担当のステイゴールドと出かけたトレーナー。
他愛もない会話を繰り広げながら特にこれといった目的もなく、あちらこちらを回っている。
ステイゴールドにとっては何気ない日常でありながら、旅にも似たかけがえのないひととき。
二人で河原を歩いていると。
「お、今日はヒバリが鳴いているな、もう春だ。」
一際高く飛び、美しく囀る声を聞いて、季節の移ろいを感じている。
「見ろよステゴ、もうツバメが飛んでいるぞ。」
そう言ってトレーナーが指差した先には、風を切って飛ぶツバメの姿。
暖かな日差し、そよぐ春風がとても心地よい。
春を感じながら歩く二人に、突然忍び寄るあやしい影。
「あらぁ、私よ、ワ・タ・シ。同級会以来じゃなぁい?久しぶりねえ。」
トレーナーの腕に素早く縋りつき胸を押し付けながら、下品な香りを撒き散らし媚びる肉感的な女。
「ちょ、ちょっと、離してよ。」
ドン引きしたトレーナーがそう言ってもガン無視。
「こんにちは。」
そう言って挨拶した傍らのステイゴールドには一瞥をくれただけで、挨拶もしない。
「ねえ、あなた中央のトレーナーなんですって?とっても素敵!今度、トレセン学園に行ってもいいかしら?」
下心を隠しもせずに、高給で有名な中央トレーナーに近づきたい野心満々。
ステイゴールドは表情を変えずにトレーナーに言った。
「私は先に学園に帰る。じゃあな。」
ウマ娘専用レーンに入って瞬く間に加速するステイゴールドの姿は、あっという間に見えなくなった。
「待ってくれ!ステゴ…!」
なんとか女を振り切ったトレーナーは駆け出したが、担当の姿は消え失せたままだった。
⏰
その後もステイゴールドのトレーナーに女は粘着していた。
そういうわけで楽しみの外出もままならない。
ステイゴールドは女の身元調査をドリームジャーニーに依頼した。
時を待たずして報告書が届く。
「アネゴ、これがご依頼の調査報告書です。
「お、ジャーニー助かるよ。で、どんな女なんだ?」
遠征支援委員会室で会話する小柄な二人のウマ娘。
ドリームジャーニーの手には分厚い書類の束。
「一言で申しますと、″太えアマ″といったところでしょうか。もともと二股かけていたところ、バレそうになったため第三の男、つまりアネゴのトレーナーさんに粉をかけたと思われます。」
調査報告書に目を通しながら、ドリームジャーニーの言葉を聞くステイゴールド。
「つまり、″私のトレーナー″を横取りしようとしたわけか。」
黄金の瞳に宿る嫉妬の炎に内心身震いしながら、水色の瞳もますます温度を下げていく。
「おっしゃる通りです、アネゴ。どうなさいますか?」
小首を傾げて問うドリームジャーニー。
「この資料を一部もらえるか?あの女に『″私のトレーナー″に手を出すな』と送りつけてやるさ。」
「もちろんです。アネゴはお優しいですね。」
それを聞いて訝しむステイゴールド。
「ジャーニー、私は優しくなどないぞ?」
「いえいえ。私でしたら本人だけではなく、交際相手や二股相手、家族、職場や友人にまで送ったでしょうから。」
それを聞いて呆れるステイゴールド。
「女房焼くほど亭主モテもせず、とはいうがなあ。お前のトレーナーは、お前という一筋の黄金にしか興味がないようだぞ?」
眼鏡を直して微笑むドリームジャーニー。
「ええ。ですから例えば…、の話です。ふふ、これからもよそ見をしないよう陰に陽に躾けて参りますので。」
「ありがとうな、ジャーニー。じゃ、これはもらっていくよ。』
そう言って去っていくステイゴールドをドリームジャーニーは見送った。
⏰
あの日から休んでいたトレーニングは、付きまとい女が消え失せてから再開された。
トレーナーはステイゴールドに詫び、女の素性を打ち明ける。
同級生には間違いないが、いつも都合の良い時だけ擦り寄ってこられたこと。
人を踏み台としか考えていないこと。
だから異性はおろか、友人としてすら見ていないこと。
それらを聞きながら、トレーナーには例の調査報告書は見せない方がいいだろうと思っていた。
懸命に釈明するトレーナーの手をそっと握るステイゴールド。
「もうその女の話はいい。あんたは私だけを見ていてくれないか?」
「もちろんだよ。疑うなら結婚してもいいよ?」
そう冗談めかして言うトレーナー。
それを聞いて真顔になるステイゴールド。
「私も成人済みだから、それでもいいな。なあ、今度のお出かけは役所にするか。」
「わかったよ。」
これぞ怪我の功名?嫉妬から出た結婚。
ステイゴールドとトレーナーが入籍したという知らせが回っても、『今更?』『知ってた定期』『いつのまにか入籍してるウマ娘ステークス単勝元返し』などというリアクションだったという。
ステゴに焼き餅焼かれたい