「ポンズはやっぱり蜂だよねー」
「ええ。この子たち以外は考えられないわ」
操作系能力は自分が愛着のある道具や生物を使うことで威力や精度が上昇する。
例えばイルミならば針。シャルナークはアンテナと携帯電話。モラウは愛用のキセル。スクワラはペットの犬たち。
ヴェーゼの場合はキスをした相手を自分の下僕にする能力という、道具も使わないのに非常に強力な能力になっていたが、あれは特殊な例だ。それだけ
そういうわけで、ポンズは蜂を操る能力。犬を操るスクワラと同類の能力になるのだが。
「正直、蜂をそのまま戦闘に使うのは難しいと思うね」
「大量の蜂で一斉に襲い掛かって、隙を伺って、とか……」
「数頼みの攻撃は上位の戦闘型能力者にはまず通用しない」
「だよね……」
大量の蜂の一つ一つに強化系の防御を抜けるほどの念を注ぎ込むことは不可能だし、放出系の敵なら念弾のばら撒きで蜂が接近する前に駆除するだろう。
変化系や具現化系は相性次第で勝てるだろうが、結局その程度の能力になってしまう。
「まあ、工夫次第でその欠点も克服できると思うけど……そもそも蜂で戦闘すると損耗がえぐいと思うよ」
「うん。ポックルとの決闘でも何匹も殺されちゃったし、戦闘は自衛のためだけでいいわ」
犬使いのスクワラは犬を使った周囲の警戒や毒見などを担当して戦闘を避けていたが、あれはただの愛犬家というだけではなく、戦闘による犬たちの損耗を避けていたんだろう。
操作対象の犬たちが減れば減るほどスクワラが取れる選択肢は減るし、愛犬が死ねば精神にショックを受けて念能力にも影響が出る。
ポンズも帽子の中に蜂を飼っているくらいだ。当然蜂たちに愛着があるのだろうし、戦闘の度に大量の蜂を犠牲にしていたら何もできなくなってしまう。
「作る能力は非戦闘型、戦闘は自衛のための最低限。やっぱり蜂を使った索敵能力が良さそうね」
ポンズが蜂たちの適性を考えて自分の発を考える。蜂を使った偵察、調査、連絡などサポートが主になるだろう。
――なお、彼女は知る由もないが、彼女が考えている能力はキメラアントに殺された
◇
「スパーは……まだ迷ってるんだ」
「どうしてもね、銃と銃弾以外で思い浮かばないのよ」
幼少期から両親によって銃の手解きを受けて育ったスパーは、そのお陰で凄腕のスナイパーと言われるほどの実力を得られたが、その代わりに普通の少女らしい経験が乏しかった。
鉄と硝煙の匂いに包まれた人生に後悔はないが、念能力とは本人の意志、経験、人生が現れるもの。たった一つの道を歩んできた者はそれだけ選択肢の幅が狭く、能力の多様性に欠ける。
念は本人の「できる」という認識が重要であり、「できない」「無理だ」と思ってしまった時点で威力も精度も落ちてしまう。
銃も銃弾も、手元から離れた時点で強度や威力が落ちてしまって使い物にならないという知識がスパーの創造性を苛んでいた。
「私は器用な人間じゃないから、結局
長い時間を共にしてきた手の中の相棒を見やり、師であるバンの教えを活かせない不器用な自分にスパーは苦笑した。
◇
「レルートはどんな感じ?」
「まあまあよ。どういう能力にするのか方向性は決まったわ」
背後から現れたバンにビクリと肩を震わせながら、それでも平静を装ってレルートは答えた。
トリックタワーから回収された後、バンとの契約、強制的な念の目覚め、そして地獄の修行を味わってきた。元々インドア派で運動が得意ではないレルートは体力づくりも戦闘訓練も苦戦していた。
だが、修行を投げ出すことはできない。
『バンを裏切ったら死ぬ』。
念を覚えた今だからこそ理解できる、レルートの命を縛る契約である。
「レルートの作る能力、どんな能力になるのか楽しみだな~」
「……満足してもらえることを願うわ」
もしも期待外れの能力を作ってしまったら。『バンの期待を裏切ったら』と思うと恐ろしい。
だが、その恐怖を押さえつけて努めて冷静に、目の前のバンを診察しようとする。
(間近で接して観察して分かってきたわ。この子は
にこにこと浮かべている笑顔の奥に、とても冷徹で冷酷な顔を隠している。
レルートが微笑んだり、体を寄せたり、胸を押し当てたりすると喜ぶが――それはレルートの容姿がバンの好みに合っているというだけ。
レルートの人格に対しては常に一線を引いている。
(本当ならこういう相手から信頼を得られるように振舞うくらい朝飯前だけど、あの制約が邪魔をする。本当に忌々しいわ)
観察と分析と誘導のプロであるレルートは、時間をかければバンを落とす自信もあった。だが、バンを自分のいいように操ろうとする行為は、間違いなく
(この子が求めているのは『私の容姿』。そして『精神科医としての力量』と『大量殺人犯の精神』。見た目の美しい実験台――『コレクション』なんだわ)
バンの持論。『頭のおかしい奴ほど念は強力になる』。
なるほど、その持論なら大勢の患者を自殺に追いやった精神科医も『頭のおかしい奴』だろう。
自らの持論の実験台――モルモットに相応しい精神性と、好みの見た目。手元に置いておきたいと思うのも納得だ。
「ん? どうしたの? 積極的だね」
自分の胸に押し付けるように抱きしめると、バンが喜んで抱き着いてくる。
スタイルには自信がある。胸の中にバンの頭を抱えるようにしながら、レルートは自分の顔が見られないようにした。
(私が作る能力はバンの期待に応える能力よ。でも、それだけじゃない。いつかこの厄介な制約がなくなる時が来たら、その時は……)
レルートは今の状況を受け入れながらも、虎視眈々と『その時』を待ち続ける。