カルト
「操作系は『オーラを使って物体や生物を操る系統』。何を操るのかが重要だけど……まあ、この三人ならほぼ決まりだよね」
本当は能力を作る前に迷うものだけど、カルトちゃんはすでに自分の能力を作っているし、他の二人も候補は決まっているだろう。
「ボクは紙。この扇子も紙製だし、他にもいろいろできるよ」
カルトの能力は紙。紙にオーラを込めて強化し戦闘に使うこともできるし、紙人形を使った盗聴なども可能な能力だ。
「私はやっぱり蜂ね。この子たちを使った能力を考えようと思うわ」
ポンズは蜂。原作でも蜂を操っていたし、キメラアント編では『強いオーラを纏っているハンター』に蜂を使って手紙を届けるという能力も見せていた。
今後の能力開発次第だが、蜂の操作という大本は変わらないだろう。
「……ねえボス。私はいいの? 操作系よ?」
「レルートさんは最初から織り込み済みでスカウトしたから大丈夫だよ。たぶん操作系だろうなーって思ってたしね」
「そ、そう。それならいいのよ……(最初からって、会った時から私のことを知っていたってこと?)」
レルートは人間。元精神科医で多数の人間を操って自殺させた重犯罪者だ。
当然、操作するものを一つ選べと言われたら『人間』しかないだろう。
「レルートさんが裏切る心配とかしていないから、レルートさんの好きな能力を作っていいよ」
「わ、わかったわ。少し考えさせて(裏切った瞬間に死ぬってことじゃない!)」
彼女がどんな能力を作るのか、それはまだ誰にもわからない。
※具現化系※ 該当者:クラピカ・スパー・カナリア・バン(二重系統)
原作のクラピカに、スパー(感情が顔に出てしまうのを気にしている女スナイパー)、ゾルディック家の執事見習いなのにキルアを助けてと涙を流したカナリア。神経質というか、繊細なところがある三人が具現化系だ。
「具現化系はまず何を具現化するかを決めてからだね。俺は発を作ろうと思ったら勝手にプールになっちゃったけど、みんなはそういうのはないよね?」
バンが全員に確認をしたが、天然能力者(無自覚の発)はいなかった。
だが、クラピカとカナリアは何を具現化するかをすでに決めていた。
「鎖だ。冥府に繋いでおかなければならない連中がこの世に野放しになっているからな」
クラピカは原作と同じ鎖を具現化すると決めたが、それぞれの指にどんな能力を付与するかはこれからの修行次第。
「私は鳥を……」
「どんな鳥?」
「……カナリア」
カナリアはカナリアの具現化を目指すようで、まずは本物のカナリアを飼育して観察するところから始めているようだ。
ゴリラの具現化をする場合はやはり日常がゴリラだったのだろう。
「それでスパーは?」
「一番使い慣れていて思い入れがあるのは銃ね。でも、銃を具現化するのはいろいろと障害があるんでしょう?」
「まあね。銃を念で作る場合、具現化系の苦手な放出系の要素が必要になっちゃう。威力は下がるし、『銃弾に当たった相手を対象にする能力』なんかも厳しいよ」
具現化系で作った物体は手から離れると途端に強度が落ちる。
一般人ならともかく、纏や練でガードしている念能力者に強度が落ちた銃弾でダメージを与えるのは厳しいだろう。
それに銃は遠距離から攻撃できるのが最大の利点だが、この距離の壁が放出系を苦手とする具現化系能力者に降りかかる。放出系はたった40%しか適性がないのだ。
「銃は実物を持ち歩くことにして、それ以外のものを具現化する方がいいんじゃないかな」
「やっぱりそうなるのね。銃以外で思い入れがあるもの……考えてみるわ」
具現化系と銃という武器のミスマッチ。スパーはもうしばらくかかりそうだ。
※特質系※ 該当者:メイ・バン(二重系統)
「ねえバンくん」
「これってやっぱり、特質系だよね」
「そうだね」
メイが水見式を行った結果は、『葉が赤く染まる』というもの。
血のように赤い葉は間違いなく特質系の証だった。
「ちなみにバンくんの水見式ってどうなの?」
「いいよ。見せてあげる」
バンが水見式をするとコップの中に不純物が発生した。不純物が集まり、コップの表面に集まって四角形を作りだす。
そして、そのまましばらく発を続けていくと――四角形と中の水がじわじわと赤く染まっていくのだった。
まるで血に染まったプールのように。
「これが具現化系と特質系かぁ……」
「まあ、俺の場合は最初からプールができていたから、後から調整をするくらいしかできなかったけど、メイちゃんは好きな能力を作れるからね。自分の好きなものを基準に考えればいいんじゃないかな」
「私の好きなもの。……うん、ありがとう。もうちょっと考えてみるね!」
メイは自分のコップに浮かぶ真っ赤な葉っぱを摘まみ上げた。
※未覚醒、系統不明※ 該当者:バッテラ・婚約者・レツ
まだ念に覚醒していないバッテラとその婚約者。毎日の瞑想を行いながら、正式に引退のために動いており、保有している事業を譲ったり、顧問弁護士らと打ち合わせを繰り返していた。
G・Iの攻略のために雇った100人以上の念能力者たちも違約金を払って依頼撤回しようとしていたのだが、バンの意向で報酬500億を確保してそのままゲームを遊ばせている。
結局金目当てで集まったプレイヤーたちなので、報酬だけ確保しておけば文句は言わないだろう。
そしてレツ。
「うんともすんとも言わない……」
水見式のコップの前で練を行うが何の反応もない。
自分の系統も分からず、発を作ることもできない。
ただオーラ量を増やし、オーラ操作を練習し、幻海に体術を教わり続けた。
ただそれだけを繰り返していたのがレツの数年間だった。