「ちいちゃくて可愛かったゴンちゃんがすくすく育っちまって、あたしは嬉しいやら悲しいやら……よよよよ」
ぼたんが泣き真似をしながらゴンの頭を撫でている。
消化・吸収・成長を強化しているお陰か、ゴンの身長が物凄い勢いで伸びていた。しかも背ばかり高いヒョロガリ体型とは違い、しっかりとした筋肉も身につけたアスリート体型である。
だが、これでもまだ
別にゴンさんにならなくてもハンター試験は受かるのだが、すっかりバンに洗脳されて脳みそまで筋肉になってしまっていた。
「ぼたんちゃん、俺も回復してぇ~……」
その横ではオーラ切れのバンが哀れを誘う様子でぼたんに声をかけていた。幻海の修行でオーラの最後の一滴まで絞り出すような厳しい修行を行っていたのだ。
見た目はゴンと違って年相応――同じ年の少年の中では体が大きい方だが、ゴンのように年齢不相応の体格にはなっていない。
だが、素の身体能力の差を埋めるように、バンのオーラ量は増加の一途をたどっていた。
肉体のゴン、オーラのバン。非常に対照的な兄弟である。
「意外とバンも根性あるじゃないか。……あたしの目も耄碌したもんだね」
地面に倒れ込むほど真面目に修行を続けているバンに、幻海も
そして、同時に考える。
ハンターに憧れて厳しい修行に挑むゴンに対し、この一風変わった少年は何を考えて厳しい修行に耐えているのだろうか、と。
「おいバン。お前は将来何をするつもりなんだい?」
「え? 俺の将来? もちろんハンターになって世界中を飛び回るつもりだけど」
「ハンターなんてただの手段だろう。重要なのはハンターになってから何をするかだ。そうだろう?」
ゴンが憧れているハンターという職業だが、誰かが仕事を決めてくれるわけでもないし、ノルマを課せられるわけでもない。
『何をハントするのか』を自分で決める。それがハンターとしての第一歩だ。
「えー。まあ聞かれたから答えるけどさー」
ちょっと言い出しにくそうにしながら、それでもはっきりと幻海たちの前で口にした。
「俺が目指すのは『美少女ハンター』! この世界の美女や美少女をハントするのが俺が夢だ! もちろんぼたんちゃんも師匠もレツもみんなハントしてみせる!!」
どん!と効果音がつきそうなくらい堂々と、バンは最低なハント宣言をしてみせたのだ。
「……あたしの目も耄碌したもんだね」
はあ、と幻海は呆れ果てたため息をついた。
「バンちゃんは出会った時から変わらないねぇ、おほほ」
ぼたんはまだまだ子供扱い。ヒーリングのついでにバンの頭を撫でている。いつか男として見られる日は来るのだろうか。
「う~、バンってば~」
レツは頬を染めていて満更でもなさそうだが、バンのハーレム宣言(?)に思うところがある様子。決して嫌いではないのだが、多感な年頃の少女は複雑なのだ。
「バン、この前ミトさんにも結婚してって言ってたよね」
「ミトさんも好きだ! みんな好き!」
ハーレム王に俺はなる!とバンは仲間たちの前で宣言するのだった。
◇
「ハンターになって何をハントするか、かぁ……」
レツは一人で考える。
レツは死者だ。本来ならばもうとっくに終わっている存在。未来など存在しない過去の残滓に過ぎない。
だが、どういう運命のいたずらかバンの能力によって呼び出され、念獣として人間そっくりの体を得た。
疑似的な生き返り、死者蘇生。終わったはずのレツの人生に唐突に与えられた奇跡のようなロスタイム。
「僕はもう死んでいるのに、それでもいいって、バンは言ってくれるんだ」
レツは成長しない。老いない。呼吸も心臓の鼓動も生きていた頃の習慣だから行っているだけで、本当は息をしなくても心臓が止まっても活動し続けることができる。
そんな人の形をしているだけの存在を求めてくれるのは……。
「――永遠の人形。老いず、死なず、活動し続ける。……神の人形師」
レツの兄オモカゲは、今のレツを見てどう思うだろう。
これこそ理想の人形だと賞賛するだろうか。
それとも失われてしまったレツの目の代わりを発見したと、レツの目を奪おうとするだろうか。
……あるいはオモカゲの作った人形こそが本物だと断じて、レツを偽物として壊そうとするのだろうか。
「兄さんを止めなくちゃ」
今でも新たな
自分の過去を終わらせるために。そして、新しい未来を始めるために。
レツもまた、自らの意志でハンターとなるのだった。