第四の壁を越えて   作:タカリ

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自分らしさ

 私の好きなものはなんだろう。

 

 前世の私はオタクだった。

 漫画やアニメが大好きなどこにでもいる、普通のオタク少女。

 大学で入った漫画サークルでも楽しいオタク生活を送っていた。HUNTER×HUNTERの漫画を初めて読んだのも大学に入ってからだ。原作の長期休載と新刊がまったく出ていない状態に絶望した。

 

 HUNTER×HUNTERだけじゃない。他の漫画やアニメにも手を出したし、サークルメンバーに誘われてコミケに参加したことも、コスプレをしてみたこともある。

 

 人生で初めての彼氏ができたのも、大学生の時だった。

 

 同じサークルの友達で、HUNTER×HUNTERを勧めてくれた人で、好みの作品の趣味が合った。彼と一緒にいるのが楽しかった。ずっと一緒にいたいと思った。

 大学を卒業しても、それぞれ別の会社に就職しても、ずっと一緒にいると思っていた。

 

 そんなささやかな願いは、狂人/凶刃によってあっさりと打ち砕かれた。

 

 突然ナイフを取り出して暴れ出した人に襲われかけた私を、彼が咄嗟に庇ってくれた。

 だけど、彼の体からは大量の血が。

 床に蹲って、動けなくなった彼が、それでも。

 

『逃げて……メイちゃんだけでも……』

 

 私に逃げろと言ってくれたけど、恐怖で脚が竦んで動けなくて。

 気がついたら、真っ赤なナイフが私の目の前に迫っていた。

 

 ――その後のことは、覚えていない。

 

 ◆

 

「私の好きなもの……」

 

 あの夏の日。久しぶりに休日の予定を合わせることができて。

 買ったばかりの新品の水着を彼に披露して、「可愛いね」って褒められて。

 キラキラした幸せな日。大切な思い出。

 

 ――私を守るために立ち塞がってくれた彼の背中。

 

 カキン帝国の兵士の娘に生まれて。

 周りにバレないよう、変な娘だと思われないように息を潜めて。

 灰色の日々。布団の中で一人で震えた夜。

 

 ――なにもできない無力な自分。

 

「私、は……」

 

 ゴン(主人公)の兄に転生して、小さい頃から念の修行を始めて、原作の流れを変えることも気にせずにどんどん変えていってしまう彼と。

 原作に影も形もないモブの娘として転生した、何にもできない私。

 

 そんな私が作る念能力は――。

 

 

 ◇

 

「レオリオは結局、発を作るんじゃなくて霊光波動拳を学ぶつもりなの?」

「ああ。五大拳の一つ、療の拳を教えてもらうつもりだぜ」

「医者の勉強は?」

「もちろんそっちもするぜ。医者と念能力者の二足の草鞋ってな」

「中途半端になってどっちつかずにならないかが怖いね」

 

 そもそもレオリオはどういう風になりたいんだろう?

 

「レオリオは友達が病気で亡くなったから医者を目指したんだよね」

「ああ、そうだね。決して治らない病気じゃなかった。ただ問題は法外な手術代でな。あいつの家族も俺も、一億ジェニーなんて大金を用意できなかった。だけど金さえあればあいつは助かったんだ」

 

 そんな過去の経験から、いつか友達と同じ病気にかかった子供を治療して、子供の親に「金なんかいらねえ」と言ってやるのがレオリオの夢だった。

 

「ハンターになったのも医大の授業料免除が目当て、結局は金のためさ」

「お金は大事だと思う。お金だけじゃどうにもならないことも多いけどね」

 

 バッテラ氏の婚約者さんとかね。

 

「じゃあレオリオの今後の話になるんだけど、単に『医者になりたい』の? 病気の子を救って『金なんかいらねえ』って言いたいの? どうしたい?」

「んん? どういうことだよ? 何が違うってんだ?」

「『医者になりたい』ってだけなら念による治療は必要ないよ。最低限の力だけ身につけたら医大合格を目指して受験勉強して、合格した後も医大や病院で勉強や研究をした方がいい」

 

 純粋な医学の発展や医療に関わるだけなら、ただの医者で終わるつもりなら念は必要ない。

 

「病気の子を救って『金なんかいらねえ』っていうのも方法はいろいろあるよね。まともな医療を受けられない貧困地域で個人で医療をしてもいい。あるいは金儲けをするかスポンサーを得て、無料医療が受けられる病院を開設するなんて手段もある」

 

 高額治療が必要な子供たち全員を助けることはできないけど、きっと大勢の子供たちを救うことができるはずだ。

 

「念による治療は危険が伴う。一歩間違えれば患者を殺しかねないし、治療後も患者がオーラに目覚めてしまわないかどうかアフターケアは必須だ。バッテラさんや婚約者さんのように弟子として面倒を見る必要もあるかもしれない」

 

 念による治療、霊光波動拳の心霊治療は良いことだけではない。デメリットは多く、救える数には限りがある。

 

「念の修行に時間を費やすより、医者の勉強に時間をかけた方が、きっと大勢の人間を救えるんじゃないかな」

 

 無理をしてまでレオリオが念が学ぶ必要があるのか?

 

「――だがな、バン。医療が発展しても救えねえ人間はいる。薬が効かない病気、代えの利かない重要な臓器がイカレちまう病気、脳や神経に異常が出て一生寝たきりになっちまった患者もいれば、治療法が見つからずに死んじまう人もいる」

 

 現代医療の限界。どれだけ医療が発展しても、救いきれずに見捨てるしかない人間たち。

 

「おれはバカだからよぉ。大勢の人を救うことはできないかもしれねえ。医学の発展になんの貢献もできないかもしれねえ」

 

 医者を志す前の、レオリオという『人間』の剥き出しの本心。

 

「だけど、俺の目の前にいる患者を、『助けてください』と頼ってくる人間を全員助けてやりてえんだわ。だから医者も念もどっちも極める! それが俺の目標だ!!」

 

 実にレオリオらしい、優しさに満ちた無謀な挑戦。

 

「――その言葉が聞きたかった」

 

 ようこそ、弟弟子(レオリオ)。歓迎するよ、盛大にな!

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