第四の壁を越えて   作:タカリ

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激情編・終幕

「まあまあ。落ち着いてよ。修行に集中してほしいから情報を止めていただけで、必要になったらこうしてちゃんと教えてるじゃん」

「確かにその通りだが、それでも……! 私の目的を知っているなら、教えてくれてもいいではないか……!」

 

 クラピカがドタバタと騒がしい。

 

(ボクも兄さんのことをバンに聞きたいし、旅団(兄さん)の被害者であるクラピカとも話をしたかったんだけど……。なんかそういう空気じゃなくなっちゃったな)

 

 バンがクラピカを宥めているが、それも真剣に謝っているというよりはこうなることが分かった上でわざとからかっているような雰囲気だった。

 

(バンってこういうところがあるよね。優しいことは優しいんだけど、そのついでにちょっとしたイタズラを仕込んでくるというか。こっちの反応を見て楽しんでいるようなところがある。あれはバンの悪い癖だと思うよ)

 

 もちろん、バンはバンなりに考えがあって行動してるわけだし、修行に影響が出るのを避けたかったからクラピカに情報を与えなかったというのは真実だろう。

 でも、そのチャンスを逃さずに自分の楽しみを、やりたいことを叶えようとする。そういう強かさがある。

 

(あと、裏でこそこそ動いているくせに新しい女の子をどんどん連れてくるし。キルアの家に行ったらキルアの妹さんたちや執事の子たちも連れてくるし、レルートさんやビスケを連れて来たと思ったら、今度はバッテラさんと婚約者さんを治療したとか言ってるし……)

 

 レツはこれまでのバンを思い出して不満を抱く。

 自分はずっと修行を続けていたのに、バンだけどんどん先に進んでしまう。

 

 幻海はまるで護衛のようにバンに付き添っているし、ゴンは意外とバンから頼られている。ぼたんは心霊治療の技能を活かして修行者たちの面倒を見ている。

 

(ボクが発を使えたら、連れて行ってくれたのかな……)

 

 何年も一緒に修行をして、バンがプールの能力を研究し、ゴンさんがジャジャン拳を身につけた一方で、レツは何年経っても、どれだけ修行をしても発を身につけられなかった。

 単純なオーラ操作、念の応用技は一通り覚えたが自分だけの発を作ろうとしても『作れない』ということだけが理解できた。

 本来あるべき系統がない。何も作れない。どうしてそうなっているのかわからないが、それがレツの状態だった。

 

(……でも、戦えないわけではない。ビスケみたいに戦闘用の発がなくても強い人はいる)

 

 バンやゴンと一緒に鍛えた体と武術は決して無力ではないのだから。

 

 ◇

 

 その後、バンが中心になって団員対策の検討をした。

 

「問題は人数なんだよね。最大で13人。こっちがもっと強ければいい経験値稼ぎになると思うけど、さすがに念を覚えて一か月くらいの初心者たちじゃキツイと思う。発の開発も全然進んでいないしね」

 

 まずは基礎を固めるべきだという教育方針によって纏・練・流に重点を置いて修行をしていたので、発は後回しになっていた。

 

「それぞれ考えている発はあると思うけど、今から旅団対策で能力を作るのは禁止ね。2~3日で作れるような能力が団員相手に通用するわけがないのでクラピカくんは諦めてくださーい」

「な、なぜ私を名指しするんだ! そんな愚かなことはしない!!」

 

 (((でもクラピカだしなぁ……)))と全員が口にしないけど思っていた。

 

「それじゃあ、それぞれの相手を決めていくねー」

 

 幻海、ビスケ、メンチ、バン、ゴンさん、キルア、カルト、カナリア、アマネの9人がそれぞれ1人ずつ担当。

 クラピカ、レオリオ、メイ、ポンズ、スパー、アニタ、レルートは2~3人で組んで1人を担当。

 

「これで12人だけど、最後の1人は?」

「最後の1人は助っ人(ヒソカ)を呼んだからそっちに任せていいよ。腕は確かだから心配はいらない」

 

 バンがヒソカに偽旅団狩りをすると告げたところノリノリで参加希望だったので、面倒臭いクロロの相手を任せる予定だった。

 

「そして、レツはオモカゲと直接対決だ。目を取られないように気をつけてね」

「わかった。兄さんは、絶対に僕が止めてみせる」

 

 決意を込めてレツが頷く姿を、クラピカが複雑な顔で見ていた。

 

「旅団は私の同胞の仇。叶うならば誰の手も借りずに、この手で奴らに止めを刺したかったのだが……」

「まあまあ。本物の旅団狩りの時はちゃんと本物の団員と戦ってもらうから。それまで修行を頑張って強くなろうよ」

「どうして私の復讐のはずなのにバンが主導権を握っているんだと言っているんだ! どう考えてもおかしいだろ!?」

 

 否応なしに本物の旅団狩りの予定まで組まれてしまうクラピカだった。

 9月のヨークシンが本番。それまでに彼らはどれほど成長できるのだろうか。

 

 ◇

 

「ゴン=フリークスくんとその仲間たちだね。私はツェズゲラだ。ターゲットの動向は私の仲間が監視しているが、早速ハントにかかるのかね?」

「ええ、飛行船の中で十分休めたんで今から仕掛けてきます」

 

 準備を整えたバンたちはオモカゲの監視をしていたツェズゲラと合流した。

 懸賞金ハンターであるツェズゲラは世界中に情報網を持っており、行方不明者や賞金首の捜索、遠方からの監視などの経験も豊富のベテランハンターである。

 この場には姿を見せていないが、彼の仲間の念能力『蠅の仕事(サイレントワーカー)』は非常に優秀なレーダー機能がついていて、それで常時オモカゲを監視していた。

 

「料金次第で手伝いをと思っていたが、どうやら我々の出番はなさそうだな。無事を祈る」

 

 ツェズゲラに見送られた後、バンたちは正面からオモカゲの隠れ家に向かう。

 

「どちら様です……か?」

 

 接近してくる集団に気がついたのだろう。中からオーバーオールを着た男装の少女『レツ』が姿を見せた。

 そして、先頭を歩くドレス姿の少女に気がつく。

 

「ボク……?」

「そうだよ、ボクだよ。『レツ』」

 

 片方がオモカゲが作り出した妹を模した人形(レツ)

 もう片方はバンがプールの底(霊界の穴)から呼び出した死者(レツ)

 

「兄さんを止めに来たんだ。そこを通して――?」

「これは……」

 

 二人のレツが感じた違和感。

 人形と死者の間に繋がりが生まれていた。

 『魂呼ばい』のような光が二人を包み、片方の中からナニカが飛び出して、もう片方に吸い込まれた。

 

 ガクン、と力を失ったように――『人形のレツ』が崩れ落ちた。

 その両目は伽藍洞となって深い闇を覗かせており、先ほどまで存在していたアイスブルーの瞳は消えていた。

 

 そして、死者のレツは。

 

「そうか……そういうことだったんだ」

 

 自分の中に広がる感覚。欠けていたナニカが満たされて、完全な状態に『戻った』。

 

「兄さんはボクの眼と命を奪った時に、一緒にボクの()の一部を奪っていたんだ」

 

 兄オモカゲに奪われた念の力。それはレツが本来備えていた『念系統』だ。オモカゲは偶然にも妹から『念系統』を奪っていたのだ。

 

「レツ! どうしてお前はこんなことをするんだ!?」

 

 奥から発狂した様子のオモカゲが駆けてくる。床に転がるレツの人形には見向きもしない。

 

「なぜ、なぜ私から力を取り上げた! お前が――お前が私を『神の人形師』にしてくれたのに! なぜだ、レツ!!」

 

 長い金髪を振り乱し執拗にレツを責めたてるのは、神のごとき万能の力を失った、『ただの人形師』の男。

 

「……そうか。兄さんのあの能力は、『ボクの念系統』があったから生まれた能力だったんだね……」

 

 オモカゲの本来の念系統は『特質系寄りの具現化系』。クラピカと同じ、特質系と具現化系の中間に位置する系統だった。

 そして、レツ本人は知らなかったが、レツの念系統は『特質系寄りの操作系』。特質系と操作系の中間に位置していた。

 

 特質系は特殊な血筋や環境から生まれやすい。

 オモカゲとレツの兄妹は特質系になりやすい家系で、特質系の両隣の具現化系と操作系の念系統を備えていた。

 

 ――そして、オモカゲは妹を殺して念系統を奪ったことで、『具現化系と操作系に非常に高い適性を備えた特質系』として覚醒したのだ。

 

 人形を作るのは『具現化系』。

 多数の人形を作り出して意のままに操るのは『操作系』。

 そして人格や能力までコピーするのは『特質系』。

 

 歪な兄妹の絆、血の繋がりが生み出した悪夢のような奇跡が『神の人形師』の正体だったのだ。

 

「兄さん……」

 

 自分が兄に殺されていなければ。念を奪われていなければ、兄は凶行に及ばなかったのではないか。

 そんなもしもがレツの胸を締め付けるが、過去は決して変えられない。

 

「そうだ、レツ! もう一度お前の眼を私にくれ! 今度こそ失敗しない! お前の綺麗な眼を永遠に保存して、真の永遠の人形として完成するのだ!!」

「兄さん……」

 

 レツ(過去)殺害(失敗)でレツの眼を損なってしまったことを反省し、『次はうまくやる』と言うオモカゲの姿はあまりに醜悪過ぎた。

 生前の、人形師として尊敬していた兄の姿を知るからこそ、ここまで堕ちてしまったことが――悲しい。

 

「オモカゲ」

「……バン?」

 

 そんなオモカゲの前にバンが立ち塞がる。レツを庇う彼の背中に心臓が跳ねた。

 

「お前に言いたいことがある」

「……なんだ貴様は! 邪魔だ! どけ! これは私が神の人形師になるために必要なこと! レツだって私が作り出す人形に喜んでくれるに――」

 

「お前の人形、ゴミ以下だな」

 

 沈黙が降りた。

 

「……なん……だと……。知ったような口を――」

「元フィギュアマニアの俺からお前に一つ教えてやる」

 

 足元に転がるレツの人形を指差して、一言。

 

「人形で一番大事な(パーツ)に生きた人間の眼を使ったら、人形じゃなくて剥製だろ」

「はくせ――ッ!?」

 

 ピシッ。

(あっ)

 

「神の人形師? 笑わせるね。お前は人形師なんかじゃない――ただの剥製職人だ」

「はく……しょ……ッ!?」

 

 ピシピシ。

 すぐそばで兄を見ていたレツにはわかった。

 

「『人形の眼には魂が宿る』。だからこそ職人の腕が問われるのに、生きた人間から眼を引っこ抜いてきて移植するなんて……駆け出し以下のクズの所業だ。よく臆面もなく人形師を名乗れるよね」

「あ、あ、あ……」

 

 ピシピシピシピシッ。

(に、兄さんの……兄さんの――)

 

「そこに転がっているレツの人形を見てみなよ。眼を入れてもらえずに伽藍洞のまま。いくら顔や体が上手に作れても、肝心の眼を自分で作る自信がないからこうなっているんだろう」

「ち、ちがう……、わ、私の、私の人形は、神の、永遠の――」

 

「永遠の未完成品。お前の人形未満のゴミと比べたら、その辺の駆け出し人形師が作った人形の方が遥かにマシだよ」

 

 ピシピシピシピシ――パリンッ!

 

「うわああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

「兄さんの人形師のプライドが……木っ端みじんに砕けちゃった……!!」

 

 床に崩れ落ちて、両目から大粒の涙を流すオモカゲ。

 

「おい剥製職人。これに懲りたら二度と人形師を名乗るなよ、不愉快だからさ」

「バンが容赦なさ過ぎてビックリなんだけど!?」

 

「あああああああああああああああああ!!!!」

 

 元幻影旅団No.4、オモカゲ――再起不能(リタイア)!!




あーあ、オモカゲくん泣いちゃった!!
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